#3 敵でなかったなら
「おはよ〜、お嬢ちゃん。起きてる?……って、もう起きてるじゃない」
翌朝、昨夜私の様子を見に来た赤髪の女性、テレサが扉のほうから入ってきて、私に声をかけた。
彼女は、私が昨夜渡された制服をすでに着ているのを見ると、満足そうにうなずいた。
「私はいつも早起きです」
もちろん、強制的に早起きさせられていただけですが。
「それと、私の名前はリリスです。お嬢ちゃんと呼ばないでください」
「はははは!元気そうで安心したわ。はいはい、私がつけた名前をそんなに気に入ってくれたのね?それじゃあ行きましょうか、リリス」
「どこへですか?」
いよいよ、彼女の本当の目的を明かすつもりですか……
「朝ごはんよ」
「……」
正直に言って、どうしてこんな単純な人が抵抗組織の最高指揮官を務められているのでしょうか。
——————
ぱたん。
「はいはい、遠慮せず好きなだけ食べなさい!足りなかったら言ってね。食堂にはまだまだ美味しいものがたくさんあるから。こっそり教えてあげるけど、ここの食事は他の場所より何倍も美味しいのよ……いや、何十倍かもね」
テレサは山盛りの食事が載ったトレーを、少し乱暴に私の前へ置いた。
それから、自分の皿にもその三分の二ほどの量を取り分ける。
何ですか……
このトレーの半分以上は、彼女が自分で食べる分だったのですか……
周囲の異世界兵たちが私へ向ける視線は、刺さるように痛かった。
けれど私は、気にしていないふりをしながら、天から降ってきたようなご馳走に口をつけた。
はむ……
……!
やはり、テレサは嘘をついていなかった。
ここの食事は、私が今まで食べてきたものより、本当にずっと美味しい!
いえ……
そもそも私が今まで口にしていたものなど、道端に捨てられた残飯のようなものばかりでした……
「おお!いい食べっぷりじゃない。おばちゃん、鴨の丸焼き、もう一皿お願い!」
私が一口、また一口と、トレーの上の食べ物をまるでブラックホールのように胃袋へ吸い込んでいくのを見て、テレサは思わず口元を緩め、温かい目で私を見つめていた。
何ですか……
そんなにじっと見られたら、食べづらいのですが……
「はいはい、テレサ姉さん。ご注文の鴨の丸焼き、今ちょうど焼き上がったばかりだよ」
私の皿の上の食べ物はまだ食べ終わっていないのに、また新しい肉料理が食卓に運ばれてきた。
というか……
ここの肉は、好きなだけ食べてもいいのですか?
以前、ゴミ箱の中から見つけた干し肉以外、私は肉を食べたことがありませんでした。
だからここは、私にとって天国も同然でした。
だって、肉を好きなだけ食べられるのですから。
「ところで、この小さな女の子は、あんたが拾ってきたのかい?」
「そうよ。昨夜、戦場で全身に重傷を負って、今にも死にそうになっているところを見つけたの。だから拾ってきて、治したわ」
「いや、こういう言い方はしたくないんだけどさ……これは道端で野良猫や野良犬を拾ってくるのとはわけが違うんだよ?白い髪に青い目、黒い角……この子、敵軍にいた子どもだろう?あんた、自分がどれだけとんでもないペットを拾ってきたのか、本当にわかってる?」
「まあまあ、この子は私たちに乱暴なことなんてしないわよ。私が保証する。昨夜目を覚ました時、本当に私を攻撃するつもりだったなら、私が今日こうしてのんびり朝ごはんを食べていられると思う?」
“私はペットではありません!”
