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第1章 童話小隊、出撃

荷物をまとめ終えたあと、俺たちはいったん唯さんに挨拶をして、俺たちの地球(Earth-003)へ戻った。


休む前には、それぞれ自分の家族にも一声かけてから、一分一秒でも長く休めるように、すぐ休息を取ることにした。


けれど、時間が過ぎるのはあっという間だった。


体感では、横になってからまだ数分しか経っていないのに、スマホのアラームが鳴った。


「マジかよ……俺、まだ五分くらいしか目を閉じてないだろ?」


スマホの画面に表示されていた時刻は、午後十一時三十分。


集合時間まで、あと三十分だ。


俺のベッドって、いつの間に時間加速機能なんて追加されたんだ?


ふああああ~……


まだすげぇ疲れてる気がする……


任務中、ゾンビみたいな顔で動き回ってる自分の姿がもう目に浮かぶ。


さっき父さんと母さんにも一声かけておいたし、出かける前にわざわざ起こして睡眠を邪魔するのはやめておこう。


それから、アイリーンは……


目を覚ましてから気づいたんだけど、あいつ、またこっそり入り込んできてた。


まあいいか。


もう少しだけ、俺の布団の中で寝かせておこう。


……


あとで下に降りて、眠気覚まし用のエナジードリンクを何本か買って、指輪の中にしまっておこう。


任務中、たぶん使うことになりそうだ……


     ◇


「お?」


「あら、エミールくん?あんたも買い物に来たの?」


俺たちはみんな同じアパートに住むよう手配されているけど、それぞれの家族は別々の階に住んでいる。


今、俺は一階にあるコンビニで、偶然マリーナと鉢合わせた。


彼女はすでにオペレーターの制服に着替えていて、コンビニの中で買い物をしているところだった。


「俺はエナジードリンクを何本か買いに来たんだ。ふあぁ……マリーナは?」


「私はもう荷物もまとめ終わったし、暇だったから、何かみんなのために買い足せるものがないか見に来ただけ。でもなんか……本当にもう、ほかに買うものがない気がするのよね……」


