第八章:密告者の足跡を追って
信仰とは、盲目的な狂気の別名である。人々は神に祈りながら、その手で隣人を火に投げ込む。そして、最も汚れた言葉を吐く者こそが、聖者の名を冠して人々に跪かれるのだ。
サイラスは、ドックのドブネズミのような洞察力とウナギのような狡猾さを併せ持つ「生き残りの達人」として知られていた。一方、マルタはフェルナンデス一族の中でも、絹に包まれた計算高い知性を持つ「最優秀の見習い」の一人だった。しかし、今の二人の状況は、その評判を裏付けるようなものではなかった。それは、智略が泥とパニックの層に埋もれてしまうような、文字通りの大惨事だった。
「降ろしなさい、この野蛮な変態! その汚い手を離して!」
少女はサイラスの肩の上で跳ねながら激しく叫んだ。息を整えるたびに、異端審問官も驚くような正確な語彙で、サイラスとその血統すべてに呪いを吐き散らしている。
マルタは羞恥と怒りで顔を真っ赤にしていた。サイラスが追手──彼の兄の息がかかった暴漢たち──を撒こうと路地裏の迷路を全力疾走する間、彼女はまるで「カビの生えた芋の袋」のように担がれていたのだ。フェルナンデスの名を冠する少女にとって、これ以上の肉体的・社会的屈辱はなかった。
「……小うるさいチビのくせに、重てえんだよ! 体も中身もな!」
サイラスは、バランスを崩す重荷を抱えながら、無謀なアクロバットを繰り返して叫んだ。肺の奥が焼け、プラスチックのような筋肉が悲鳴を上げていた。強度はあるが、使い古されたゴムのような不快な疲労感が彼を襲う。
「……傲慢な物乞い! 無教養な怠け者!」
少女が激怒して罵る中、ジロン(ボロ布)たちの歪んだ影が、驚くべき練度で路地を縫うように迫ってきた。彼らの乾いた足音が、不吉な太鼓のように刻一刻と近づいてくる。
「……もう一度やれ! 何でもいい、さっきのあれを今すぐ出せ!」
迫り来る足音に追い詰められたサイラスが、パニックと疲労で声を荒らげた。
「……何をしろって言うのよ、この腐ったラディッシュ頭! 私の力はあんたに見せるサーカスの手品じゃないのよ!」
マルタも、事態の緊急性を理解せず、担いでいる男の愚かさに激昂して吠え返した。
「……次の角だ、次の角を曲がるぞ! 火でも何でもいい、準備しろ!」
サイラスは顔を引きつらせ、古びた尿と饐えた揚げ物の匂いが充満する狭い道へと突っ込んだ。
「……だから何を……! 蝋燭に火を灯すみたいに簡単じゃないのよ!」
少女は必死に説明しようとしたが、その優越感の仮面は危機を前にしてひび割れていた。
「……行き止まりだ! 逃げ場はねえ! 準備しろガキ、捕まるぞ!」
サイラスが絶叫し、冷や汗がこめかみを伝った。
「……でも……手順があるのよ……集中と、場所のエネルギーとのリンクが……」
彼女の説明を遮るように、サイラスの切迫した声が彼女のトリガーを引いた。
「……今だ! 火を出せ、何でもいいから出せ!」
サイラスの執拗な催促に、少女はついに悲鳴を上げながら両手を突き出した。だが、放たれたのは「火」ではなかった。それは、地面を一瞬で石化させるような、鋭く冷たい結晶質の冷気の流れだった。鏡のように磨き上げられた裏切りの氷の層が路面を覆った。
追手たちは止まりきれず、まるで「骨の入った袋」をぶちまけたような音を立てて次々と転倒し、滑っていった。
「……この淡水船乗りが! カレウチェ(幽霊船)とクラーケンに連れていかれちまえ!」
サイラスは止まろうとしたが、慣性に抗えず滑り続けた。腕の中の少女が邪魔をしてバランスが取れない。彼の足もついに払われた。
「……魔女だ! 糞尼め! 氷の魔女め!」
武器を持ったまま滑走し、止まることのできない追手たちから呪詛の言葉が飛ぶ。
