↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トアル猫(仮)ノ魔王討伐記録   作者: 千之助 (TINOSUKE)
第一章『ハジマリ』
PR
4/5

4『町』

ガストが去った後森を抜けてたどり着いたのは割と大きな町だった。


「服を、買いに行こうか。」

そう言われ馬車の中で俺が己の体を何度も確かめていると、スイが長い耳をぴくぴくと揺らしながら、そう優しく微笑みかけてきた。


今の俺は、馬車のカーテンやスイの予備のマントを適当に巻き付けただけのお世辞にもまともとは言えない格好をしている。明日から学校の制服が届くらしい、、、、とはいえ、今この瞬間を生きるための、そして人間の町を歩くための「普段着」が決定的に足りていなかった。


「僕の可愛いお嫁さんを、そんなボロ布に包んだまま人間の街に行かせるわけにはいかないからね。さあ、初めてのお買い物デートだよ!」

俺の拒絶を聞く耳持たず、スイは嬉々として馬車を走らせた。

この町は、下界のファンタジア区域にある町らしい。人間たちの活気と食べ物の匂いで溢れている。


一歩足を踏み入れると、すれ違う人間たちの視線が一斉にこちらに突き刺さるのを感じて、俺は思わず身を固くした。

(人間がいる、、、人間は猫、、、、そう猫なんだ、、、、、、)

そう自分に言い聞かせる。ああ、気持ちが悪い吐きそう。


「わあ……見て、あの綺麗な人……」

「隣の空色の髪の男の人も、格好いいわね、、、」


意思疎通魔術が掛かっていないため何を言っているかはわからないが、どうやら俺のこの「人間の形をした体」とスイの容姿は、人間の基準だとかなり目立つらしい。嫌悪感で胃がキリキリと痛む俺の肩を、スイがそっと引き寄せた。


「大丈夫だよ!僕が君の隣にいるからね。さあ、あそこの仕立て屋に入ろう!」

スイに連れられて入ったのは、町でも大きめの衣料品店だった。


「いらっしゃいませ! おや、まあ……なんて美しいお嬢様。本日はどのようなお召し物をお探しで?」

人間の店員が、揉み手をしながら目を輝かせて近づいてくる。


「にゃ……っ(近寄るな、人間……!)」

思わず喉が鳴り、威嚇するように目を細めると、店員は「ひっ」と短く息を呑んで一歩下がった。

「すまないね、うちのお姫様は少し人見知りで。この子に似合う、最高に可愛い服をいくつか繕ってくれないかい? お金ならいくらでもあるから♪」


スイが懐から、見たこともない輝きの金貨を机にジャラリと置いた。店員の目が一瞬でギラリと変わる。


「かしこまりました! では、こちらの清楚なワンピースなどはいかがでしょう! それとも、こちらの活発なキュロットスカートが……!」


そこからは、まさに地獄の着せ替え人形タイムの始まりだった。

カーテンの裏の試着室に押し込まれ、スイの手によって次から次へと服を渡される。


• フリルだらけの白いワンピース: 「にゃあああ!(動きづらい! 裾が邪魔だ!)」

• ひらひらしたピンクのスカート: 「にゃーにゃ!(スースーして落ち着かない! 尻尾(※もう無い)が隠せない!)」





俺が試着室のカーテンをバッと開けて不機嫌な顔を晒すたびに、外で待っているスイは「尊い……!」「可愛いすぎて国が滅ぶ……!」と頭を抱えて悶絶している。


最終的に、俺が「これなら許す」と選んだのは、動きやすい黒のタイトなズボンに、シンプルな白のブラウス、長めのローブだった。これなら、頭の猫耳もフードを深く被ればなんとか隠せる。


