第14章 出発、ヴィズホーンへ!
何度も話し合った末、俺たちは今朝早く、唯さんが設置してくれた転移装置を使い、アトラ大陸にある【群星の守護者】本部へ登録手続きに向かうことを全員一致で決めた。
昨日、唯さんは転移装置の設置を終えると、こちらに残っていた二人の奥さんを連れて、自分たちの世界へ帰っていった。
「そういえばエミール、キャロリンたちがアトラ大陸へパーティードレスを買いに行ったとき、君は一緒に行けなかったんだよな?せっかくの機会だし、彼女たちと一緒に俺たちの世界を見て回ってみないか?途中でかかる費用は全部俺が出すから、思いきり遊んでくれていいぞ」
「え?本当にいいんですか?俺たち、けっこう人数が多いですよ……?」
「大丈夫だ。君たちくらいの人数なら、数か月遊びに来たって余裕で面倒を見られる。前回、君が置いてけぼりになった分の埋め合わせだと思ってくれ。もし一日以上こっちで遊びたいなら、うちに泊まりに来てもいい。空き部屋もあるから問題ないぞ」
「うわ……ありがとうございます、唯さん!」
「はは、気にするな。前の戦いでは、俺たちも君たちに命を救われたからな」
ただ、唯さんは帰る前に、そう俺に言ってくれた。
そのあと、彼は俺に手を振り、すぐに転移門へ向かって歩いていった。
彼が言っていたのは、たぶんアイリーンがみんなのために隕石の破片を防いだことと、リンが絶望的な状況の中で『|愛と《Alice's》希望の物語』を発動した時のことだろう。
「というわけで、今日はあそこへ一泊二日で遊びに行くのはどうだ?」
「やったー!行きたい!前回はかなり慌ただしかったから、フローラさんについて王国で服を買って、それから急いでヴィズホーンへ戻って、そのまま帰ってきただけだったし」
「ヴィズホーン?それってどんな場所なんだ?」
「唯さんの領地だよ。【群星の守護者】の本部もそこにあるの。とにかく、私は先に荷物をまとめてくるね。またあとで〜」
「おお……あそこって、唯さんの領地だったのか……」
それを聞いたリンは、ものすごく興奮した様子で俺の部屋を駆け回り、最後にはほかのみんなと一緒に自分の部屋へ戻って荷物をまとめに行った。
「実は、ママも鈴奈さんに誘われているの。私たちと一緒に連れて行ってもいい?」
保護者が一緒に来ることで、俺たちが気を遣ってしまうのではないかと心配しているのだろう。
リリスは少し不安そうに見えた。
でも……
だって、相手はリリスのお母様だしな。
「もちろん問題ないよ。この旅の間に、リリスのお母様と少しでも距離を縮められたら嬉しいし、俺もお母様とは仲良くなりたいからな」
「わあ……あなた、ずいぶん打算的なことを言うのね」
「ふふん、褒め言葉として受け取っておくよ〜」
「それじゃあ、私も荷物をまとめてくる」
リリスは俺の部屋を出ていったかと思うと、次の瞬間にはまたドアの隙間から顔を覗かせた。
「どうした?まだ何かあるのか?」
「何でもない。ただ……あにゃたと一緒に旅行するの、すごく楽しみにしてる!じゃあ!」
あ、噛んだ。
時々、リリスはこうして慌てた一面を見せてくるから、俺の心臓に悪い。
——————
「みんな、荷物はちゃんと持ったか?」
「ちゃんと持ちましたよ、旦那様」
「マリーナ、俺たちはまだ結婚してないぞ?」
まったく……
マリーナもアイリーンの影響を受けたのか、最近は俺との結婚話で冗談を言うのが好きになってきたらしい。
……
それとも、冗談じゃないのか?
待て。
結局どっちなんだ!?
