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第13章 君たちと共に、明日を生きるために

「ミカエル様……」


「リリス、あいつは誰なんだ?」


「吸血鬼の王、第四軍団の最高指揮官。そして、私がかつて補佐していた上司、ミカエル様です……」


リリスの元上司!?


「おい、ボケ!夜になると視界が悪くなるだろうが。さっさとその結界を解除しろ!」


すると、明らかに一回り大きく、強靭な体つきをした紫色の毛並みの人狼が、その吸血鬼の王のそばまで歩み寄り、胸ぐらを掴んで詰め寄った。


「しっ……低能な畜生のように吠えないでください、カズ。あなたたち畜生の夜間視力は、普通の生物の六倍ではありませんでしたか?」


「何だと?死にてぇのか?軍団には他の種族もいるんだぞ、少しは考えろ!」


「相変わらず野蛮な物言いですね。やはり畜生は畜生です。触らないでください。この華麗な服に、あなたの獣臭を染みつけたくはありませんので」


しかし、そのミカエルという男はまるで気にも留めていない様子で、人狼の手を軽く払い落とした。


その態度に、人狼は今にもミカエルに飛びかかって八つ裂きにしそうなほど怒り狂っていた。


「……ん?この匂いは……おお?そいつ、急に姿を消したお前のところのバンシーの副官じゃねぇか?はははは!なるほどな、こんなところで地球人どもとつるんでやがったのか?」


「ひっ……!」


その人狼は、リリスの身体に残っていた匂いだけで、彼女がかつてエスギルにいたことを見抜き、さらには過去のことまで思い出したらしい。


彼がリリスに視線を向けた瞬間、彼女の肩がびくりと震えた。


それも無理はない。


俺だって、リリスのそばに立っていただけで、彼の視線が一瞬こちらをかすめただけなのに、その眼差しに込められた威圧感に身体が震え、動けなくなってしまった。


ましてや、真正面から見据えられているリリスならなおさらだ……


他の怪物はさておき、最前列に立っているあの二人だけでも、すでに異常なほど強い。


あの殺気と威圧感は、普通の敵とは比べ物にならなかった。


「……貴様、黙って姿を消して、面白いとでも思っているのですか!?敵に寝返ったうえに、『言霊』で彼らを守るとは。自分が私にどれほどの面倒をかけたのか、分かっているのですか!?」


吸血鬼の王から放たれる威圧感に、誰もが無意識のうちにその場に膝をついた。


うっ……!


これほどの威圧と恐怖を味わうのは、俺にとっても初めてだった!


「おや?何か言いなさい、バンシー」


「う……」


「まだ答えるつもりはありませんか?ちっ、本当に時間の無駄ですね。まあいいでしょう。無断離反に対する処刑許可は、すでに下りています。貴様は、貴様のおままごとに付き合ってくれた地球人たちと一緒に、我々のモルモットになりなさい」


ミカエルはリリスを冷たく睨みつけたあと、そばにいるカズへと視線を移した。


「愚犬。戦闘データが手に入ったら、彼らを皆殺しにしなさい。動物臭い戦場に長居する気はありませんので、私は先に戻ります」


「ちっ……上から目線で俺に命令してんじゃねぇよ、高貴ぶったクソ野郎が。ペッ!頭の上に小さな王冠が一つ増えただけで、そこまで人を見下せるのかよ?」


その吸血鬼の王は、カズの言葉をまともに相手にすることもなく、そのまま背を向け、転移門の中へ消えていった。


俺たちにのしかかっていた威圧感も、彼が通った転移門が閉じると同時に消え去り、空も昼の明るさを取り戻した。


だが……


その直後、空を飛ぶ女性たちも、地上の機動兵器も、エスギル兵たちも、一斉に俺たちへ向かって突撃してきた。


「リン!あの装甲をまとった女たちは君が相手をしてくれ!」


「うん、分かった!」


彼女の武器は短剣一本だけで、重火器やチェーンソーを装備した機動兵器を相手にするには、どう考えても力不足だ。


今は先に、あの新しく現れた敵の情報を確認したほうがいい……


『解析』。


「個体名:カザリア(KZ-01 Type)・リッ(Assault)パー(“Ripper”)