「……クソっ! 大通りに出るぞ! 広い道だ!」
若者はそう叫ぶのが精一杯だった。視界が開けた先には、荘厳で、かつグロテスクな「行列」が広がっていた。遠くから異端者が処罰されるのを見たことはあっても、これほど近くで目にするのは二人にとっても初めてのことだった。
二人は絡まり合った肉と汚れた布の独楽となって、サイラスが人間クッションになる形で大通りへ転がり込んだ。サイラスにとっては最悪の結末であり、聖なる儀式を汚された信者たちからの氷のように冷たい蔑視の視線が彼らを突き刺した。
一方、重量と速度を制御できなかった追手たちは、さらに激しく通りへと放り出された。彼らは単に行列を妨害しただけでなく、巡礼者たちや、半裸の体に刻印を持つ「トゥオス(清める者)」たちをなぎ倒した。さらに最悪なことに、純金製の石柩──計り知れない価値を持つ聖遺物──を運んでいた守護者たちまでもが転倒し、一年に一度の神聖な儀式は完全に台無しにされた。
「……ジロン、いえ、シルヴァン。私を庇ったことは褒めてあげるわ。あんたの服、死んだ魚の匂いがするけれど。まあ、従者として当然の務めね。よくやったわ」
マルタはレースのハンカチで汚れを拭いながら言った。地面に倒れたままのサイラスは、衝撃を吸収して不自然に曲がった腕を戻し、平穏を許さない運命を呪った。この毒々しい熱狂の中に一秒でも長く留まることに、彼は恐怖を感じていた。
「……ああ、お優しい言葉をどうも。酢を飲まされたような気分だぜ」
彼は素早く答えた。信者たちの怒りの矛先は、今や激昂した宗教者たちに打ちのめされている追手たちに向いていた。聖遺物を落とし、祝福を失った者たちの嘆きが周囲に響き渡る。
「……ガキ、ケツを振って動け。俺たちは今、飢えたサメに囲まれた脂身なんだよ」
マルタも遅まきながら、自分たちに向けられた暴力的な殺気と狂信的な眼差しに気づき、身震いした。
「……これが……これが『行列』っていうものなの?」
少女は出口を探したが、逃げ道は自らが凍らせた氷のせいで塞がれていた。その澄んだ瞳に、初めて純粋なパニックが宿った。
「……黙れ、分析してる暇はねえ。狂信者が少なそうな方へ走るぞ」
サイラスは本能を研ぎ澄ませ、次の逃走に備えた。
「……異端者だ! 冒涜者に罰を! 異端者だ!」
マルタは突然、腹の底から叫び声を上げた。群衆の怒りを自分たちではなく、追手たちの方へと誘導したのだ。
「……魔女だ! そのガキは魔女だ! そいつは……!」
眼帯の男が群衆の間を縫って少女を指差そうとした。だがサイラスは混乱に乗じて踏み込み、その汚れた指を男の「まともな方の目」に深く突き立てた。
「……ドブネズミは俺たちが殺すんじゃねえ。信仰の番犬共に駆除してもらうんだよ」
サイラスが男の耳元で囁いた。その温かい吐息は、冷酷な行動とは対照的だった。男は絶叫し、沈黙させられたことへの屈辱と苦痛に悶絶した。
「……魔女だ! 魔女を火刑に!」
逆上した信者たちの波が、追手たちを「天上の者」の慈悲深き裁きへと引きずり込んでいく。その裁きが決して慈悲深いものではないことを、彼らは経験で知っていた。
「……ガキ、中心部が近い。動くぞ。運は細い糸みたいなもんだ」
若者は、自分が引き起こした惨状に呆然としている少女を掴んだ。
「……そんな……私は……信じられない……」
彼女の鉄の仮面は完全に崩れ去り、言葉を失っていた。
「……魔法使いの見習い様が、何をしけた面してやがる。時間は稼げたが、見世物を楽しむ余裕はねえんだよ」
サイラスは苛立ちながら彼女を叱咤し、周囲の異様な光景に目を向けた。
「……魔女だ……『大魔女』がいやがる……」
