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籠の中の囚われた鳥たち  作者: YeetedSushi
02-編織者たちの交響曲
22/63

第3章 畏れるもの

※本話には、精神攻撃による幻覚、流血・グロテスクな表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。

「それで、さっき二人は何してたの?」


しばらくして、キャロリンがスキルテストの部屋から颯爽と出てきた。


彼女のスキル構成からして、おそらく最初から試験官にかなり高い評価を受けたのだろう。テスト時間も、一般の参加者よりずっと短かった。


「わ、私のスキルは対象を眠った状態にすることができて……もう一つのスキルは……眠った状態の対象に大きな精神ダメージを与えてから、目覚めさせるものなんです。そしたら効果が少し強すぎたみたいで、ウサ耳スライムが一気に弾けてしまって……」


さっきのスキルって、ダメージを与えるものだったのか?


「へぇ……?あなたのスキル構成、けっこう面白いね。よかったら、最後のスキルが何なのか教えてくれる?」


「『幸運』です……ただ、少し運がよくなるだけで……」


「それも全然いいじゃん~。そうだ、せっかくだし宝くじを買おうよ!お金は私が出すから、アイリーンが買って!そうすれば、私がお札のシャワーを浴びる夢も、もう目前だよ!」


「アイリーンのスキルを悪用するな!」


「あはははは!冗談、冗談だって~。落ち着いて、エミールっち~」


もしそのスキルが本当にスキル所持者の運を上げるものなら、アイリーンに宝くじを買ってもらえば、本当に当たるかもしれないな……


そうなると、もしかしてアイリーンって実は金持ちになれるのでは!?


「実は……くじ引きとかは試したことがないので、このスキルが実際にどれくらい強い効果を持っているのか、私にもわからないんです……」


なるほど。どうやら彼女は、かなり正直な性格らしい。


「キャロリン、スキルテストはどうだった?」


「へへっ、試験官さん、私の『時間魔法』にすごく驚いてたみたいで、満点をくれるって聞いたよ!すごくない?満点だよ?私、人生で一度もテストで満点なんて取ったことないんだけど」


「だろうな。さっきから、お前ならきっといい点を取れると思ってたよ」


「褒めてくれてありがと~。行こ、みんなで模擬戦の会場に向かおう」


その時、おしゃれな髪型をした黒髪の男子が、ちょうど別のスキルテストの部屋から出てきた。


「キャロリン様!?やはりあなたでしたか!先ほど試験会場でお見かけした時から、もしやと思っていたのです!」


「うげっ……」


キャロリンを見るなり、彼は一瞬で扉の前から彼女の目の前まで走ってきて、その手を取った。


え……?


兄弟、お前誰だ?


「おい、キャロリンを放せ。彼女が困ってるのがわからないのか?というか、お前は誰だよ?」


「はぁ……わかっています。身分が高く、花のように美しいあなたには、どうしても虫けらが寄ってきてしまうのでしょう。さあ、こちらへ来てください。あなたの周りにいる虫どもは、僕がすべて追い払って差し上げます」


は?


こいつ、喧嘩売ってるのか!?


「私の友達をそんなふうに呼ばないでください!それと、手を離してください!」


「キャロリン様……心配しないでください。あなたが野外授業の班分けのせいで、仕方なく彼らと一緒にいることはわかっています!安心してください。僕が今すぐ、あの新しく来た先生と話をしてきます。きっとあなたを僕の小隊へ移してくれるはずです!僕たち二人は生まれながらの運命の相手です。彼女だって、僕たちを引き裂くような真似はできないでしょう」


はは、わかった。


こいつがたぶん、あのグリックだ。


残念だったな。


お前を外すよう頼んだのはキャロリン本人だし、しかもお前とキャロリンを引き裂いた張本人は、まさに指導者さん本人だぞ?