地上にいるあの巨大な機動兵器は、カザリア・リッパーという名前らしい……


聞いただけで、厄介な相手だと分かる名前だ。


「え?」


その間にも、『解析』は俺の前にいくつもの半透明のウィンドウを開いていた。


だが、そのうちの一つに表示された内容が、俺の目を引いた。


「個体名:藤原美咲/機天使β」


「年齢:二十三歳」


「状態:洗脳」


この名前……


「空を飛んでいる……機天使と呼ばれている女たちは、全員、洗脳された地球人なのか!?俺たちは、殺すべきなのか、それとも殺さずに止めるべきなのか!?」


「……」


「リリス!」


「……!えっ……?洗脳された人間、ですか?この状況で、私たちは……えっと……どうすれば……」


まずい。


よりにもよって、こういう時に“いつ、何をすべきか”を判断するのが一番得意な人が、完全に動揺している……


……下手をすれば、彼女はもう戦意を失っているのかもしれない。


仕方ない。


ここは、俺がみんなに指示を出すしかない。


だって俺は昔、そのためにリリスから訓練を受けてきたのだから。


「……みんな、できるだけあの機天使たちを無力化してくれ。もし彼女たちが君たちの命を脅かすようなら……その時は殺せ」


「エミールくん!?本気なの?彼女たちは、まだ元に戻れる可能性があるかもしれないんだよ!」


「マリー、ここで決断を鈍らせたら、俺たちは全員死ぬ!たとえ俺たちが全力を尽くして……たくさんの犠牲を出して彼女たちを助けたとしても、俺たちが死んだら、彼女たちだって絶対に生き残れない!」


