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【Side:セレイア】少しだけほろ苦い物語

がら——————


「セレイア、体調はどう?あなた、普段はあんなに真面目に授業を聞いているのに、今日は先生に保健室へ行くよう言われるほど疲れていたなんて、少し意外だったわ……」


昼休み、マリーとレイも私のお見舞いに来てくれた。


「ねえ、セレイアタン。あんた、幽霊でも見たの?どうしてシーツを頭まで被ってるのよ。そんなに私たちの顔を見たくないわけ?」


シーツの外から、レイの少し不満そうな声が聞こえてきた。


「違うの!今の私、きっと、とてもはしたない顔をしているから……えへ……えへへへへへへ……」


「妖怪、正体を現しなさい!セレイアタンの声で喋れば、私たち二人を騙せると思ったら大間違いよ?私のセレイアタンは、そんな口調で喋ったりしないんだから!」


レイは私が少し油断した隙に、そのまま私の上へ飛びついてきた。


そして彼女は私の腰を狙って、何度もくすぐってくる。


あはははは!


そうなのね。


彼女たちは、私がこんな口調で話すはずがないと思っているのね?


「やめて、やめて!本当に私はセレイアよ!」


「え?本当に本人なの?というか、その表情は何なのよ?どう見てもにやけてるようにしか見えないんだけど……あんた、いったいどうしたの?まさか何かに取り憑かれた?」


ぺっ、ぺっ、ぺっ!


変なことを言わないで、レイ!


「えへへ、それはね……」


それから私は、昼休み前に保健室で起きた出来事を、二人にこっそり打ち明けた。


もちろん、エミはとっくにキャロリンとアイリーンと一緒に教室へ戻っている。


今の保健室に残っているのは、「えへへへへへへ……」とだらしなく笑い続けている私だけだった。


彼がこの場にいなくて、本当によかった。


もしこんな私の情けない姿を彼に見られていたら、きっと恥ずかしくて顔を上げられなくなってしまうから!


「おめでとう、セレイアタン。ついにちゃんと付き合えたのね?まったく……昔からあんなに彼のことが好きだったくせに、ずっと人を寄せつけないような態度ばかり取っていたでしょう?私がどれだけ心配していたと思ってるのよ?」


ごめんなさい、ごめんなさい。


あの時は、未来視で見た光景に怯えてしまって、問題を解決することばかり考えていたの。


どうしても、あの方法で彼を【仙境】から遠ざけるしかなかった……


「本当に付き合えたのね……おめでとう、うん……」


どうしてマリーは、少しだけ浮かない顔をしているのかしら?


けれど、今の私はそこまで気にしていられなかった。


だって、本当に嬉しくて仕方がなかったのだから!


「それで、どっちから告白したの?カエルくん?」


「実は、昨夜の私は感情に流されて、半ば強引に……」


「半ば強引に……?」


「エミに、キスしてしまったの……」


「「え?」」


二人は呆然とした表情を浮かべ、まるで石化したようにその場に立ち尽くした。


自分の口から友人に話すのって、やっぱり恥ずかしいわ!


「そのあと、勢いに任せて彼に告白したの。思い返してみると、昨夜の私は本当に大胆だったわね……えへへへへへ……」


「大胆どころじゃないでしょ!攻めるにしても限度ってものがあるわよ!まさかあんたのほうから先に攻めるなんて思わなかったし、そんな簡単に自分から初めてのキスまで差し出すなんて!」


「だから、感情に流されてしまったと言っているでしょう。恥ずかしくて死にそう……あの時、通りに他の人がいなくて本当によかったわ。それより、私のことはもういいの。あなたたちはどうなの?好きな人はいないの?」


彼氏ができた途端、私まで少し噂好きになってしまった気がする。


……


まあ、いいわ。


今は、二人の恋愛事情がとても気になるのだもの。


これは不可抗力よ!


「はぁ……彼氏ができた途端に浮かれてるの?ないわよ。今のところ、好きな相手なんていないわ」


「わ、私は……」


「本当に……?気になっている相手すらいないの?」


「もちろんいないわよ。この学校には、私がときめくような男子なんて全然いないもの。ほら、精鋭クラスの連中って、一人残らず傲慢か、自信過剰をこじらせたような奴ばかりでしょう?普通クラスの男子は普通クラスの男子で……もっとひどいわ。みんな野猿みたいに落ち着きがないし……だから、もういいの。大学に行ってから、いい彼氏を探すことにするわ」


普段のレイは、どこか適当に見えるけれど、実は恋人に求める条件もかなり高いらしい。


最後まで相手が見つからない、なんてことにならないか少し心配だわ……


でも、彼女は見た目も可愛いし、頭もいい。


だから、きっと大丈夫……なはず。


それに、仮に本当にそうなったとしても、レイならきっと「私は独り身でも楽しく生きていけるから!」なんて言いそうな気がする。


彼女は、恋人がいなくてもそれほど気にしない人なのだ。


「マリーは?」


「私は……」


……?


「何それ!?その反応ってことは、いるんでしょ?教えてよ〜。相手が誰なのか、すごく気になるんだけど!」


「うぅ……幼稚園の頃に知り合った男の子なの」


「それってつまり、幼馴染ってことじゃない!私はそういう恋愛話が聞きたかったのよ!セレイアタンの話はもう聞き飽きたし。今の私には、独り身の心を潤してくれる、新鮮な恋愛話がどうしても必要なの!」


聞き飽きたってどういうこと!?


私とエミの幼い頃の話だって、とても素敵なのに!


