第5章 未来は決まっているのか?
「それで、本命はどの子なんだ?」
「リリスちゃんじゃないかしら?あの子は頼りになるし、優しいし、将来のお嫁さん候補としては間違いないと思うわ!あ、でもエミールはもうリリスちゃんと家族の関係になっているんだったわね。進展が早いわねぇ」
父さんと母さんは少し興味深そうに俺をからかいながら、俺とリリスの関係を説明しろと、しきりに催促してきた。
現在の時刻は午後六時。
俺は父さんと母さんに呼ばれ、リリスが二人のために用意した部屋で、二人が行方不明になっていた間に起きたことを話していた。
……
もう二時間近く、二人に捕まって質問攻めにされている。
「はぁ……だから、二人が思っているような関係じゃないって!俺たちはただ普通に、互いに気遣って、支え合っているだけの関係なんだよ」
「「それ、もう熟年夫婦じゃない!?」」
自分の両親に揃ってツッコまれるというのは、なんというか……かなり慣れない。
「それに、本命って言われても……今の俺には、実は彼女が四人いるんだけど……」
「そういえば!前にリリスが俺を助けに来てくれた時、エミールのそばには可愛い彼女たちが何人かいるって言っていたな……なるほど、小隊の子たちだったのか!」
「……?」
父さんは何かを思い出したようだった。
けれど、それを聞いた母さんの表情は、少しずつ固まっていった。
そして、俺と父さんを交互に見つめ、自分の聞き間違いではないか確かめようとしている。
「よ……四人……?」
「ああ、母さん。最後に地竜を討伐した金髪の女の子が、俺の同級生で、最初の彼女のキャロリン。そのあとに、アイリーン、リヤ、それからマリーの三人だ。小隊にいるツインテールの子以外は、皆俺の彼女なんだよ」
「私は、いったいいつ、自分の息子をハーレム男に育ててしまったのかしら……」
「違うって!リン……キャロリンが、自分のせいで友達に幸せを諦めてほしくないって言って、皆が俺に告白するのを応援してくれたんだ。最終的に、こういう形になっただけで……それに、四人とも仲はいいよ。私生活では、まるで姉妹みたいに仲がいいんだ」
母さんはそれを聞いて、しばらく黙り込んだ。
それから、父さんが少し迷うように口を開いた。
「それで、お前は本気なんだな?リリスも含めれば、今のお前は五人の女の子に責任を持たなきゃいけないんだぞ?それに、公平にな。誰か一人だけを贔屓するようなことは、絶対にするなよ?」
「ああ、わかってる。全部ちゃんと考えたうえでのことだ」
というか、どうして二人ともリリスを数に入れたがるんだよ……
「そうか。なら、俺たち年寄り二人からは、これ以上何も言わないでおくか……」
年寄りって。
二人とも、まだ十分若いだろ……
「それじゃあ、最初の話に戻ろう。これからは、今日みたいな日々が……俺たちの日常になるんだな?」
「ああ、リリスはそう言っていた。アルカディアは本来、都市規模の超大型閉鎖式遊園地でしかなかったんだ。人々を一時的に守るために、彼女と昔の仲間たちが、俺たち全員をその中に閉じ込めることにしたらしい」
「なんだか、悲しい話だな……俺たちが眠りにつく少し前までは、何もかも順調だったはずなのに。俺とお前の母さんが目を覚ました時には、世界はすっかり変わってしまっていた。俺たちが過ごしてきた、あの穏やかな日常は……もう簡単には戻ってこないんだろうな……」
父さんはそう言うと、俯いて小さく息を吐いた。
それから窓の外へ目を向け、悲しげな眼差しを浮かべる。
そうだ。
これからは、戦争こそが俺たちの日常になる。
はぁ……
「だからこれからは、一緒に頑張って、この戦争に勝とう。せっかく二人とも戻ってきてくれたんだ。俺は本当に……すごく嬉しい」
「あら?エミール、ずいぶん素直になったじゃない?」
「二人が突然いなくなってから、俺も色々と反省したんだ。言いたいことがあるのに、照れくさくて言えないままでいたら、もう二度と会えなくなった時に、きっと後悔するって」
二人はそれを聞いて、少し感動したような目をしていた。
父さんは「大きくなったな……」なんて言いながら、少し乱暴に俺の髪をわしゃわしゃとかき回した。
ふふ……
そうだな。
この短い数か月の間に、俺は確かに大きく成長したと思う。
心も、身体も。
そして、誰かとの関わり方も。
「俺は先にリリスのところへ行って、これからどうするか相談してくる。二人は先に休んでいてくれ。夜になったら、彼女が二人に見張りを頼むかもしれないしな」