「歩きながら食べられるお菓子とかどうだ?任務の途中で腹が減っても、みんなそのまま食べられるし」


「いいじゃない!じゃあ、お菓子をいくつか買って指輪の中に入れておくわ。あんたたちもお腹が空いたら、私のところに取りに来てね?」


「ありがとな。俺はまず、ヴィズホーンの人たちにもらった食べ物を片づけてからにするよ……」


「あははは……それもそうね。指輪の中が食べ物だらけって、なんかすっごく面白いわ」


会計を済ませたあと、俺はもう上には戻らないことにした。


マリーナと一緒に店の前でほかのみんなが降りてくるのを待ちながら、その間に指輪から食べ物をいくつか取り出して、俺たちの“朝ごはん"にした。


……


いや、夜食って言うべきか。


とにかく、任務開始の十三分前には、残りのみんなも次々と下へ降りてきて、俺たちと合流した。


そのあと、俺たちは一緒にヴィズホーンの本部へ向かった。


——————


「夜のヴィズホーンって、こんなに静かなんだな……」


今の時刻は、もう午後十一時五十四分。


ヴィズホーンの通りでは、まだ営業している店は数えるほどしかなく、道を歩く人の姿もほとんど見当たらなかった。


「ふぅ~。海が近いから、風も少し潮の匂いがするね。夜の海風って気持ちいい~」


「そういえば……華恋、なんかまだ結構元気じゃないか?海辺で遊んでた時に、少し寝てたからか?」


「別にそんなに元気ってわけじゃないよ。ただ、慣れてるだけ。ふあぁ……できることなら、あと三十分くらい寝たかったな……」


「雪狐小隊にいた頃も、そんなに睡眠時間が短かったのか?」


「うん。ひどい時なんて、一時間しか寝られないこともあったよ。そのせいで、作戦中によく頭痛がしてた」


雪狐小隊にいた頃の華恋も、かなり大変だったんだな。


そんな雑談をしているうちに、俺たちはあっという間に本部ビルの前までやって来た。


     ◇


「童話小隊、ただいま到着しました……」


「いらっしゃい、いらっしゃ~い!みんな時間通りに来てくれて偉いよ!こんばんは、時間厳守のオペレーターのみんな!」


ニコさんは俺たちに挨拶すると、会議室からあの巨大なアンテナを持ってきて、俺に手渡した。


「指輪の中、食べ物だらけでもうアンテナが入らないんだよな……まあいいか。俺が背負っていくよ」


おっと。


結構重いな。


そういえば、さっきニコさん、このアンテナを片手で持ち上げて渡してきたような……


どうやら、この人も只者じゃないらしい。


「気をつけてね?そのアンテナ、見た目からしてかなり重そうだし。そうだ!“あなたは重い物を楽に持ち上げられるようになる”」


「あはっ!やっぱりリリスの『言霊』は最高だな」


リリスの『言霊』が効き始めると、俺もそのアンテナを楽々と背負ったまま、自由に歩き回れるようになった。


本当に助かる。


「それが資料に書いてあった『言霊』なんだ……?すっごいね」


「ええ。これが、私たちバンシー族なら誰でも持っている特殊なスキルよ。そういえば、ママとシリカは?」


「さっき先に戻って休んでもらったよ。途中で会わなかった?」


「会わなかったわ。ちょうどすれ違ったのかしら?」


「かもね~。六時間後には、二人も一緒にみんなの任務を支援する予定だよ。その時はマリアン姉もそばで二人をサポートするから。でも、それまではしばらくアタシがみんなを支援するね。よろしく~!」


俺たちの初任務、なんだか賑やかになりそうだな。


どうやらこの機会に、二人の新人ハンドラーにも実地で経験を積ませるつもりらしい。


「それじゃあ、童話小隊のみんな。これがEarth-001へ向かうための転移リングだよ。これからは、この指輪を使って直接Earth-001へ転移して任務を遂行できるようになるからね。向こうに着いたら、ちゃんと迎えの人がいるよ」


「了解。それじゃあ、行ってきます」


「アタシは画面越しに、みんなの周囲の状況を監視してるからね。無事に任務を終えられるよう祈ってるよ。いってらっしゃ~い!」


俺はニコさんから追加で渡された金色の指輪を装着し、オペレーターマニュアルに書いてあった通りに魔力を流し込んでみた。


すると、俺たちの目の前に淡い青色の転移門が現れた。


——————


転移門をくぐると、俺たちは小さな部屋の中へ出た。


部屋に置かれたソファには、スーツ姿の人たちが何人か座っている。


そして、その中には姫川さんの姿もあった。


「一日ぶりですね、童話小隊の皆さん。こんにちは」


「姫川さん……?ここはどこなんですか?それに、この人たちは……?」


「ん?ニコから聞いてないんですか?ここは首相官邸の中にある、私たちが転移に使うための専用室です。この方たちは、異世界の存在を知っている政府関係者の方々なので、そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ」


……???


何それ?


「ニコさんが、向こうに着いたら迎えの人がいるって言ってたんですけど……その人って姫川さんなんですか?」


「まあ、そういうことになりますね。実は私も、オペレーター小隊が調査に来ることを父に伝えるために寄っただけなんです。このあと私たちも別の小隊と一緒にノヴァリスへ向かって、空間置換に巻き込まれた人たちを救助しないといけませんから。皆さんと合流したあとは、私もヴィズホーンへ戻って準備をする予定です」


「お……おお……」


政府関係者たちを前にしたせいで緊張してしまい、俺の言葉までだんだんしどろもどろになってきた。


するとその時、人当たりのよさそうな中年の政府関係者が、俺たちに声をかけてきた。


「皆さん、こんにちは。防衛大臣の新堂真司です。これから我が国の軍が、皆さんを任務地点までお送りします。その後の調査については、どうぞよろしくお願いいたします」


「あ……こんにちは!童話小隊隊長のエミールです。その……任務の調査、頑張ります!」


ごほっ、ごほっ!


