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第1章 事前準備と報告

「皆さん、おはようございます!」


「お?おはよう、アイリーン!」


アイリーンは退院した翌日、いつもどおり自分のクラスへ戻り、授業を受けていた。


もちろん、昨日以降、彼女に対するいじめや不当な扱いは、もう起きていない。


すべてが順調に進んでいた。


ただ、何か変化があったとすれば……


たぶん、彼女が今朝、わざわざ俺たちのクラスまで挨拶に来てくれたことだろう。


「身体の調子はどう、アイリーン?まだどこか具合が悪いところはない?もしあるなら、必ず私たちに言ってね?」


「うん!ありがとう、キャロリン。そうだ、お昼……私も一緒に食堂へ行ってもいい?」


「もちろんいいよ。じゃあ、昼休みにまたね、アイリーン」


「よかった!バイバイ。先にクラスへ戻るね!」


彼女は元気いっぱいにクラスへ戻っていった。


これから先、彼女がクラスで少しでも楽しく過ごせるようになるといいな。


そしてもう一つ変わったことがあるとすれば、アイリーンが少し明るくなったことだろう。


「なあ、お前らに聞きたいんだけどよ。アイリーンって、ちょっと……変わったよな?」


コリンは少し考え込んだあと、自分の考えを確かめるように、俺たち二人にもそう尋ねてきた。


「つまり、前みたいにおどおどしなくなったってことでしょ?私もそう思う!」


「いいことじゃないか?うう……何だか娘の成長を見守っているような感慨があるな……」


「「ぷっ……」」


違うのか!?


俺たちは、ずっと彼女の成長を見守ってきたんだぞ?


「とにかく、いいことならそれでいいじゃん。人って、いろいろ経験したあとに成長するものだしね〜。私としては、アイリーンが毎日さっきみたいに楽しそうにしてくれるのを見たいかな」


「そうだな。はぁ、彼女の過去はあまりにも……」


「過去?」


俺の呟きを聞いたリンが、不思議そうにこちらへ顔を向けた。


長いポニーテールがゆらゆらと揺れていて、可愛い。


「うん、実は昨日、事件の最後に、アイリーンの記憶を見たような気がするんだ。でもマリーに聞いてみたら、彼女は何も見ていないって言っていたから……ひとまず、俺は黙っておくことにした。悪いな。本人の許可なしに、これ以上のことをお前たちに話すわけにはいかないんだ。とにかく、これからは俺たちで彼女をしっかり支えていこう」


彼女のプライバシーに関わることだからな……


「へえ……もしかしたら、アイリーン自身も、自分の過去を誰かに見られたなんて知らないかもしれないしね。それなら、やっぱり今は聞かないでおこっか。彼女が私たちに話してもいいと思ったら、その時はきっと自分から話してくれるはずだし」


「そうだな」


彼女がこれから幸せになれるなら、それだけで十分だ。


「はっ……マリーや他のクラスメイトもその場にいたのに、お前だけが彼女の記憶を見たのか?しかも、今日のアイリーンはわざわざ俺たちに挨拶しに来たんだろ?もしかすると、あいつはお前のことを好きになったのかもしれないぞ?だって、絶望の底から自分を救い出してくれたお前なんて、童話に出てくる白馬の王子様と何も変わらないんだからな〜」


「……」


コリン!?


どうしてよりにもよって、リンの前でそんなことを言うんだよ!


やっぱり親友って、裏切るためにいるものなのか!?


隣にいたコリンが冗談めかして何気なくそんなことを口にしたあと、リンは何かを考え込むように沈黙してしまった。


まずい!


「うっ……冗談だって。キャロリン、真に受けるなよ。あはははは……」


自分がまた余計なことを言ってしまったと気づいたコリンは、少し慌て始めた。


「まったく、そういう冗談を適当に言うなよ、コリン〜。あはははは……」


「……」


まずい……


俺たち二人は隣で乾いた笑いを浮かべることしかできなかった。


けれど、リンは相変わらず静かに黙り込んだままだ。


空気が一気に気まずくなった。


まさか、本当に怒ってるんじゃないよな?


「その……リン。俺はお前一筋だから、浮気なんてしないぞ……」


「その前に、一つだけ言わせて」


ひっ!


