表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/107

#1 生まれたことが、過ちだった

※本話には、児童虐待、戦争、暴力、過去の加害を示唆する描写など、精神的に重い内容が含まれます。苦手な方はご注意ください。


※作者注:ここから先は、本当にかなり重く、残酷で、暗い展開が続きます。しばらく数話ほど続く予定ですが、その後は少しだけ落ち着いていきます。

「父上、ただいま戻りました……」


「戦況を報告しろ」


「はい……グリシアの制圧は完了しました」


「ふん、それならまだ及第点だ。明日も別の世界を攻めさせる。六時までに準備を済ませておけ」


「はい……」


「いつまでそこに突っ立っている。私はお前に構っている暇などない。これが今日の報酬だ」


「ご恩賜、感謝いたします……」


その後、父上はカビの生えたパンを二切れ、無造作に床へ投げ捨てると、そのまま私に背を向け、目の前の地図へ視線を戻した。


これが、私が戦争に参加して得た褒美。


――満足に腹を満たせるかどうかもわからない、たった一度の夕食だった。


私には名前がない。


今年でまだ七歳にしかならない私に、与えられている任務は一つだけ。


戦うこと。


私がやるべきことは、種族固有の特殊な力を利用して、父上が他の世界を征服する手助けをすることだけだった。


それ以外のことは、何一つする必要がない。


“七歳の娘を戦場に出すなんて、頭がおかしいのではないか?”


いいえ……


先ほどの父上の態度を見れば、それはもう明らかだった。


父上にとっての私は、従順で、都合がよく、いつでも使い捨てられる道具でしかない。


     ◇


「ママ、早く帰ろうよ!『異世界侵攻リアリティ』が始まっちゃう!」


「ああ、そんなに急いで走らないの。始まるまでまだ十分あるでしょう?番組は早く始まったりしないわ」


「だって楽しみなんだもん〜この番組、毎回すっごく面白いし!」


帰路を歩いていると、道端で騒がしいクソガキが母親の手を握りながら、甘えるようにそう言っていた。


そのよく通る声は、すぐに私の注意を引いた。


ちっ……


いいですね。


自分を愛してくれる家族がいて、本当に羨ましい。


「全員、地獄へ落ちればいい」


人の死を、くだらないリアリティ番組みたいに眺めて……


戦場の何が、そんなに面白いのですか?


「戦場」という言葉を格好いいと思うのは、世間を知らない子どもだけです。


戦場にあるのは、流血と死。


彼らが想像しているような、格好よくて立派な場所などでは決してありません。


何より理解しがたいのは、父上が一代で築き上げたこの国が、異世界への侵攻を娯楽として扱っていることでした。


部隊が異界へ遠征するたび、戦地配信者たちは現地からリアルタイムで中継を行い、国中の民は、兵士たちが戦場で殺戮を繰り広げ、敵を次々と屠っていく姿を目にすることができる。


ここは武力を至上とし、暴力を根幹とする、エスギルという名の暴虐国家でした。


この国の人間も、そこに根づいた価値観も、何もかもが気持ち悪い。


けれど、気持ち悪いから何だというのでしょう。


私は、どこへ行けるというのでしょう。


戦場こそが、私のような人間にふさわしい居場所なのです。


ガチャ――


「ただいま戻りました……」


家……


とは、呼べないでしょう。


このぼろぼろの小屋の中には、悪臭を放つゴミがあちこちに積み上げられている。


その唯一の役割は、私が毎日戦場から戻ってきたあと、どうにか体を休める場所を与えてくれること。


ただ、それだけでした。


「出ていけ!」


もちろん、ここは私一人だけの“家”ではありません。


時には、私はこの“家”で休むことすら許されないのです。


「ママ……パンを持って帰ってきました……」


父上は異世界を侵略していた時、偶然、バンシーが統治する国を発見した。


その場で、父上はすぐに異世界侵略部隊を率い、その国を踏み潰した。


父上はなぜか、バンシーが種族特有の強力な力を持っていることを、最初から知っていたらしい。


それだけでなく、バンシーという種族をひどく憎んでもいたようだった。


だから父上は、美しい容姿を持つバンシーを何人か適当に捕らえて連れ帰り、彼女たちを虐げ、強引に自分の子を産ませた。


強い子どもを作り、自分の戦争兵器として使うために。


バンシーの女王だったママも、当然、その被害者の一人だった。


だから……


ママは、父上のことも、私という存在そのものも、心の底から憎み、嫌悪し、汚らわしいものとして見ている。


「あなたの施しなんていらないわ。私は、このまま飢え死にすればいいのよ!」


彼女は、私の姿を見るたびに吐き気がすると言って、私が近づくことを禁じていた。


「ここに置いておきます……あとで、ちゃんと食べてください……」


「黙って、早く出ていってよ!汚らわしい……どうして私だけ、こんな目に遭わなきゃいけないの……うぅ……」


その後、私は母に家から蹴り出された。


どうやら今日も、道端の段ボールの上で丸くなって夜を越すしかなさそうです。


……は。


どうして自分だけがこんな目に遭うのか、ですか?


それは、私のほうが聞きたいです。


どうして私は、こんな救いようのない世界に生まれてしまったのでしょう。


選べるものなら、私だってこんな世界に生まれたくなどなかった。


「死にたい……」


このまま、死んでしまいたい。


私の人生には、一欠片の価値すらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