まあいい。先にキャロリンを助けるか。


グリックはかなり強い力でキャロリンの腕を引っ張っているらしく、彼女は苦しそうな表情を浮かべていた。


「いい加減にしろ!いつまでやってるんだよ?本当に彼女と同じ小隊になりたいなら、もっと優しくしろよ!見ろ、彼女の手、強く引っ張られすぎて腫れてるじゃないか!」


俺は力ずくでキャロリンから彼の手を引き剥がし、痛みでじんじんしているキャロリンの手を指差して、大声で彼を叱りつけた。


ただ……


まずいな。


キャロリンが乱暴に扱われているのを見た瞬間、少し頭に血が上りすぎた。


今は周囲の人たちも、俺の声を聞いて、興味深そうにこちらへ視線を向けている。


「キャロリン様の尻を追いかけるだけの犬は黙っていろ。キャロリン様はあれほどお優しい方だ。この程度のことで気になさるはずがないだろう!さっさと消えろ。『恐怖蔓延』!」


うっ!


「エミールっち!?」


「エミールさん!?」


     ◇


気がつくと、俺は奇妙な空間にいた……


いや、ここは明らかに【仙境】の奥深くだ!


うわ……


そこら中に血痕と戦闘の跡が残っている。しかも周囲の空気も……以前、第十三層の緊急通路で感じたものより、さらに不気味だ。


待て。


俺はさっき、【仙境】にはいなかったはずだよな?


けれど、直前まで自分がどこにいたのか思い出せない……


まあいい。まずは先へ進んで探索してみよう。


どれだけ怖くても、ここで立ち尽くして死を待つわけにはいかない。


ギィン――!


ん?


戦闘音だ!


ここにはまだ他の人がいる!


そう思った俺は、音のする方へ急いで走った。


そして俺がそこへたどり着いた時……


ブシュッ――


「え……?嘘だろ?」


一人の女性が、蔓の群れのような破劇者に触手で高く吊り上げられていた。


そして次の瞬間、別の鋭い触手が彼女の心臓を真っ直ぐに貫いた。


何より最悪だったのは……


「母さん!なんで……」


貫かれたその人は、母さんだった。


理解が追いつかなかった。


彼女はそうして、何の前触れもなく、俺の目の前で死んだ。


ああああああああ!


「お前を殺してやる!!!」


俺は剣を握り締め、ほとんど叫びながら蔓の群れの中央へ斬りかかった。すると、どうやら偶然にもその核心を砕いたらしい。


それでようやく動きを止めたそれは、俺の目の前でゆっくりと消えていった。


――ル!


「母さん!目を覚ませよ、おい!早く目を開けて、俺を見てくれよ!うぅ……」


残念ながら、もう息はなかった。


小さい頃から俺を育ててくれた人が、こうして俺の目の前で死んだ。


そして俺は、何もできなかった。


――起きろ!


――エ————!


コツ。


コツコツ――


うっ!


何の音だ!?


背後のトンネルから突然、何人かの足音が聞こえてきたせいで、俺はすぐに剣を構えて警戒した。


「おい、誰だ?」


コツ。


「ぐっ……あああああああ!」


足音の主が姿を現した。


父さんだった。


けれどその顔は、まるで歩く死体のように腐り果てていて、身体中の腐った傷口からは、何本もの赤い触手が蠢きながら飛び出していた。


そしてその後ろには……同じ惨状になったリヤ、キャロリン、コリン、それに指導者さんまで続いていた。


「「「「……エミールうううう!」」」」


次の瞬間、彼らは一斉に口を開けて俺に噛みつこうとし、腐った身体から伸びた触手も、狂ったように俺の腹へ抉り込んできた。


痛い!!!


下を向いて初めて、俺は自分の腹が鋭い触手に抉られ、血と肉でぐちゃぐちゃになっていることに気づいた。


嫌だ……


俺はここで死ぬのか!?


嫌だああああ!


「目を覚まして、エミールっち!」


「全部偽物です、エミールさん!早く目を覚ましてください!」


え?


