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第十二章:退屈な道化師たち

舞台裏では、誰もが自分の役を演じている。

だが、その脚本を書いているのが誰なのか、知っている者はいない。

糸が切れた人形に、明日の演目は残されていないのだ。

サイラスは前進した。背後を振り返る気も、悲鳴を上げさせた「虫ではない何か」を確かめる気もさらさらなかった。彼は日々の暴力には慣れていたが、ここにあるような「狂気」には、ましてや、その暗い階層の狂気に安住している者たちですら取り乱すような事態には、耐性がなかった。あの饒舌なバレリアでさえ、今は石のように表情を固め、喋るのをやめていた。イナゴの脅威、あるいは「それ」が、彼女の口数を封じ込めたのだ。

たどり着いた場所は楽屋のようだった。そこはだらしなく、照明も乏しかったが、狂気じみた活気に満ちていた。虫たちはあちこちを動き回り、厚塗りの化粧を施し、光る襤褸切れを纏っていた。ナイフは研ぎ澄まされ、縄は固く結ばれている。喉を引き裂くような不協和音が響き渡り、一瞬の苦痛に満ちた発声練習の後、彼らは次の曲へと移る。まさに狂気のオーケストラだった。

「……こいつはまさに、海の地獄の待合室ってところだな」

サイラスは、出番を待つ男たちが醸し出すカオスに困惑しながら呟いた。

「……サーカスでしょ? 違う?」

バレリアがようやく微笑みを取り戻した。サイラスは頷いたが、他の虫たちが向ける怒りと蔑みの視線のせいで、冗談が笑いを生むことはなかった。

「……ああ、だが……サメに追いかけられてる魚の群れ(カードゥメン)みたいだと言おうとしたんだ。……分かるか? 絶え間ないパニックが空気に染み付いてる」

サイラスが言うと、バレリアは無表情のまま奇妙な音を立て、不満げに首を振った。

「……今の言葉は良かったぜ。新入りの虫からもっと学んだらどうだ、甲高い女?」

背の高い男が声をかけた。ひび割れ、裂けた彼の肌は、大砲の弾のような巨大な筋肉を包みきれていないようだった。剥き出しの筋肉はどす黒く変色し、強制的な腐敗の兆候、すなわち不吉な予兆を告げていた。

「……お世辞をどうも、タウルス。でもあんたとそっちの『カブトムシ』は、さっさと箱を運びなさい。ピエロたちが『失敗の宙返り』をする時に必要なんだから」

バレリアの言葉に、「ノミ」たちは不平を漏らし、「ハエ」たちは支離滅裂な声を上げた。彼らは皆、舞台の上で死ぬという逃れられない真実に苛立っていた。

「……なんでそんなに荒れてるんだ? 死ぬことも芸のうちなのか?」

サイラスは屈強な男、タウルスに尋ねたが、彼は無視して去っていった。すると、背後から何かが彼を抱きしめた。柔らかく、繊細でいて、人間には不可能な異常な握力だった。

「……いいかい、小さな虫さん。芸に失敗するということは、サーカスと『ホスト』の期待を裏切るということなんだ。それが予定された失敗なら、彼らは死ぬ。望むと望まざるとにかかわらずね。それが契約だ」

男の声は、その手つきと同様に旋律的で遊び心に満ちていた。その手は外科医のような手際で、若者の体を検分していた。

「……何の真似だ!? 離れろ! ……おい、あんた……『チョウ』か?」

サイラスは荒々しく身をかわし、相手を睨みつけた。しかし、言葉が続かなかった。目の前にいたのは「チョウ」の衣装を着ていたが、異常なほどに背が高く、体は不揃いなパーツに切断され、肉と骨の恐ろしい継ぎ目で繋ぎ合わされていた。人間とは程遠い異形の存在。

「……彼らと間違えるなんて心外だね。私は『ナナフシ(昆虫 Palo)』。好きなように呼んでくれて構わないよ。彼でも、彼女でも……。私のアイデンティティは、関節と同じくらい柔軟なんだ」

ナナフシは心地よさそうに話し、怪異な継ぎ目を擦り合わせながら、しなやかに、官能的に動いた。

「……分かったよ……『ヒトデ(Estrella de Mar)』。問題ねえ」

サイラスの返答に、ナナフシは凍りついた。しばらく反応がなかったが、やがて再び動き出した。

「……お好きに。愚かなのは君であって、私じゃない」

彼はゆっくりと繰り返し、断片化された顔に恐ろしい笑みを浮かべた。

「……あんたは随分長くここにいるみたいだな。教えてくれ……どれくらいここにいるんだ、『ヒトデ』?」

サイラスの問いに、ナナフシは恥じらうような仕草を見せた。

「……淑女にそんなことを聞くものじゃないよ。まあ、正直に言えば、どの部分が一番古いのか自分でも分からないんだ。パーツごとに数えれば数ヶ月だけど、それぞれのパーツの年齢を考えれば、話は変わってくるね」

この虫は複数の人格の間で迷走する傾向があった。サイラスはそれを悟った。正気を失った異常者と接するなら、細心の注意を払わなければならない。こいつは人間の意識を僅かに残した、実質的な「獣」なのだ。