彼女の目がものすごく真剣になった!


コリン、お前、覚えてろよ!


「私ね……前に、ダーリンを永遠に失うかもしれないって思った時、本当にすごくつらかったの。あの感覚は、まるで空が落ちてきたみたいに絶望的だった」


「「……」」


俺とグリックが模擬戦をした時のことだろうな……


とにかく、俺と、言い出した張本人であるコリンは、二人とも何も言えず、席に座ったまま静かにリンの考えを聞くことにした。


「その時、私の頭の中にはずっと、“私の初恋は終わっちゃったんだ”とか、“私はもう二度と、好きな人と一緒になれないんだ”みたいなことばかり浮かんでいて……」


「「「「「「……」」」」」」


どうしてクラスのみんなまで静かになってるんだ?


頼む。


お前たちはお前たちで、普通に話を続けてくれないか?


ここで野次馬根性を出す必要はないんだよおおお!


「私は、胸が張り裂けるような痛みをよく知ってる。だから、それを他の誰かに味わわせたいとも思わない。だから、もしアイリーンも心の底からダーリンを好きになったのなら……」


「「「「「「……?」」」」」」


なら……?


空気が急に、怖いくらい静かになった。


「私は彼女のことも受け入れるよ。ただし、相手が本気でダーリンを好きになっていることが前提だけどね。それに、正妻の座を他の誰かに譲るつもりもないし」


「「「「「「おおおおおお!」」」」」」


お前ら、何が「おおおおおお!」だよ!


俺の頭は急に処理が追いつかなくなった。


「さすがギャル!」


「キャロリンさん、正妻感がすごすぎる!」


「これが正妻の余裕ってやつ?」


「エミールさん、羨ましすぎるだろ……」


お前ら、揃いも揃って横から余計なことを言って盛り上がるのはやめてくれないか……


朝っぱらからこんな特大の衝撃を食らったら、俺の心臓がもたないんだよ!


「その……キャロリンさん?」


「どうしたの、ダーリン?これは相手の気持ちを考えた結果だよ。私はダーリンの人柄もよく知ってるし、ダーリンがすごく素敵な人だってこともわかってる。だから、あと何人か女の子がダーリンを好きになったとしても、それは普通のことだと思うの。だって、ダーリンは私の自慢のダーリンなんだから〜」


はぁ……


彼女は心の底からそう思っているように見えた。


こんなにも素敵な彼女がいてくれるだけで、俺はもう感謝してもしきれない。


それなのに、どうしてもう一人彼女を作ろうなんて思えるんだよ?


どうして彼女は、少し残念そうに見えるんだ?


うん……???


「お前ら二人、マジでもういい加減にしろ……俺が悪かった。俺の失言だった。それでいいだろ?頼むから、これ以上イチャつくな。そろそろ俺の拳が、お前らの顔面に飛んでいきそうなんだが」


「お前も彼女を作ればいいだろ」


「お前な……そんな簡単に言うけど、俺にどこで見つけろって言うんだよ?」


「「レイだろ」」


コリンの疑問に、俺とリンはすぐに声を揃えて答えた。


「やっぱり、私たち息ぴったりだね〜」


「ふふん、だってこの答えはもう迷う余地がないからな」


「待て待て待て。俺に彼女を作れって時点で十分おかしいのに、その相手があのチビだと?俺は絶対嫌だぞ!」


いや、向こうだってお前を選んでくれるとは限らないだろ……


「コリンって、本当に注文が多いね……ダーリンを見習って、女の子にはもう少し優しくしなよ」


「あいつは女じゃねえよ……あいつの性別は暴力ゴリラだろ?」


「「はぁ……」」


よし、こいつはもう一生独身でいいな。


——————


放課後、俺とリンは指導者さんに付き添って、探索委員会へ大会の参加登録に向かうつもりだった。


けれど、俺たちは校門の前で、早くから柵にもたれて待っていたアイリーンと出会った。


「アイリーン?誰かを待ってるのか?」


「先ほど、私がアイリーンも一緒に来るよう呼びました。探索委員会は、アイリーンがクラスで【武装化】を発動して暴走した件を聞きつけたようで、彼女も一緒に連れてきて、事情を説明してほしいと言われています。安心してください。彼らはアイリーンに何かをするつもりはありません。ただ、【武装化】に強い関心を持っているだけです」


