表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/25

第二十章:調教師と獣たち

忘れ去られた主と、主を忘れた獣たち。

サイラスは深淵の底で、王なき王国を目の当たりにした。

彼が手に入れた「笑う仮面」は、ピエロとしての再誕か、それとも狂気への完全な帰依か。

変質し続ける肉体の中で、サイラスの意志は固まっているようだった。目的を見定めた時の彼の歩みは、もはや足音ではなく、粘りつくような滑走感へと変わっていた。彼は暗闇に紛れた犠牲者の残骸を通り過ぎ、漆黒の中に忘れ去られた、場違いなほど巨大な有機機械の廃墟、さらには物語の中の獣を思わせる骨組みの間を抜けていった。

「……動け……動け……。この、呪われた皮……ミミズ……動けよ……」

サイラスは呟いた。それが自分の言葉なのか、それとも以前自分を解体した怪物のエコーなのか、彼自身にも分からなかった。深淵の先からは、意図の読めない足音が執拗に続いていた。キチン質のプレートが擦れる音、そして時折響く顎のカチカチという音。しかし、下層へ降りる過程で目的を見失いつつあるサイラスにとって、そんなことはどうでもよかった。目の前の光景が現実なのか、それとも精神が見せている悪夢なのかさえ疑わしかった。彼は松明の火を見つめ、時折それに話しかけた。

「……動け……皮、お前はただの皮だ……。動け……呪われた……」

彼は道中、周囲を気に留めることもなく、同じ言葉を繰り返し唱え続けた。

松明の助けを借りて、彼は闇に隠されたものを見た。各階層には、あらゆる時代、あらゆる組成の衣服、家具、そして奇妙な物体が積み上げられていた。それは過去、そして未来の時代のガラクタが混ざり合う、巨大な廃棄物集積所のようだった。

「……動け、ただ動け……」

サイラスは言語になろうとする非人間的な唸り声を上げながら抵抗した。彼は時折、自分の正気を守る「相棒」である松明に燃料をくべ、火を絶やさないようにした。サイラスにとって、それが何であるかは重要ではなかった。心の奥底に不安の残滓があったとしても、それは笑い声によってかき消された。松明を握る自分の手――肉と皮膚が混ざり合った高密度の塊――が、柔らかな組織を掴む感覚、その匂いや味さえも、彼にとっては奇妙で、そして不幸なことに「滑稽」だった。その恐怖が、彼に笑いをもたらした。

「……動け……すべき……なぜだ? ……俺は何を……」

彼の歩みは、特定の動作を繰り返さなければならないという不随意な衝動によって乱されていた。周囲の環境に対する無意識の反応は、サイラスの心に混乱と恐怖を植え付け、迷走する精神は曖昧な思考に苛まれて痙攣を引き起こした。

「……痙攣は嫌いだ。不愉快極まりない……」

そう言い終える前に、彼は爆笑した。その笑いは彼から発せられたものだったが、そこには彼のものではない、歪んだエコーが混じっていた。

瀕死の体が不随意に打ち付けられる中、サイラスは本当の顔を隠したまま、ユーモアに満ちた声で笑い続けた。

下の階層へ降りるにつれ、奇妙な現象が起きた。人間の顔を模そうとしているが、実際には闇を汚すぼやけた手形のような「顔」たちが彼を見つめていた。視覚的な残響の背後で、何かが自分を遠巻きに見つめているのを感じる。それは悪意と、この場所に足を踏み入れた者への拒絶が混ざり合った視線だった。闇は原始的な生命、あるいは半端な意識を持つ存在を隠しており、彼らはサイラスが「踏み込んではならない場所」にいることを知っていた。