「……へえ、そいつは興味深いな。だが時間がないんだ。あの進行役に首を吊られる前に、俺がどの虫で、どう役に立てるのかをはっきりさせなきゃいけない」

サイラスは躊躇わなかった。理性を失った連中をあしらうのは、スラムの日常茶飯事だったからだ。

「……もちろんだとも。今すぐにでも始めよう。新鮮な肉と遊ぶのはいつだって楽しいからね」

ナナフシは衣装をめくり、頭の一部を露出させた。彼は少し迷うように、髪の色と肌のトーンの境界線を掻いた。

「……よし、じゃあ……どうすればいい? 練習を……」

サイラスが尋ねようとした瞬間、ナナフシの体がしなり、若者の腹部に鋭い一撃を叩き込んだ。その衝撃は、実体のない骨を砕き、通り道にある臓器を掻き消した。

「……面白い! 改造された体だが、耐性が高いね。これでかなりの候補が絞り込める……」

サイラスが痛みと嘔吐感にのたうち回る中、ナナフシは彼を殴って湿った自分の手を見つめた。

「……この缶詰のイワシ野郎! テストは全部ぶっ叩くことなのか!?」

サイラスは衝撃で臓器を吐き出さないよう必死に堪えながら吠えた。

「……まさか。でも君にはスピードがないね。ただ、異常な耐久力があることは認めよう。力もそれほど目立たない。それに、あまり賢くはなさそうだね、坊や」

ナナフシは優雅に、柔らかく笑った。

「……じゃあ……俺はサーカスの……どんなメンバーになるんだ?」

サイラスは、この人外の怪力を怒らせないよう、言葉を選んだ。

「……ああ、坊や。そう言われると、君を分類するにはまだ情報が足りないんだ」

ナナフシの声が低くなった。

「……どういう意味だ? まだ何かが変わらなきゃいけないのか? 変貌の次の段階があるのか?」

サイラスは自分の足と胴体を指差しながら、恐怖を滲ませた。変形はすでに広がっていた。

「……そんなことは考えるな。君の体の適応は予想以上に順調だ。生きたまま処置された者の多くには、チャンスすらないのだから……」

ナナフシは片方の目でサイラスを観察し、もう片方の目をぐるりと回して彼に焦点を合わせた。

頭部への数撃がサイラスを朦朧とさせ、彼の意識は儚い記憶へと変わっていった。

「……いいかい、若者よ。被験者の運命は六つの段階で決まる。それぞれが有機体に圧力をかけ……」

ナナフシの穏やかな声が止まった。彼は体を伸ばし、サイラスの頭上から巨大な手で致命的な一撃を振り下ろした。

「……何しやがる……!」

サイラスは必死に反撃を試みたが、長い体を持つナナフシには、攻撃を当てることなど容易だった。しかし、一瞬の隙を突いて、サイラスはナナフシが身を引く前にその首を掴み取った。

「……原始的な本能の見事なデモンストレーションだ。しかし……」

ナナフシは無表情のまま、若者が触れた自分の手を見つめた。彼の肌は、剥がれ落ちる肉と同様に、もはやまともな状態ではなかった。発声器官を司る首も同様だ。

周囲の悪臭に鮮血の匂いが混じり、ナナフシは引き伸ばされた自分の手の匂いを嗅いだ。

「……興味深い。私の診断によれば、この個体は生きたまま改造され、多くの特徴を保持している。だが、この状態の皮(人間)を扱い続けるのは無意味だ……彼らはミミズになる運命にある。私なら別の標本を使うね」

彼の口から漏れたのは、本人のものではない、冷徹な分析を行うしゃがれた痙攣的な声だった。彼は潰瘍ができ始めた自分の手を拭おうとした。

「……さて、バルマセダ代表。あんたの時間は終わりだ。そのガキにこれ以上執着したいのなら話は別だがね」

闇の中から傲慢な声が響き、複数の足音が近づいてきた。

「……皆様、お仕事の続きをなさりたいのでしたら、どうぞ闇の外で。サーカスのスタッフは開演準備に入っております。主催者も進行役も、スケジュールの遅れは許しませんわ」

闇の中から女性の声がした。ボロボロで食い荒らされた「驚異のハエ」アンドレアが姿を現した。彼女は数人の男たちと共に、不遜な表情でナナフシを忌々しそうに見つめるアザイを護衛していた。

「……私は……何かを掴みかけている……。だが、これは何だ?」

ナナフシは苦悩に満ちた様子で頭を抱え、彷徨った。

「……こんなところで終わるわけにはいかない。まだ何も調べていないんだ、自分の状態を……。私は不完全だ!」

彼は苦痛に跪いた。自分がなぜ不完全なのかを理解できない苦悶に蝕まれ、縫合された体はゆっくりと崩壊し始めていた。

「……アンドレア。始末しなさい。私とは無関係の存在とはいえ、こんな無様な姿、私の前にいるだけで不快だわ」

アザイが冷淡に言い放った。彼が手を動かすと、アンドレアは即座に反応し、ナナフシの頭部を鮮やかな一撃で叩き落とした。

「……そいつを運べ。欠陥品の代表スペシメンでも、肉壁(弾除け)くらいには売れるだろう」

若きアザイは、背後に二つの肉体を残して、護衛と共に立ち去った。彼は、サイラスの体が僅かに痙攣したことには気づかなかった。その光景を、壊れた精神を持つ「ハエ」たちが、嘲笑いながら見つめていた。

ナナフシの中にいた「代表」の意識は消え、アザイの裏切りは冷酷さを増していく。

頭部を失ったナナフシと、打ちのめされたサイラス。

闇の中で嘲笑うハエたちの声は、新たな惨劇の始まりを告げるベルの音のようだった。

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