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【Side:南村華恋】目を背けていた事実

ここで、コードネームを少しだけ修正しました。


これまで「鉄炉」としていたコードネームですが、日本語版では「鉄のストーブ」という表記に変更しています。


カチャ——


「……!先生、ママはどうなったのですか?」


「手術は成功しましたよ、華恋さん。日向さんが血液を提供してくださったおかげで、首領は危険な状態を脱しました」


よかった……


「ただし、首領にはしばらく安静が必要です。ですから、短期間ではありますが、あなたたちと会うことは難しいでしょう」


「そうですか……千夏姉は?」


「彼女はかなり多くの血液を提供したため、今は病床で休んでいます。このあと一般病棟へ移しますので、数時間ほど休めば、体調も戻るはずです」


「ありがとうございます、先生!」


「いえ、私は自分のすべきことをしただけです。この終末の中では、礼を言うも言われるもありません。我々医療部隊は、これ以上誰も死なせたくない。ただその一心で、全力を尽くしただけです」


白髪の老医師は、私に向かってかすかに微笑むと、私たちに軽く手を振り、そのまま背を向けて去っていった。


     ◇


「千夏姉!」


「もう先生から聞いたよね?手術、成功したんだって〜」


「うん、本当にありがとう!」


「ふふ、目の前で誰かが危ない目に遭ってたら、誰だって同じことをするって」


今、千夏姉は弱々しく病床に横たわっていた。


「何か食べたいものはありますか?私が買ってきます」


「そうだね、今はちょっとお腹空いてるかな……オムライス、買ってきてもらってもいい?しばらく食べてなかったから、食堂のあの味が恋しくなっちゃって」


「わかりました。すぐ買ってきます」


「少々お待ちください、隊長」


コルベス……?


「買い出しは私たちが行ってきます。姉御はここに残って、小夜啼鳥のそばにいてあげてください」


「よろしいのですか?」


「もちろんです。行きましょう、皆さん」


コルベスがほかの皆さんに目配せすると、皆もすぐに察したように頷き、彼に続いて病室を出ていった。


「私たち、本当にいい仲間に恵まれたよね」


「はい……こんなにも頼もしい人たちと仲間になれたことは、私にとって一生の幸せです……」


「そういえば、今夜の見回りは、私の分も誰かに代わってもらわないといけないかな。さっき先生に、しばらく無理に動き回らず、ちゃんと休むように言われちゃって」


「もちろん問題ありません。千夏姉の当番は私が代わります。今日はゆっくり休んでください」


はぁ……


私がもう少し念入りに確認していれば、こんな事態にはならなかったのに……


「恋ちゃん、これはあなた一人のせいじゃないよ。私たちだって、近くに潜淵獣が潜んでいることに気づけなかったんだから」


「うぅ……でも、これ以上ため息をついていても仕方ありませんね。もう、起きてしまったことですから」


「そうだね」


「そもそも、潜淵獣の生態が大地の小人のスキルと相性が悪すぎたんです。もしあれがあの時、浅い場所をうろついていたのなら、大地の小人は必ずその動きを探知できていたと言っていました。きっと、彼もかなり自分を責めているのでしょうね……」


「たしかに。いろんな要因が重なって、こういう結果になっちゃったってことだよね。タイミングが悪すぎたんだよ」


その後、私たちはしばらく黙り込んでしまった。


十数分ほど経ってから、ようやく小隊のほかのメンバーたちが病室へ戻ってきた。


ただし、彼らの手には、なぜか大量の食べ物が入った袋がいくつも提げられていた。


私と千夏姉は、その量を見て思わず固まってしまった。


結局、私たち九人は病室で必死に食べ続け、どうにかその食べ物をすべて胃の中へ押し込むことになった。


今度から、買い出しには絶対に私もついていきます……


絶対に!