耳元で突然、二つの違う女性の声が聞こえ、身体の痛みも少しずつ薄れていった。


あれは……


ああ、思い出した。


キャロリンとアイリーンの声だ!


さっきグリックが俺にスキルを使ったんだ。たしか、あれは制御系のスキルだったはず!


この空間は、俺の心の中で恐れているものをもとに作り出された“恐怖”だ!


そう気づいた瞬間、周囲の景色が少しずつ崩れ始めた。


そこでようやく、俺はゆっくりと目を開いた。


「エミールっち!やっと目を覚ました……本当に怖かったんだから!うぅ……ごめんね……」


「エミールさん、顔色がすごく悪いです……お水を持っていますけど、少し飲んで落ち着きますか……?」


今、俺は……


ああ、キャロリンに膝枕されているのか……


目の前には、心配そうな顔で俺を見つめているアイリーンと、怖くてすでに泣き出してしまっているキャロリンがいた。


それだけじゃない。周囲にはかなりの人数が集まっている。


キャロリンはともかく、アイリーンもここまで俺を心配してくれていたんだな……


本当に申し訳ない。


視界の端にはコリンの姿も見えた。


怒り狂った彼は、両手でグリックの襟元を掴み上げ、拳を振り上げてその顔面に叩き込もうとしていた。


幸い、探索委員会のスタッフが彼を引き止めていたからよかったものの、そうでなければグリックは間違いなく顔を腫らして帰ることになっていただろう。


「コリン!もういい、やめろ。キャロリン、アイリーン、起こしてくれてありがとう……俺はもう大丈夫だ。本当に」


「おい、それで済ませる気かよ?こいつ、お前にスキルを使ったんだぞ!」


「このまま殴ったら、お前まで受験資格を取り消されるかもしれないだろ!今は冷静になってくれ」


「お前は本当に……わかったよ、お前の言うことを聞く。ふん、この馬鹿、命拾いしたな」


コリンも俺の言いたいことは理解してくれた。


そこでようやく彼はグリックを放し、俺のそばまで下がってきた。


「ふふ、やはり本当に殴る勇気なんてなかったんですね。主人に命じられればすぐに手を止める。形だけ吠える犬なら、僕でも飼えますよ?」


グリックは自分の襟元を軽く整えたあと、なおも得意げにコリンを挑発した。


「は?上等だ。お前、マジで一度も殴られたことがないみたいだな!」


「コリン、“止まりなさい”」


その肝心なところで、騒ぎを聞きつけた指導者さんが駆けつけてきた。


「うっ、動けねえ!?ちっ、でもこのクソ野郎、さっきエミールに……!」


「わかっています。ですが、今のあなたは冷静になるべきです。彼のために、この一度きりの受験資格を無駄にする価値はありません」


口ではコリンに冷静になるよう諭しているものの、指導者さんがグリックを見つめる眼差しには、殺気が満ちていた。


教師としての立場を考えれば、現場で一番腹を立てているのは、むしろ彼女のほうなのだろう。


「スタッフ。まだ探索許可証を受け取っていない学生が、【仙境】の外でスキルを使うのは違法ですよね?」


「申し訳ありません、先生……実は委員会では、“十八歳未満の青少年が外でスキルを使用してはならない”という件を、条約や法律には組み込んでいないのです……ですので、基本的に私たちは、先ほどのグリックさんの行為に対して何かをすることはできません……」


「ちっ、忌々しい少年保護法ですね……では、彼の受験資格は?」


「おや先生、先ほどは彼が突然僕に向かってきたのですよ。それで僕は自分の身の安全を守るために、うっかりスキルを使ってしまっただけです。いやあ、本当に申し訳ありませんでしたね」