「わかった。もし彼女が俺たちの力を必要とするなら、お前からでもいいから伝えてくれ。彼女とお前の間に“家族”という関係があるかどうかは、ひとまず置いておくとしても……故郷を捨ててまで、俺たち地球人の抗争にわざわざ力を貸しに来てくれた。その心意気だけで、俺たちは彼女を心から尊敬している。だからこそ、力になれるところでは、できる限り彼女を支えてやりたいんだ」
さっき、俺はついでにリリスの来歴についても、二人へ簡単に説明しておいた。
その話を聞いた二人は、かなり驚いていたし、何と言えばいいのかわからない様子だった。
それも、俺の目的の一つだった。
リリスは自分の過去を、わざわざ口にしようとはしない。
けれど、俺は彼女がこれまで積み重ねてきた努力を、このまま埋もれさせたくなかった。
だからこそ、あえてその話題を出して、父さんと母さんに、異世界から来たあの英雄さんのことをもっと知ってもらおうと思ったのだ。
俺は二人に軽く手を振ると、探索委員会――今の拠点へ向かって歩き出した。
——————
「結局、同じことになるんじゃないの!?最後には、何も変わらないんだよ!」
「違う……異世界人である私が、あなたたちに協力するなら、結末は必ず変えられる!」
会議室の入口まで来たところで、中から激しく言い争う声が聞こえてきた。
この声……リリスとユリか?
何かあったのだろうか。
こんな空気の中で部屋へ入るのは少し気まずいが、俺はそれほど気にせず、そのまま扉を押し開けて会議室へ入った。
「あっ、エミ……」
俺が来たことに気づいたリヤは、まるで救世主を見つけたかのように、ぱっと表情を明るくしてこちらを振り返った。
その眼差しは、まるで俺に助けを求めているようだった。
まさか、リヤも会議室にいたとは……
彼女はさっきまで扉のそばに立ち、心配そうな表情で、リリスとユリが互いに向き合っている様子を見守っていた。
「何があったんだ?どうして二人とも、あんなに険悪な空気になっているんだ?」
「ユリが、私たちが戻ってくる前に、南村静という科学者が残した研究資料を調べ直していたの。それで、私を会議室に呼んで、未来視についていくつか質問してきたのよ」
リヤは頭を押さえながら、どこか困り果てたような様子を見せていた。
「その途中で、リリスがちょうど扉の前を通りかかって、ユリが私に何の用なのか気になって中に入ってきたの。そうしたら、話しているうちに、二人があることで言い争いになってしまって……」
そう言って、彼女はまたため息をつき、それ以上は続けなかった。
まあ、考えなくてもわかる。
きっと、かなり面倒な話をしていたのだろう。
「あ、エミールも来たことだし、いっそ君から説明してみたら?彼がどう受け止めるのか、聞いてみてもいいんじゃない?」
「はぁ……それもそうね。これ以上あなたと話し続けても、どうせ理解してもらえないでしょうし」
リリスは呆れたようにユリへ軽く白い目を向けると、それから俺のほうへ振り返った。
うう……
なんだか、会議室の中の空気がかなり刺々しい気がする……
「エミール、これから話すことは絶対に外へ漏らさないで。下手に広まれば、恐慌を招くことになる。わかった?」
「わかった。それで、何の話なんだ?」
「実は少し前、ユリが南村静の遺した未来視に関する研究資料の中から、ある事実を見つけたの。それは、未来視が見た結末は、この世界の誰にも変えられないということよ」
「どういう意味だ?」
「セレイアは、アルカディアの外壁崩壊を阻止しようと、あらゆる手を尽くしたでしょう?でも、結果は?」
「外壁は……結局、崩壊した……」
背筋に、ぞくりと冷たいものが走った。
「レイがグリックのスキルで全身から血を噴き出して倒れた時のこともそうよ。すべては避けようがなく、必ず起きてしまう。これこそが、未来視の最も恐ろしい特徴なの」
「そういうこと。さっき、セレイアに未来を覗いてもらったの。結果、ある時点から先の光景が、彼女にはまったく見えなくなっていた。つまりセレイアは……死んだということよ」
ユリは頷くと、リリスのそばまで歩み寄り、彼女の言葉を引き継いだ。
「それだけじゃない。セレイアは小隊の中で、あなたとリリス以外の全員が死ぬ光景も見ている。さらに、私たちがまだ見たことのない顔も何人かあって、その人たちも全員死んでいたわ」
リヤが……死ぬ?