「うぅ……分かった。マナ、戦闘はお願い。私は支援に集中するね」


「ちっ……言ってることは筋が通ってるけど、アンタ、よくもマリーに怒鳴ったわね……あとで絶対、その顔に一発入れてやるから!」


次の瞬間、マリーの瞳が真紅に染まった。


炎がすぐさま彼女の身体を包み込み、そのまま彼女を空中へ押し上げると、マナは機天使たちとの激しい交戦に入った。


悪く思うなよ、マナ。


今の戦況は、たとえ一瞬であっても迷うことを許してはくれない。


余計な聖人ぶった甘さは、自分自身を……いや、この場にいる全員を死なせるだけだ。


「高脅威敵対ユニットを確認。直ちにプロトコル六二七を実行。殲滅任務を開始します」


「さあ……来い!アタシに触れられるもんなら触れてみな!アンタたちなんか、灰まで焼き尽くしてやる!『火魔法・紅蓮華』!」


マナに身体の操作が切り替わった途端、彼女の炎の威力は一気に跳ね上がった。


そのうえ彼女は、『火魔法』によって驚異的な空中機動力まで発揮し、機天使たちが注意をすべて自分へ向けざるを得ない状況に追い込んでいた。


「マナ、左斜め下に回避して!」


「……!」


リヤが突然、空中のマナに向かって大声で叫び、彼女は慌てて右手の掌から炎を噴き出して回避した。


彼女が元いた位置から離れた、その刹那。


何本もの白い光が、唸りを上げて通り過ぎた。


マナをかすめそうになった光線のいくつかは、通り沿いの建物に命中し、煙を上げる穴をいくつも残した。


それらはすべて、機天使の機械翼から展開された円錐形の浮遊砲から放たれた光線だった。


「レーザー浮遊砲!?なんでそんなSF映画みたいなものが出てくるのよ!?」


「殲滅……殲滅……殲滅……」


「うるさいわね、少しくらい黙ってたら死ぬの!?くそっ、ハエみたいに飛び回りやがって、本当に鬱陶しい!」


機天使たちは、ただ飛行速度が速いだけではなかった。


弾幕のような浮遊砲による攻撃に加えて、近接戦に対応するためのアークブレードまで装備していた。


そのせいで、マナ、リン、そして他の機天使を担当している編織者たちは、苦戦を強いられていた。


もちろん、俺のほうの状況も少しも良くなかった。


「このクソ硬いの、なんなのよ!?」


チェーンソー斧を叩きつけても、カザリア・リッパーはまるでびくともせず、醜いアヒルが全力で切りつけても、機動兵器の表面装甲に傷一つ付けることすらできなかった。


「あ……」


醜いアヒルが一瞬気を取られた隙に、そのカザリア・リッパーに搭載された重機関銃は、すでに彼女へ照準を合わせていた。


「『針糸魔法』!」


幸い、糸で編まれた縄が間一髪で醜いアヒルの腰に巻きつき、その身体を引き寄せてくれたおかげで、彼女は蜂の巣にされずに済んだ。


「助かったわ、妹ちゃん!」


「レイでいいよ!気をつけて、また突っ込んでくる!」


「ちっ……本当に面倒くさいわね!」


カザリア・リッパーの機体から、何列ものミサイルが次々と射出され、戦場のあちこちを無差別に爆撃していく。状況はますます混乱していった。


「全員、すぐに下がりなさい!全砲門、発射!」


無線から、静さんの声が響いた。


「エミール、早くみんなを退避させて!【アーク】が砲撃を始めるよ!」


それを聞いたアイリーンも、慌てて俺たちに向かって叫んだ。


なぜなら、俺たちはまさに【アーク】の砲撃線上にいたからだ。


「みんな、早く逃げろ!!!」


俺たちの上空にいる【アーク】は、カザリア・リッパーがこのまま進撃を続ければ、さらに大きな被害が出ると判断したらしく、数機の機体をロックオンし、強引に砲撃を開始した。


撤退が間に合わなかった編織者たちも、その砲撃に巻き込まれてしまった。


「どうなった……?」


【アーク】の砲撃は戦場に土煙を巻き起こし、いくつもの建物を破壊した。


だが、煙が晴れると……


「そんな……無傷!?」


目の前の光景に、アイリーンは呆然と声を上げた。


そう。


【アーク】の砲撃を受けたはずのカザリア・リッパーたちは、薄青い防護シールドに守られていた。


そして煙が晴れると、奴らは再び防護シールドを解除し、俺たちへ向かって突進してきた。


避けきれなかった多くの編織者たちは、そのまま奴らに踏み潰され、引き裂かれ……


最後には、戦場に転がる遺骸となった。


……


これほどの戦力差を前にして、俺にはもう、勝利への希望など一筋も見えなかった。


「おいおいおい……そのデカブツで勝手に砲撃していいなんて、俺は許可した覚えはねぇぞ!この量産機どもが何機か壊されたらどうしてくれんだよ?」


カズは両脚で地面を強く蹴りつけ、上空へと跳び上がった。


「てめぇらは、大人しく地べたで死ぬのを待ってろ!」


その直後、彼は右脚を振り上げ、【アーク】の艦橋上部を思いきり蹴りつけた。


艦橋は一瞬で深く陥没し、【アーク】全体もその衝撃で急速に落下していく。


そして最後には、もうもうと黒煙を引きながら、東京スカイツリーの廃墟の中へ墜落した。


「ママ!?おい、【アーク】!みんな無事なの!?おい!ママ、早く返事して!」


その光景は、全員の戦意を完全にへし折った。


華恋も一瞬で冷静さを失い、必死に無線に呼びかけ始めた。


けれど、彼女に返事が戻ってくることはなかった。


冗談だろ……


生身で、【アーク】を一蹴りで墜としたっていうのか……!?