「当事者がそう述べている以上、こちらとしても彼の受験資格を取り消すことはできません」


「……」


教師相手だというのに、グリックは相変わらず軽薄な態度を崩さなかった。


しかも条約の抜け穴を利用して責任を逃れたせいで、怒りを抑えきれない指導者さんの目元がぴくりと跳ねた。


けれど彼女は最後には、すべての感情を無理やり押し殺した。


「そうですか。なら、仕方ありませんね」


「そうそう~。先生でも、彼のために僕を罰することはできないんですよ。だって僕は何も悪くありませんからね~。先ほどのあれは、ただの正当防衛です」


こいつ、マジで先生のことまで舐めきってるな……


「わかりました」


指導者さんは彼に怒りをぶつけることなく、ただ冷たく一言返すと、俺のそばまで来て身体の状態を確認してくれた。


「エミール、他に具合の悪いところはありますか?」


「俺は大丈夫です。ありがとうございます、先生」


「結構です。では、これから模擬戦の会場へ向かい、テストを受けます。ついてきなさい」


「先生、何かしなくて……」


「自分が何をすべきかは理解しています。あなたに言われるまでもありません、コリン」


……


その後、俺たち五人は一言も発しないまま、周囲の視線を浴びながら、スキルテストの会場を離れた。


——————


「ふぅ……皆さん、聞いてください」


スキルテストの会場からある程度離れたあと、指導者さんは周囲に他の人がいないことを確認してから、俺たちに話しかけた。


「「「……」」」


さっきの指導者さんの懸念は、俺には理解できる。


けれど、他の三人はそうとは限らなかった。


彼らはどうやら、指導者さんが先生でありながら、俺のために何もしてくれなかったことに対して、内心で怒っているらしい。


「先ほどの場では、あのクソガキを制裁するための適切な理由が一つもありませんでした。ですから、私があの時に下した判断を理解してください」


「でも、エミールっちはさっき、彼に襲われたんですよ!」


「わかっています。だからこそ、適切な理由がなければ、あの愚か者を制裁することはできないと言っているのです」


「え?どういうこと?」


そこまで聞いた瞬間、キャロリンはすぐに興味を示した。


他の二人も、指導者さんの次の言葉を待つように静かに耳を傾けている。


「適切な理由があればいいだけでしょう?たとえば模擬戦で、偶然エミールと当たるとか。あるいは模擬戦中に、彼が装着している痛覚抑制器が偶然にも不具合を起こすとか」


その言葉に、俺たちは思わず感心してしまった。


「先生……!それなら、エミールさんにとっても公平です……」


「わお?さすが指導者さん!」


「やっぱり年の功ってやつか……」


「コリン、信じますか?私があなたを明日まで一言も話せないようにできると」


「でも、俺、本当にあいつに勝てるのか?」


「ええ。あの『恐怖蔓延』以外に、彼があなたを脅かせる手段はないと思います。それに、あなたはすでに一度“恐怖”を体験しています。次に同じものを使われても、その効果はそこまで大きく出ないでしょう。なぜなら……人間は恐怖に慣れ、そして恐怖を乗り越える種族だからです。それが彼のスキルにおける唯一の弱点です」


なるほど……


「わかりました……ありがとうございます、先生。少し頑張って、自分の分の鬱憤を晴らしてきます」


「ついでに私たちの分も晴らしてきてね、エミールっち!私たち全員、めちゃくちゃ腹立ってるんだから」


それもそうだ。


俺たち全員の分まで、しっかり鬱憤を晴らしてやろう!


「結構です。では、あなたたちは先に会場へ行って準備していなさい。私はすでに模擬戦を終えていますので、あとで観客席からあなたたちの様子を見ています」


「え?指導者さんの模擬戦、そんなに早く終わったのか?」


「ええ。開始直後に相手を降参させたので、すぐに終わりました。もちろん、先ほど使った特殊な力ではありません。正式な編織者スキルだけで、公平に勝利しました」


怖っ……!


指導者さんがその時、いったいどんな手段で相手を倒したのか、まったく想像できない……

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