囁き声が彼に警告した。観察者の周囲にさらなる何かが集まってくる。無造作な足音、蠢き、そして人間ではない声。

しかし、彼は何も答えず、ただ前進した。次の階段を下り、次の階層へ。そこで彼は、他とは違う、居心地の悪い何かに遭遇した。

「……離れろ……離れろ……離れろ! お前に見せるショーはない!」

虚無の静寂を切り裂いたのは、微かな声だった。それはサイラスが一歩進むごとに執拗に繰り返された。

「……何もない。戻って自分を救え……何もないんだ……」

囁きは激しさを増し、松明を手に進む若きミミズの狂気を問い詰めた。

「……何のつもりだ? 何か知りたいのか? 俺の偉大な演目の秘密か? 決して明かしはしないぞ!」

サイラスの正面で、権威に満ちた声が響き渡った。一方、上の階からの追跡者の音も止まない。

サイラスの脳裏には無数の考えがよぎったが、何より自分が罠に落ちた可能性を悟った。それが、彼の隠しきれない笑いをさらに煽った。

目の前には一人の影が立っていた。黒いシルクハット、黒・赤・白を組み合わせたエレガントで古風な装い。それは威圧的な存在感を放っていた。

「……何が望みだ? 何が望みだ? ……私を迎えに来たのではないのか? ……望んでなど……」

その声は一語ごとに質を変えた。枯れた老人のようでありながら、常に変化し続け、決して一定ではなかった。その視線はどこか別の場所を向いていたが、サイラスはそれを以前見たガラクタの一部であるかのように無視して進んだ。

「……何が望みだ? 私を探しに来たのではないのか? ……忘れ去られたのか、私は?」

答えのない問いが投げかけられ、サイラスを追う者たちの声がエコーとなって返ってきた。若きミミズはただ、火を絶やさないようにより多くの布を松明に巻き付けた。

「……お前は永遠の行進の中にいる。そうだろう? 飼い主のいない獣よ」

背の高い怪人が答えた。彼は、灰色がかった魚のような自分の首から、厚く黄色い爪でかさぶたを引き剥がしながら言った。

「……上がりたいなら階段を使え。力が欲しいなら私を見つけたということだ。普通に戻りたいなら、それも私を見つけたということだ。ただ……頼むから動くのをやめろ! 無礼者め!」

無視され続けた怪人は激昂し、鞭を取り出した。鞭はミミズを絡め取ったが、サイラスは容易にその拘束をすり抜けた。怪人は再び鞭を振り下ろし、ミミズの体を裂いた。

「……これが面白いか? 罰を与えてやろう!」

怪人は独り言のように呟き、サイラスに強烈な一撃を見舞った。

「……私がいない間に、事態は悪化したようだな。秩序が保たれていない!」

不快感を露わにしながら、彼は再びサイラスを打ち据えた。そして松明の火を消し、下層階を再び永遠の暗闇に沈めた。

「……火がなければ私の話が聞けるだろう。お前を追っているのは『アヌンナキ』、あるいはその残骸だ。ここへ来て、なぜここにいるのかを話せ。私は『ドマドール(調教師)』だ!」