サイラスは忌々しそうに呟いた。この行列は単なるミサではなかった。それは「浄化」という名の人間の恐怖と狂信のショーだった。
パレードの中心には、自らの肉体を儀式に捧げた「聖別者」たちがいた。彼らの役割は、司祭や判事が認めない「異端者、異教徒、未洗礼者、そして魔女」を罰することだ。
「……ワタリガニに食われちまえ……大規模な浄化の真っ最中じゃねえか」
サイラスは一瞬、恐怖に足をすくませた。この街の権力と狂気が凝縮された場所に、自分たちは足を踏み入れてしまったのだ。
「……あれはウラカ一族……中心で監視しているのは、あいつよ」
マルタは、自らのまた従姉妹を見つめて言った。彼女は「現代のアイアン・メイデン」とも呼ぶべき残酷な拷問器具の傍らで、見せしめの処刑を指揮していた。
「……まずい。ここに居ちゃいけねえ、マルタ。お前と同類の奴に見つかったら終わりだ」
サイラスが説得しようとしたその時、マルタは手をかざし、聞き取れないほどの小さな声で、電気を帯びたような魔力を込めた囁きを発した。すると、拷問を受けていた罪人たちが次々と内側から爆発し、内臓と熱い血の雨が降り注いだ。
「……危ない! 群衆の中に別の魔女がいるぞ!」
パニック混じりの怒号が通りに響く。
「……聖遺物と司祭を守れ! 配置につけ!」
サイラスの体を凍りつかせる、聞き覚えのある威厳に満ちた声が響いた。グティエレス判事だ。さらに悪いことに、マルタは怒りの悪魔に取り憑かれたように、行列の中心へと駆け出していった。
「……あの馬鹿ガキ! 俺が殺してやる!」
サイラスは二度考えなかった。彼は生存本能のままに反対方向へ逃げ出した。カマリリャの縄張りに戻るまで止まるつもりはなかった。だが前方には、冷酷なオーラを纏い、人々の罪状を暴き、処罰を下すために俊敏に動く長身の影があった。
「……クソっ、あのガリガリの老いぼれ……判事だ」
サイラスは引き返した。狂信者たちに殺される方が、判事による計画的でサディスティックな処刑を受けるよりはマシだと思ったからだ。
「……マルタ! マルタ、戻ってこい、クソったれ!」
怒り狂う蟻塚のような人混みの中で、サイラスは叫んだ。
「……このっ! 押しやがったな!」
サイラスは突き飛ばされた。いつもの彼なら相手を突き返し、ついでに財布を盗むところだが、相手の正体を見た瞬間、声が失せた。それは、体中に刻印を持ち、虚ろな熱狂を瞳に宿した**聖別者**だった。
「……し、失礼。天上の者があなたの永遠の旅を守らんことを」
サイラスは怯えながら、儀式によって「浄化」された異様な裸体を晒す男の疑いを避けるために、咄嗟に敬虔な言葉を吐いた。
「……マルタ! クソ……マルタ! 天上の者が旅の守りとならんことを! マルタ!」
喉が裂けるほどその名を呼び続けた。
「……何を言っている、この冒涜者が!」
背後から男の怒声が響き、周囲の視線が一斉にサイラスに集まった。
「……俺は……妹を探しているだけで……」
サイラスが言いかけた時、一人の女が彼を指差した。
「……異端者よ! 異端だわ! 罰を与えなさい!」
放たれた石がサイラスの頭に命中した。
「……異端者! 異端者! 異端者!」
群衆が罵声を浴びせ、物を投げつける中、巨木の幹のような太い腕を持つ別の「聖別者」がサイラスの前に立ちふさがった。若者はその影を見上げ、生唾を飲み込んだ。
「……マルタ! マルタ! 天上の者が旅の守りとならんことを! マルタ!」
震えながら、彼は脳裏に焼き付いたそのフレーズを叫び続けた。信者たちは処刑を待ち望んで満足げな顔をしていたが、聖別者はすぐには手を下さなかった。代わりに、彼は腰の帯に吊るされた無数の書物の中から、一冊の小さな手帳を取り出して調べ始めた。残酷な静寂が流れる。
