5『制服はビリッとしてポイッッ』
ピヨピヨ
チッチ
鳥のさえずりで想像は目を覚ます。
今日は『ファンタジア高等魔術師養成学校』の登校初日。
長いので『魔術学校』と呼ぼう。
今日制服が届くといっていたが、、、
考えふけっているとどたどたと足音が聞こえた。
スイ、、、、、じゃなくて水宮だ。
「想像!!!!!制服届いたよー!」
制服が届いたらしい。
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「おい、スイ。これ、どう考えてもおかしいだろ」
宿の部屋に用意されていた、ファンタジア高等魔術師養成学校の制服。
それを受け取って着替えた俺は、鏡の前で完全に固まっていた。
その制服は黒いハイネックの長袖に俺は黄色、水宮は青色のラインとボタンが付いている質素なものだ。だが…
上着のボタンを留めようとしただけで、ピシ、と不穏な音が室内に響く。
肩幅がまったく合っていない。袖丈もツンツンで、手首が完全に露出している。それどころか、少しでも呼吸を深く吸い込もうものなら背中の縫い目が一気に弾け飛びそうなほどの致命的な「パツパツ」状態だった。
「想像っていろいろおっきいもんね!!!!」
「あ”?」
俺はスイを睨む。
こんな姿になる前だったらスルッと着れただろうに。
大体なんでこの俺の体には突起物が多いんだ?不便で仕方がない。
「息ができない……っ、これじゃ、まともに歩くことすらできねえ!」
怒りで右目からどす黒い液体が垂れる。
布地が肉に食い込んでそれどころではない。人間は嫌いだ、そしてこの人間の服という名の拘束具も嫌いだ!!!
「パツパツの君もセクシーで可愛いよ!そして!!!!その締め付けられてちょっと苦しそうな君の顔!!!!!!、なんだかすごくゾクゾクするね……」
と水宮は自分で自分を抱きしめプルプルしている。芋虫みたいだ。
「変な性癖を開花させてる暇があったら、早くこの拘束具を解け!!」
と俺は怒鳴ろうとしたが、胸が締め付けられて「ニャグッッ」とカエルの潰れたような声が出た。
スイは「はいはい」と残念そうに呟いた。
脱がされている途中、俺の頭にあるアイデアが浮かんだ。
思い浮かんだら即実行だ。
ビリィッ!!!
「あ、あえ?」
スイが呆けた声をあげる。
俺は躊躇わなかった。限界まで張り詰めていた上着の襟元に指をかけ一気に引き裂いたのだ。
「何やってるのおおおおおおお⁈⁈こっちからしたらうれしいけどラッキースケッッじゃなくて!!!!女の子が男の前で服を破るんじゃありません!」
人間の仕立てた窮屈な布地が悲鳴をあげて四散する。床に転がるボタンの音を聞きながら、俺は大きく息を吸い込み、ふうと吐き出した。
俺は目を閉じた。
そして、頭の中でファンタジア高等魔術師養成学校の制服のデザインを思い浮かべる。
「水宮。布。」
俺は『裁縫』というものをしようと水宮に手を伸ばす。
「そんな初めてで上手くいくようなものじゃないって!あっそうだ!君の力を試したらどうだい?」
「俺の力?」
スイの言葉に、俺は自分の両手を見つめた。
人間の、いや人間っぽい形をした、白くてしなやかな俺の手。
「そうさ、想像ちゃん。君の名前であり、君が暗闇の底でずっと信じ続けてきた力――『想像』だよ。君が強く頭の中で思い描いた形は、ただの幻じゃない。この世界の理さえも書き換える、本物の魔術になるんだ」
「?」
スイはいつものおちゃらけた態度を完全に消し去り、その反転した赤い瞳で、真っ直ぐに俺を射抜いた。
「人間のまどろっこしい『裁縫』なんていらない。君が着たいと願う、君のためだけの制服を、その頭の中で『想像』してみて」
人間は嫌いだ。人間の作った窮屈なルールも、俺の体に合わない押し付けがましいサイズも、全部胸糞が悪い。
