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第11章 たとえ勝ち目がなくても

翌朝、リリスは会議を開くという名目で、一般の編織者を除く関係者全員を【アーク】の会議室に集めた。


それは、彼女と静さん、そして分析員たちが一晩中情報を整理し、話し合った末に出した結論を、俺たちに説明するためだった。


「あ……おはようございます、エミール。小隊のみなさんも、おはようございます」


「おはよう、華恋」


俺たちは会議室へ向かう途中、一人で同じ場所へ向かっていた華恋と偶然出会った。


彼女は俺に気づくと、すぐに挨拶をしてくれた。


「待て待て待て!エミール、お前ちょっとこっち来い!」


「うわっ……!そんなに強く引っ張るなって、手が痛いだろ!」


コリンは問答無用で俺を脇へ引っ張っていった。


ほら見ろ。


華恋まで困惑した目で見てるじゃないか。


「お前……いつの間にあの子とそんなに仲良くなったんだ?俺たち、まだ出会って二日も経ってないだろ?まさか……お前、あの子にまで手を出したんじゃないだろうな?俺たちが見てない隙に、またやったのか!?」


「おい、“また”ってなんだよ?俺は別に変なことなんてしてない!昨夜、散歩に出た時に、同じように一人でアルカディアの外へ気分転換に出ていた華恋と偶然会ったんだ。その後、静さんに頼まれていたことを思い出して、少し華恋と話しただけだよ。ああ、最後には二人でオークを一体倒したけど」


昨夜、俺と華恋が戻ってきた時、ちょうど部屋へ戻ろうとしていたリンたちとも会ったので、彼女たちは昨夜の出来事をすでに知っていた。


だから、昨夜俺が華恋と会っていたことを知らなかったのは、コリンだけだった。


「え……?それだけ?」


「それ以外に何を期待してたんだよ?お前、レイがいるのに、華恋にも気があるんじゃないだろうな?」


「違ぇよ……俺にそんな気があったら、下半身が無事じゃ済まないかもしれないだろ……」


はっ!


レイって、そんなに強気な女の子だったのか?


へへ……


その点、リンたちはみんな優しい女の子だから、俺にそんな乱暴なことはしないし、無茶なことを要求してきたりもしない。


……


もちろん、マナは例外だけど。


ごめん、マナ。


別に君を狙い撃ちして言ってるわけじゃないんだ……


「昨日はほとんど会話もしてなかったのに、今日になってあの子のほうから挨拶してきたから、ちょっと驚いただけだよ」


「はぁ……俺のこの罪深い魅力が悪いんだな」


「自惚れんな。戻るぞ!」


えぇ~


お前、俺に今の台詞を言わせるために聞いてきたんじゃないのか?


せめてツッコんでくれよ!


せっかく俺が馬鹿やったのに!


「悪い、少し友達と話してた。華恋、君は一人なのか?他の隊員は?」


「あははは……あの人たちは、私と同時に会議室へ現れたことなんて一度もありませんから。みんな自由にやっていますね……普段は会議が始まる前にはちゃんと来てくれるので、私も特に何も言っていません」


「君も大変だな……それなら、一緒に行くか?俺たちもちょうど会議室へ向かうところなんだ」


「はい」


地球自衛軍最強の小隊の隊員たちが、まさかそこまで自由な人たちだったとは……


本当に、いろいろと見識が広がるな。


——————


案の定、雪狐小隊の他のメンバーたちも、ほどなくして姿を現した。


彼らは会議室に入ると、華恋が俺たちの隣に座っていることに気づき、こちらへやってきて、礼儀正しく俺たちに軽く会釈してから席に着いた。


その時……


バン――


リリスは深くため息をつくと、びっしりと文字が書き込まれたホワイトボードに片手を叩きつけ、俺たちへ向き直って真剣な表情を浮かべた。


「先ほど静が話した通り、私たちが昨夜話し合って出した結論は、まず地球上に残っている友軍を探し出すことよ。これから、あなたたちには専門要員を護衛してもらい、ここから二十八キロ先にある東京スカイツリーを再起動しに向かってもらう。そこはすでにエスギル軍に占拠されているから、今回の任務には、現時点で出せる最大戦力を投入するつもりよ。」


彼女はホワイトボードに貼られた地図の一角に丸を描いた。


そこが、今回の俺たちの目的地だった。


「はい。現在の戦力だけでエスギルに抗い、さらには勝利する可能性は……完全にゼロです」


静さんは先ほどからずっと眉間に皺を寄せたままで、笑みを浮かべることは一度もなかった。


それだけで、今の状況がどれほど悪いのかが分かる。


「昨夜、私たちはこの戦争に勝つための可能性を必死に探しました。ですが、最後に出た結論はやはり同じです……個々の戦闘能力の差はもちろん、数の面だけを見ても、エスギルは私たちを大きく上回っています。だからこそ、現時点で最善の選択は、まず地球上に残っている生存者を探し出し、彼らと合流して抵抗軍を組織し、反撃に出ることです」


「抵抗軍を組織できた場合、私たちの勝算がどれくらいになるのか、教えていただくことはできますか?」


確認したいことがあったのか、その後、華恋も手を挙げ、ホワイトボードの前に立つ数人に問いかけた。


「そ……それは、援軍の数と、彼らの戦闘能力次第です……」


リリスは苦々しい表情で目を逸らした。


まるで、自分へ向けられた皆の期待の眼差しから逃れるかのように。


「必要な援軍の数は、おおよそ何人ですか?」


「数万人。もちろん、人数は多ければ多いほどいい」


「最も理想的な条件が揃った場合、私たちの勝算は?」


「……一パーセント」


……


最も理想的な状況でも、勝率は一パーセントしかないのか!?