指導者さんは困ったように首を横に振り、それから「面倒くさいですね」とでも言いたげに小さく呟いた。


「はぁ、いったい誰が情報を漏らしたのでしょう……あの時、私は【武装化】の情報を揉み消しておいたはずなのに……」


うわ……


この教師、顔に明らかに情報漏洩への苛立ちが出ていて、今にも誰かを叱りつけそうだった。


「あははは……こんにちは。先生が言ったとおりなので、今日は私も一緒に行きます」


アイリーンは頬を掻きながら、思わず苦笑した。


「あなたが気にすることではありません。これなら、ついでに【武装化】を他の人たちに教えることもできます。そうすれば、将来的にもっと強力な味方が増えるかもしれませんし……?ええ、それはそれで悪くありませんね」


そこまで考えたところで、指導者さんの表情はまた明るくなった。


この人……


一秒たりとも、戦力を上げることを忘れていないな……


     ◇


「では、こちらが会長室です。皆さん、どうぞお入りください。会長はすでに中でお待ちです」


「ありがとうございます。案内、助かりました」


「いえ、これも仕事ですので。どうかお気になさらないでください、指導者さん」


若い男性職員は俺たちを大きな木製の扉の前まで案内すると、軽く会釈して去っていった。


コンコンコン——


「指導者です。学生たちを連れてきました」


「どうぞ」


がちゃ。


中から返事があると、指導者さんは扉を開け、俺たち三人を連れて中へ入った。


会長室って、意外と狭いんだな……


中には本棚がいくつかと、執務机、来客用のソファとコーヒーテーブルが一式置かれているだけで、余分なスペースはほとんどなかった。


「君たちをずっと待っていたよ」


眼鏡をかけ、サラリーマンのような髪型をしたスーツ姿の男性が、執務机の前の椅子から立ち上がり、人当たりのよさそうな笑みを浮かべて俺たちを迎えた。


いや、違うだろ……


どうして会長さんが、道端にいる普通のサラリーマンのおじさんと何も変わらないんだ?


俺はてっきり、筋骨隆々の大男が出てくるものだと思っていたのに。


「初めまして、私はエイデンです。こちらの白髪のお嬢さんが指導者さん、でよろしいですか?」


「はい」


「わかりました。皆さん、遠慮せずにおかけください」


彼はさらに親切にも、机の下からミネラルウォーターを五本取り出し、俺たちの前にあるコーヒーテーブルの上へ置いた。


待って、どうしてお茶じゃないんだ?


「では、さっそく本題に入りましょう。こちらの茶髪の少女が、アイリーンさんで間違いありませんね?報告によると、彼女は昨日、クラスで編織者スキルを使用したと……」


「うぅ……」


「楽にしてください、アイリーンさん。私はあなたを裁こうとしているわけではありません。ただ、本人確認をしたかっただけです」


「わかりました……ま、間違いありません。報告にあった人物は、私です」


アイリーンさん……


そんな簡単に全部認めて、本当に大丈夫なのか?


この先、悪い人に出会ったらどうするんだよ……


俺は本当に心配になってきた。


「では、指導者さん。私は、その暴走現象が【武装化】と呼ばれるものだと聞いていますが、間違いありませんか?」


「いいえ、その認識は誤りです。ですがその前に、“それをあなたに漏らした人物が誰なのか、教えてください”。そうでなければ、私はこれ以上の説明を拒否し、すぐに彼らを連れて帰るつもりです」


彼女は今、間違いなく自分の特殊技能を使ったな……


「うっ……職員が、グリックという学生から聞いた情報です。な、何か問題がありましたか?」


あいつ、どこまでしつこいんだよ?


その名前を聞いた瞬間、リンとアイリーンさんの顔色が明らかに悪くなった。


エイデンさんは一瞬、自分が何か失言をしたのかと疑ったようだった。


「ちっ、やはりあの男ですか……彼はかつて模擬戦闘で私の学生の首を斬り落としました。にもかかわらず、貴会の規約には彼を罰する条項が一つも存在しなかった。そのことに、私たちは非常に憤っています」


指導者さんは俺を一瞥してから、さらに話を続けた。


「はっ、あの件でしたか!?失礼しました。本会では今後、すべての規約を真剣に見直し、このような事故が二度と起きないよう徹底します」


いや、そこは気にならないのか……?