だったら、俺の形は俺が決める。
あの日、あの忌まわしい檻の中で、体をいじくり回され、炎に焼かれながら、俺がずっとしがみついていたもの。
暗闇の底で、必死に描き続けていた「自由な自分」の姿。
頭の中に思い描くのは、魔術師学校の制服。
それを、この無駄に高身長で、あちこちの突起物が主張激しい俺の体に、完璧に適合させる。締め付けず、それでいて動きやすく、猫のようなしなやかな跳躍にも耐えられる、毛皮。
「――っ」
スイが息を呑む気配がした。
ガタガタと揺れる宿の窓の外、朝の光を吸い込むように俺の足元から魔力が吹き荒れる。
バラバラに引き裂かれて床に散らばっていた制服の残骸が俺の魔力に巻き込まれて俺の体を包み込んで再構成されていく。
バササッ、と激しい衣擦れの音がして、光が収まった。
「……にゃぁ」
これがーーー俺のーーー
服っっ
そこに現れたのは制服とはかけ離れたものだった。
薄灰色の上着の中に黒いハイネックのノースリーブの服。そして下は袴に似たような黒いズボン。
「へえ……」
スイが限界まで目を見開いて、うっとりと俺を見上げていた。
「すごい、すごいよ想像! 型紙も魔法陣もなしに、純粋なイメージだけで物質を完璧に具現化せちゃうなんて!……あはっ、やっぱり君は最高だ。僕が惚れた通りの、特別な女の子だよ!」
「女の子って言うな。中身は雌猫だ。てっ……おい、のんびりしてる暇はねえぞ。その、テンリュウだっけか。あの紫メッシュが迎えに来るんだろ」
「そうだね!もうすぐなはずだけど、、、、、」
スイがそう言いかけた、まさにその瞬間だった。
ドンドンドン! と、宿の部屋のドアが遠慮のない音を立てて叩かれる。
「おい、水宮、想像! 中に入らせてもらうぞ。そろそろ出発しないと登校初日から遅刻だ!」
ガチャリと鍵が開く音がして、部屋の中に飛び込んできたのは、ファンタジア区域担当魔術師のテンリュウ・ガストだった。
銀髪に走る紫のメッシュが、朝の光に少しだけギラついて見える。30代後半らしい大人の渋さを漂わせながらも、その表情はすでに一仕事終えたかのように疲弊していた。
「おいお前ら、早く馬車に――って、おい」
部屋に一歩足を踏み入れたガストが、俺の姿を見た瞬間にピキリとフリーズした。
薄灰色の上着。その中には、黒いハイネックのノースリーブ。そして下は、学校の制服のズボンとは似ても似つかない、和の雰囲気を醸し出す黒い袴のようなズボン。
ガストは、俺の姿と、床に散らばっている「本来届くはずだった学校の制服」の無惨な切れ端を、何度も交互に見比べた。
そして、ゆっくりと自分の額に手を当てる。
「……想像。お前、支給した制服はどうした」
「パツパツで息ができなかったから破り捨てた。これは俺が『想像』して作った服だ。文句あるか」
俺が堂々と胸を張ると、ガストの顔が「嘘だろ……」と言いたげに歪む。
「文句しかないわ! その制服は俺が丹精込めてデザインしたんだぞッッ」
俺は納得した。
だからこんなにダサかったのか。制服。
「とにかく、俺はこの服で行く。嫌なら置いていけ」
「置いていけるわけないだろ、……!」
ガストは深く重いため息をつくと、諦めたように髪をかき上げた。
「まあうちの学校は結構自由だしまあ大丈夫か、、、、、」
「その代わり、学校に着いたら大人しくしてろよ!行くぞ、馬車は下だ」
こうして、規定の制服を初日から完全無視した元猫の俺と、それを大絶賛する三大魔王のスイ、ファンタジア区域担当魔術師テンリュウ・ガストを乗せた馬車が、ついに『魔術師学校』へと走り出すのだった。
≪追記≫
想像ちゃんは結構身長も高いし肩幅も広めです。まず普通に男の人用でもちょっときついぐらいだと考えてください。