皆も……?
「冗談……なんだよな?」
「エミ、落ち着いて……」
「これでどうやって落ち着けって言うんだよ!?俺は、お前たちの誰にも死んでほしくないんだぞ……!」
リリスが外へ漏らすなと言った理由が、ようやくわかった。
こんな話をほかの人たちが聞けば、間違いなく恐慌が起きる。
「でも……」
「リリス?何か方法があるんだよな?頼む。俺にできることなら、何だって協力する!」
「資料に書かれていたのは、“この世界の誰にも変えられない”という一文よ。“誰にも変えられない”とは書かれていないでしょう?つまり、この世界の外から来た者があなたたちの未来に干渉すれば、その結末は変えられるかもしれない、ということよ」
……!
まるで言葉遊びのように、資料の文面から抜け道を探し出しただけの話だ。
けれど……
本当に、それで正しいのか?
「前にセレイアも言っていたでしょう?アルカディアの外壁は、あなたが何かのボタンを押したことで崩壊するはずだった。でも今は、外壁は爆弾によって吹き飛ばされた。ほら、私たちが何をしようと、外壁は結局、破壊される運命から逃れられなかったのよ」
「問題はそこなのよ、ユリ。未来はすでに、“エミールが何かのボタンを押したこと”から、“リリスがアズライルの仕掛けた爆弾の罠を作動させたこと”によって吹き飛ばされる形へと変わっている。二つは結果だけ見れば同じに見えるかもしれないけれど、その過程は違うの!」
ユリが言い終えると、リリスはすぐさまそう言葉を重ねた。
俺たちにとって、それは間違いなく朗報だった。
「でも、エスギルの四つの軍団に地球を蹂躙される未来を止めるなんて……今いる数千人の編織者だけで、本当にできると思う?結局、外壁だって結果だけ見れば、別の形で爆破されただけじゃない。私たちがさっきまで言い争っていたのは、まさにそのことなのよ……」
けれど、ユリの次の一言は、まるで全身に冷水を浴びせられたかのように、俺の中に生まれかけた希望と期待を一瞬で打ち消した。
……
それでも……
「俺は……それでもリリスを信じたい」
「それは、あなたの個人的な感情から?」
ユリはため息をつき、俺が個人的な感情だけでリリスを盲信しているのだと思ったようだった。
「いや、違う」
確かに……
この言葉に俺の私情が含まれていないとは言わない。
けれど、その前に、俺にはリヤに確認したいことが一つあった。
「リヤ、一つ確認したいことがある。外壁が“俺がボタンを押したことで壊れる”未来から、“リリスが爆弾の罠を作動させたことで吹き飛ぶ”未来に変わった時、お前が未来視で見ていたのは前者だったのか?それとも後者だったのか?」
「前者よ。“空”が爆破されるその瞬間まで、私にはあなたがボタンを押して外壁を破壊する未来しか見えていなかったわ」
「やっぱり……俺は、お前の未来視では、リリスが干渉したあとの変化までは見えないんじゃないかと思ってる。未来視で見えるのは、あくまで地球人の未来だけなんだ。前にリヤも言っていただろ?お前の未来視には、リリスの姿がまったく映っていなかった。つまり、彼女の存在そのものが、一つの変数なんじゃないか?」
俺の主観混じりの考えを聞いたユリは、俯いたまま考え込んだ。
もしかすると、彼女はその部分に気づいていなかったのかもしれない。
「俺は……この世界に属していないリリスと、俺たちが自分たちの意思で協力し合うことができれば、全滅の結末を乗り越える可能性は、本当にあるんじゃないかと思ってる」