しかし、サイラスは一瞬足を止め、相棒であった松明の残骸を丁寧に置くと、そのまま暗闇の中を突き進んだ。

「……冗談だろう、小動物め……。調教師としての長い年月の中で、これほど強情な獣は見たことがない……」

明かりが灯った。光に晒された弱いアヌンナキたちが焼け始め、残りは逃げ出した。歪んだ人型の彼らは、悶絶しながら灰へと変わっていった。

しかし、調教師はそんな害虫には興味がなかった。あらゆる獣を屈服させてきた自分の意志に従おうとしない、この存在にのみ関心を抱いていた。

「……言え……何がお前を特別にしている? お前は誰だ? 誰がお前を変えた?」

彼はサイラスを観察し、その変質のプロセスを分析しようとした。彼の体は冷たい蒸気のようなガスとなって霧散し、サイラスの周囲を漂った。

「……素晴らしい! 実を言えば退屈していたのだ。獣を混ぜ合わせるだけでは芸がない。重要なのは、それらすべてを所有することだ」

調教師は霧から凝縮し、サイラスの前に姿を現した。灰色の肌、表情のない古いマスクのような顔。

「……答えろ、下等な生き物よ……」

サイラス――ミミズとなった若者は彼を見た。死人のような濁った瞳、膨れ上がり、滑らかで湿った皮膚。他のミミズたちよりも、その状態はひどく悪化していた。

「……俺はサイラス。サイラス・ヘルナンデスだ」

サイラスは冷淡に言い放ち、調教師の目を真っ向から見据えた。調教師は、答えるはずのない存在からの返答に嫌悪感を露わにした。

「……ヘルナンデスだと? 聞いたこともない名だ。だが、安定させるために混ぜ合わされたのだろうな……中途半端な出来の、醜悪な化け物め」

怪人はサイラスの周囲を回りながら言った。

「……自分がどうやって獣にされたか知っているか? お前は……そうだな、泥で作られた出来損ないだ。そして、いずれは廃棄される。それを分かっているのか?」

調教師は嘲笑うように尋ねたが、サイラスは彼を無視して歩き続けた。

「……まあ、どのような手法かは知らんが、何らかの特性は持っているのだろう……。だが、すぐに捨てられる運命だ」

彼は何らかの反応を引き出そうと言葉を重ねたが、サイラスは答えない。調教師は再び姿を消し、ガスのようになって若者の周囲を進んだ。

「……お前は……ピエロだったのか? 私のサーカスにいた、才能のない愚か者か……」

彼は終わりなき独白を始め、サイラスにとっては全く見覚えのない、興味のない昔話を語り続けた。

「……さて、サイラス、私の新しい『獣』よ。次の演目の準備を始めよう。自分の階に戻らねばならん。引退を撤回し、私のショーを皆に見せつけるために……。なぜ、私は引退したのだったか……?」

調教師は言葉に詰まり、再び首を掻いた。彼はシルクハットを脱ぎ、完璧な禿頭を露わにした。その中央には、金物屋に売っているような、文字が刻まれた金属の杭が打ち込まれていた。

「……分からん。思い出せん。私はここにいるが……なぜだ?」

サイラスは足を止めた。その言葉に混乱を覚えた。

「……あんたに『階』なんてない。上には、あんたのための場所なんて何もないんだよ」

ミミズの言葉は、調教師の精神に冷水を浴びせた。

「……今のアんたは、ただの『忘れ去られたもの』だ。この暗闇にいる俺と同じようにな」

サイラスは、その冷酷な言葉をさらに歪めるような大きな笑い声を上げた。

「……何を言っている!? 私にはステージがある、観客がいる、獣たちがいる! 上には何があるんだ!? 言え、ミミズ!」

二人は立ち止まった。調教師の表情が一変した。それは親しげなものではなく、純粋な「憎悪」だった。

「……あんたみたいな連中のことを聞いたぜ……『トゥルガル』とか呼んでたな」

サイラスは辛うじて言葉を絞り出した。

「……道中、主催者がここいらにはいない連中と話してるのを聞いたんだ」

その言葉に調教師は激しく動揺したが、サイラスの追撃は止まらなかった。

「……あいつらは主催者のことを『壊れたトゥルガル』と呼んでたぜ」

サイラスは、灰になった生き物たちを見つめながら言った。

「……あんたたちは、俺が上で見た『肉の塊』の一部なんだろう。あるいは、あいつらが本物で、あんたは偽物か」

彼の言葉には鋭い毒が混じっていた。

「……あんたは壊れた破片だ。欠け落ちた肉の塊。ずっとここに隠れてたんだろう?」

サイラスは、崩れ落ちた遺体の一つに近づき、それに触れた。遺体は崩れ、いくつかの遺品を残した。

「……自分の荷物を探してるんなら、上へ行ってみな。空っぽの階にあんたの持ち物が散らばってるぜ。獣たちでいっぱいの階もあったが、あそこは金属と肉の化け物どもに守られてる」

サイラスの言葉は長く、その一つ一つが、存在しない口から放たれる刃となって調教師を切り裂いた。怪人は、世界のすべてが自分の思い通りではなくなっている事実に直面し、狼狽した。

「……馬鹿な! 嘘だ! 私は反対したのだ、主催者のあの実験には……なぜだ? ……私は、だから下りてきた……」

調教師は、自分が忘却した理由を思い出し始めた。

「……下りてきた。……それで?」

サイラスは無慈悲に問いかけた。記憶の欠落に気づいた怪人の混乱を冷笑していた。

「……上へ戻るぞ。自分の持ち物がどうなったか、私のペットや玩具たちがどうなったか確かめてやる。私をこれほど早く忘れるなど許されるはずがない。サーカスは私のものだ!」

怪人は逆方向に進み始めたが、サイラスはその場を動かなかった。

「……だが、それがショーってやつだろ。観客ってのは、いつだって忘れるもんさ」

その言葉がトリガーとなった。調教師の衣装が不気味に変質し、マスクには恐ろしい歪みが浮かんだ。彼は悪夢のような悲鳴を上げ、瞬時に距離を詰めると、サイラスの首を掴み上げた。

「……ショーをいつ終わらせるかは私が決める! 私が遊び、好きなだけペットを飼い、好きなものを食わせるのだ! お前がその第一号だ!」

彼は若者を締め上げた。それは愉悦のためでも怒りのためでもなく、この「見世物」を新しい玩具として「飼い慣らす」ための行為だった。しかし、若者の笑い声がそれを遮った。調教師は無言でサイラスを床に叩きつけた。……いや、サイラスは衝撃を覚悟したが、ただ「落下」し続けた。

