第7章 華麗なる終幕
一方は俺の仲間で、もう一方は俺を育ててくれた母さん。
こんなの、どう選べっていうんだよ!?
ガキィ——————ン!
鋼と鋼がぶつかり合う音が、次々と響き渡る。
堕ちた者となった母さんは、七人の編織者に囲まれているというのに、それでもなお余裕を残したまま反撃を繰り出していた。
しかもその七人の中には、すでに【武装化】を発動している者が三人もいる。
これはもう、普通の編織者がどうにかできる相手じゃない。
「くそっ……!おい、チビ!糸で俺を砲弾みたいにぶん投げろ!」
「命令すんな、バカ!『針糸魔法』!」
ガキィ———ン!
「これでも反応できんのかよ!?」
コリンとレイが珍しく連携しても、母さんへ向かって飛び込んだコリンは、彼女の片脚だけで受け止められてしまった。
「コリン、勝手に隊列を乱さないでください!あなたの位置は危険です!」
「もう、一人で突っ込まないでよ!『時間・加速』!」
母さんの脚がコリンの頭上へまっすぐ振り下ろされる直前、指導者さんはコリンの前に空気の壁を作り出し、その一撃を受け止めた。
まだ加速状態にあったリンはコリンのそばへ駆けつけると、彼の襟首を掴み、母さんの目の前から引き離した。
「ふぅ……悪い悪い。奇襲なら効くと思ったんだけどな。あの人、反応速度が速すぎる……」
「一応、【仙境】の元第一編織者なんだから、相手を甘く見ちゃダメでしょ」
リンは彼を安全な場所まで連れていくと、すぐに前線へ戻り、リヤの負担を分担した。
「彼女の脚の刃に斬られないでください。傷口が腐ります!さっき彼女がスキルを発動した瞬間、レイが操っていた雑草はすべて腐り落ちました」
「わかってる、わかってる!指導者さん、あなたの空気魔法で私に合わせて!」
「問題ありません!自分の立ち位置には気をつけてください、キャロリン!」
どうする……
みんな、どんどん苦しくなっているみたいだ。体の傷も、少しずつ増えていっている。
母さんは突然その場で身を翻し、自分の体でみんなの視界を遮った。
そしてその隙に、体から流れる血を使って、真っ赤な血の矢を作り出す。
次の瞬間、その血の矢は人影の隙間を縫うように飛び、隊列の最後方に立っていたマリーへ向けて放たれた。
「きゃっ!痛っ……!」
まずい……
突然の狙撃によって、マリーの右腕に穴が穿たれ、彼女は痛みに耐えながら傷口を強く押さえた。
「マリー!?『等価交換』……ぐあああっ!」
マリーが負傷したことに気づいた指導者さんは、迷うことなく彼女にスキルを使った。
彼女は自分自身が同じだけの傷を負うことを代償に、マリーの腕に穿たれた傷を無理やり自分の体へ移した。
「私のことは気にしないでください!この程度の傷なら、まだ耐えられます。攻撃を続けて!」
「失礼します、シェフィおばさま!きゃっ……!」
リヤは歯を食いしばり、手にした剣を振り上げて母さんの左手へ斬りかかった。
しかし、その瞬間、彼女の目の前で血の塊が弾け、リヤの体を吹き飛ばした。
ちっ……
エミール、しっかりしろ!
早く何か方法を考えろ!
お前の頭は飾りなのか!?
「くそっ!どうすれば……いや、待て?」
その時、俺はアイリーンが堕ちた者になった時、俺とマリーの前に現れたあの姿を思い出した。
あの時の彼女も、確か仮面をつけていた……?
それに、彼女の領域から離れる直前、最後には、たしかその仮面が砕けていたはずだ。
もしかしたら……
「リン!母さんの目の前まで突っ込んでくれ!」
「うん、わかった!」
命を投げ出すのと変わらないようなこの頼みを、迷わず聞いてくれるのは、俺を深く信じてくれているリンくらいだろう……
まったく……
お前みたいな彼女がそばにいてくれて、俺は本当に幸せ者だ。
「『交換』!」
「!?」
俺が突然母さんの目の前に現れたことで、彼女の動きが一瞬止まった。
その短い硬直を逃さず、俺は真正面から母さんの体へ飛びついた。
けれど、母さんの体に触れた瞬間、全身に激しい痛みが走った。
彼女の【武装化】スキルには、どうやら触れた者の命を枯らす効果まで宿っているらしい。
俺の皮膚が、凄まじい速度で老化していく。
「元に……戻れぇぇぇぇぇ!」
「ああああ!エミール、ママ痛い……痛いよぉぉぉぉ!」
俺は激痛に耐えながら、母さんの顔に張りついたその仮面を必死に掴み、力任せに引き剥がそうとした。
この仮面……
本当にしぶとく張りついてやがる!
