第4章 待ち望んだその時
……!
「父さん、母さん!?見間違いじゃないよな?本当に二人なのか?」
二人が目を覚ましたんだ!
「おお!元気のいい返事だな。これでお前の母さんも、ようやく安心できるだろう。ここに来る途中も、ずっとお前のことをあれこれ心配していてな。ちゃんと自分の面倒を見られているのかって、俺が何を言っても気が気じゃない様子だったよ」
「もう、あなたったら。今は、私たちを待っている“お客さん”がいるでしょう?ほら、あちらさん、もう興奮しきってこっちに突っ込んできているわよ?」
母さんは、半身を地面に潜らせたまま俺たちへ向かって突進してくる地竜を指差した。
父さんに、親子の再会を喜ぶおしゃべりはひとまず置いて、目の前の敵に集中するよう促しているのだ。
「あははは……まあ、敵は待ってくれないからな。エミール、俺たちに手を貸してくれるか?今のお前なら、きっとできるだろう?」
「ああ、もちろんだ!」
俺は子供の頃から、いつか父さんと母さんの隣に立って、一緒に【仙境】を探索できる日をずっと待ち望んでいた。
けれど、俺の編織者能力はなかなか覚醒しなかった。
そして今、ようやく……!
たとえここが【仙境】ではなくても、俺の胸は今までにないほど高鳴っていた。
俺はついに、かつて探索ランキング一位だった編織者夫婦の隣に立ち、二人と肩を並べて戦えるんだ。
「そちらのお嬢さんも無事そうでよかった。君に助けてもらってから、ずっと心配していたんだ……それじゃあ、エミールは少しの間、俺たちに返してもらうよ」
「も、問題ありません、ニッキーさん!ほかの皆は、私が指揮を執ります!被害がこれ以上広がる前に、ここでこの地竜を討伐しましょう!」
リリスはそれ以上何も言わず、すぐに身を翻すと、残った人々を指揮し、地竜との決戦に備えさせた。
「「「「「「「「おおおおおおおっ!」」」」」」」」
地竜の出現によって沈みかけていた士気も、父さんと母さんが現場に現れたことで、再び燃え上がった。
二人は、ここにいる一人ひとりに、リンたちも含めて、もう一度戦い続ける勇気を与えてくれた。
このままなら、いける!
「それで、エミール。あなたは左と右、どっちにする?」
「男は左、女は右ってことで、俺は左を選ぶよ」
「あははは……!こんな時でも冗談を言う余裕があるなんて、さすが私たちの息子ね!」
母さんと視線が合った瞬間、彼女の両脚は、以前、堕ちた者になった時と同じ鋭い脚刃へと再び変化した。
直後、母さんと俺は同時に跳躍し、地中から仕掛けてきた地竜の奇襲をかわした。
「エミール、君たちの足元には俺が『風魔法』で足場を作る。二人は遠慮なく攻撃してくれ」
【仙境】において、父さんは普段、副攻撃手兼、母さん専属のサポーターとして活躍していたらしい。
彼は一人で戦場に展開した人形の軍勢を同時に操り、攻勢を仕掛けさせながら、さらに俺と母さんの足元に足場を作り、空中で移動できるようにしてくれている。
ようやくわかった。
“前第一”と呼ばれたこの男が、どれほど規格外なのかを。
「――――――!」
「お前の相手は俺だ!『挑発』!」
「おおおお!あなた以外の男の子に援護されるなんて、なんだか新鮮ね。『狂舞曲』!加速するわよ、エミール!」
「ああ、お前の速さにはついていける。心配するな!」
俺は自分でも驚くほどの反応速度で、地竜が放ってきた岩弾を次々とかわしていった。
次の瞬間、俺と母さんは交差するように地面すれすれを駆け抜け、左右両側から地竜の背中へ襲いかかった。
ギィン――!
うっ……
やっぱり、地竜の背中は硬い!
これ、もはや動く山じゃないか?
手が痺れるほどの衝撃が返ってきたものの、今振り下ろした一撃は、確かに奴の背中へ一本の亀裂を刻んでいた。
奴もそれに焦ったのか、すぐさま尻尾を岩で覆い、そのまま勢いよく横薙ぎに振るって、俺と母さんをまとめて払いのけようとしてきた。
「ふふん、焦った?『血色のワルツ』!」
血の霧が脚刃にまとわりつく。
そして母さんは、まるで舞うような華麗な動きで亀裂へ脚刃を突き立て、それを刃に沿わせるようにして亀裂の中へ流し込んだ。
すると……
バキッ――
「――――――!?」
流れ込んだ血の霧が硬い表皮を内側から押し広げ、地竜は苦しげな悲鳴を上げた。
この二人、やっぱり強すぎる……!