——————


「よっ、華恋!一緒に首領のお見舞いに行かない?今日から面会が再開されるんだよね?」


それから三日が過ぎた。


陽葵は珍しく朝早くから私の部屋の扉を叩き、ママのお見舞いに一緒に行こうと誘ってきた。


「それは構いませんが、少し珍しいですね」


「何が珍しいの?」


「あなたが自分から私を誘って、ママのお見舞いに行こうとするなんて、珍しいなと思ったんです」


「何言ってんの?昔、私が四体の人狼に囲まれた時、助け出してくれたのは首領なんだよ。あの人がいなかったら、私はとっくに死んでた……だから、お見舞いに行くのは当然でしょ?」


「そんなことがあったんですか……?」


陽葵は普段、自分の過去をあまり語らない。


だからこそ、彼女が当時どのような状況でママに助けられ、【アーク】へ来ることになったのか、私はよく知らなかった。


ふふ、やっぱりママは救世主のような人ですね。


【アーク】にいる皆がママを深く敬っているのも、当然なのかもしれません。


「すみません、五分だけ待ってください。身支度を整えてきます」


「早くしてよ、寝坊助。もう太陽が高くなってるよ」


「はいはい〜。すぐ終わります〜」


その後、私は小型冷蔵庫からリンゴをいくつか取り出し、ママのお見舞いに持っていくことにした。


あとで……


少し切って、ママに食べさせてあげましょう。


     ◇


「……、……」


「……!」


病室の扉に近づいた時、私たちは中から二人の話し声が聞こえてくることに気づいた。


片方は、私にとって聞き慣れた声。


ママだ。


もう一人は……


たぶん、医務室の看護師さんだと思う。


コンコンコン——


「……少し慌てましたね。あの後、うっかり口を滑らせかけた研修医には、私からきつく言っておきました」


……?


どうやら二人は私のノックに気づいていないらしく、そのまま話を続けていた。


とりあえず、先に入ってしまいましょう。


「失礼します……」


カチャ――


「ありがとう。華恋が私の実の娘ではないことは、どうか、絶対に秘密にしておいてください。あの子がこのことを知ったら、きっと深く傷ついてしまうでしょうから……」


「え?」


「「……!?」」


私の声を聞いた途端、ママと看護師さんは驚いたように、すぐにこちらを振り向いた。


次の瞬間、リンゴが私の手から滑り落ち、ゴトンと音を立てて床に転がった。


そして私の思考も、その瞬間、奈落の底へ突き落とされた。


「待って、華恋!今のは誤解で……」


「私は本当に、ママの実の娘じゃないのですか……!?」


二日前にコルベスが言ってくれた言葉で、私は少しだけ安心することができた。


けれど、心のどこかでは、まだ不安が残っていた。


まさか、ずっと恐れていたことが本当になってしまうなんて。


「えっと……華恋……」


「うぅ……」


陽葵は、たぶん私を慰めようとしてくれたのだと思う。


けれど私は、まるで理性を失ってしまったかのように、彼女が差し伸べてくれた手を反射的に払いのけ、そのまま振り返ることもなく病室を飛び出した。


——————


「さっきは、だいたいそんな感じでした……うぅ……」


“華恋が私の実の娘ではない”


その言葉だけが、ずっと頭の中で反響し続けていて、ほかのことを考える余裕なんてなくなっていた。


息が詰まるような感覚。


それは、今まで味わったことのない息苦しさだった。


「そっか……」


私は艦橋近くの人気のない一角まで逃げ込み、そこで堪えきれずに声を上げて泣いてしまった。


千夏姉は、たまたま近くで風に当たっていたらしい。


だから物音を聞きつけると、すぐに様子を見に来てくれた。


そして、ここに隠れて泣いていたのが私だと気づいてくれた。


ちなみに、彼女が突然角からひょこっと顔を出した時は、私も思わず飛び上がりそうになるほど驚いてしまった。


「困ったなぁ……こういう時、どうやって慰めればいいのか、あんまりわからないんだよね……」


千夏姉は頭を掻きながら、珍しく困ったような表情を浮かべていた。


「大丈夫です……どうせ、あなたが何を言ってくれても、この苦しさがたった数言で消えるわけではありませんから……」


さっきのママの、驚きと後ろめたさが入り混じったような、どう私と向き合えばいいのかわからないという表情を思い出すだけで、また涙が溢れそうになった。


うぅ……


小さい頃からずっと私を育ててくれた人が、まさか本当のママではなかったなんて。


どうして、こんなことに……


「よし、決めた。行こう、見回りに出るよ」


「は?」


「散歩だと思えばいいじゃん。場所を変えたら、少しは気分も晴れるかもしれないし。ついでに、空港へ近づいてきそうな怪物を倒して、ストレス発散するのも悪くないでしょ?」