強力接着剤でも塗ってあるのかよ!?
バキィ————!
周囲に突然、無数の血の棘が現れ、俺の体のあちこちを貫いた。
そのうちの一本は、俺の心臓すら容赦なく刺し貫いていた。
……
けどな……
一つだけ、勘違いしてるぞ、母さん。
あんたの息子は……
死んだくらいじゃ倒れない男なんだよ!
「『不屈の誓約』!たとえこの命を懸けてでも、俺は……お前を救い出す!」
致命傷を受けたことで、俺は【武装化】スキルの使用条件を満たした。
この【武装化】スキルは、致命傷を受けたあと、復活するその瞬間にしか発動できない。
その効果は……俺のあらゆる身体能力を、超大幅に引き上げること!
だから、このべったり張りついた仮面だって……
俺を止められるわけがない!
ザッ——
俺は力任せに、その不吉な暗紅色の仮面を、無理やり引き剥がした。
「——————……」
その直後、もがいていた母さんの両腕からも力が抜け、地面へだらりと垂れ落ちた。
「ああ、エミール……」
【武装化】によって形作られていた舞踏服がゆっくりと消えていくと、母さんはようやく目を開いた。
……だが、その胸元には凄惨な傷口が現れており、口元からもゆっくりと血が流れ出していた。
なんだよ、これ!?
俺たちは、母さんの胸なんて貫いていないはずだろ!
まさか……
堕ちた者になる前から、すでに致命傷を負っていたのか!?
「母さん……おい、驚かせるなよ!」
「数週間……見ないうちに……あなた……また……大きく……なったのね……」
傷口からは絶え間なく血が溢れ出し、母さんの顔からも少しずつ血の気が引いていく。
彼女の命が、急速に枯れていく。
どうして、最後はやっぱり……
「『睡眠』!」
背後から、アイリーンの息を切らした声が響いた。
これは……
母さんは静かに目を閉じ、傷口から流れていた血も止まった。
彼女の体は、まるで時間が止まったかのように、ぴくりとも動かない。
ああ……
よかった……
「はぁ……はぁ……間に合った!忘れないでください。私のスキルは……対象を、その時間ごと“眠り”につかせることができるんです!あはは……よかった……うぅ……これで少なくとも、おばさまの命は一時的に保てます……」
様子を確認するために駆け寄ってきたアイリーンは、母さんの傷口からもう血が流れていないのを見ると、張り詰めていた緊張の糸がようやく切れたのか、そのまま感極まってその場で泣き出してしまった。
「うわぁ……!」
しかし、彼女は気が抜けた拍子に草地の小さなくぼみに足を取られ、そのまま俺の上へ倒れ込んできた。
「危ない!」
ぱふっ。
その少女はぱたんと俺の上に倒れ込むと、少し頬を赤らめながら、恥ずかしそうに俺を見つめた。
「ありがとうございます、エミールさん……大好きです……」
は?
「ちょっと待て。今、なんて言った?」
「私は……あなたのことが大好きです!昔からずっと私を守ってくれて、本当にありがとうございます。だから今度は、私があなたの大切な人を守る番です!」
待て待て待て!
「その……アイリーン、俺には彼女がいるんだけど……」
「はい、知っています」
「その気持ちは、俺も嬉しい。でも、俺は……」
浮気なんて、クズのすることだ。
それはリンを傷つけるだけじゃなく、アイリーンのことも傷つけてしまう……
「ダーリン。せっかく勇気を出して伝えてくれたんだから、受け入れることも考えてあげないの?」
リン!?
その時、他のみんなもこちらへ歩いてきた。レイとコリンまで、息ぴったりに俺へ意地の悪い笑みを向けてくる。
ちっ。
この二人、明らかに夫婦みたいな顔しやがって……
「いや……俺にはもうリンがいるだろ!いくらなんでも、二股はダメだろ?」
「私が気にしないって言ったら?私、彼女があなたを好きなこと、ずっと前から知ってたよ?それに、気持ちを伝えてみたらって、背中を押したのも私だし。ね、アイリーンっち?」
「うん!」
!?
お前ら二人、いったい何を企んでるんだよ!
「だから、私は異議なし。むしろ、アイリーンっちなら大歓迎だよ!ちゃんと彼女の気持ちと向き合ってあげて、ダーリン。考えてみてよ。ここで断ったら、アイリーンっち、絶対すっごく悲しむでしょ?」
うっ……
それは、俺だって彼女が傷つくことくらいわかってる。
でも、こういうのって本当にいいのか……?