私は恨めしげな目で給仕の青年を睨みつけた。
けれどテレサは笑いながら私へ手を振り、気にしないようにと合図した。
「はぁ、言うべきことは言ったよ。あとになって、自分のしたことを後悔しないならいいけどね……俺は仕事に戻るよ」
「後悔なんてしないわよ!死にかけている小さな女の子を見て見ぬふりしたほうが、よっぽど後悔するに決まってるでしょ!」
給仕の青年は呆れたように首を横に振り、そのまま背を向けて去っていった。
一方のテレサは、彼の言葉が気に入らなかったらしい。
頬を膨らませ、拳をぶんぶん振りながら、もう聞く耳を持っていない給仕の青年の背中へ反論し続けていた。
「さっきの彼に悪意があったわけじゃないから、気にしないでね」
「わかっています。そもそも、どう考えても私はあなたたちの敵です。むしろ……敵と同じ食卓で平然と朝食を取っているあなたのほうが、おかしいのでは……」
「あははは……そういう細かいことは気にしなくていいのよ。適当でいいの、適当で〜」
ものすごく大事なことだと思うのですが……
「それでね、リリスちゃん。ちょっと聞きたいんだけど……」
「何ですか?」
「あなたは、自分の軍へ戻りたい?あなたは、自分が無理やり戦場に出されていると言っていたわよね。もしあそこへ戻りたくないなら、このままここにいてもいいのよ。もちろん、もう戦場で戦う必要はないわ。ただ安心して、居住区で普通の子どもとして過ごせばいいの」
彼女の表情は、突然ひどく真剣なものへと変わった。
ついさっきまでへらへら笑っていた能天気な姉御とは、まるで別人のようだった。
「……私を軍へ送り返すということは、あなたたちの敵が一人増えるということですよ。しかも私はバンシーです。本気で言っているのですか?わざわざ敵軍へ送り返し、もう一度自分たちと敵対する機会を与えようとする人なんて、初めて見ました……」
「もちろん、本気よ。私は、あなたに自分の居場所を選ぶ機会を与えたいの。少なくとも……あなたには、選ぶ権利があると思っているから。あなたは生きている、一人の人間なのよ。選ぶ権利を持った人間であって、戦場で好き勝手に使い捨てられる殺人道具なんかじゃない」
……
この人は、本当に救いようがないほど馬鹿なのですね……
「たとえ私が戻ったことで、戦況があなたたちにとって不利になるとしても?」
「ええ。だって、それはあなたの選択でしょう?私は余計な口出しをするつもりはないわ。ただし、あなたが本当にそうするつもりなら、次に戦場で会った時、私はもうあなたをか弱い小さな女の子としては見ない。一人の、本物の敵として見る。その時は、私は一切ためらわず、あなたへ引き金を引く」
最高指揮官としての気迫が、その瞬間、余すところなく表に現れた。
それを見て、私は目の前のこの能天気な姉御が、なぜ皆に最高指揮官として認められているのかを、改めて理解した。
ウー、ウー、ウー——————!
警報が鳴り響き、食堂にいた全員の表情が一瞬で引き締まった。
彼らは一人、また一人と整然と席を立ち、次々に食堂を出ていった。
「うわ、また仕事か……面倒ね。戦争なんて、早く終わればいいのに。私、本当は毎日だらだらしていたいのよ……」
先ほどまで全身から指導者としての威厳を放っていたテレサは、もうどこにもいなかった。
今の彼女は、またあの気だるげな雰囲気に戻っている。
「それじゃあ、リリス。あなたはあとで部屋に戻って、さっき私が言ったことを考えておいて。ああ、それとも適当にどこかを見て回ってもいいわよ。私が戻ってきたら、その時にあなたの答えを聞かせてちょうだい。じゃ、そういうことで。ばいば〜い」
白い厚手の上着を颯爽と羽織ったあと、私に背を向けたテレサは、軽く手を振りながら食堂を出ていった。
はぁ……
あれだけたくさん食べ物を頼んでおいて、食べ終わる前に行ってしまうなんて、なんてもったいないのでしょう……
私は無言で自分の席へ座り直し、目の前に並んだご馳走を、全力で腹の中へ詰め込んだ。
「……近くを少し歩いてみましょう」
好奇心に負けた私は、朝食の消化も兼ねて、拠点の近くを少しだけ歩いてみることにした。
——————
「わぁ……」
ここの建築様式はエスギルとはまるで違い、いかにも高技術文明らしい設計だった。
それに、建物の高さもエスギルよりずっと高く、あちこちに摩天楼が立ち並んでいる。
けれど、都市の緑化が疎かにされているわけではなく、見渡す限り、至るところに緑が植えられていた。
重苦しいエスギルとは違い、ここの空気はとても澄んでいて、生き生きとしている。
それに、都市の中に森まであるなんて……!