うちの小隊の衛生兵、脳筋すぎませんか……?


この人、そういうタイプだったのですか?


「なによ〜?」


「ぷっ……人の慰め方がわからないにしても、それはさすがにどうなんですか?」


「仕方ないじゃん。私、気分が落ち込んだ時は、だいたい外を適当にぶらぶらして、ついでに怪物を何体かぶっ倒して気分転換してるから……効くんじゃない?たぶん?」


それは、たぶん千夏姉にしか効かないと思いますよ?


でも……


「別に、その提案が悪いって言っているわけではありません……お気遣いありがとうございます。行きましょう」


昼食の時間になるまで、私と千夏姉は【アーク】へ戻らなかった。


その途中で、異世界の侵略者を十数体と、一体の爆蛛(ばくちゅ)を討伐した。


爆蛛とは、蜘蛛型の怪物の一種で、自爆する小蜘蛛を大量に次々と放ってくる。


正直、思い出すだけでも面倒です。


けれど、この日を境に、私はママと一言も話さなくなった。


たとえママのほうから私に会いに来ても、私は何かと理由をつけて逃げてしまう。


だって、私は本当に、どんな顔をしてママと向き合えばいいのかわからなかったから……


私には、少し時間が必要だった。


それがどれくらい必要なのかまでは、私にもわからなかったけれど……


     ◇


「あなたたち二人……急に姿を消すってどういうこと!?無線機も持ってないし、みんながどれだけ心配したかわかってるの!?それで?遊び飽きたから、ようやく戻ってきたってわけ?」


「「ご……ごめんなさい……」」


千夏姉が突然、私を気晴らしに誘ってくれたため、私たちは無線機を持たないまま外へ出てしまい、ほかの皆に一言伝えることすら忘れていた。


その結果、私たちは【アーク】へ戻ってきた途端、叱られることになった。


そう。


私たち二人は、陽葵にそろって叱られたのだ。


普段なら、何かあった時は私か千夏姉のどちらかが場を収める側に回ることが多い。


けれど今回は、私たち二人が問題を起こした側になってしまった。


だから、なんと言えばいいのでしょう……


少し、新鮮な感じがします。


「笑ってる場合じゃないでしょ!?」


「ふふ、気晴らしの途中で、人狼を十三体も倒してきたんだよ?すごいでしょ?世界からゴミが十三個も減ったね〜」


「嘘でしょ……戦ったのは華恋だけだよね?」


「違うよ。私もちゃんと戦ったって。そんな楽しそうなこと、私が参加しないわけないじゃん?」


「それ、衛生兵の口から出ていい言葉なの!?普段ならまだしも、こんな時に衛生兵のあなたまで戦闘に参加してどうするのよ!?」


「えへへへ〜」


千夏姉は、最初から叱られる覚悟を決めていたらしい。


彼女は“反省はしているけど、次もやる”とでも言いたげな顔でへらへら笑っていて、まるで反省している様子がなかった。


そのせいで、陽葵は今にも発狂しそうなほど怒っていた。


「そういえば、私たちは爆蛛も一体倒してきましたよ。あれは【アーク】からそう遠くない場所をうろついていたので、発見したあと、すぐに対処することにしたんです」


「あの歩く爆弾みたいなのを大量に放ってくる爆蛛?それを二人だけで?しかも片方は衛生兵?本気?あなたたち二人が五体満足で帰ってこられたなんて、本当に奇跡だね……」


私がそこまで話すと、陽葵は怒りを通り越して、思わず笑ってしまった。


もう、私たちに何と言えばいいのかわからないようだった。


反省はしています。


本当に……


実は、私は爆蛛が地上を這うことしかできず、空中にいる私には攻撃できないと見切ったからこそ、発見したあと、後々厄介な火種になる前に、千夏姉と一緒に仕留めておこうと提案したのだ。