「異世界か……どんな場所なのか楽しみだな」
「きっと驚くと思います。保証します」
「おお?リヤまでそう思うのか?」
「ええ。私もあの時は、その場で固まってしまいましたから」
リヤがそう言うなら、かなり期待していいはずだ。
どんどん楽しみになってきた……
「ところで、この機械ってどうやって起動するんだ?」
隣では、コルベスさんが困惑した様子で目の前の転移装置を見つめていた。
水晶の球さんと星の銀貨さんも同じように、三人でその装置をあれこれいじっている。
「えっと……皆さん、少しお待ちください。昨夜、鈴奈さんからいただいた使用マニュアルを確認しますので……」
静さんは、見たことのない装置に触れられるのが嬉しいのか、かなり興味津々の様子だった。
彼女はマニュアルを開き、しばらく細かく目を通したあと、そこに書かれている指示に従って装置のボタンを操作した。
「このレバーを下ろして、そのあとこのボタンを押す……あ、できました、できましたよ!」
ヴン――
唯さんが開いたものとまったく同じ、淡い青い光を帯びた通路が、俺たちの目の前に開いた。
「すごい!これって、完全に装置型の『空間転移』じゃないですか!」
「これが、魔法と科学を併用した文明の結晶……」
アイヴィさんとリリスのお母様も、目の前の装置を見て、思わず目を見開いていた。
「それじゃあ、私が先に行きますね!」
ユリは自分の好奇心を抑えきれなかったらしく、俺たちより先に転移門の中へ駆け込んでいった。
「待って!はぁ……本当に一人で走っていっちゃった。ユリは昔から変わらないですね……」
「でも、研究室にああいう活発な人がいて、空気を明るくしてくれたからこそ、私たちは【編織者システム】が完成する日まで頑張れたんですけどね」
静さんは心配する保護者のようにため息をつき、それを見たリリスも隣で苦笑していた。
鈴奈さんは静さんとユリにも、研究所の見学を兼ねた技術交流を持ちかけていたため、静さんとユリも俺たちと一緒に同行することになっている。
「うう……緊張するなぁ……アイリーンは緊張しないの?」
「私は一度行ったことがあるからね。一昨日、私たちは服装の都合で、あっちの王国までパーティードレスを買いに行ったんだよ。心配しないで、シリカ。あそこに怖いものは特にないから。ただ、驚くものなら、逆にそこら中にあるけど」
「驚くもの……ですか?それはいい意味っぽいですね」
「ふふ、実際にヴィズホーンの街を歩けば分かるよ。すごいから」
異世界侵略の間、シリカは【アーク】の上で、俺たちの小隊専属のハンドラーとしてずっと頑張ってくれていた。
俺たち一行が異世界へ向かったあとは、彼女は現場指揮の大役を引き受け、手が回らなくなっていた静さんの代わりに、都市修復の現場で皆に指示を出していた。
静さんは彼女の才能を見ていたからこそ、昨日、鈴奈さんにシリカをハンドラーとして推薦したのだ。
もちろん、当の本人はその話を聞いて恐縮し、しばらく落ち着かない様子だった。
その知らせを受けた瞬間、彼女は嬉しそうにアイリーンの手を取り、これからも俺たちを支えられるのだと話していた。
「それでは、行きましょう」
静さんが転移門へ足を踏み入れると、皆も次々と彼女の後ろに続き、異世界へ向かっていった。
行くぞ、ヴィズホーン!
◇
転移門を抜けると、真っ先に潮の香りが押し寄せてきた。
俺たち一行は今、人でごった返す広い建物の中にいる。
それだけじゃない。
俺たちが出てきた転移門の周囲には、ほかの世界へ通じる転移門も並んでおり、見渡しただけでも七つはあった……
ここでは多くの人々が行き交い、ほかの転移門からも新しい客が絶えず訪れ、また去っていく。
俺たちがまだ物珍しそうに辺りをきょろきょろ見回していると、傍らにピンク色の小さなイルカを浮かべた、オレンジ色の髪をサイドポニーテールにした女性がこちらへ歩いてきた。
「皆さん、アトラ大陸へようこそ。ここはヴィズホーン。さまざまな種族と世界の人々が集まり、交易を行う海辺の町です。私はマリアン。唯のやつ……こほん、唯に頼まれて案内に来たハンドラーです。こちらは私の相棒、ミリーです」
スーツジャケットを羽織った彼女は、まず俺たちに自己紹介をし、最後に隣のミリーを軽く撫でた。
すると、ミリーは嬉しそうにこくこくとうなずいた。
……待て。
今、この人、危うく“やつ”って言いかけなかったか?
