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第1章 薄れゆく

指導者さんが学校から姿を消してから、もう丸一週間が経った。


奇妙なことに、学校では白髪の女性教師が突然授業に来なくなったことに、ほとんど誰も気づいていなかった。


それどころか、俺たちの担任という役目さえ、まるでそれが当然であるかのように、別の教師へと引き継がれていた。


すべてが、最初からそこになかったかのようだった。


誰も気に留めず、彼女のことを話題にする者もいない。


彼女の存在は泡のように、いつの間にか、みんなの記憶から音もなく薄れていき、やがて最初から存在しなかった者へと変わってしまった。


同時に、グリックという生徒が存在していた痕跡までも、まとめて消されていた。


けれど、何事にも例外はある。


俺を含めたみんなは、かつて自分たちを導いてくれた[[rb:指導者 > 先生]]のことを、まだ覚えている。


「エミールさん、指導者さんは見つかりまし……はぁ、見ればわかりますね。やはり、まだ見つかっていないのですね……」


小隊のみんな以外で指導者さんのことを覚えているのは、クリス先生だけだった。


指導者さんが姿を消してから、彼女はほとんど毎日のように校門で俺たちを待っている。


俺たちの誰かが先に学校へ着くたびに、彼女は不安そうな顔で駆け寄り、指導者さんの行方を尋ねてきた。


けれど、その結果はあまりにも残酷だった。


そのたびに、彼女は落胆した様子で引き返していくしかなかった。


今、俺たちの小隊はすでに第四十八層まで攻略し、驚異的な速度で週間攻略ランキングの一位を維持し続けている。


きっと……今日中には第五十層以上へ到達できるはずだ。


もっと早く……


俺たちは、もっと早く進まなければならない。


以前、指導者さんが口にしていたあの人物は、間違いなく危険な存在だ。


すべてが手遅れになる前に、俺は【仙境】の中で指導者さんを見つけ出さなければならない……


「ごめんなさい……あなたたちは毎日放課後、あんなに大変な思いをしながら【仙境】で指導者ちゃんを探してくれているのに、私、どうしてもこんな顔ばかりしてしまって……」


うわぁ……


目の下のクマがあんなにはっきり出ているあたり、この数日、やっぱりまともに眠れていないんだろうな。


グリック暴走事件のあと、俺たちは彼女の口から、指導者さんが彼女の妹にそっくりだという話を聞かされた。


その妹は、珍しい先天性の難病で亡くなってしまったらしい。


だからこそ、彼女はずっと指導者さんのことを、自分の妹のように扱っていたのだ。


仕事の上でも、彼女と指導者さんはそれなりに仲がよかった。


だから、クリス先生はあれほど指導者さんのことを心配しているのだろう。


なにせ彼女にとっては、これで二度目なのだ。


自分の“妹”であり、同時に大切な同僚でもある存在を失うのは。


「いえ、俺は大丈夫です。それよりクリス先生のほうこそ、本当に大丈夫なんですか……?」


足取りまでふらついているんだけど。


「大丈夫です。少し寝不足なだけですから」


それ、少しってレベルじゃないだろ……


「まあ、ここで暗い顔をしていても仕方ありません。あなたは先に教室へ行ってください。私も教材の整理がありますから」


「わかりました。でも、先生もちゃんと自分の体調には気をつけてくださいね?」


「はいはい。私も大人ですから、自分の状態くらいちゃんとわかっていますよ」


本当にそうだといいんだけどな。


俺は、何でもかんでも自分一人で背負い込んで、歯を食いしばりながら最後まで一人で耐えようとする大人を、もう一人知っているんだぞ?


はぁ……


大人って、みんな同じなのかよ。


——————


「よっ」


「おはよう、ダーリン!」


「エミール!」


いつも通り、三人は俺の席の前に集まっていた。


俺が教室に入ると、みんなはすぐに挨拶をしてくれた。


ただ、今回いつもと違うところがあるとすれば……


「聞いてよ、エミール……さっきこの鈍感男、女の子からプレゼントをもらったらどうすればいいのかって、私たちに聞いてきたんだよ……」


アイリーンがそう口にした瞬間、俺はもうため息をつきたくなっていた……


「コリン、お前って英雄に憧れてるんだよな?ヒーロー名、もう俺が考えておいてやったぞ。鋼〇マンでどうだ?」


恋愛になると、鋼鉄みたいにまっすぐで鈍い男。


「うるせぇよ、お前ら二人とも!俺だって女の子からプレゼントをもらうのは初めてなんだよ!どう反応すればいいのかわからなくなるだろうが!あとエミール、お前、著作権砲が怖くねぇのかよ!?」


もちろん怖いに決まってるだろ……


じゃなきゃ、なんでわざわざ伏せ字にしたと思ってるんだよ?