「……海の守護者、聖マーサ(Martha)よ。我らの旅に幸あらんことを。道の母、聖マーサよ、我らを天上の者へと導きたまえ」
不意に、脂ぎった、高圧的な声が響いた。
「……放してやりなさい。ただの無知な港のチンピラが道に迷っただけのことです」
現れたのは、顔を脂で光らせ、自己満足に満ちた肥満体の**助祭**だった。彼は周囲の混沌など気にも留めず、甘い菓子を頬張りながら退屈そうにその場を眺めていた。彼の言葉に信者たちは一斉に跪いたが、サイラスと聖別者だけは立ったままだった。
「……どうした、哀れな乞食よ。ドックの仕事に戻るがいい。貴重な荷物を教会に運ばねばならんのだ……そうだ」
助祭は立ち止まり、脂ぎった手の甲でサイラスの顔を打った。
「……次に聖人の名を口にする時は、正確に言いなさい。この無知なクズが! 『マルタ(Marta)』ではなく、『マーサ(Martha)』だ。hを忘れるな……恥を知れ!」
肥満の男は吐き捨てて立ち去り、聖別者も最後の一瞥をサイラスに投げて後を追った。
「……あのガキめ、クソ……無能なタラ面しやがって。この脂ぎったマンボウ頭のデブが……」
サイラスは毒づきながら、顔についた助祭の汚い脂を拭い、屈辱に身を焦がした。
気がつくと、彼は混沌の中心にいた。そこには人混みの影に隠れ、ヒステリックに互いを「魔女」と指差し合う群衆を嘲笑うマルタの姿があった。
「……おい、水責めの儀式をやれ! こいつらが本物かどうか試すんだ!」
サイラスは周囲に同調するように叫び、時間を稼ぐための提案をした。残酷な快楽に飢えた群衆はその提案に飛びつき、指指された者たちを捕らえ始めた。
「……お騒がせなガキだ。ほら、行くぞ! 水死させられる前に逃げるんだ!」
サイラスは、怯えたふりをしているマルタを力強く引きずった。その演技がかえって彼の神経を逆なでた。
「……ドックの行列にも、スラムの行列にも出たことがねえ俺が、なんでこんな聖人気取りのヒポクリット(偽善者)どもに囲まれてなきゃいけねえんだ……」
サイラスは小声で不平を漏らしながら、群衆を離れていった。
「……気を引き締めろよ、マルタ。さもなきゃ次はお前が『殉教者』だ」
彼はそう話しかけようとしたが、マルタは自分の顔の近くで「何か小さなもの」をじっと見つめていた。その時、前から別の集団が近づいてきた。
「……天上の者が共にあらんことを、兄弟たち」
サイラスは無理に笑顔を作り、通行人に声をかけた。彼らは仲間を見つけた安心感から、満面の笑みを返した。
「……感謝します。天上の者があなたを導かんことを、上位者よ」
一人が、聖別者が避けていた「称号」を自動的に使って答えた。
「……ところで、なぜ行列を離れるのですか? 最高の場面を見逃しますよ?」
別の男が問いかけた瞬間、彼らの表情が凍りついた。通りの空気は一瞬で冷え込み、立ち止まる者が増えていく。
「……魔女の処断は終わりました。それに、聖柩を汚した異端者共の後始末がありましてね」
サイラスは、まるで迷える幼い魂を「天上の家」へと導くかのように、マルタを守るような仕草をしてみせた。
「……理解できません。あらゆる汚れし存在の浄化は、魂の教育ではありませんか? なぜ教えから逃げるのです?」
男のトーンが問い詰め、疑いへと変わる。
「……助祭に諭されたのですよ。私は港の人間であり、他所の行列を乱してはならないと。ご存知の通り、我々は信心が浅く、世俗的な人間ですから」
サイラスは恥じ入るような、謙虚な態度を演じた。
「……年に一度の機会ですが、無理強いはしたくありません。私の未熟さで無礼を働くわけにはいかないのです」