「皆さんのお仲間は、すでに外でお待ちです。こちらへどうぞ。ここは転移プラットフォームです。初めてここへ来られた方は、窓口で登録を行う必要があります。その後、職員から通行証が一枚渡されます。次回以降は、改札に来た時、そのカードを機械にかざすだけで、転移プラットフォームへ自由に出入りできるようになります」
ピッ――
俺たち一人一人の登録を済ませたあと、マリアンさんは首から下げていたカードを改札にかざした。
すると、改札の扉が開いた。
嘘だろ?
これ、完全に駅の改札じゃないか!
唯さん、自分の領地に現代技術をそのまま持ち込んで使ってるのかよ。さすがにやりたい放題すぎる……
「やっと来た!静、ここには私たちが見たことのある現代技術がいっぱいあるよ!全然、小説に出てくる異世界っぽくない!」
俺たちが入口まで来たところで、ようやくユリがこちらへ走って戻ってきた。
あの息を切らしている様子を見る限り、まるで町を一周してきたみたいだ……
「あなた、さっきどこへ行っていたんですか?」
「ちょっと町を一周してきた」
静さんの問いかけに対して、ユリはなぜか満足げな顔で親指を立てた。
本当に一周してきたのかよ!?
「あなた、少しはしゃぎすぎですよ?私たちにとっては初めての異世界なのですから、絶対に迷子にならないでくださいね?」
「やだなぁ、静。私だって三歳児じゃないんだから、迷子になるわけないでしょ〜。へっきへっき〜」
見たところ、反省している様子はまったくなかった。
でも、それも無理はない。
ずっと憧れていた異世界に来られたのなら、誰だって好奇心のままにあちこち見て回りたくなるだろう。
その気持ちは分かる。
正直、俺だって今もまだ心が落ち着いていない。
ここには珍しいもの、新しいものがそこら中にあるからだ。
さまざまな種族の人々がこの大通りを歩き、空を見上げれば、竜が飛んでいる姿さえ見える。
それなのに、誰もそれを不思議に思っていない。
これが、彼らの日常なのだ。
「それでは皆様、こちらへどうぞ。これから本部で登録を行います」
「きゅきゅ〜」
どうやらミリーも人の言葉が分かるらしい。
マリアンさんの歩調に合わせるように浮かびながら、俺たちへひれをぱたぱたと振ってくる。
その姿はまるで……俺たちをもてなしているみたいだった。
異世界というのは、本当に何でもありだな。
——————
「うわぁ……」
町の中央には巨大なランドマークのような建物があり、実際にその前まで来てみると、それがどれほど大規模なものなのかがよく分かった。
この数階建てで、外観がまるで近未来風の商業ビルのような建物こそが、【群星の守護者】の本部らしい。
中には冒険者らしき人たちが出入りしているだけでなく、白衣を着た研究者たちが忙しそうに動き回っている姿も見えた。
「一階は冒険者ギルドです。一般の冒険者の方々は、この階で依頼を受けたり、道具を揃えたりしています」
【群星の守護者】の本部に入ると、マリアンさんはまず建物の一階について説明してくれた。
一階の一番左側には、依頼が貼り出された掲示板だけでなく、道具や装備を売っている店もいくつか並んでいる。
それだけじゃない。右側には食堂まであり、見た目からして食欲をそそる料理がいろいろと売られていた。
しかも、俺はそのメニューの中にラーメンまで見つけてしまった……
あれ、まさか唯さんが持ち込んだ料理じゃないだろうな?