「あっ……!皆、早く下がって!ニッキーおじさま、シェフィおばさま、それにエミも、早く戻ってきて!このあと地竜は自分を中心に、周囲の地面を吹き飛ばして反撃してくるわ!」
リヤが突然大声で俺たちに警告し、地竜のそばから全員離れるよう促した。
「セレイアちゃん……?」
「細かいことはあとだ、母さん!リヤの言う通りにしてくれ!あいつには未来の光景が見えるんだ!」
「……わかったわ!」
「――――――――――――!」
ズドン――
リヤの言った通り、地竜の足元の地面から金色の光が溢れ出した。
そして次の瞬間、地面は爆発でも起きたかのように、凄まじい勢いで弾け飛んだ。
「うっ……!攻撃範囲が広すぎるだろ!?」
耳をつんざくような竜の咆哮とともに、大地も空気も震え、俺たち全員はその衝撃で意識を失いかけた。
それがしばらく続いたあと、ようやく収まった。
「これ……」
数秒前まで、地竜の周囲にはまだ何棟か無事な建物が残っていた。
では、今は?
それらの建物はもう跡形もなく消え失せ、どこかへ吹き飛ばされてしまっていた。
周囲に残っているのは、めくれ上がった地面と、数えきれないほどの瓦礫だけ。
そして地竜本体は、荒い息を吐きながら、俺たちを睨みつけていた。
「ちっ……本当は、アルカディア本体への被害を抑えるつもりだったのだけれど……仕方ないわ。攻城用の地竜は、竜族の退化種よ。だから、今のような明らかに切り札級の技を使ったあとは、ほとんどすべての体力を使い果たす。つまり、今が絶好の攻撃の好機よ!皆、総攻撃を仕掛けるわ!【武装化】、『空気・圧縮』、『空気・爆発』!」
リリスは怯むことなく、皆を鼓舞した。
そして【武装化】を終えると、真っ先に『空気魔法』で地竜へ攻撃を仕掛けた。
結果は、まさに彼女の言った通りだった。
奴には防御する余力すらなく、リリスの激しい攻撃を受けて、よろめきながら数歩後退した。
「『針糸・修羅戦法』!はああああ!」
「『解体殺人鬼』、『残花散華』!」
「「「「「「おおおおおっ!」」」」」」
レイ、コリン、そして数人の編織者たちも、地竜に態勢を立て直す隙を与えず、一斉に襲いかかった。
「――――――!」
危険を察した地竜は慌てて何重もの土壁を作り出し、彼らの攻撃を防ごうとした。
だが、リヤがそれを許すはずもなかった。
「この程度の土壁で、私を止められると思わないで!」
たった一撃。
荊棘が土壁を貫き、そのまま粉々に崩壊させた。
リンもその隙を逃さず、凄まじい速度で宙に舞う破片を踏み台にしながら、地竜へと迫っていく。
「これでも食らえ!これがゼロ距離の……『光魔法・幻光砲撃』!」
ズドン――!
リンの放った『光魔法』は、地竜の頭部をそのまま吹き飛ばした。
こうして、周囲の安全を大きく脅かしていた地竜の討伐に成功した。
「はぁ……はぁ……私が倒したよおおおおおっ!」
竜の血を浴びたリンは、そのまま地竜の亡骸の上に立ち、声高らかに叫んだ。
その姿はまるで、童話に出てくる竜殺しの英雄そのものだった。
かっこいいな……
はぁ、俺にもああいうスキルがあれば、彼女たちの前で少しくらい格好つけられたのかもしれない。
「キャロリンのように戦えないことを、気にしているの?」
「リヤ?うん、まあ……少しだけな」
「ふふ、考えていることが全部顔に出ているわ。気にしないで。瞬間的な爆発力だけで言えば、確かにキャロリンはあなたより上よ。でも、持久力まで含めて考えるなら、あなたは私たちの誰よりも優れている。あなたにもちゃんと、人より優れたところがあるの。だから私は、あなたたち二人のことが少し羨ましいくらいよ?」
「はいはい、もういいって。このまま言われ続けたら、恥ずかしくて死ぬ。ちょっと羨ましいなって思っただけなのに、まさか見抜かれるとはな……」
まったく……
そんなに優しくされたら、また惚れ直してしまうだろ。
「私は、いつでもどんな時でも、あなたのことを見ているもの~♪」
「その気持ちは十分伝わったよ。ありがとな。あ、ついでに少しだけ試してもいいか?昨日の夜、俺がテントに戻って寝たのは何時だった?」
「テントに戻ったのは二十二時十七分五十三秒。そして眠りについたのは二十二時二十八分四十一秒よ」
「え?」
待て。
時間と分まで正確なのはまだいいとして、どうして秒までついてるんだ!?
「ふふん、すごいでしょう?」
「すごすぎるんだよ……」
「でしょう~」
まさかこいつ、一晩中俺のことを見ていたんじゃないだろうな?
……ないよな?
「アイリーンっち、ハイタッチしてお祝いしよ~」
「ひゃあっ!リンリン、今のあなた、全身汚れているんですから、近づかないでください!」
「ぶはっ……!」
リンは嬉しそうに、自分の一番近くにいたアイリーンのもとへ駆け寄り、彼女と一緒に竜を討伐した瞬間を祝おうとした。
しかし、アイリーンに無情にも拒絶された彼女は、自分の胸を押さえ、まるで血を吐いたかのような仕草を見せた。
そして、リンは目に涙を浮かべながら、こちらをじっと見つめてきた。
「……」
「……おいで、リン」
「へへっ、やっぱりダーリンは私に一番優しいね!」
まったく、仕方ないな。
涙目になっているリンを見て、どうして拒めるというのだろう。
俺が両手を広げると、彼女はすぐに俺の胸の中へ飛び込み、自分の頬を俺の胸元にすり寄せてきた。
可愛いことは可愛いのだが、今の彼女から漂う血の匂いは、正直かなり……きつい。
決めた。
戻ったら、絶対にしっかり身体を洗わせよう!