は?


何の冗談だよ、それ?


ほとんどゼロに等しいじゃないか!?


「もう他に方法はない……私たちはさまざまな可能性から試算してみたけれど、最も勝率が高い方法は、やはり残存している援軍を探すことだった。私もできる限り勝算を上げたかったけれど、私の力不足で、ここまでしかできなかった……」


「リリス……」


今、誰よりも焦っているのは、俺たちを助けたいと心から願っているリリスのはずだった。


彼女の目元は赤くなっていて、今にも泣き出しそうだった。


「リリス、忘れたの?私のスキルは、こういう時のために現れたものなんじゃないの?私も頑張る。だからお願い……みんなも、私の紡いだ物語を信じて。どうか【アリス(Alice)】を信じて!」


「……!『愛と(Alice’s)希望の(Last)物語(Wonder)』!そうだ……この絶望を覆せるスキル(奇跡)のことを忘れていた!分析員、この可能性も計算に入れて、勝算がどれくらいになるのか教えて!」


「はい!」


リンのおかげで、リリスは再び希望を取り戻し、すぐに静さんの分析員に、急いで再計算を進めるよう指示した。


そのおかげで、場の空気もようやく少しだけ持ち直し、さっきまでのような重苦しい沈黙からは抜け出した。


「……最終結果が出ました。勝率は……五パーセントです」


「なっ……」


それでも、精密な再計算を経た後でさえ、俺たちの勝率は五パーセントしかなかった。


この結果を受けて、リリスもみんなも再び重い空気に包まれてしまった。


「あははは……少なくとも四パーセントは上がったじゃないですか。一パーセントよりはずっといいですよね?元気を出してください、リリス。あなたたちは私たちのために対策を立ててくれればいいんです。それを実行するのは、私たちの役目ですから。あまり自分一人で背負い込みすぎないでください」


「そ……そうよね……ごめんなさい、さっきは私が動揺していた……ありがとう、キャロリン」


「いえいえ。ずっと心の中に抱え込んでいるより、適度に吐き出したほうがいいですから」


「ふぅ……みんな、今の状況はここにいる人たちだけで共有するわ。だから、どうか絶対に口外しないで」


ブブッ――


その時、静さんの身につけていた無線機が鳴った。


「こちら南村静。状況を……」


彼女は素早く無線に出ると、すぐに相手へ状況を確認し始めた。


「はぁ……はぁ……」


「錫の兵隊……?何があったの!?」


「申し訳ありません、首領。任務は……失敗しました……」


無線機越しに聞こえてきた男の声に、会議室の空気は一瞬で再び凍りついた。


通信の向こうで、彼は荒い息を繰り返し、かすかに呻き声まで漏らしていた。


まるで……


彼の身に、ただ事ではない何かが起きているかのように……


「俺たちが残っていた敵部隊を掃討し終えた直後……戦場に突然、灰色の転移門がいくつも現れました……うっ……!そこから、奇妙なハイテク装甲を身にまとい、空を飛ぶ人間の女性たちが数十人現れたんです。そして次の瞬間……部隊のみんなが、すぐに彼女たちの襲撃を受けました……」


人間が、人間を襲った……?


頭が追いつかない。


いったい、どういうことなんだ?


「それだけではありません。戦場には、性能が異常としか思えないほど高く、重火器やチェーンソーまで装備した二足歩行型機動兵器が四機も現れました。そいつらは、あの武装した女性たちと一緒に激しい襲撃を仕掛け、一瞬で各小隊に甚大な死傷者を出しました。だから俺たちは……殿を務めてくれた数人の隊員を残して、逃げるしかなかったんです……」


「錫の兵隊、あなたたちは今どこにいるの!?すぐにそこへ救援を向かわせるわ!」


「無駄です、首領。奴らは……もう、俺たちが隠れている店の入口のすぐ外まで来ています……」


ギィィィィィ――――――!


