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自分

 会話はキャッチボールとは言うが、彼はボウリングのような大きくて重いボールを事も無げに放ってきた。普段ならドン引きしてしまうが、ここは常識の通用しない夢の世界(多分)、まともな奴ほどFEEL SO BADなのだと腹をくくり、しばらくしてから口を開いた。

「あ、あんまりそんなこと考えたことないけど、私の周りの人が亡くなったことはないからまず死ってものに対してあんまり実感がわきません。でも、私が死んだら自分ってどうなるんだろ、何も考えたり、感じなくなるってことだと思うから、はい、怖いです」

「それなら好都合です。あなたは私と瓜二つ、というかそのものです。あなたも私のように他人の時間を生きられたのなら、少なくとも人類が滅亡するまで死ぬことはありません。」

 理沙は何を言っているのかわからなった。私がこの不審者、というか化け物とそっくりとでも言いたいのか、次第に腹が立ってきた。

「あの、それってどういうことですか?私があんたと同じ化け物だとでも言いたいんですか?ていうかそもそも他人の時間を生きるってなんなん?そんな乞食みたいなマネしてまで生きるとかマジキモなんですけど」

「ではこちらを見ていただきましょうか」

そう言って彼が指を鳴らすと、暗闇の虚空から突如スクリーンが現れた。そこに映し出されたのは、

「私…?」

「はい、理沙さんです。あなたは今他人の時間を生きるのは乞食のような行為だとおっしゃいましたが、果たして私のことをそう言える資格があるのか、見ていただきましょう」

最初に映し出されたのは、理沙が佐々木から課題を写させてもらっているシーンだった。

「佐々木君が大小関係なく、時間をかけて終わらせた課題を、あなたは平気で自分のものにしていますね。これは彼の時間を奪っているといえるのではないですか?」

「いや、それはみんなもやってるっていうか、そんな難しく考えてもっていうか」

次に映し出されたのは、アプリで漫画を読んでいるシーンだった。

「これ何も関係ないじゃん、なんか悪いわけ?」

「先ほどのシーンと同じです。このアプリ、無料で漫画読み放題とか謳ってますが、そんなのありえないことくらいわかりますよね、違法ですよこれ。ここに載っている作品を書いている作家は、作品を世に出すまでの修行、苦労して作品を仕上げる作業、その過程で膨大かつ濃密な時間、いや、生命、人生を削っているのです。それをなんの努力もしないあなたが作品をタダで享受する、どれだけ罪深いことかわかりますか?」

「…」

最後に映し出されたのは、理沙が旧友である葵乃と再会したシーンだった。

「…なんの努力もしてない私が頑張ってる葵乃ちゃんに話しかけて彼女の時間を奪ってしまったこと?」

「それはさすがにひねくれすぎですよ。このシーン、先頭に並んでいた葵乃さんの後ろに平然と並んでいますが、これ変則的な割り込みですからね。あなたが座ったバスの席は、それまできちんと並んでいた人の席だったとも考えられます。あなたはその人が並んでいた時間を奪ったといえます。」

理沙は何も言えなかった。普段自分のしている行為が、他人の時間を奪っているとは考えもしなかったからだ。

「ここまで見て、あなたがいかに他人の時間を軽んじているかよくわかったでしょう。あなたには他人の時間を生きる才能がある、ともに永遠を生きましょう」

「いや、やめて、私自分を変えたいんです、だから自分のことをちゃんと見直して…」

「自分のことなら今はっきりと見たでしょう。あれがあなたなんです。良かったじゃないですか、自分の才能に気づけて」

そういうと彼はスマホの画面から抜け出して、おもむろに理沙に近づく。

「やめて、来ないで」

「そろそろ気づいてください。私はあなたなんです。本当のあなた。その証拠に、ほら」

彼はゆっくりと装束のフードを外した。

「あっ…」

『彼』の首から上は、手鏡だった。そこに映っていたのは、誰でもない理沙だった。鏡の中の理沙は怪しく微笑み、手を差し伸べた。

「さあ、一緒に」

理沙は、闇の中へ落ちていく感覚を再び味わった。


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