「ユリ、静……ああ……」


リリスも、ついに心が折れてしまった……


彼女は自分がまだ戦場にいることすら忘れたかのように、その場に呆然と立ち尽くし、【アーク】が墜落した方角を見つめながら涙を流していた。


「シリカ……シリカ!返事して!聞こえてるの!?」


つい最近ようやく仲直りできたばかりの友人が、あの【アーク】に乗っている。


そう思ったアイリーンもまた動揺し、攻撃の動きが乱れ始めた。


「危ない!うあああ……!」


「セレイアっち!くそ……!『愛と(Alice’s)希望の(Last)物語(Wonder)』!」


それだけではなかった。


俺がほんの一瞬目を離した隙に、別のカザリア・リッパーがリンの背後へ回り込み、彼女に向かってチェーンソーを振り下ろしていた。


間一髪のところで、リヤがリンのそばへ駆けつけ、力いっぱい彼女を安全圏へ突き飛ばした。


だが、彼女自身はそのまま、無惨にも片腕を斬り落とされてしまった。


自分を庇って倒れたリヤの姿を見たリンは、すぐさま手の中に眩い赤紫色の光を集め、リヤを傷つけたカザリア・リッパーへ向けて撃ち放った。


しかし、その攻撃でできたのは、せいぜい奴が展開していた防護シールドを破り、左腕を破壊することだけだった。


「どうして……まだ足りないの……『愛と(Alice’s)希望の(Last)物語(Wonder)』!!」


リンの声は震えていた。


そして再び、眩い光が彼女の手の中へ集まっていく。


やがて、彼女の短剣は巨大な赤紫色の大剣へと形を変えた。


さらに一撃。


その刃が、機動兵器に叩きつけられた。


リンの一撃で、そのカザリア・リッパーは真っ二つに斬り裂かれた。


だが……


見渡す限り、戦場にはまだ数十機もの無傷のカザリア・リッパーが残っていた。


「『愛と(Alice’s)希望の(Last)物語(Wonder)』!!!倒れろおおおおお!!!」


リンは泣き叫ぶような声で、再び手の中に集めた奇跡を、戦場の半分を覆うほどの砲撃へと変え、カザリア・リッパーたちをまとめて飲み込んだ。


だが、赤紫色の光が消え去ったあとも、数機だけはまだ残っていた。


そして再び、一歩ずつ俺たちへ迫ってくる。


「なんで……なんで『愛と(Alice’s)希望の(Last)物語(Wonder)』がもう発動しないの……アリス、お願い!早く力を貸してよ!」


本来、編織者本人(リン)が死に瀕した時にのみ自動発動するこの【武装化】スキルは、すでに三度もリンの願いに応えていた。


けれど今、それはもう彼女の呼びかけに応えようとはしなかった。


これじゃ……


奇跡にさえ、俺たちはもう見放されたのか……


人類の力は、やはりあまりにも小さすぎる。


たとえリリスや、すでに逝ってしまった先輩たちがすべてを尽くしてくれたとしても、俺たちは異世界人との実力差を埋めることなどできなかった。


俺は……


「それでいいのか?」


誰だ!?


戦場の時間の流れが徐々に遅くなり、やがてすべてが完全に静止した。


そして、聞き覚えのない男の声が、俺の耳元に響いた。


振り返ると、俺の背後には、俺とまったく同じ顔をした、マントを羽織った男が立っていた。


いや……


その華やかなマントは、どうやら俺が今身にまとっているものと、まったく同じらしい。


「はは……死に際になって、ついに幻覚まで見え始めたのか……」


「俺は訊いているんだ。お前は、それでいいのか?」


幻覚じゃないのか!?


もう一人の俺は、俺の目をまっすぐ見据えながら、改めてそう語りかけてきた。


「お前は誰だ?」


「質問を質問で返すな!」


「ちっ……こんな状況、受け入れられるわけないだろ!でも、俺にこれ以上どうしろっていうんだよ?俺が紡いだ物語じゃ、この状況をひっくり返すことなんてできない。俺だって悔しいんだよ!俺の紡いだ物語が、もっと強ければよかったのに……」


「ふっ……自分の弱さを、自分の物語のせいにするな。だからお前は、いつまで経っても雑魚のままなんだよ。あの時の俺は、よほど頭がおかしくなっていたんだろうな。お前みたいな役立たずを、自分の編織者として選んでしまったんだから……」


……?


待て。


こいつ、今なんて言った……!?


「ヒントをやるよ、未熟な編織者。運命を前にすれば……たしかに、俺たちに勝ち目なんて絶対にない。けど、俺たちはいつだって選ぶことだけはできただろ?」


「……」


「自分があの時、何を選んだのかを思い出せ。冒険のない人生なんて、人生とは呼べないんだ」


「……!」


……そうだ。


あの時、最初に口を開き、この任務を遂行する覚悟を静さんにもう一度固めさせたのは、俺だった。


それどころか、みんなに希望を捨てるなと何度も言い続けていたのも、俺だった。


“もう、こうするしかない”


“諦めろ”