「オペレーターとして登録される皆さんは、冒険者ギルドに所属するわけではありませんので、二階へ向かっていただく必要があります。そこが【群星の守護者】のオフィスになります」
「さらに上は天谷研究所です。三階以上はすべて研究所の一部になっています。皆さんが一階で研究者の方々を見かけたのは、そのためですね」
なるほど。
特殊な機能を持つ施設を、一つの建物にまとめているのか。
だから下の階でも、あんなにさまざまな職業の人たちを見かけたわけだ。
人数が多いため、俺たちは結局いくつかの組に分かれ、エレベーターで二階へ向かうことになった。
「それでは静さんとユリさんは、三階へ向かってください。鈴奈がすでにエレベーター前でお待ちしています」
【群星の守護者】のオフィスへ向かう前に、マリアンさんは別のエレベーターに乗ろうとしていた二人に、わざわざそう伝えていた。
◇
チーン――
俺たちが二階に到着すると、到着を告げる音とともにエレベーターの扉が開いた。
「はいはーい、室長兼ハンドラーのエリーナです。皆さん、【群星の守護者】へようこそ!」
「ほう?」
エレベーターの扉が開くと、きちんと制服を着こなし、肩には黒い外套を羽織った金髪碧眼の女性が、俺たちを出迎えてくれた。
コルベスさんはエリーナさんに目を引かれたらしく、片眉をぴくりと上げる。
その結果、星野が慌てて肘で彼の脇腹を小突き、真面目にしろと促した。
「それでマリアン、新しい同僚が来るって聞いたけど、本当なの?新しいハンドラーはどなた?」
エリーナさんはコルベスさんから向けられた視線に気づくことなく、すぐにマリアンさんと話し始めた。
「はい、エリーナ姉。このお二人が、今後私たちハンドラー陣に加わってくださる新人です。ノクトゥナさんとシリカさんです。ラミリスから聞いた話では、将来的にもう一人、新人が加わる予定だそうです。ただ、その方は今、別件の対応中なので、今日は来られません」
マリアンさんはリリスのお母様とシリカの肩にそっと手を置き、二人をエリーナさんに紹介した。
「はじめまして、ノクトゥナと申します」
「よ……よろしくお願いします、シリカです……」
「よかった……これで私たちの仕事も、少しは楽になりそうね。最近は私たち四人だけで現場を回していたから、複数の連絡が同時に入るたびに手が回らなくなっていたのよ」
「そうですね……ニコとアマンダがいる地球は、アトラ大陸と時間が逆になっているのが幸いでした。そうでなければ、ちょうど大学生の彼女たちには、さらに負担をかけてしまうところでしたから。こほん……その話はひとまず置いておきましょう。エリーナ姉、この方々は全員、オペレーター登録に来られた新人です」
「え?本当なの?伊藤から新人が来るとは聞いていたけど、まさかこんなに大勢の新人オペレーターが来るなんて思わなかったわ」
「本当です。彼らは全員、あいつが直接スカウトしてきた人材です。ただ、皆さんの実力を私たちにも把握してもらうために、たとえ彼が直接スカウトした人材でも、テストは省略できないと言っていました」
言った!
マリアンさん、ついに“あいつ”って言った!
普通の人なら、唯さんのことをそんなふうには呼べないはずだよな……
もしかすると、マリアンさんもただ者ではないのかもしれない。
「了解です〜。それでは、皆さんは私についてきてください。登録の前に、まずはこちらで簡単なテストを行わせていただきます。皆さんの戦闘能力、戦闘スタイル、生理耐性、そして身体能力を確認したいんです。これはすべて、今後こちらで皆さんに適した任務を正しく判断するために必要な手続きです。それから、新人ハンドラーのお二人には、マリアンがテストと説明を行いますので、お二人は本部に残っていてください」
「はい」
「わ……分かりました!」
シリカはまだかなり緊張している様子だった。
早く慣れてくれるといいんだけど……
◇
俺たちは更衣室で【群星の守護者】から支給された白い長袖の訓練服に着替えたあと、エリーナさんに連れられ、転移装置のような機械の上に立ち、とある山中の開けた場所へ転移した。
彼女の話によると、ここは魔王城――つまり、現在は魔王リリカが統治している町の裏手にあるらしい。
ただ、彼女はよく唯さんと一緒に任務へ出ているため、実際の国政は基本的に前魔王様が代行しているそうだ。
以前、その前魔王様は、唯さんから本部が新人の実力を測るため、周囲に人のいない場所を必要としていると聞き、この山中の一角を試験場として【群星の守護者】に提供することを提案したそうだ。
……別に文句を言うつもりはないんだけど。
なんか唯さん、ここではかなり顔が広くないか?