「よくやったわ、皆。けれど、今回の作戦でも死者を出してしまった……ちっ、次はもっと努力して、より正確な指示を出せるようにするわ」
「お嬢さん、少し自分を追い詰めすぎよ。これは戦争なの。多少の犠牲が出てしまうのは、どうしても避けられないことだわ。それに、ここにいる全員だって、自分がいつ命を落としてもおかしくないという覚悟は、とうにできているはずよ。だから、あまり自分を責めないで。次は、きっともっと上手くやれるわ」
「シェフィさん……!あ、あの……またお会いできて、とても嬉しいです!」
「うんうん、私もよ。うちの旦那を助けてくれたのは、あなたでしょう?私たち二人とも、命の恩人であるあなたには感謝しているのよ」
「い、いえ……そんな。お二人だって以前、私を助けるために堕ちた者になってしまって、危うく死にかけたんです……だから、私がお二人のために何かをするのは当然です!」
リリスはかつて、【仙境】で父さんと母さんに、アズライルの手から救われたことがある。
だからなのか、彼女は二人のことをかなり尊敬しているようだった。
ただ……
父さんと母さんが、まだ彼女のことを覚えているとは思わなかった。
リリスが『言霊』を発動した時、【仙境】の中にいた人たちは対象に含まれていなかったからなのだろうか?
「さて、からかうのはこのくらいにして。あなた、名前は?」
「私はリリスです。現在は、反抗軍の指揮官のような立場にあります。ただ、どうか普通にリリスと呼んでください、シェフィさん」
「そんなに他人行儀にしなくていいわよ。私のことはシェフィでいいわ。うちの旦那のことも、普通に名前で呼んであげて。ところでエミール、あなたのこの彼女、本当に可愛いわね!」
え……
彼女?
「母さん、誤解だ……彼女は……」
その時、リリスが不安そうな表情で俺を見つめていることに気づいた。
「彼女は俺の家族だ。どんな時でも支え合う、大切な家族なんだよ」
「さすが私の息子ね。恋人の段階を飛ばして、いきなりリリスちゃんと家族になったの?まあ、リリスちゃんはこんなに可愛いんだもの。私としては、お嫁さんになってくれるなら大歓迎よ」
「は?なんで嫁の話になるんだよ?」
待て。
俺たち、同じ意味で話してるよな?
「カエルくん……マナがあなたをぶっ殺したくなるわけだわ……」
「ん?レイ、お前は何か知っているのか?」
「マナ……?マナって誰?」
聞き覚えのない名前を耳にしたマリーは、不思議そうに小首をかしげた。
「優しくて、少し恥ずかしがり屋な人だよ。ただ、今は隠れているから、あとでちゃんと紹介する」
「うん。戻ってから、時間がある時に教えてね」
どうやら、マナのことについて、マリーにきちんと説明する時間を作らないといけないようだ……
マナには、マリーにこのことを話さないでほしいと言われていた。
けれど、俺は……
俺はやっぱり、彼女にこのまま一人でい続けてほしくない。
だから、どこかのタイミングで、マナの存在をマリーに伝えるつもりだ。
先に謝っておくよ、マナ。
俺は、お前にも幸せになってほしいんだ。
「よし、救援作業を続けて!もう一度周辺を確認し、生存者が残っていないか探して!それから、コリンを中心に九人、私のところへ来て地竜の素材剥ぎ取りを手伝ってちょうだい。さらに五人は警戒に回って!この魔獣素材は武器にも加工できるから、無駄にしないで!地竜の素材は、かなり珍しい高級素材よ!」
「また俺かよ?はぁ、まあいいか。親友、お前は家族とゆっくり話してろ。俺は先に働いてくるわ。はぁ……」
コリンは力なくため息をつくと、解体を担当する人たちと一緒に地竜の死体のほうへ向かっていった。
解体が終わったあと、父さんを中心とした魔法師たちが、山のような素材を探索委員会まで運び戻した。
ふぅ……
今日は本当に色々なことが起きすぎて、頭が追いつかない。
せめてこの先、これ以上の予想外な出来事が起きないことを願うばかりだ。
【編織者情報】
シェフィ
紡がれた物語 - 赤い靴(The Red Shoes)
編織者スキル
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『精力湧現』
『狂舞曲』
『血魔法』
【武装化】発動条件 - 不明/達成済み条件
【武装化】スキル - 『血色のワルツ(Bloody Waltz)』*New!
【武装化】スキルの効果 - (『血魔法』で自身の血液を撒き散らした後にのみ発動可能)撒き散らした血液を発火させ、爆発を引き起こす。*New!