それなのに今の俺は、そんなことを考えてしまっている。


くそ。


俺は、いったい何をしているんだ……


「お前の名前は……いや、いい。たぶん……俺はもう、お前の名前を知っている。ありがとう、【カエル王子(Frog Prince)】」


「よろしい。どうやら、自分が何者なのかを思い出したようだな。お前の愛する者たちを守りに行け。俺の物語(スキル)は、この程度のこともできないようなガラクタじゃない。お前がその初心を抱き続けている限り、俺は誰かを守りたいというお前の願いに応えてやる」


「うん」


時間が再び流れ始めた時には、カエル王子の姿はすでに消えていた。


もしかすると最初から、戦場にそんな人物など現れていなかったのかもしれない。


あれはすべて、俺の心の中にあった、幻想に近い何かだったのだろう。


けれど、彼のおかげで、俺はようやく自分がかつて立てた誓いを思い出すことができた。


「ほう……?」


紋章から放たれる光はさらに眩しさを増し、たった今【アーク】を撃墜したばかりのカズでさえ、思わず俺を見定めるように視線を向けてきた。


「エミール……?」


「心配しないで、リリス。ここからは、俺が約束を果たす番だ。『生命の支配者』!」


大地のあちこちから、数えきれないほどの光の粒が舞い上がり、ゆっくりと俺のもとへ集まってくる。


そして、そのまま俺の身体へと溶け込んでいった。


ああ……


そういうことか。


この光の粒はすべて、戦争の中で理不尽に死んでいった人たちが、死の間際に残した怒りと無念なんだ。


そして今、それらは俺の身体へ入り、反撃するための力へと変わっていく。


「俺――エミールは、ここに誓う。この身をもって、戦場にいるすべての人を守り抜く」


力が俺の身体から溢れ出し、【武装化】によって手に入れた大剣も、眩い金色の光を放ち始めた。


「……死ぬまで、止まらない」


カザリア・リッパーが防護シールドを展開しても、俺の斬撃を防ぐことはできなかった。


光をまとった大剣は、いとも簡単にそのシールドを断ち切り、そのまま機体を真っ二つに斬り裂いた。


続けて、俺はその勢いのまま他の機動兵器へ向かって突っ込み、一機、また一機と斬り潰していった。


空中にいる、あのふざけた速度で飛び回っている機天使たちはどうかって?


問題ない。


今の俺にとっては、造作もない相手だ。


俺は彼女たちの反応速度を上回る速さで、一人の機天使へ一気に飛びかかり、大剣から光り輝く鎖を生み出して、彼女を拘束しながら自分のもとへ引き寄せた。


そのあとも、大剣を振るい、彼女たちの機械翼と武装を次々と破壊し、反撃できない状態にしていく。


「素晴らしい……実に素晴らしい!お前ら地球人、まだそれなりの戦闘データを生み出せるじゃねぇか。見てるこっちまで昂ってきたぞ!」


カズは心底感心したかのように、ぱちぱちと手を叩いた。


そして俺からそう遠くない場所まで歩み寄ると、まるで面白いものでも見るかのような目で、必死に戦う俺を見ていた。


「異世界人、てめぇらの世界へ帰りやがれ」


「ほう?口だけは一丁前じゃねぇか?」


「……!」


鋭い拳撃が一瞬で俺の目の前まで迫ってきた。


だが、その拳は俺に触れる寸前でぴたりと止まった。


「おっと?瞬きひとつしねぇのか?はははは!悪くねぇ。大口に見合うだけの度胸はある。気に入ったぜ、小僧!俺と一騎打ちしろ。もし俺に勝てたら、てめぇの後ろにいるカスどもを見逃してやらなくもねぇ」


……!?


