【Side:キャロリン】小さな行動、大きな変化
「皆さん、何を食べますか?私が注文してきますから、あなたたちはここで座っていてください」
「私はチキンバーガーでお願いします。あまりたくさん食べられるほうではないので……」
「うーん……それなら俺はビーフバーガーで」
「じゃあ私もダーリンと同じのにしよっかな。このファストフード店のビーフバーガー、すっごくおいしいって聞いたことあるし!」
指導者さんは全員の注文を覚えると、頷いて席を離れ、カウンターへ注文しに行った。
「えへへ、これでまた一食分浮いたね!感謝します、指導者様!」
「……たまには節約しすぎず、自分にもちゃんと優しくしてやれよ、リン」
「キャロリンって節約家なんですね」
ふふん、でしょ?
節約は美徳なんだから。
私は今でも、ご飯粒一つ残さず全部食べきり、無駄を徹底的になくすという高潔な精神を貫いているんだからね?
「そういえば、リン。あとで俺の家に来るか?オズ先生に出された前の課題、一緒にやらないか?」
「その提案、ちょうどよかった!来週まで引っ張ったら、私たぶんやる時間なくなっちゃうし……せっかく今日は金曜日だし、ダーリンの家に二、三日泊まってもいい?」
「お、泊まりに来るのか?いいぞ、いつでも問題ない。どうせお前は俺の家の鍵も持ってるし、伯父さんと伯母さんの許可ももらってるしな……あそこはもう、自分のもう一つの家だと思ってくれていい」
やった!
これでまたダーリンと一緒にいちゃいちゃできる!
「いいなぁ……」
「アイリーン?今、何か言ったか?」
「あああ、私、今は何も言ってません!エミールさん!」
ダーリンに聞かれた瞬間、アイリーンは顔を真っ赤にして、慌てて手を振った。
その後、彼女は急いでスマホを取り出し、何事もなかったように振る舞った。
へぇ……
もしかしてアイリーンって、本当にコリンが言っていたみたいに、私のダーリンのことを……?
「自分のハンバーガーはそれぞれ取ってください。私は少しお手洗いに行ってきます。食べたいなら、先に食べ始めても構いません。私を待たなくても大丈夫です」
しばらくして、指導者さんがトレーを持って戻ってきた。
彼女はトレーをテーブルの真ん中に置くと、そのまま席を離れてお手洗いへ向かった。
「え……?」
アイリーンは包み紙を開いた途端、不思議そうな声を上げた。その声に、私とダーリンは思わず彼女へ視線を向けた。
「どうしたんだ、アイリーン?」
「ハンバーガーが違うみたいです……」
ほんとだ。
このパティ、どう見ても牛肉で、広告に載っていたチキンバーガーじゃない。
「大丈夫。俺が取り替えてくるよ。少し待っててくれ」
ダーリンは手際よくハンバーガーを包み直すと、それを持って、アイリーンのために新しいハンバーガーへ交換してもらいにカウンターへ向かった。
いいねいいね〜
さすが私が見込んだ男。
当時、アイリーンをちゃんと気にかけるって言っていたけど、本当に有言実行してるんだから。
それに対してアイリーンは……
彼女はその場に座ったまま、ぼんやりとダーリンの遠ざかっていく後ろ姿を見つめていて、視線はずっと彼に釘づけだった。
「アイリーン、さっきエミールの後ろ姿、すごく真剣に見てたね」
ちょっとからかってみよっかな。
「え?あ……ご、ごめんなさい、キャロリン!私はただ……」
耳まで真っ赤になってる。可愛いなぁ。
「あははは、緊張しないで緊張しないで〜。ちょっとした冗談だから。うーん……せっかくここには私たち二人しかいないし、ついでにはっきり言っておくね」
「えっと……何のことでしょうか?」
アイリーンは不安そうに顔を上げた。その表情は、まるで怯えた小リスみたいで……
この生き物、可愛すぎない!?
今すぐ抱きしめたい!
「あなたがどう思っているのかはわからないけど、もしダーリンのことが気になっているなら、私はちゃんと気持ちを伝えるのを応援するよ?あなたなら、私は大丈夫だと思う」
「!?」
その次の瞬間、彼女はまるで石化したみたいに、席に座ったまま瞬きもせずに固まってしまった。
「もしもーし?アイリーン、さっき私が何を言ったか聞こえてた?」
「ほ、本当にいいんですか?エミールさんはもうキャロリンの彼氏なのに、嫌だとは思わないんですか?」
「あははは……いやぁ、私も恋がもう叶わないって思った時の、あの悲しさを知ってるから。他の人にも、そんな思いはしてほしくないなって……」
「あ、模擬戦の時のことですか?」
「うん」
それからアイリーンも俯いて考え込み、私たちの席は静かになった。
「あの……キャロリン。実は私も、本当にす……す……」
おおお、来た来た!
この恥ずかしがってる姿も最高!
「す……好き、です……」
やっぱりね〜。
「ふふ、昨日のあの件がきっかけでしょ?」
「うん……」
この時のアイリーンの頬は、もう真っ赤と言っていいくらいだった。
これ以上からかったら、その場で爆発しちゃうかもしれない。
「でもね、アイリーン。ちゃんと頑張らないとダメだよ?」
「え?どういうことですか?」
「私はあなたが彼に想いを伝えるのを止めないけど……あなた以外にも、同じことを考えている子がいるんだよ?」
「他にもいるんですか!?もしかして……セレイアさん?」
あれ?
この子、意外と鋭いかも。
「誰なのかは秘密〜。とにかく、あなたもちゃんと頑張ってね。私は友達として、二人のことを応援するから」
「うぅ、私以外にももう一人いるんですね……わかりました。私、頑張ります。ありがとう、キャロリン!」
彼女は真剣にもう一度考え込んだあと、自分の頬をぱちぱちと叩いて、明るい表情を浮かべた。
これで、ようやく覚悟が決まったみたいだね。
ふふ……
もし未来で、私たちが本当に一夫多妻の家庭を築けて、その相手がセレイアさんとアイリーンなら、きっと私たちは平等に、仲良くやっていけると思う。
「ん?二人とも何を話してたんだ?ずいぶん楽しそうだったけど」
「え?い、いえいえいえ!私たちはただ、【仙境】について少し話していただけです!」
この子……
やっぱり、私がもっと手伝ってあげないとダメかも……
アイリーンは純粋すぎて、考えていることが全部顔に出ちゃってる。
そこはダーリンとそっくりだね。
「おう……これ、アイリーンのチキンバーガー。ちゃんと交換してもらってきたぞ」
ダーリンが無理に深掘りしてくるタイプの、女心がわからない鈍感男子じゃなくてよかった。
そうじゃなかったら、アイリーンはきっともっと困っていただろうし。
「あ、ありがとうございます、エミールさん!大切にします!」
違う違う、そこは「ちゃんと食べます」って言うところでしょ?
まさか、そのハンバーガーを家に持って帰って、家宝として保管するつもりなの?
「ん?あなたたち、まだ食べ始めていなかったのですか?」
「さっきアイリーンのハンバーガーが間違って届いていたんです。俺が新しいものに交換してもらっていたので、今になりました」
「そうですか。では、冷めないうちに早く食べなさい」
指導者さんも戻ってきた。
うーん……
未来、か。
私たちの未来は、いったいどんな形になるんだろう?
もし将来、私たちが大家族になれたら、今みたいにたくさんの人で同じ食卓を囲んで、ご飯を食べることになるのかな。
きっと、すごく楽しいと思う。
目の前の光景を見ながら、私は思わず、遠い未来の姿を想像してしまった。