「だめ……ですか……?」
アイリーンは涙目のまま俺の胸元から顔を上げ、じっとこちらを見つめてきた。
ああああ!
またその小動物みたいな目かよ!
それは反則だろ!
「リン……本当に……」
「本当だって!そんな笑えない冗談、私が言うわけないでしょ?」
「あははは……ごめん、俺が悪かった。うん……」
俺だって、アイリーンを悲しませたくない。
リン本人も大丈夫だと言ってくれているのなら、俺は……
「アイリーン。俺の彼女になってくれるか?」
「もちろんです!喜んで!今すぐ結婚しても大丈夫です!」
「待て待て、関係の飛び級が激しすぎる!一歩ずつでいいから!」
「やったね、アイリーンっち!ハイタッチ〜」
「ハイタッチ〜」
二人の少女は嬉しそうにハイタッチを交わし、互いの手を握ったまま、その場でぴょんぴょん跳ねていた。
まさかリンが本当にアイリーンの告白を応援していたなんて、驚いたな……
「はっ……お前、やっぱ遊び方をわかってるな」
「黙れ、コリン!俺はアイリーンを悲しませたくなかったんだよ」
「ああ〜、クズ男ってだいたいそう言うよな。俺は彼女を傷つけたくなかったんだ〜、君のためを思って受け入れたんだ〜。そういう台詞、説得力ゼロだからな?はぁ……俺にもお前の半分くらいモテ期があればなぁ……ま、とにかく幸せになれよ」
コリンは俺に向かって変顔をしてみせたが、最後には真摯に俺たちを祝福してくれた。
「ふぅ……本当によくやりました、エミール」
「指導者さん……」
彼女は草地に横たわる母さんを一瞥したあと、俺に安堵したような眼差しを向け、隠そうともせず笑みを浮かべた。
「まさか、本当に三つ目の方法を見つけるとは思いませんでした……胸を張りなさい、少年。あなたは大きな功績を立てました。堕ちた者を救う方法を見つけただけでなく、自分の母親まで救ったのですから……これはもう、偉業と言ってもいいでしょう。これで……この先、また別の堕ちた者と遭遇したとしても、私たちには対処する手段があります」
指導者さんは喜びを隠しきれない様子で、目元を細めて笑っていた。
やっぱり、冷たい顔よりも、笑顔のほうが彼女には似合っている。
「腕は大丈夫ですか?」
「問題ありません。戦闘が終わったあと、マリーが傷口を塞いでくれました。大きく動かさなければ、しばらくは問題ないはずです」
「はぁ……次からは、傷を移すなんてことはしないでくださいよ。あんな無茶をされたら、後ろで見ているこっちの心臓が止まりそうでした」
「マリーが戦闘を続けられるようにするためです。私なら、たとえ四肢が使えなくなっても戦えます」
そういう問題じゃないんだけど?
なんというか、指導者さんって、ある意味ちょっとズレてるところがあるよな……
「今は先に、彼女の治療を行いましょう。アイリーンのおかげで、シェフィさんは死なずに済みました」
「そうですね……本当に彼女には感謝しています。ただ、少し気になるんです。いったい誰が母さんにあれほどの重傷を負わせたのか。母さんは一応、元第一の編織者なんですよ?」
「……」
指導者さん?
もしかして、何か知っているのか?
そういえば、どうして指導者さんは母さんのことを知っているんだ?
「獣の爪痕のような傷。そして、胸を貫いた一撃……いえ、彼女は背後から奇襲されたのでしょう。そんなことをする人物は、一人しかいません……」
その表情……!
まさか……
「あの裏切り者ですか?」
「はい」
……
もしそうなら、父さんも……
ふぅ……
まあいい。どうやら俺にも、探索を続ける目的ができたみたいだ。
彼女の言う、その裏切り者とやらに会ってみたい。
——そして、この手で父さんと母さんの仇を討つ。
【エミール – プロフィール更新】
エミール
紡がれた物語 - カエル王子(Frog Prince)
編織者スキル
——————
『挑発』
『超再生』
『交換』
【武装化】発動条件 - 致命傷を受ける → 死と向き合う覚悟を持つこと
【武装化】スキル -『不屈の誓約(Undying Vow)』*New!
【武装化】スキルの効果 -(致命傷を受け、復活した瞬間に限り発動可能)使用者のあらゆる身体能力を極めて大幅に向上させる。*New!