どうして俺がこうして普通にここに座っていられるのか、とか。


まあいいか。どうせ委員会の職員から、関連する事情はすでに聞かされているんだろうし。


「……では、これから【武装化】に関する情報と、当時アイリーンがどのような状態にあったのかについて説明します」


     ◇


「なるほど……これが【武装化】と堕ちた者(Fallen One)の違いですか……」


「その通りです。一見すると諸刃の剣に見えますが、編織者がきちんと制御している限り、暴走することはありません。外部からの圧力や人為的な事故でもない限り、編織者が堕ちた者になることはまずありえません。最後に、たとえ堕ちた者が現れたとしても、アイリーンの時のように、すぐに相手を救い出せれば、編織者の安全は確保できます」


「ふむ……たしかに、非常に驚くべき発見ですね。あなたがどうやってそれを知ったのか、聞いてもよろしいですか?これは前例のない大発見です。会長としての立場を抜きにしても、私個人として、あなたがどうやってそれを確認したのかが気になります」


「それについてはお答えできません」


まあ、彼女が話すつもりなら、とっくに俺たちにも教えてくれているはずだしな……


「そうですか……わかりました。最後に、あなたたちの【武装化】の実際の効果を見せてもらってもよろしいですか?」


その頼みを聞いても、指導者さんはそれ以上何も言わなかった。


ただ、俺たちを静かに見つめている。


どうやら、自分たちでどうするか決めろ、ということらしい。


「「「【武装化】」」」


     ◇


「ぷははは……!さっきのエイデンさんの表情の変わり方、すごく面白かったよ〜。私たちが一緒に【武装化】したのを見て、びっくりしてたみたい」


「少し恥ずかしかったですけど、自分の意思で【武装化】を発動する感覚って、本当に不思議ですね。本当の【武装化】は、暴走していた時の感覚とは全然違うんですね……」


「どうどう?身体がふわっと軽くなる感じがしない?」


「うん。それに全身もぽかぽかしていて……昨日はむしろ、心の中から負の感情が勝手にたくさん湧き上がってくる感じでした。やっぱり今日の【武装化】のほうが気持ちいいです」


わかるわかる〜。


あの感覚、結構気持ちいいんだよな。


短い時間で全身がサウナに入ったみたいになって、それから力が湧き上がってくる感じだ。


それとついでに言うと、昨日のアイリーン暴走事件を経て、俺は自分が別に死ななくても【武装化】を発動できることを思い出した。


リンはとっくに、俺の【武装化】条件が“死と向き合う覚悟を持つこと”だと確信していた。


ただ、俺が一時的にそのことを忘れていただけだ。


……


簡単に言えば、昨日あの領域に閉じ込められていた時、俺はマリーの致命的な火魔法攻撃を無駄に食らったことになる。


実際には、俺は死ぬことで条件を満たす必要なんてなかった。


はぁ……


この件が広まらないといいな。そうでないと、俺は間違いなく隣のクラスの連中から、死にたがりのドM扱いされる。


「くれぐれも、これから外出する時は、自分たちの身だしなみに常に気を配りなさい。あなたたちは今後、“初めて【武装化】に成功した編織者たち”という肩書きを背負うことになります。おそらく、他の人たちの注目を集めるでしょう」


「「「はーい」」」


「では、申し込みが終わったら、みんなで夕食を食べてから帰るのはどうですか?私が奢ります」


お?


指導者さんの奢り?


「行こ行こ〜」


「先生の奢りですか……!私も一緒に行きたいです!」


「ありがとうございます、指導者さん」


「気にしないでください。あなたたちも私に付き合ってここまで来てくれたのですから、これくらいは当然です」


いや、あなたは本当に気を遣いすぎなんだよ……

実は前話では、僕が設定をうっかり忘れてしまっていたせいで、発動条件の部分にちょっとミスが出てしまいました。


なので、今回はこういう形でどうにか辻褄を合わせました。あははは……

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