景色が、本当に綺麗だった。
これまでの私は、ただ命令に従って、他の世界を壊してきただけだった。
けれど今、こうして異世界の都市に身を置いて初めて気づいてしまった。
私はもしかすると、こんなにも美しい世界を、いくつも滅ぼしてきたのかもしれない。
そう考えた瞬間、罪悪感に胸を押し潰され、息ができなくなりそうだった。
ドォン―――!
巨大な火魔法の弾が、少し離れた場所に建っていた高層ビルへ直撃した。
直後、大きな爆発音が響き渡り、高層ビルはそのまま崩れ落ち、森にも火魔法の炎が燃え移っていく。
あれほど美しかった景色は、たった一瞬で跡形もなく壊されてしまった。
悲鳴を上げながら、人々が郊外のほうから都市の中心部へ向かって逃げてくる。
その後方からは、大勢が銃を撃つ音や、刃と刃がぶつかり合う音まで聞こえてきた。
「おい、あの化け物どもが攻め込んできたぞ!しかも勢いがやばい!くそっ、昨日の時点じゃ、まだ全軍を投入してなかったってのかよ!?」
一人の兵士が遮蔽物の陰から銃だけを突き出し、前方へ向けて無闇に発砲していた。
その間も彼は、今日起きたすべてを呪うように、大声で悪態をつき続けていた。
「住民は都市中央の地下シェルターへ避難しろ!ここは俺たちが時間を稼ぐ!……ああ、お前は昨夜テレサが拾ってきた、あのバンシーか」
昨夜、テレサと一緒に私の部屋へ来た兵士の一人が、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。
まずい!
私を殺すつもりですか!?
「これ、持ってろ」
けれど彼は、私に銃を向けることはなかった。
代わりに、カードのようなものを私へ差し出した。
「……?」
「これは姉御の部屋のカードキーだ。拠点に戻ったらお前に渡してこいって言われてたんだよ。なのに、お前が散歩なんかに出てるもんだから、こっちはあちこち探し回る羽目になった。はぁ……姉御たちが無事だといいんだけどな……」
「どうして、彼女は私に部屋のカードキーを?」
「姉御は、このカードキーに記録されている住所を頼りに、自分の家でしばらく隠れていろって言ってた。お前の見た目は俺たちと明らかに違う。地下シェルターに避難したら、絶対に他の連中の反感を買う……最悪、鬱憤晴らしに襲われるかもしれない。はぁ、姉御は本当に……どうして敵にそこまで気を遣うんだか……って、お前、まだここにいるのか?さっさと避難しろ!俺は前線に戻る!」
そう言い残すと、彼はそのまま走り去っていった。
……
——————
土地勘のない私は、どうにか彼女の家を見つけると、彼女が兵士を通じて渡してくれたカードキーを使って中へ入り、身を隠した。
彼女の家は、豪華な二階建てのセミデタッチドハウスだった。
けれど正直に言えば、家というより、むしろゴミ捨て場と呼んだほうが正確かもしれない。
臭い……!
足元には、カビの生えたケーキまで転がっている……
こうして私は一人、彼女の家の中で息を潜めながら、外の戦乱がいつ終わるのかを考えていた。
◇
戦争は数時間にわたって続き、外からは絶えず爆発音と悲鳴が聞こえてきた。
終わらない戦争。
人を殺し、次に別の誰かに殺され、そのあと味方がまた別の誰かを殺す。
尽きることのない殺し合い。
それが戦場です。
ガチャ!