「……なに?」

サイラスが呟く。足元の床が開き、彼を避けるように消えていった。

「……カニ野郎! 殺す気か!」

サイラスは叫んだ。下の階の床が迫っては開き、さらに下の階へと墜落し続ける。

「……メルルーサ! タラ面! マンボウ頭め……! 忘れ去られたミミズ野郎!!」

サイラスは激昂して叫んだが、落下速度が増すにつれ、笑い声が勝手に漏れ出した。

突然、すべてを飲み込む深淵の暗闇の中で、サイラスは水の中に落ちた。

「……水浴びでもして、自分の無礼を反省するがいい。私のサーカスに不遜な奴は不要だ!」

調教師は優雅に、制御された動きで降りてきながら、静かに笑った。

サイラスは周囲を見渡した。そこは、数日間放置されていた秘密のコレクションとは異なる場所だった。水は泥のように濁り、粘りついていた。その感触と味は耐え難いほどで、サイラスは嘔吐しようとしたが叶わなかった。

「……このドブネズミめ! 臭すぎるんだよ!」

死体とゴミ、そして強烈な腐敗臭が漂う液体の中で、サイラスは叫んだ。その泥のような液状の深淵の中で、何かが蠢いているのを感じた。

「……それはひどい言い草だな。お前こそ、下に行きたがっていたのではないのかね?」

調教師は両手を目のあたりに持っていき、泣く真似をしてみせた。

「……このメルルーサ野郎が!」

サイラスは叫び、周囲を確認しようとした。上の階からの微かな光を頼りに、いくつかの影が見えた。

「……おい! 調子はどうだ? ……海からは遠いのに、いい趣味してるじゃないか、あんたたち」

サイラスは、そこにいる生き物たちを前にして居心地悪そうに言った。

「……これは私のコレクションの一つだ。お前の言うことが本当なら、これらがまだここに……」

怪物は滔々と語りながら、水面に触れることなくその上を歩いた。

「……教えといてやるが、これがあんたの唯一のコレクションだよ。今や価値が跳ね上がってるぜ。……生きてるんだからな!」

サイラスが言葉を遮ると、調教師の表情に憎悪が走った。

「……ようこそ、若者。あるいは、クエロよ。お前も……コレクションに加わりたいのか?」

泥の中から、理解不能な複数の声が重なり合った、歪んだ不協和音が響いた。

「……黙れ、セルキブ(Serkib)! それより説明しろ……なぜそんなに老いさらばえている!?」

調教師が叫び、周囲の暗闇が激しくざわめいた。

「……自分のコレクションの内容すら分かってないのか。あんた、情けない『淡水水夫』だな」

サイラスが調教師を嘲笑うと、影の中から笑いのコーラスが巻き起こった。調教師は復讐のために、サイラスを水中に沈めた。

「……徘徊し、喰らうことを許してやる……!」

主催者が声を張り上げたが、全員がそれを笑い飛ばした。

「……滑稽だな。我らはお前のペットの『混血の末裔』だ。お前の玩具になるつもりはない。古い迷宮は変わったのだ。お前にできることなど何もないし、我らもお前とは何の関係もない」

調教師のマスクは無表情になり、忘れ去られた事実の重みにヒビが入った。彼はただ震えることしかできなかった。もはや誰も調教師に興味を示さず、彼はすごすごと上の階へと戻っていった。

調教師に連れられて去っていくサイラスの背後に、奇妙な別れの言葉と笑い声が響いた。

一本の触手が若者へと伸び、骨、あるいは乾燥した有機物で作られた、金属のような質感の「笑う仮面」を手渡した。

「……これは幸運のお守りだ。また会えるのを楽しみにしてるよ。……それと、機会があれば『新鮮なもの』を送ってくれ」

歪んだ声が、遊び心のある調子で囁いた。サイラスはそれをじっと見つめ、ためらうことなく顔に装着した。彼らが上昇していく中、背後の床は静かに閉じていった。

調教師を絶望させ、泥の中から「お守り」を受け取ったサイラス。

彼はもはや単なる「見世物」ではなく、深淵の住人たちに認められた存在になりつつあります。

「新鮮なもの」を求める声に、彼はどう応えるのか。そして、仮面をつけた彼が次に向かうのは、かつていた「上」の世界か、それとも……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