「え……本当に話すの?もう、ずっとずっと昔のことなのだけれど……」


「話して!ぜひ聞かせて!」


マリーが迷えば迷うほど、レイの興味はどんどん強くなっていった。


私もレイに合わせて、一緒に椅子に座っているマリーへじりじりと詰め寄っていく。


そして、傍から見れば間違いなく脅しているようにしか見えない体勢で、私たちは左右からマリーを挟み込み、彼女の恋愛話を問い詰め始めた。


「昔、幼稚園に通っていた頃の私は、実はとても陰気で、周りに馴染めない子だったの。ある男の子と出会うまでは……」


「「うんうん!」」


「彼は、私にそれまで触れたことのなかった色々なものを教えてくれたの。たとえば、私がずっと苦手だった運動会にも一緒に出ようって手を引いてくれて、たくさんの友達を作るきっかけもくれた。それに、私が失敗した時には、彼がその場で作ったという歌を口ずさんで励ましてくれたの。彼がいてくれたからこそ、私は昔の内気で閉じこもりがちだった性格のまま、灰色の子供時代を過ごさずに済んだのだと思う」


「「わぁ〜」」


何というか……


まるで、アイリーンがずっと憧れている白馬の王子様の物語みたいね。


そうなのね。


マリーの心の中にも、白馬の王子様がいたのね。


「けれど、小学校に上がってから、どれだけ探しても、学校の名簿にはその人の名前がなかったの……」


ん?


「それに、幼稚園の頃の私はそこまで深く考えていなかったから、彼の連絡先も聞いていなくて……」


「「……」」


まずい……


まさか、この話はハッピーエンドではないの?


私とレイはそこまで聞いて、ようやく顔を見合わせた。


そして私たちは、どうやらうっかり地雷を踏み抜いてしまったらしいことに気づいた。


「結局、私はそのまま彼と連絡が取れなくなってしまったの」


まずいわね……本当にそういうことなの?


「でも、中学校に上がってから、また学校で彼と再会できたの」


「「……!」」


ほらね〜。


いくら何でも、悪い結末のまま終わるわけがないもの。


「けれど、彼はもう、昔の私と過ごした日々のことを覚えていないみたいだった。それに彼には……もう、彼女もいて……」


「「マリー……」」


こんなジェットコースターみたいな話、全然笑えないわよ!


どうしてマリーが、そんな目に遭わなければならなかったの……


「彼に名乗り出ようとは思わなかったの?いえ、名乗り出るという言い方も少し変だけれど……たとえば、あなたたちは本当は子供の頃に知り合っていたのだと、彼に打ち明けるとか」


「彼にはもう、彼女がいるの。それに、その彼女は私にとって一番大切な友達だから……だから私は……二人の関係に割り込む勇気なんて、持てなくて……」


そんな……


「それで、自分の気持ちを犠牲にするつもりなの?」


レイは悲しそうに首を横に振った。


大切な友人の恋が、このまま終わってしまうことを、彼女はどうしても見過ごせないのだろう。


「うん。これも……仕方のないことだから。あはははは……」


がらんとした保健室には、マリーの乾いた笑い声だけが残った。


私たち二人は、どうやって彼女を慰めればいいのか、何もわからなかった……


「で、でも……!それでも私は、あなたがこのまま黙って自分の気持ちを諦めるべきではないと思うわ、マリー」


「え?」


「たとえ相手にもう彼女がいたとして、それが何だというの?あなたの大切な友達だけが当然のように幸せを手に入れて、あなたは一人で黙ってすべてを抱え込むしかないの?それは違うでしょう?少なくとも、あなたも彼ときちんと話をするべきだと思うわ。もし相手の彼女がキャロリンのように心の広い人なら、あなたにも、彼と向き合う道が残されているかもしれないでしょう?」


少なくとも、私はマリーが自分の気持ちを、まるで存在しないもののように扱うべきではないと思う。


彼女にも、幸せを求める権利はあるのだから。


「ただ犠牲になればいい、というものではないわ。あなたも自分の幸せと、きちんと向き合うべきよ……今の私のように」


「その言葉、セレイアタンの口から出ると妙に説得力があるわね……でも、それは相手の彼女がキャロリンみたいな人だった場合に限るでしょ。自分の男を好きになった別の女を受け入れられる人なんて、そうそういるとは思えないもの」


それは確かに、そうなのだけれど……


「……少し、考えさせてください」


「うんうん。ゆっくり考えて。私は、あなたにも幸せになってほしいの」


ドォン——————!


「「「!?」」」


校門のほうから、耳をつんざくような爆発音が響き、もうもうと黒煙が立ち上った。


「————————————————————!」


次の瞬間、不気味な叫び声が響き渡り、私たちは思わず身を震わせた。


「ば、化け物よ!」


「助けて!!!」


私は窓際へ駆け寄り、校門のほうを見た。


そこで目にしたのは――


顔に青い髭を生やし、領主のような服装をまとった人の形をした怪物だった。


そいつは空を仰いで咆哮し、その場にいた生徒や教職員たちから一斉に悲鳴が上がった。


なぜ私がそいつを人型の怪物だと言ったのか。


それは、顔に目立つ青い髭が生えているだけでなく、頭部が真ん中から裂けたように開き、そこから無数のうごめく触手が這い出していたからだ。


おまけに、両手までもが触手のような異形へと変わり果てていた。


「あいつ……私が叩きのめしたはずのグリックじゃない。どうして、あんな姿に……!?」


「セレイアタン、行くわよ!あいつを止めないと!」


ええ、その通りだわ!


「行こう、セレイア、レイ。エミールくんたちは、もう向かっているわ……」


マリーが指差したほうへ視線を向けると、人の流れとは逆方向へ走っていく五人の姿が見えた。


彼らはそれぞれの武器を構え、すでにグリックと対峙している。


エミ、みんな……!


待っていて。


私たちも、すぐに合流するから!

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