この人も普通の人じゃないじゃん!!!


「はは、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。私のことは、そこら辺にいる普通の会社員のおじさんくらいに思ってください。さあ、送迎用の車両はもう用意してあります。私が案内しましょう。姫川さん、ここから先は私に任せてください」


「うん。ありがとう、新堂おじさん」


……?


姫川さん、防衛大臣と知り合いなのか?


まあいい、まあいい。


今は眠いし、これ以上考えたくない。


どうせ聞いたところで、またとんでもない事実をぶつけられるに決まってるし、もういいや。


とにかく、姫川さんも転移門を開いて部屋をあとにすると、新堂さんは俺たちを軍用車両まで案内し、そのまま一緒に現場へ向かった。


     ◇


「……もしエスギルに侵略されていなかったら、私たちの地球もこんな感じだったのかな?」


リンは車窓から外の街並みを眺めながら、立ち並ぶ高層ビルの数々に驚いていた。


「いいえ。たぶん、この地球より技術水準はもう少し高かったと思うわ。でも……昔の地球も、たしかにこんな感じだった」


「そっか……」


そのあと、リリスは俺たちの地球が本来どんな姿だったのか、リンに話し始めた。


けれど話を聞いているうちに、リンも黙って俯いてしまった。


「失礼。差し支えなければお聞きしたいのですが、皆さんの地球には何があったのでしょうか?」


「はい……Earth-003は、異世界からの侵略で滅びました。でも、【群星の守護者】の力を借りて、今は俺たちも故郷の復興を進めています」


「そうでしたか……申し訳ありません。聞くべきではないことを聞いてしまいましたね。任務が終わったあと、もし時間に余裕があれば、ぜひこちらも観光していってください。ああ……見えてきました。あそこが皆さんの任務地点です」


新堂さんが窓の外を指差し、俺たちもその先に目を向けると、そこにはひどく荒廃した巨大な街が見えた。


けれど、その街は東京都心部の中で、あまりにも異質な存在感を放っていた。


いやいや、これ、任務説明で見た時より街が大きくなってないか!?


「新堂さん、この間にあの街で何か変化はありましたか?たとえば……中から人や怪物が出てきたとか」


「いいえ、何もありません。今もあの泡のようなものに包まれたままで、まったく動きは見られません」


「情報ありがとうございます。それならよかった……俺たちが休んでいる間に、また何か変化が起きていたらどうしようかと思ってました」


それでも、俺は目の前の街への警戒を解くことができなかった。


あれがここに現れた以上、必ず()()()()()()()があるはずだ。


でも……


あの街がここへ転移してきてから、すでに八時間も経っている。


それなのに、今まで何の反応もない?


見ているだけで、なんだか背筋が寒くなる……


「到着しました」


「みんな、まずはオペレーター専用タブレットとレコーダーを装着しよう」


「「「「「「了解」」」」」」


街の入口前には、ライフルを手にした大勢の兵士が駐留しており、近くには戦車まで数両配置されていた。


うわぁ……


もし中から魔物が飛び出してきたら、本気でここで迎撃するつもりなんだな。


ん……?


