邂逅
理沙が見上げると、天井が薄く光っているのが見えた。やはり、椅子に接触したのを拍子に「何か」が反応したようだ。その光が天井でゆっくりと回転し、明るさが増していくとともにその正体を知ることとなった。それは巨大なスマートフォンだった。彼らの首から無数のコードがスマホの充電コードに当たる部分に、一つに集約されて接続されていた。そして、その画面には奇妙な人影が写っていた。カーキの装束に、真っ白な正三角形の柄がいくつか袖に縫い付けてあり、首からはカメラを掛け、背中には水色の羽のようなものが付いており、顔はフードの影になって全く見えない。そんな出立の「彼」は、理沙の姿を見つけると、異物を見るような目で眺めていた。理沙はとっさに言葉が出てこず、「あ、あなたは何をされている方なんですか?」と和田アキ子ばりの質問をかましてしまった。すると、彼は「私は皆さんの“時間”を生きる者です。」と答えた。頭上にハテナマークを浮かべる理沙をよそに、「皆さんは時は金なり、とおっしゃいますが、正しくは時は生命なのです。」と続ける。
「人間はこの世に生を受けた時点で、その人個人の意識と時間が平行移動します。この二つはどちらかが欠けても、その人の生命は成り立ちません。ところで、個人の時間は一方通行ですが、意識は時々脇道にそれることがあります。俗に意識が飛ぶ、と言いますがその状態になった時、先ほど申しましたように人は生命活動を維持できない、即ち死んでしまいます。そこで、彼らの意識が飛んでいる時間内だけ私が彼らの時間を生きることで、彼らの生命を保証しているのです。分かりやすく説明したつもりですが、いかがでしょう?」そう説明し終えると、理沙は「とりあえず…この人たちを操作してどうこうしてるってわけじゃないんですかね…」と尋ねた。「もちろんです。というか、あなたもよくここにいらしてましたよ。なぜか今はコードが外れて自由に動き回れていますが。この世界でそんなことありえないのですが…」と言った。理沙は何を言っているのかわからず、とりあえず首筋を撫でると、確かに変な窪みがあるのを感じた。彼らと同じ、コードの挿し口があったのである。理沙は、自分がここにいる大勢の物言わぬ人々とは違うと思っていたことが何となく恥ずかしくなった。
「ところで、こちらからも質問です。理沙さんは『死ぬこと』は怖いですか?」出会って数分でこの質問、やべー奴だと理沙は確信した。