彼は自分の吐き出す戯言への吐き気を抑えながら、彼らの真の性質を逆なでしないよう細心の注意を払った。
「……なるほど! そう言ったのはレイク・ディアコノのフェリックス・リオスですか? 私も聖マーサの祝福を受けた船団を見送る際、騒ぎすぎて注意されたことがありますよ。そうでしょう、兄弟?」
サイラスは終わった、と思った。その問いに対する答えを一歩間違えれば、即座に死の罠にかかる。
「……あ、ああ。ですが私は、信徒の個人の名を覚えるような真似はしたくないのです。私にとっては、皆一様に……巡礼者であり、トゥオスであり、助祭であり、司祭……私たちは皆、信徒に過ぎず、名前など地上の肩書きに過ぎないのですから……」
罠を避け、抽象的で宗教的な「正論」で逃げ道を模索した。
「……妙ですね。上位者の名を覚え、彼らのために祈るのは信徒の義務のはずですが」
信者の目に、憎悪と疑念が再燃した。
「……申し訳ありませんが、私にとっては聖人、天上の者、そして唯一の神こそが重要であり、地上のものはすべて世俗的であり、絶えざる浄化の対象であると考えているのです」
その言葉に、信者たちの憎悪が消え、代わりに戸惑いが広がった。サイラスの言葉が、彼らの神学的な急所を突いたのだ。
「……つまり、上位者は尊敬や記憶に値しないと言うのですか?」
一人が反論しようとしたが、サイラスは両手を天に掲げた。
「……海の守護者、聖マーサよ。我らの旅に幸あらんことを。道の母、聖マーサよ、我らを天上の者へと導きたまえ……」
彼は、あの不快なデブの助祭が話していた尊大なゴミのようなフレーズを、あたかも上位者しか知らない神聖な詩であるかのように大声で唱えた。さらに、周囲の者たちはサイラスの服の隙間から見える、落下や打撃によって引き裂かれた凄惨な「肉の傷跡」を目にした。彼らはサイラスが、苦痛によって自らを浄化する「トゥオス」への道を歩んでいる修行者なのだと勘違いした。
「……あなた……まさか、それは……苦行の道……」
信者たちの間に、混乱と動揺が走る。
「……いかにも。よくある間違いですが、天上の者は、凡夫の犯す過ちに対して寛容であらせられます」
サイラスは慈悲深い聖職者のように言った。
「……ありがとうございます、上位者様! あなたの温かいお言葉に感謝します! 私共も、より一層の献身と謙虚さを持って励みます!」
ほぼ一斉に、彼らはサイラスに向かって深々と礼をした。サイラス本人が一番驚いていた。
「……その若い魂を無事に修道院へ送り届けられますよう、上位者様」
別の信者が言い、仲間たちに遅れまいと急ぎ足で去っていった。
「……サンゴにかけて。あいつら本当に大嫌いだが、中身のない空っぽな言葉で簡単に騙せるのは最高だな」
サイラスは邪悪な笑みを浮かべた。だが、隣にいるマルタがずっと手に持っている「小さな何か」に没頭しているのを見て、その笑みはすぐに消えた。
「……ほら、その短い脚をさっさと動かせ。ドックの番犬共に見つかる前に……」
少女の、周囲の惨劇や危機に一切反応しないその態度が、サイラスに深い不信感を抱かせ始めていた。
二人は行列が見えなくなるまで歩き続けた。しかし、生来のパラノイアであるサイラスは、あの宗教者たちがそう簡単に引き下がるとは思っていなかった。背後に感じる無数の視線。信仰という名の下で血を流し続けるこの町には、目に見えない番人たちが潜んでいることを、彼は痛いほど知っていた。
サイラスの「肉」は傷つきながらも、その「嘘」によって窮地を脱した。しかし、彼が救った少女の瞳には、炎よりも冷たい何かが宿っている。信仰に狂った町を抜け、二人が辿り着くのは救済か、それとも新たな地獄か。