「うう、可愛い系も捨てがたかったけど、カッコいい系の君も最高だよ……! 凛々しくて僕の心臓が保たない……!」

涙目で大満足しているスイを無視して、俺は新しい服の感触を確かめる。


人間と同じ服を纏うのは癪だが、不思議と、この体にぴったり馴染む感覚は悪くなかった。


「よし、これで人間の学校に行く準備(仮)は整ったね! じゃあ次は二人で美味しいものでも食べに行こうか!」

ベチッ「チガニャウ(宿に帰るぞ)」


「ねえ、僕としたことが人間の学校に行くにあたって、一つ大事なことを忘れていたよ」

服屋を出て、宿へと向かう馬車の揺れの中で、スイがふと思いついたように長い耳をぴくりと動かした。


「ガストの奴、僕たちの素性を隠蔽して書類を回すって言っていたよね? ということは、僕たちの名前に『魔王』の名前が入っていたら、人間に怪しまれちゃうじゃないか」


「ああ?ナマエ?」


「そう、偽名さ! 人間の世界に馴染むための、それっぽい名前が必要なんだ。実はね、僕のはもう考えてあるんだよ」

スイはふふんと得意気に胸を張ると、どこか嬉しそうに空色の髪を指で弄った。


「僕の新しい名前は、水流(すいりゅう) 水宮(みずみや)。どうだい? 僕の髪の色みたいに綺麗な、人間らしい名前だろう?」


この世界には『ワ語(日本語)』『エ語(英語)』がある。生まれた地域によって使う文字は異なるらしい。主にワ語が主流なのでそのワ語の中から考えたのだろう。


「にゃ……(みずみや……)」

文字の読み書きを少し覚えた俺の頭の中で、そのワ語の漢字がなんとなく浮かぶ。確かに、下界の人間たちが使っていても違和感のない名前だ。


「さあ、次は君の名前だよ、ルビィ。せっかくだから、僕が最高の愛称を……」

「じぶんにゃメル(自分で決める)」

スイが嬉々として提案してくるのを、俺は前足(手)でピシャリと制した。魔王サマに妙なキラキラネームをつけられてはたまらない。

俺は馬車の窓から、ゆっくりと流れていく下界の景色を眺めた。


っと自分の頭の中にある単語が浮かんだ。


「想像(そうぞう)……はどうだ」

口がうまく回らず、掠れた声で呟く。

スイが、パッと赤い瞳を見開いた。


「『想像』……? 苗字もなしに、ただ『想像』かい?」


俺は馬車の窓の外をじっと見つめたまま、小さく頷いた。

猫だった俺には、人間に与えられるような大層な苗字なんていらない。

それに、あの忌まわしい檻の中で、体をいじくられ、炎に焼かれながら、俺がずっとしがみついていたもの。それは、ここではないどこか遠くの世界へ行くこと、自由な自分を取り戻すことへの、必死な「想像」だけだった。


今のこの人間のような体だって、この命だって、俺にとってはまだ現実味のない、あの日見た夢の「想像」の延長線上のようなものだ。


「……そっか。君がずっと、暗闇の中で描き続けていた未来そのもの、ってことだね。でもそれ以外にも何かあるんじゃないかなー」

スイはいつものふざけた調子を引っ込め、どこか愛おしそうに、そして少し切なそうに目を細めた。


「知るか。」

俺はそっぽを向く。


「う~ん、すごくいい名前だ! 君のすべてをひっくるめた、世界に一つだけの名前だね。じゃあ、人間の学校での君と僕の名は『想像(そうぞう)』。僕の名前は水流(すいりゅう) 水宮(みずみや)。これで完璧さ!……同じクラスの同級生(生徒)として、毎日ずうっと隣の席で、君の学園生活を全力で支えちゃうからね!」



「は?」


涼しい顔で「僕も生徒として入学する」と言い放ったスイに、俺の喉から驚愕の鳴き声が飛び出した。

「ちょっと待て、お前……」


「あんな人間の言うことを真に受けるわけないじゃないか」

スイはフッと鼻で笑うと、長い耳を誇らしげに揺らした。


「未来の結婚相手が人間のガキどもに囲まれてるっていうのに、僕だけ指をくわえて見てるなんて耐えられるわけがないよ。魔術で書類の記述をちょっと書き換えて、僕も『新入生』としてねじ込んでおいたのさ! これで僕たち、同じ制服を着て、同じ学び舎に通う正真正銘のクラスメイトだね!」


「お前なぁ……」

俺は頭が痛くなり、額を押さえた。魔術をそんな私利私欲のために無駄遣いするなと言いたい。

物凄く。


だが、スイはそんな俺の呆れ顔などどこ吹く風で、馬車の窓の外、夕暮れに染まる宇和島の町並みを眺めながら、どこか楽しそうに赤い瞳を細めている。

「水流水宮と、想像。人間の世界に潜り込むには、これ以上ないお似合いのペアだよ」


こうして、お互いの偽名と「二人揃って生徒として入学する」という最悪の前提が決まってしまった。


馬車はガタガタと音を立てながら、今夜の宿へと滑り込んでいく。


いよいよ明日は、人間の巣窟である『ファンタジア高等魔術師養成学校』の登校初日。


元『猫』の俺と、『三大魔王』スイの、波乱しか予感させない学園生活が幕を開けようとしていた。

いよいよ学園生活!!!!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。