一方、千夏姉は普通に走り回りながら銃を撃っていただけだった。


千夏姉が小さな爆蛛たちに囲まれるたびに、私はすぐに空から飛んでいき、彼女を安全な場所まで連れていく。


そして、私たちは何度も何度も同じ方法を繰り返し、ようやく爆蛛の母体を倒すことができた。


けれど、今になって思い返してみると、あと一歩でも私が遅れていたら、千夏姉があの小さな爆蛛たちの爆発に巻き込まれて怪我をしていたであろう場面は、確かに何度もあった……


本当に、きちんと反省しなければ……


次にまたこっそり抜け出す時は、もっと慎重に行動しないと。


「まあまあ。小夜啼鳥はともかく、少なくとも白鳥の湖はちゃんと反省しているように見えるし、今回はひとまず見逃してあげたら?」


「星の銀貨、なんで私はともかくなの!?」


「今の自分の顔を鏡で見てみたら?そうすれば、私がどうしてそう言ったのか、きっとわかると思うよ?」


あはははは……


星の銀貨のおかげで、場の空気は少しだけ和らいだ。


「あの……白鳥の湖。もし私たちに手伝えることがあったら、いつでも言ってくださいね?」


「ありがとうございます、水晶の球……」


どうやら皆、今朝起きたことを知っているようだった。


本当に、彼らの気遣いがありがたい……


「ところで、今この話を口にするのは少々間が悪いのですが……先ほど、首領から新たな任務を一つ託されました。どうしますか、姉御?今は任務説明会に出たくないのであれば、小隊のほかの者が代理で出席することもできます。首領はこのあと、直接作戦室には来られません。病室から投影装置を通じて作戦室に接続し、任務内容を説明する予定です」


コルベスは、私がママと顔を合わせるのは気まずいかもしれないと考え、私だけ残ってもいいように提案してくれたのだ。


「……大丈夫です。私も皆さんと一緒に行きます」


「そうですか。では、そうしましょう」


「ありがとうございます、コルベス」


「ふふ、礼には及びませんよ。姉御は、私たちの姉御なのですから」


「そういうのはやめてください。私はあなたの後輩なんですよ……」


まったく……


この人たちが私の仲間だなんて、私は少しだけ幸せすぎるのではないでしょうか。


「雪狐小隊が指名された以上、きっと重要な任務なのでしょう。首領をあまり待たせるわけにもいきません。行きましょう」


「「「「「「「「了解〜」」」」」」」」


——————


「雪狐小隊、ただいま参りました」


「華……いえ。これほど早く報告に来てくれてありがとうございます、雪狐小隊の皆さん。白鳥の湖も、小夜啼鳥も、あなたたちが無事に戻ってきてくれたことが、何よりです」


「「はい!」」


上官と部下という立場でなら、私はちゃんとママと向き合えるのかもしれない……


ママが失ったあの手の代わりに、すでに義手が取り付けられていた。


けれど、画面越しにも、彼女がまだその新しい手にまったく慣れていないことがわかった。


ママがぎこちなく義手を動かそうとするたびに、私の胸は何かに強く締めつけられるように痛み、今にも胸の奥から血が滲み出しそうだった……


「では、さっそく任務の説明に入りましょう。皆さん、こちらを見てください」


その直後、画面に映し出されたのは、巨大な……球体?


これは、何かの建造物なのでしょうか?


「これは……?」


「正確には、都市規模の超大型閉鎖式遊園地です。内部には各種居住施設、商店街、飲食街、そしてさまざまな遊戯施設が設けられています。今あなたたちが見ているあの球体は、実は遊園地全体を覆っている外壁なのです。異世界侵攻が起きた時、私の昔の友人たちがちょうどそこで、主催者側の関係者として開幕式典に参加していました」


待ってください……


主催者側として!?