コリンは戦場で【武装化】を発動した。


一方、レイが【武装化】を発動したのは、俺たちが保健室に戻り、クリス先生と保健室の先生から治療を受けていた時だった。


あの時は、保健室にいた全員が彼女に度肝を抜かれていた。


さて、それじゃあまず、二人の【武装化】の条件について話そう。


コリンは今、自分が生きる目的を見つけている。


――たとえ命を懸けてでも守りたい、大切な相手。


結局、人間っていうのは、失って初めて、相手が自分の中でどれだけ大きな存在だったのかを思い知るものだからな。


だからこそ、レイが目の前で死んだ時、あいつは突然【武装化】を発動したのだろう。


一方、レイのほうは……


リヤが提供してくれた第一級の情報によると、彼女もあの一件のあと、どうやらコリンに心を動かされたらしい。


あの日から、コリン以外の俺たちは全員、学校からそう遠くないカラオケ店に時々集まり、鈍感男攻略作戦について話し合うようになった。


その時のレイは、話を聞いているうちに顔を真っ赤にしていた。


あんなに恥ずかしそうにしている彼女を見たのは、俺も初めてだった。


だから、俺の予想では……


彼女の【武装化】の条件は、たぶん【心の底から誰かを好きになること】なんじゃないだろうか。


たぶんな……


俺にも、はっきりしたことはよくわからない。


「昨日なんて、無表情で受け取って、顔も赤くしないまま帰っちゃったでしょ……レイっちがどれだけ勇気を出して、自分からプレゼントを渡したと思ってるの?」


「わかってる、わかってるって!俺が悪かったよ、それでいいだろ?教室に来てから今まで、お前、ずっと俺に説教してるじゃねぇか……」


リンの叱責を受けて、コリンはようやく自分の過ちを深く反省したのか、しょんぼりと頭を下げた。


「今から彼女にちゃんとお礼を言って、それからお返しに何かプレゼントを買えばいいだろ?それか……いっそレイを直接誘って出かければいいじゃないか」


「お、俺には……無理だ……」


こいつ……


本当に、腹立つなぁ!


ついカッとなった俺は、スマホを取り出して連絡先を開き、そのまま電話をかけた。


「もしもし、リヤ?うん、おはよう。ちょっと聞きたいんだけど、レイって今そっちにいる?いるのか?よかった。悪いけど伝えてくれないか?コリンが今週の土曜日、レイを遊びに誘いたいって。時間は午前十一時で、場所は……」


「おいおいおい、お前、俺を売る気かよ!」


「エミールが電話している邪魔をしちゃダメだよ?」


コリンが立ち上がって俺のスマホを奪おうとした瞬間、アイリーンとリンによって、すぐさま座席へ押し戻された。


今のコリンは、焦りと不安が入り混じった目でずっと俺を見つめている。


俺がこのまま電話を切って、自分を見逃してくれることを期待しているのだろう。


……


そんなわけないだろ?


「うんうん、そういうこと。え?俺たち四人もついでに一緒に遊びに行く?いいぞ。ここ数日、みんな俺に付き合って【仙境】に入ってくれていたし、疲れさせっぱなしなのも悪いからな。久しぶりに、みんなでちゃんと休むことにしよう。うん、わかった。それじゃ、また夜に」


ピッ――


よし、完了。


「うわああああ!!!お前、なんてことしてくれたんだよ、親友!」


「何が?無料で縁結び豪華フルコースをプレゼントしてやったんだぞ?いらないなら、もう一回電話して予定をキャンセルしてやろうか?」


「わあああ、頼むからやめてくれ!」


「お前、結局どっちなんだよ?」


「だ、だって……恥ずかしいんだもん……」


殴るぞ?


鳥肌が立ちすぎて全身ぞわぞわするし、アイリーンまで思わずえずき始めていた。


「お願いだから……少しはダーリンを見習ってよ。レイっちが誰かに取られても、あなたは文句ひとつ言わないわけ?」


「もう言わないでくれ、俺が悪かったって!本当に……今週の土曜日はちゃんと時間通りに行く。ありがとう、エミール様!」


それでこそだ。


「それで……その、今週の土曜日に出かける時、どんな服を着ていけばいいのか、相談に乗っていただけませんでしょうか……?」


まったく、仕方ないな。


ここまで手を貸したなら、最後まで面倒を見てやるか。


「ただし、俺が選ぶ服が絶対に正解だとは保証できないぞ?俺も最近になって、ようやくこの三人から服の選び方を教わったばかりなんだからな」


「大丈夫だ。たとえ問題があったとしても、俺が自分で選ぶよりは絶対にマシだから……」


はぁ……


この時間を使って、みんなでちゃんと休んでおこう。


この先、俺たちはまた全力で走り続けることになる。


待っていてください、指導者さん。


俺たちは、すぐにあなたのもとへ辿り着きます。

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