まあいい。
話がそれた。
テストの内容も単純で、俺たちはエリーナさんの指示に従い、試験場の周りを何周か走ったり、やたらと硬い訓練用の人形を攻撃してみたり、自分の特技を見せたりするだけだった。
普通の体力測定とあまり変わらない気がする。
テストが終わると、エリーナさんはまず俺たちを本部内のシャワールームへ戻し、汗を流させてから、オペレーター規則の手引きを配って読ませた。
オペレーター許可証が発行されれば、俺たちは正式に彼らの一員になる。
「はい、こちらが皆さんのオペレーター許可証です。私たちは日常生活の中で、自分がオペレーターであることを常に示すよう義務づけているわけではありません。ただし、任務を遂行する際は、必ず許可証を他人から見える位置に身につけるようにしてくださいね?」
エリーナさんは俺たち一人一人に許可証を配りながら、そう注意してくれた。
「それから、こちらは付与魔法が施された指輪です。『収納空間』と『通信』の機能が付いているので、日常生活や任務中に荷物を収納しておくことができますし、いつでも本部と連絡を取ることもできます。これは、私たちからオペレーターの皆さんへの、ちょっとした日常補助のようなものです。どうぞ受け取ってください」
マリアンさんも、深い青色の指輪が入った袋を手に戻ってきた。
ん……?
「マリアンさん、どうしてあなたの指輪は俺たちのものと色が違うんですか?」
彼女の手には、深い青と銀色が混ざり合った同じ型の指輪がはめられており、ほんのりと高級感を漂わせていた。
まさか、マリアンさんって実はかなり偉い立場の人なのか?
「ああ、これですか?本来、ハンドラー専用の指輪は銀色なんです。でも、私もオペレーター試験を受けたことがあって、オペレーター許可証も持っているので、唯に頼んで、青と銀が混ざり合った専用の指輪を作ってもらったんです。ふふん、きれいでしょう?この指輪、世界に一つしかないんですよ!」
そう言って、彼女は誇らしげに手を上げ、俺たちにその指輪を見せびらかした。
なるほど。
普通のものどころか、エリーナさんがつけているハンドラー用とも違って見えるわけだ。
「うわ……まさか先輩だったなんて!失礼しました……」
「ハンドラーが私の本職なので、人手が足りない時や緊急事態が起きた時だけ、臨時オペレーターとして任務に参加しているんです。だから、あなたたちの先輩というほどではありませんよ。それに、聞いてくださいよ……」
「何をですか?」
「半年前、私がうっかりオペレーター許可証なんて取ったせいで、唯のやつに機械文明の異世界へ直接放り込まれて、仕事をさせられたんです!あああ、あの時、勢いでオペレーター許可証なんて取らなければよかった……」
「え……え?」
どうやら俺は、うっかり何かのスイッチを押してしまったらしい。マリアンさんは話しているうちに、そのまま俺に愚痴をこぼし始めた。
「“君のオペレーターとしての実力には期待してるよ!異常を見つけたら、またこっちに報告してくれよ。じゃあな〜”とか言って、私を一人でそこに置いていったんです。しかも一番腹が立つのは、あいつ、転移用の指輪を渡し忘れたんですよ!結局、私は一人でその世界に残されて、あいつが気づいた頃には、もう何か月も経ってたんですからあああ!!!」
「マ……マリアンさん、とりあえず少し落ち着いたほうが……」
「あああ!あいつ……だめです。話せば話すほど腹が立ってきました。今からあいつのところへ行って、この件を改めて清算してきます!絶対に追加でボーナスを払わせてやります!これはあいつの借りですから!」
そう言い終えるなり、彼女はオフィスから走り出ていってしまった。
まずい。
俺、何かやらかしたんじゃないか?
「エリーナさん、これって本当に大丈夫なんですか?」
「あははは……もう見慣れた光景よ。彼女はもともと伊藤とかなり仲がいいし、ナセフィンとは学生時代からの親友でもあるから、よく伊藤とああやってじゃれ合っているの。二人の関係を一言で表すなら、たぶん悪友みたいな感じかしら」
分かった。
俺とコリンみたいな関係だ。
どうりで、どこか親近感があると思った。
「皆さん。このオペレーター許可証は、ただの身分証明ではなく、一つの責任の象徴でもあります。皆さんは自分の行動に責任を持ち、全力で最善を尽くさなければなりません。活動中は、自分に恥じない選択と行動を取ることを、どうか忘れないでください」
俺たち全員が指輪とオペレーター許可証を身につけたことを確認すると、エリーナさんは改めてそう念を押した。
「それから、帰ったら自分たちの小隊名を考えておいてください。次に正式な任務へ出る時に、私に教えてくれれば大丈夫です」
「はい!」
新しい身分。
新しい生活。
これからも、みんなと一緒に頑張っていこう。
ただ、小隊の名前か……
ふふ、実はもう、とっくに決めてある。