まさか、ママは昔、大富豪と知り合いだったのですか?


「当時、異世界侵攻が発生した直後、アランという友人がすぐにその遊園地を巨大な要塞として機能させ、開幕式典に参加していた人々を可能な限り守ろうとしました。だからこそ、遊園地は今あなたたちが見ているような姿になったのです。ふふ、もっとも……これもおそらく、リリスの指示だったのでしょうけれど」


それって、街一つ分ですよね……?


わぁ……


すごすぎます!


「当時、私は彼らとは別行動を取るのが最善だと判断しました。ですから、遊園地へ向かう最後の車には乗らず、数名の仲間とともに外に残り、機を見て【アーク】を奪取することを選んだのです。つまり、あの巨大な建造物の中には、当時の日本で生き残っていた最後の人類がいるのです」


私たちは、地球に残された最後の生存者ではなかったのですね!


ほかにも、生きている人たちがいる……!


「私はすでに、遊園地の近くに特別小隊を一隊駐留させています。あの遊園地の外壁が開いた時、彼らは中にいる仲間たちを真っ先に迎え入れることができるでしょう。ふふ……彼らと再会できる日が、一日でも早く訪れるといいですね」


道理で、昔から私がママと人類の未来について話すたびに、ママはいつも確信に満ちた表情で、いつか必ずすべてがよくなると教えてくれていたのですね。


そういうことだったのですか……


「ちなみに、異世界侵攻が起きてから間もなく、あなたたちの身に現れた紋章も、遊園地にいるあの仲間たちが、私たちの生涯をかけた研究を完成させたことで、あなたたちのもとへ降りた祝福です。それは……人類が立ち上がり、抗うことを願った祝福なのです」


ママと、彼女の昔の仲間たちが、全員とんでもない精鋭揃いだったという話は、私も以前から人づてに聞いたことがあった。


けれど、私たちが異世界の侵略者に反撃するために使っているこの力までもが、彼らが残してくれたものだったなんて、考えたこともなかった。


「こほん……少し話が逸れてしまいましたね。では、今回雪狐小隊に任せたい任務について説明します。少し前、特別小隊の斥候が遊園地の外壁付近で偵察任務を行っていた際、外壁に大量の電子機器らしき反応が現れていることを発見しました」


ママは外壁の頂上付近にある一点を指さし、それに合わせて画面が拡大されていく。


けれど……


画面に映っているのは、相変わらず滑らかな金属製の外壁だけで、特に変わったものは何も見えなかった。


「おそらく、この辺りですね。現時点の情報では、特別小隊もその反応が何なのかまでは判断できていません。ただ、私の見立てでは……反撃戦力を育成する計画が終盤に近づいているため、内部で何らかの動きが起き始めたのかもしれません。そこで、雪狐小隊の皆さんに任務を依頼したいのです。二日後、つまり【アーク】の最終点検が完了したあと、【アーク】に乗って現地へ向かい、特別小隊から任務を引き継いでください。その後は、外壁から少し離れた周辺区域で、巡回と警戒をお願いします」


聞いた感じでは……


私たちは、かなり長い間あの付近に駐留する必要がありそうですね。


ただ、これまでの任務に比べれば、少し楽そうにも思えますが……?