突然、玄関の扉が勢いよく開かれ、誰かが家の中へ入ってきた。
私は台所で見つけた包丁を手に握り、壁際から警戒しながらそっと顔を覗かせる。
そこでようやく、戻ってきたのがテレサだと気づいた。
けれど彼女は全身血まみれで、右腕もすでになくなっていた。
「テレサ!」
「しっ……!リリス、静かに!」
彼女は慌てて残った左手で私の口を塞ぐと、そのまま私を台所へ引き込み、今は喋るなというように首を横に振った。
タッタッタッ―――
続いて、扉の外からいくつもの足音が聞こえてきた。
その足音が遠ざかっていくのを確認してから、彼女はようやく安堵の息をつき、私の口を塞いでいた手を離した。
「テレサ、何があったのですか?あなたの右腕が……」
「あはは……ちょっと油断して、あなたの軍の兵士に奇襲されちゃってね……でも、絶対に私が弱かったわけじゃないからね?正面から戦っていたなら、腕を斬り落とされたりなんてしなかったわ」
“本当よ、信じて!”
彼女は痛みに耐えながら、それでも無理に笑顔を作り、私を安心させようとしていた。
「そんなことを言っている場合ではありません。早く手当てをしないと!家に救急箱はありますか?ああ、もういいです。カーテンで傷口を縛りましょう!このまま血を流し続けるわけにはいきません」
「もういいの、リリス」
「……?」
「自分の状態がどれだけ悪いかくらい、私にもわかっているわ。実はね、お腹にも一発もらっちゃって……」
彼女は自分の上着をめくった。
その時、私はようやく、彼女の腹部がひどく陥没していることに気づいた。
内臓も、おそらくもうめちゃくちゃに潰れている。
「嘘……でしょう……」
「あはは……残念だけど、本当なのよ。下半身の感覚も、とっくになくなってる。気力だけで、無理やり体を引きずってここまで戻ってきたの」
彼女の呼吸はどんどん弱くなっていき、今にも永遠に目を閉じてしまいそうだった。
「そうだ、『言霊』!あなたを治せるか試してみます!“あなたの傷はすべて元どおりに――”ぐぁあああ!」
言葉で他人を治療するのは、今の私にはあまりにも無理がありすぎたらしい。
『言霊』による精神の消耗は、決して冗談で済むものではない。
脳の内側をかき回されるような感覚に襲われ、私は苦痛に頭を押さえながら床へ倒れ込んだ。
「大丈夫よ……リリス。これでいいの……」
「何が、これでいいのですか?あなたは死んでしまうんですよ!」
「死ぬ間際に、かつての敵が必死になって、自分を助けようとしてくれる姿を見られたなら……それも、そこまで悪くないと思わない?」
「……」
ふざけないで!
「リリス。あとで、あなたはそのまま軍へ戻りなさい。ごめんね。前に約束したこと……あなたをこちらに置いてあげるという約束も、全部、守れそうにないわ」
「守れなくても構いません!それより、あなたが……」
「リリス」
「……」
「生きて」
なんで……
もう死にかけているのに、まだ私のことなんて考えているのですか?
私は、あなたの仲間でもないのに……
「私は、七歳の小さな女の子が、このまま戦場で死んでいくところなんて見たくなかった。だから、その身勝手な願いを叶えるために、あなたを助けたの。本気で、あなたにちゃんと生きてほしいと思ってる。戦場で道具みたいに使われるんじゃなくて」
「でも、私はこれからどうすればいいのかわかりません!私の世界……エスギルには、私の居場所なんてありません。それに、私自身、生きる目的すら持っていないのに……」
「それでも、あなたは生きなさい。歯を食いしばって、たとえ全身が動かなくなっても、何とかして生き延びなさい」
この人、どれだけ私に無茶を言うつもりですか!?