「し、指揮官様、このような独断は……」


「今の指揮官は誰だ?」


「あなた……でございます……」


「俺に噛み殺されたくなけりゃ、今すぐ隊列に戻れ!」


「は、はい……」


副官らしきコボルトが、恭しくカズに進言した。


だが、カズはそれを聞き入れるどころか、逆に怒鳴りつけた。


「どうだ?悪くねぇ取引条件だろ?ぶっ壊されたガラクタロボットどものことも、今回は見逃してやる。俺が欲しいのは、お前との一騎打ちだけだ」


カズが片手を上げて合図すると、その場にいたすべての敵が動きを止めた。


「……どうして急に、俺に有利な条件を出す?お前はいったい何を考えているんだ?」


「どうして?そんなもん、決まってんだろ。お前が強ぇからだ。そして俺は、強ぇ奴と戦いたい。それだけだ!」


こいつは、根っからの戦闘狂なのか……


だがそのおかげで、俺はようやく、みんなを生き残らせるための希望を少しだけ見つけることができた。


……その約束、破るんじゃねぇぞ。


「俺が受ける条件として、勝負の結果がどうなろうと、お前たちは俺の後ろにいる人たちに指一本触れるな。あと、ルールは【どちらか一方が死ぬまで戦う】でどうだ?」


「もちろん構わねぇよ。あんな下等な虫けらどもを生かしておいたところで、どうせ大したことはできねぇだろうしな」


「なら、その取引を受ける」


よし。


食いついた。


「エミール、ダメ!危険すぎるわ!あの人狼は他の怪物とは違う!」


「大丈夫だよ、母さん。俺には勝算がある。俺一人に任せて」


「……?あっ……!」


そうだ。


カズはまだ、俺が『超再生』を持っていることを知らない。


だから俺はさっき、あえて戦闘ルールを【どちらか一方が死ぬまで戦う】にした。


俺なら、無数の失敗(死亡)を背負うことができる。


それに対して相手は、おそらく普通の生物と同じように、致命傷を受ければそこで終わりだ。


だからこそ、俺は奴の挑戦を受けた。


俺が目で母さんに合図を送ると、彼女もようやく、あの時俺が重傷を負いながら、短時間で完全に回復したことを思い出したようだった。


「骨があるじゃねぇか!ますます気に入ったぜ!名乗れ。お前、名前は?」


「……」


「言わねぇのか?まあいい。どうせもうすぐ、お前はこの土の肥やしになるんだからな」


そう言うと、カズは懐をまさぐり、一枚の硬貨を取り出した。


「この硬貨が地面に落ちた時が、決闘開始の合図だ。分かったな?」


「……ああ」


「なら、存分に殺し合おうぜ。あまり早く死ぬなよ?」


カズはその硬貨を空中へ弾き上げた。


硬貨が地面に落ち、甲高い音を響かせた、その瞬間――


「グオオオオオ――――――!」


「うっ……!?」


俺が瞬きをした、その一瞬。


カズは突然俺の背後に現れ、俺の腰めがけて拳を振るってきた。


俺はどうにかその一撃を受け止め、重傷を負うことだけは避けた。


「いい反応だ。だが、まだ遅ぇ!」


「……!?」


カズは拳を引くと、すぐさま横蹴りを放ち、俺の足を払ってきた。


「【カエル王子(Frog Prince)】、力を貸してくれ!」


全身から凄まじい力が爆発するように湧き上がった。


俺は再び大剣を振り上げてその重い一撃を受け止め、その衝撃を利用してカズとの距離を一気に引き離した。


「はっ……なら、俺の本気も少しだけ見せてやるよ」


カズの姿が、突然ぶれ始めた。


戦場にはすぐに、二人、三人……無数のカズが現れた。


なんだ、あれは!?


「公平に教えといてやるよ。これは手加減版の俺の得意技だ。超高速で移動して、戦場に残像を生み出す武技ってやつだな。さあ、ここからは全方位からの攻撃を防いで、せいぜい最後まで足掻いてみせろ!」