その時、俺は現場に並んでいるテントの中に、一つだけ色の違うものがあることに気づいた。


白を基調に金の縁取りが施された立派なテントは、軍用テントの中でもひときわ目立っていて、みんなも自然とそちらへ視線を向けていた。


「新堂さん、どうしてあのテントだけ色が違うんですか?」


「おや、ご存じありませんでしたか?あれは【群星の守護者】から支援に来ている医療小隊のテントですよ」


「えええっ!?あれ、先輩たちのテントだったんですか?俺たち、先に挨拶しに行ってもいいですか?」


「もちろん構いませんよ。私が案内しましょう。ただ……あの小隊の隊長さんは、少し人見知りのようでしてね……」


新堂さんは少し傷ついたような表情を浮かべた。


どうやら、その小隊長さんに怖がられてしまったらしく、かなり心を傷つけられたみたいだ。


はははは……


人見知りの先輩か。


会うのが楽しみだな。


     ◇


「メルさん、後輩たちを連れてきましたよ」


「先輩、こんにちは!童話小隊隊長のエミールです。これから俺たちは異常区域に入って調査を行います。よろしくお願いします!」


「えええっ、先輩!?わ、私なんかにも後輩ができたんですか?あ……あなたたち、こんにちは。澄祈小隊の隊長です。私のことは、そのままメルって呼んでください……」


修道女服を着た、目の下にひどい隈のある女性は、俺たちと新堂さんがテントの中へ顔を覗かせた瞬間、驚いた子猫みたいに椅子から飛び上がった。


それからようやく背中を丸めたまま、小さな声で俺たちに挨拶してくれた。


ちょっと待って……


なんで少しずつテントの隅へ這っていってるんだ……


壁際に生息する謎の生き物かよ!?


メルさんは、本当にかなりの人見知りだ。


緊張しすぎているせいなのか、一度も俺と目を合わせてくれなかった。


こんなことを言うのは少し失礼だけど、先輩のこの様子……


なんだかちょっと面白いな。


「メル、何度言ったら分かるんだ?人に挨拶する時くらい、ちゃんと相手の顔を見ないとダメだろ?」


「この性格を直そうと思ったら、まだまだ時間がかかりそうね」


「ああ。君たち、こんにちは。俺は澄祈小隊のケイラン。こっちの灰色の髪の女性がアリーナだ」


ぼさぼさの金髪をしたケイランさんが、声を聞きつけて顔を覗かせた。


その後ろからついてきたアリーナさんもテントへ入ってくると、その隙に隠れてしまったメルさんを見て、呆れたように何度も首を振った。


「お二人とも、こんにちは!」


二人もメルさんと同じように、修道女や修道士の服を着ている。


どうやら、この小隊は異世界の信徒たちで構成されているみたいだ。


ただ、社交性に関して言えば、隊長のメルさんより二人のほうがずっと高そうだった。


「うんうん~、元気のいい返事でよろしい!でも、任務中は気をつけてね?もし怪我をしたら、いつでも私たちのところに来ていいから。ちゃんと治療してあげるよ」


「ありがとうございます、アリーナさん」


「任務中は、ちゃんとオペレーター・アリーナって呼んでね?」


「了解しました、オペレーター・アリーナ!」


「ふふ、ちょっとした冗談よ~。それじゃあ、私たちは仕事に戻るね。今朝は空間置換に巻き込まれて怪我をした人たちが大勢運ばれてきたから、治療しないといけないの。じゃあね、童話小隊のみんな~」


ほどなくして、二人は机の下に隠れていたメルさんを引っ張り出し、そのまま別の大きなテントへ戻って負傷者の治療に当たり始めた。


ほかにも小隊(仲間)がこの場所にいると分かって、俺たちもたしかに少し安心できた。


「ハンドラー・ニコ、先に現場へ到着していた澄祈小隊と合流しました。童話小隊は配置につき、いつでも調査を開始できます」


「了解。今回の任務には明確な制限時間はないよ。できるだけ早めに終わらせてくれれば大丈夫。時間配分はそっちに任せるね。必要なら、いつでも任務区域から一度離脱して休息を取って構わないよ。以上」


「よし。童話小隊、これより行動を開始する」


みんなは入口でそれぞれ【武装化】を発動すると、そのまま一緒に街へ入り、調査を開始した。


ふぅ……


行くぞ、みんな!

【設定や用語の概要】

——————————

異常

異世界、あるいは【湮滅異構体】によって引き起こされる災害。

【群星の守護者】に所属する小隊は、異常が発生した後、任務を受注する形で現地へ赴き、異常の根源を解決する。


澄祈小隊

【群星の守護者】に所属する医療小隊の一つ。

小隊長はグリム公国出身のメル。

異常との衝突が発生した世界へ医療支援として派遣されることが多く、現地で治療支援を行っている。

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