#05種を摘む日
首の後ろに現れた赤い種。
病院で告げられたのは、リビアにとって予想していなかった言葉だった。
「決めるのは、ご本人です。」
今まで当たり前だと思っていた選択が、初めて自分自身へ委ねられる。
取り除くのか。
それとも、このまま受け入れるのか。
家族の想いに触れながら、リビアは自分にとって大切なものを考え始める。
第五章
種を蒔く
病院の白い壁は、静かすぎるほど静かだった。
私は、診察室の椅子に座っていた。
父と母が、私の隣にいる。
先生は、首の後ろの赤い光を確認していた。
「発芽しています。」
その言葉を聞いた瞬間。
やっぱり、本当だったのだと思った。
あの夜、鏡の中で見た光は、夢ではなかった。
「ただ、かなり珍しいケースです。」
先生は続けた。
「通常、発芽は紅い月の夜に起こります。」
「ですが、リビアさんの場合は、それより前に発芽している。」
父の表情が変わった。
「危険なんですか?」
先生は、少し考えた。
「今の状態だけを見るなら、危険とは言い切れません。」
「この程度の光であれば、そのまま維持を選択する人もいます。」
「ただし、摘出を選ぶ人もいます。」
父と母は黙っていた。
先生は静かに、しかし迷いながらも自身に言い聞かせるようにも取れるような言い回しで諭すように言った。
「どちらが、正しいというものではありません。」
「決めるのは、ご本人です。」
本人。
その言葉が、胸に残った。
今まで、大人たちは言っていた。
危険だから、取り除く。
「あなたが、あなたでいるために」と。
でも今、初めて言われた。
選ぶのは、私自身なのだと。
今までの世界が引っくり返った気がした。
家に帰ってからも、私は一人で考え続けていた。
夕食の時間。
いつもの食卓での会話。
でも、私だけが昨日までとは違う場所にいるようだった。
母が、静かに聞いた。
「リビア….どうしたい?」
私は,その時答えられなかった。
(怖い。)
(でも、失いたくない。)
何を失うのかも分からないのに。
簡単には決められなかった。
父が、言った。
「急がなくてもいい。」
私は、顔を上げた。
父は、続けた。
「俺は、種を取り除いた。」
「それで、大丈夫だと思っていた。」
少し間があった。
「でも、お前の場合は皆とは違う。」
「だから、お前が決めることを尊重する。」
母も頷いた。
「どちらを選んでも、私たちはあなたの味方よ。」
その夜。
私は、知らなかったが二人はこんな会話を交わしていた。
母が、ずっと調べていたことを。
弱い光を宿したまま生きた人たち。
その人たちが、どんな人生を歩んだのか。
社会の中で、どう生きているのか。
母は、私に見えないところで調べ続けていた。
弱い光を持つ人は、珍しい。
守られては、いる。
でも、普通とは少し違う生活になる。
二十歳になるまで。
いつ芽吹くか分からない存在として見られる。
母は、それが心配だった。
父も、同じだった。
「あと、五年か……」
父が、小さく呟いた。
母は、机の上に置いたものを見る。
スカーフ。
バンダナ。
首元を隠せる服。
髪で隠す方法。
「こんな細かなことまで、調べていたのか。」父が、言った。
「当たり前でしょ。」母は笑った。
「この子が、明日からどう過ごすかをいっしょに考えているだけよ。」
父は、少し黙った。
「お前、変なところに頭を使うな。」
母が笑う。
「褒めてるの?」
「ああ。」
少し間を置いて。
「お前のそういうところには、本当に救われるよ。」と父は言った。
私は、二人の会話も知らずに部屋に戻っていた。
外から、小さな鳴き声が聞こえた。
「ワン。」
私は、窓の外を見る。
庭の小屋。
そこには、ハルがいた。
真っ白な犬。
青い月の光を浴びて、まるで光そのものをまとっているように見えた。
(希望…みたい。)
赤い光を宿した私とは違う。
怖さもない。
疑いもない。
ただ、いつものように、やさしい眼差しで私を見ていた。
名前を呼ぶと、いつものように元気に尻尾を振る。
何も変わっていない。
その姿を見て、少しだけ思った。
変わってしまうものがあっても。
失いたくないものは、まだここにあるのかもしれない。
鏡を見る。
首の後ろの赤い光。
まだ小さい。
でも、確かにそこにある。
私は、そっと触れた。
私にとって大切なものって、何なのだろう。
もし、これを取り除いたら。
私は、一体何を失うのだろう。
(私にとって、一番大切なものとは何なんだろう?)
暗い部屋の中。
赤い光と、月の光の記憶だけが残っていた。
※本作品は、AIを創作パートナーとして迎え、対話を重ねながら制作しています。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
『夜光種』第五章となります。
今回は、リビアが初めて「自分自身で選ぶ」ということに向き合う回でした。
正しい答えがあるのではなく、自分にとって何が大切なのか。
種を巡る物語を通して、少しずつ描いていければと思っています。
引き続き、リビアたちの物語を楽しんでいただけましたら幸いです。