「任務の説明は以上です。何か質問はありますか?」


「確認します。私たちは特別小隊との引き継ぎを終えたあと、そのまま現地に駐留し、周辺の警戒と外壁の動向監視を行えばよいのでしょうか?それ以外に、実行すべき任務はありませんか?」


「はい、白鳥の湖。現段階では、あなたたちは現地に駐留し、周辺の警戒と外壁の変化を監視してくれるだけで構いません。もともと現地に駐留していた特別小隊については、【アーク】へ帰還させ、休養を取らせます」


「任務はどれほど続く予定でしょうか?」


「特別小隊の休養期間が終わるまでです。期間はおよそ一か月ほどですね。これからしばらくの間、あなたたちには現地に駐留して待機してもらうことになります。ですから……どうか、必ず安全に気をつけてください。そして、自分の身体のことも大切にしてください」


一か月……


まあ、いいでしょう。


もし私が【アーク】の中でママと顔を合わせてしまったら、どうすればいいのかわからない。


むしろ、この配置は私にとってちょうどよかった。


「了解しました。雪狐小隊はこれより任務の準備に入り、いつでも出撃できる状態を整えます」


「頼もしいですね。では、そのようにお願いします」


「……」


「……」


ママが、不意に沈黙した。


彼女の唇が何度か小さく動く。


まるで、私に何かを言おうとしているかのように。


けれど結局、その言葉が口にされることはなかった。


「あの……まだ何かありますか?」


「……いいえ、ほかに用件はありません。皆さん、どうか無理はしないでください。必ず自分の安全を最優先にしてくださいね。本当に、必ず無事に帰ってきてください」


「承知しました、首領」


「それでは……私はこの数日、まだ病室で休まなければなりませんので、ここで通信を切りますね……」


プツン——


気まずい空気の中、ママは慌ただしく通信を切った。


「……白鳥の湖、さっきのは本当に気づかなかったのか?それとも、わざと聞いたのか?」


「私……彼女が何を言おうとしていたのかは、なんとなく察していました。ただ、今はまだその話をしたくなくて、だから反射的に……」


「気持ちが少し落ち着いたら、必ず首領とちゃんと話せよ。大切な人を失ってから、その人がどれだけ大事だったのかに気づくようなことだけはするな」


「わかっています。忠告、ありがとうございます、鉄のストーブ」


「よし。で、俺たちはこのまま解散するのか?それとも、作戦会議でもするか?俺は今日、わりと時間があるぞ」


その後、彼に促されるように、ほかの皆さんも次々と自分の意見を口にしていった。


最終的に、私たちはひとまず会議室へ向かい、これからの任務について詳しく話し合うことにした。


鉄のストーブもかつては、家庭を持つ一家の主だった。


けれど、彼と妻の関係はどうにも上手くいっていなかったらしく、彼はめったに家へ帰らず、ほとんど毎日のように飲み屋に入り浸って酒を飲んでいた。


大地の小人から聞いた話では、二人は娘の教育方針をめぐって対立していたらしく、そのせいでしょっちゅう喧嘩をしていたそうだ。


ある日、彼は酔った勢いで、自分を迎えに飲み屋まで来てくれた妻に、衝動的に手を上げてしまった。


その結果、二人の間の亀裂はさらに深まり、夫婦はほどなくして離婚することになった。そして彼の妻は、五歳になる娘を連れて実家へ戻ってしまった。


けれど、異世界侵攻が起きた時、彼が真っ先に思い浮かべたのは、かつての妻と娘だった。


その後、彼は慌てて荷物をまとめ、二人の無事を確かめるために、元妻の実家へと駆けつけた。


けれど、悲劇はすでに起きていた。


どうやら、その家は一体のキメラに襲撃されたらしく、元妻の家族は全員死んでいた。


最後に、彼は瓦礫の中から、かつての妻と娘を見つけた。


けれど……


二人はもう息をしておらず、冷たくなった亡骸へと変わっていた。


だから彼は……


はぁ……


鉄のストーブは、あまりにも多くのものを失い、そして多くのことを見てきた。


だからこそ、さっきあれほど真剣に、ママを大切にしろと私に言ってくれたのだろう。あとになって後悔しないように。


けれど、私は結局、また逃げてしまった。


まだ、その事実と向き合う覚悟ができていないのだと思う。


だから私はまた、ダチョウのように自分の頭を砂の中へ埋め、痛みを伴う事実から一時的に目を背けようとしてしまった。


一か月後……


駐留任務から戻ってきたら、その時こそ、必ずママとちゃんと話をしよう。


うん。

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