無線機の向こうからは、何かを切断しているような音まで聞こえてきた……


「あの忌々しい機動兵器どもには、血痕を追跡する機能まであるようです……今から救援を出しても、おそらく間に合いません。だから……」


「【アーク】の支援が到着するまで持ちこたえなさい!正確な位置を早く教えて!これは命令よ、錫の兵隊!」


「俺の妻と娘……リディアとヴィオラ、それから、みんなの家族を……頼みます、首領……」


「あなたたちの位置を教えなさい、錫の兵隊!」


「我ら人類の未来を守るために!!!」


ザザザ――……


会議室に、再び静寂が訪れた。


無線機から流れるザザッという音だけが響き、誰一人として口を開かなかった。


華恋は息を呑むと、椅子の背もたれに身を預け、呆然と天井を見上げていた。


「隼小隊長との通信が途絶しました……」


「くそっ!どうして、急にこんなことに……うぅ……」


通信員の一人が沈黙を破るように告げると、静さんは顔を覆い、力なく座席にもたれかかった。


あの強い首領でさえ、ついに精神的な重圧と絶望的な戦況に押し潰されてしまったのだ。


「「「「「「「「……」」」」」」」」


雪狐小隊の中には、感情を抑えきれず、悲痛そうに顔を伏せる者が何人もいた。


あのきっちりとスーツを着こなした紳士は、怒りに震えながら拳をテーブルに叩きつけていた。


錫の兵隊さんは、きっと彼らにとって、かつての戦友だったのだろう……


「……リリスさん、錫の兵隊が先ほど話していたあれが何なのか、分かりますか?」


「分からない……私の記憶では、エスギルにあのような装甲や機動兵器といった高度文明の兵器は存在していない……」


「そうですか……」


華恋はリリスを責めなかった。


彼女は険しい表情のまま、どうすれば今の状況を打開できるのか、必死に考えていた。


リリスでさえ正体が分からない新たな敵が現れたのか……


その存在は間違いなく、今の状況にさらなる追い打ちをかけるものだった。


会議室にいる誰もが沈黙し、何を言えばいいのか分からなくなっていた。


「うぅ……私たち人類は、もう……」


「静さん」


「エミールくん……?」


「任務は、いつ始まるんですか?」


「……」


今は、誰かが前に出なければならない。


そうしなければ……


きっと、みんなは完全に抗うことを諦めてしまう。


……まだ、ここで終わるわけにはいかない。


ここで足を止めてしまえば、人類の未来は本当に終わってしまうのだから。


「エミール、さっきの錫の兵隊さんのいた場所には、私たちを除く【アーク】の戦力がすべて揃っていました。つまり、私たちの戦力はまた……」


「だから何だ、華恋?俺たちには、もうとっくに退路なんてない。俺たちが動かなければ、勝つどころか……奇跡だって起こりようがないんだ」


「……」


どれだけ状況が悪くても、俺は戦い続ける。


俺の家族はここにいる。


俺の好きな人たちも、みんなここにいる。


「俺は、未来の自分に後悔させたくないんだ。今ここで一歩を踏み出さず、現状を変えようとしなかったことを後悔して、何もできないまま沈み込んで、最後には全員が俺の目の前で死んでいくのを、ただ見ているしかなかった……」


「……言っていることは分かります。ですが、本当にそこまで考えた上で言っているんですか?私たちにはもう、他の人たちを守る余力はありません。敵の主力部隊と遭遇した時点で、私たちは間違いなく、一瞬で壊滅させられます」


もちろん、そのことは分かっている。


だからこそ、俺は何度でも死ぬ覚悟を決めていた。


この不死身の身体と、リンの『愛と(Alice’s)希望の(Last)物語(Wonder)』の力を借りて、みんなを守る(奇跡を起こす)


余力も、後悔も残さない。


自分にできることを、最後までやり尽くす。


今の俺に残された選択肢は、それしかない。


「……明日の午前十時。現存する編織者の九割が【アーク】に乗り、東京スカイツリー付近の駐車場……つまり、ここへ向かいます。選ばれなかった残りの編織者はアルカディアに残り、引き続き防衛任務に当たってもらいます」


静さんは突然立ち上がると、ホワイトボードの前に置かれていたマーカーを手に取り、地図の上に新たな丸を描いた。


「エミールくん、分かっていますか?この任務が成功しても失敗しても、五体満足で生き残れる人間は……おそらく、あなただけです。あなたの愛する人たちを含め、全員が任務中に命を落とす可能性が高いことも、分かっていますか?」


「はい、静さん。分かっています。この不死身の身体に誓って、俺は全力で周りにいるすべての人を守ります」


「……分かりました。あなたがそこまで無茶を言うなら、私も一度だけ付き合いましょう。失敗しても、何もしなくても……私たち人類は、いずれ敗北する運命にあります。ですが今は、あなたの言葉に賭けます」


静さんは目尻の涙を拭うと、その場にいる全員を見回した。


「全員、よく聞きなさい。これは緊急任務です。東京スカイツリーの再起動には、全員の協力が必要です。再起動が完了次第、上空で待機している【アーク】が、ただちに他国の生存者を捜索します。今、何か質問はありますか?」


「「「「「「「「……」」」」」」」」


誰一人として声を上げなかった。


その代わり、全員が無言のまま頷いた。


――俺たちは、最初にして最後の任務を受け入れた。


最後の瞬間まで、抗ってやろう。

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