今度は、最初の数発を防ぐのが精一杯だった。


拳撃、蹴撃、爪撃。


すべての攻撃が、四方八方から俺へ襲いかかってきた。


メキィッ――


最後に凄まじい激痛が走った時には、カズの腕がすでに俺の胸を貫いていた。


「その程度か?ようやく強ぇ奴を見つけたと思ったんだがな」


「はぁ……はぁ……捕まえ……たぞ……!」


俺は光の粒を身体にまとわせ、胸を貫かれたままカズの腕を掴み、そのまま拳でカズを数十メートル先まで殴り飛ばした。


「なに……!?」


彼は血の滲んだ口元を拭いながら、驚いた表情で俺を見た。


「『不屈(Undying)誓約( Vow)』。さあ、殺し合いの続きをしよう」


胸の傷が、急速に塞がっていく。


俺は再び立ち上がり、手にした大剣をカズに向けて構えた。


「お前……そういうことか。だから俺の挑戦を受けたってわけだな!いいぜ……最高じゃねぇか!それでこそ、俺に殺される価値がある!」


カズは素早く状況を理解すると、今度は右側から俺へ攻めかかってきた。


この時、俺は確かに四方八方から襲いかかってくる攻撃を受け止めた。


だが、しばらくして俺がカズへ踏み込んだ瞬間、ほんの一瞬だけ隙が生まれた。


その隙を突かれ、俺は奴の拳で心臓を砕かれた。


「……『不屈(Undying)誓約( Vow)』!もう一回だ!」


意識が途切れかけた次の瞬間、俺の心臓は再生し、再び全身へ血液を送り出していた。


「てめぇ、どんな致命傷を受けても回復できるってのか?しかも、強くなってやがる!?」


「公平に、俺も教えてやる。俺はどんな致命傷を受けても蘇る。そして前よりも……強くなる!はあっ!」


ガキィン――


ちっ……


また防がれた。


「面白ぇ……てめぇ、本当に面白ぇな!やっぱり俺の目に狂いはなかった!お前は強ぇ。俺の全身の細胞が、お前を殺したいって吠えてやがるくらいにな!ここまで俺に本気を出したいと思わせた奴は久しぶりだ……誇っていいぜ」


先ほどの倍以上に膨れ上がった殺気が、カズの身体から爆発するように放たれた。


彼は四肢を地面につき、まるで野獣のような構えを取った。


「この俺、カズが認めてやる。この長い年月の中で、てめぇは唯一、俺に全力を出したいと思わせた相手だ」


カズは、先ほどとは比べ物にならない速度で、さらに何倍もの残像を生み出した。


その直後、暴風雨のような拳撃が、俺が反応するよりも早く襲いかかってきた。


「死なねぇって言うなら、二度と這い上がれなくなるまで殺してやる!」


頭を砕かれ、胸を貫かれた。


それどころか、ある時は奴の爪で真っ二つに斬り裂かれた。


俺の身体が再生し終えた直後、奴はまた俺を殺しにかかってきた。


今の俺では、本気で戦うカズにまともに反撃することすらできない……


もっと、死ななきゃならない……


分かる。


再生するたびに、俺は死ぬ前よりも確実に強くなっている。


けれど、まだ足りない。


カズの実力は、十数回死んだくらいで追いつけるようなものじゃない。


そのことは、俺が誰よりもよく分かっていた。


「エミール……もうやめて……」


ごめん、リリス。


これだけは、絶対に譲れないんだ。


「……!?」


「『不屈(Undying)誓約( Vow)』。待たせたな、カズ。おかげで今の俺はたぶん、お前と同じくらい強くなった」


ついに……


俺は、カズが全力で振るった爪撃を受け止めた。


何度も死を経験し、そのたびに『不屈の誓約』を発動させる。


さらに、新たなスキル『生命の支配者』による能力上昇も加わり、俺の力はもはや超人に近い領域まで成長していた。


これでようやく……


「え?」


だが、俺が大剣を振り上げ、カズへ斬り下ろそうとした瞬間、身体の感覚が突然消えた。


俺は剣を振り下ろそうとした勢いに引っ張られるようにして、そのまま地面へ重く倒れ込んだ。


え……?


「どうして……?」


動け!


どうして、どれだけ力を入れても、今は指一本すら動かせないんだ?


そうだ!


死ぬたびに流れ出た血は、俺の身体に戻ってこないんだ。


前にも同じようなことがあったはずなのに、どうして俺はそのことに気づかなかった!?


ちくしょうが!


あと少しだったのに!