「居場所がないなら、居場所を作りなさい。生きる目的がないなら、自分の目的を見つけなさい。あなたは、生きてさえいれば、きっと見つけられるから……」
ぱたり。
彼女の体から力が抜け、床へ崩れるように倒れ込んだ。
「あなたはね、優しい心を持っている子よ。だからこれから先、どんな困難に出会っても、その優しさだけは絶対に忘れないで。自分がしたいと思うことをしなさい」
「でも、私は忌み嫌われるバンシーです。たとえ優しかったとして、それが何になるのですか?他の人たちは、私を怪物としてしか見ないでしょう!」
彼らは、あなたではないのに……
「私が良いことをしたところで、いったい何の意味があるのですか?」
その時、私の心の防壁は完全に崩れ落ちた。
私は、自分の中の一番弱い部分を、何一つ隠すことなくテレサの前にさらけ出していた。
「あなたが正しいことをし続けているかぎり、たとえ誰にも理解されなくても、時間があなたの正しさを証明してくれるわ」
「最後には、どうせ私はまた一人になるだけです……」
「心配しないで。あなたはいつかきっと、あなたを大切にしてくれて、あなたを信じてくれる別の良い人に出会える。その時は、新しい家族が私の代わりにあなたを支えてくれるはずだから」
どうして彼女は、そんなことをあそこまではっきりと言い切れるのでしょう。
「ふふ、長く生きてきたからこそ得られる人生経験ってやつよ!ああ、違うわね……これじゃまるで、私がすごく年を取っているみたいじゃない!」
こんな時でさえ、冗談を言うために力を無駄遣いするなんて……
「だから、リリス……悲しまないで。私は心から、あなたが幸せな未来を手に入れられるよう祈っているわ。たとえ、これから私があなたのそばにいられなくても……」
ドン――!
突然、玄関の扉が蹴り開けられ、がっしりとした体格のコボルトが長剣を手に中へ入ってきた。
その重い足音が一歩響くたび、家の中の物がかたかたと音を立て、私とテレサの心臓も緊張で激しく高鳴った。
「ん……新鮮な血の匂いがするな……まさか、まだ鼠がここに隠れているのか?」
まずい。
コボルトの兵士です!
彼らは戦場の匂いに敏感だ。
幸い、この家の中にはゴミの悪臭が充満していたため、彼はリビングで辺りを見回しているだけで、まだ私たちの位置までは掴めていないようだった。
「くそ……嗅覚まで見た目と同じで犬並みなんて、異世界人の外見は本当に独特ですね」
私を胸元に抱き寄せて守りながら、テレサは不快そうに相手を睨みつけ、皮肉を言った。
「話し声……?」
テレサは知らない。
彼らは聴覚まで鋭いということを!
まずい。
早く何とかしないと。
「私が彼を引きつけます。テレサは、ここに残っていてください」
「いや」
「え?」
コボルトの兵士が一歩ずつ私たちへ近づいてくる。
けれどテレサは、ただ静かに首を横に振った。
「敵側の将を殺せば、あなたの軍での扱いも少しは良くなるでしょう?私はもう長くない。だから……」
彼女は腰から軍用ナイフを抜き、私の手に握らせた。
「私を殺して、私の首を持って帰りなさい」
私が反応するより先に、彼女は私の手を引き、そのナイフを自分の心臓へ突き立てた。
は……?
彼女は、何をしているのですか……?
「あなたに会えてよかったわ、リリス……生き……て……」
そのまま彼女は血だまりの中に倒れ、ぴくりとも動かなくなった。
……………
「ああ、なんだ。お前だったのか、バンシー!昨日、爆発に巻き込まれて行方不明になったって聞いてたから、てっきり死んだものだと思ってたぞ。……待て、こいつ、敵の最高指揮官じゃないか?すごいなお前!一人で討ち取ったのか!?」
「……」
「報告。敵の最高指揮官は、我が軍のバンシーが単独で討ち取りました。ええ、本当です。今、私の目の前にいます。喜べ、バンシー。上からの通達だ。戻り次第、お前を指揮官付きの副官に昇格させるそうだ」
私が……
自分の恩人を、この手で殺した。
何を喜べと?
こんな状況で、喜べるはずがない。
テレサを失ったことで、異世界の軍は指揮系統を失い、最後には都市ごとエスギルの軍に踏み潰された。
民は虐殺され、物資は奪われ、容姿の整った女性たちは全員連れ去られた。
そしてエスギルへ連れ戻されたあと、他人の玩具にされた。
こうして、今回の異世界侵略は幕を閉じた。