「エミール……!ええ、私はそのために来たのよ」
俺が信じると言ったことで、少しは安心できたのだろうか。
リリスの強張っていた表情が、少しずつほどけていった。
そして最後には、その顔に柔らかな笑みがゆっくりと浮かんだ。
「この件については、確かにまだ検証の余地がある……わかったわ、エミール。少なくとも今回は、あなたに説得されたことにしてあげる」
ユリは苦笑しながら、そばの机へ歩いていき、一枚の資料を手に取って俺たち三人の前へ差し出した。
その資料には、今回のアルカディア外壁崩壊事件の惨状が記録されていた。
死傷者数、被災地区、そして外壁の損傷状況。
そのすべてが、はっきりと記されていた。
「爆弾が仕掛けられていた区域は、南側外壁の一帯だけよ。だから基本的に、ほかの外壁がこれ以上崩壊することはないはず。ただ、エスギル軍が南部から侵入してきたことに加えて、地竜が各地で暴れ回った影響で、西側の一部建築物も巻き込まれ、損壊と死傷者が出ているわ」
続いて、ユリは別の資料を机の上に置いた。
「統計の結果、現在生存していて、なおかつ実戦経験を持つ編織者は、八千三百九十二人しか残っていない。これが、私が何人かの編織者に協力してもらってまとめた結果よ」
「異世界の軍団と戦える人間が、それだけしかいないのか?戦力があまりにも足りなさすぎる……」
「ええ。それが、今の私たちが直面している苦境よ……」
状況は、かなりまずいな……
「一つ提案があるわ」
「言ってみて。聞いているわ」
「破劇者を地表に具現化すれば、多少なりとも戦闘要員を増やせるし、地球人の死傷者も減らせるんじゃないかしら?ただ、道徳や倫理の面から見れば、それは命を創り出して、死地へ送り込むのと同じことよ。賛成できない人が聞けば、不快に思うかもしれないわ」
破劇者?
まさか、破劇者と肩を並べて戦う日が来るなんて……
「えっと……俺たち、いきなり背後から刺されたりしないよな?」
「それはないわ。破劇者が編織者を攻撃するのは、具現化された時点で、そういう目的を与えられているからよ。あなたたち一般市民に、破劇者との戦闘を通して、ある程度の戦闘経験を積ませるためだったの」
リリスは首を横に振ると、そのまま説明を続けた。
破劇者って、リリスたちが作り出したものだったのか!?
どうりで、リリスが【仙境】にいるあらゆる種類の破劇者やBossについて、やけに詳しいわけだ……
「はぁ……どうやら今夜は残業になりそうね」
「お願い、ユリ。破劇者を動かすには、あなたの力が必要なの」
「はいはい。ただし、夕食を食べ終わったら、あなたにも手伝ってもらうからね?」
「もちろんよ。私が提案したことだもの。手伝うのは当然でしょう」
「ならいいわ。じゃあ、先に夕食を食べに行きましょうか?このあと、見張りの交代制やら何やらも決めないといけないしね」
そう言うと、ユリはリリスを引っ張るようにして会議室を出ていき、俺たちより一足先に食堂へ向かった。
「よかった……ようやく二人とも落ち着いてくれたな……」
「さっきは本当に気が気じゃなかったわ……エミがちょうどいいタイミングで助け舟を出してくれて、本当に助かった。そうじゃなかったら、二人はもっと激しく言い争っていたと思うもの」
「ふふ、どういたしまして?」
「それじゃあ、私たちも夕食を食べに行きましょうか。ニッキーおじさまとシェフィおばさまを呼びに行くなら、私も付き合うわ」
「ああ、行こう」