「ん?もう終わりか?ようやく反撃してくるかと思ったんだがな?」


ひどく失望した様子のカズは、俺の腹を蹴りつけ、みんなのいる場所まで俺を吹き飛ばした。


「ダーリン……!」


リンはすぐに反応し、リリスたちと一緒に慌てて俺のそばへ駆け寄ると、俺を庇うように身構えた。


「おいおいおい……でかい口を叩くにしても、限度ってもんがあるだろ?勝算があるんじゃなかったのか?俺を倒すんじゃなかったのか?で、結果はこれか?……まあいい。飽きた。さっきの取引もなしだ」


「待てよ!どちらか一方が死ぬまで戦うって約束しただろ!?」


「ははは……まさか、本気で俺が約束を守ると思ってたのか?お前にやる気を出させて、全力で向かってこさせるために乗ってやっただけだよ。アホが。本当に救いようがねぇな。やっぱり地球人どもは、どいつもこいつも使えねぇ」


「カズ!!!」


「おい、何をぼさっとしてる?そろそろ仕上げだ」


カズの命令と同時に、一機のカザリア・リッパーが俺たち全員の前へ歩み出た。


そして、機体に搭載された重機関銃の銃口を、俺たちへ向けた。


「ごめん、みんな……本当に、ごめん……」


俺たちはもう、全力を尽くして、生き延びようと足掻いてきた。


俺も、みんなも。


誰もが、自分にできることを、最後までやり尽くした。


だから……


もういい。


それでいいんだ。


「大丈夫だよ、エミール。あなたは本当に頑張った。本当に……」


リヤは身動きひとつできないまま、残された片腕で俺を強く抱きしめた。


彼女は涙で頬を濡らしたまま、泣き濡れた顔を俺の胸に埋めた。


「もう最後だから、はっきり言うわ。ありがとう、エミール。マリーのために、そしてみんなのために、ここまで戦ってくれてありがとう」


「うん……もし来世があるなら、私たちも、あなたの花嫁になりたかったな……」


マナとマリーは二人とも死を覚悟し、ゆっくりと目を閉じた。


そうだ……


もし来世があるなら、俺もみんなと結婚したい……


「来世では、絶対に一緒に結婚しようね?私たちみんなで、絶対に結婚するの!」


「約束するよ、アイリーン。君たちがどこにいても、俺が必ず見つけに行く。それと……伝えたいんだ。俺は君たちを愛してる。ずっとそばにいてくれて、本当にありがとう」


俺たちには、あまりにも手の届かないものが多すぎた。


重機関銃の銃身が回転を始めた。


どうやら、本当にここまでらしい。


ヒュン――――――


ドンッ――!


空気を切り裂く音とともに、棒状の物体が横合いから凄まじい速度でカザリア・リッパーへ飛来し、その機体を粉々に打ち砕いた。


続いて、全身に紫色の雷電をまとった人影が、火花と黒煙を上げる機体の上に現れた。


彼女は機動兵器を踏みつけたまま、黒と白を基調とした長槍を力強く引き抜き、凛々しい仕草で長い黒髪をかき上げた。


「なっ……」


その突然の一撃に、大軍を率いて背を向けようとしていたカズは振り返り、目を見開いて、鎧をまとった女性を見つめた。


「ふぅ……間に合った」


「そんなに早く飛び出しちゃって……少しは私たちを待ってくれてもよかったのに~」


「彼ら、危なかったでしょ?この地球の生き残りが、あのまま重機関銃で殺されるところなんて、黙って見ていたくないもの」


「それもそうだね~」


もう一人、赤いツインテールに、リリスとまったく同じ黒い双角を生やした少女が、薄青い転移門の中から、にこにこと緊張感のない様子で歩いてきた。


そして、俺たちの前に立つ黒髪の女性のそばに並んだ。


「もう大丈夫。ここからは、私たちに任せて」


その黒髪の女性は俺たちに向かって口元に笑みを浮かべ、自信たっぷりに頷いた。

ここから、いくつもの物語が少しずつ交わり始めます。


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【エミール – プロフィール更新】


エミール


紡がれた物語 - カエル王子(Frog Prince)


編織者スキル

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『挑発』

『超再生』

『交換』

『生命の支配者』*New!


【武装化】発動条件 - 致命傷を受ける → 死と向き合う覚悟を持つこと


【武装化】スキル -『不屈の誓約(Undying Vow)』


【武装化】スキルの効果 -(致命傷を受け、復活した瞬間に限り発動可能)使用者のあらゆる身体能力を極めて大幅に向上させる。

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