第8章 もはや戦いの終わりは見えず
「唯さん、アンナにもう少しだけ速く飛んでもらうことはできませんか?」
「アンナはすでに全速力で戻ってくれている。君が彼女たちを心配しているのは分かっているし、俺もイヴのことが心配だ。今の俺たちにできるのは、彼女たちを信じることだけだよ」
「はぁ……」
アンナは聖竜の姿となり、俺たち全員を背に乗せて、全速力で村へ向かっている。
もうずいぶん長い間飛び続けている気がするけど、そろそろ着くのだろうか……
リヤ、アイリーン、マリー、マナ、それに華恋……
どうか、皆無事でいてくれ。
「そろそろ村が見えてくるはずだけど……ん?ラミ、あそこを見てくれ!」
「うわっ!あのゴーレム、何なの!?」
遥か遠くの地平線上では、一体の土の巨人が、途方もない巨体のベヒモスと肉弾戦を繰り広げていた。
その周囲には、色とりどりの魔法が何度も飛来し、土の巨人がベヒモスを抑え込むのを援護していた。
「もしかして……!ピクシー一族は大自然と共鳴し、短時間だけ自然を操って攻撃できると聞いたことがあります。あの巨人は、アクィーナさんとピクシーたちが力を合わせて創り出したものなのでしょうか……?」
「たぶん、彼女たちが創り出したんだろうね。出発する前、アクィーナさんが胸を張って言っていたんだよ。たとえ私たちがいなくても、ピクシー族は自分たちと村を守る方法くらい考えるって。どうやら、あれが彼女たちの切り札みたいだね」
リリスはふとピクシー一族に関する情報を思い出し、ラミリスも何かを思い出したように視線を落とし、出発前のことを振り返った。
「皆さん、準備してください。これから私たちは、三体の超大型原初魔獣と交戦することになります……と言いたいところですが、どうして現場にはベヒモス一体しか残っていないのでしょうか?あちらで燃えているのは……モンテセイズィア!?」
ナセフィンが目を凝らすと、ベヒモスのそばで、三匹の小さな炎狼に噛みつかれながら、地面に倒れて痙攣している植物の魔獣がいることに気づいた。
ん?
もしかして、彼女たちはすでに一体を仕留め、もう一体もここまで追い詰めたのか?
「誰がやったのかは分からないけど、間違いなく朗報だ!アンナ、俺たちが降りたら、君は先に休んでくれ。連戦と長距離飛行、本当にお疲れ様」
「うん。でも、大丈夫?」
「戦況はそこまで悪くなさそうだ。俺たちなら対応できる」
「分かった」
アンナは唯さんの方を一度振り返ると、高度を下げながらさらに加速した。
◇
「ひゃああああああ!!!」
アイリーンは、空から静かに自分のそばまで近づいていたアンナに気づいていなかった。
その結果、彼女はアンナの存在に気づいた瞬間、飛び上がるほど驚いただけでなく、そのまま地面にへたり込み、ぶるぶると震えてしまった。
「「「「「「「……!?」」」」」」」
「待って待って待って!あれはアンナだから、攻撃しないで!」
戦いに集中していた他の人たちは、アイリーンの悲鳴を聞いた途端、何人かが驚いてアンナへ向けて魔法を詠唱し始めた。
その時、イヴは慌てて両手を振りながら前線から戻ってきて、聖竜形態のアンナと怯えた人々の間に入り、彼らを落ち着かせようとした。
「眷属は全部あたしに任せなさい。クロエ、モンテセイズィアの本体を探し出してちょうだい」
「問題ありません」
クロエは狙撃銃を担ぎ、魔王リリカと共に一足先に前線へ向かい、支援に入った。
そのおかげで、前衛に立ち、押し寄せる魔獣の群れに押し潰されそうになっていた戦士たちは、ようやく胸を撫で下ろすことができた。
緊張の糸が切れた途端、皆はそのまま地面に膝をついてしまった。
あ、向こうでは思わず泣き出してしまった人も何人かいるみたいだ……
「よかった!私たちはやり遂げたんだ!皆、援軍が到着したよ!」
「「「「「「「おおおおお!」」」」」」」
アイヴィさんをはじめ、戦いに疲れ果てていた人たちは、ようやく一息つくことができた。
彼らは歓声を上げ、援軍の到着を喜んでいた。
これまで、唯さんとその奥さんたちは、ずっとこういう歓声を浴びてきたのだろうか?
この感じ、悪くないな……
「疲れたぁ……アタシ、もう動きたくない……」
「ふふ、“狂犬”さんにも体力が尽きる日があるんだね?」
「うるさい、千夏!あれだけの怪物と戦って、疲れないわけないでしょ!これ、エスギルと戦った時よりきついんだけど……」
日向と星野の二人は両手を広げ、草地の上に並んで寝転がっていた。
本当に疲れ切っているように見える。
「皆、怪我はないか?華……華恋、背中が……!」
「あははは、さっき加速老化の光線をうっかり背中に受けちゃって……」
それでも、華恋は俺を安心させようと、必死に笑みを作っていた。
あの姿を見ていると、胸が痛くなる。
「そもそも、彼女は私を助けるためにそうなってしまったのです。私が一瞬、戦場で呆然としてしまったせいで……」
「セレイア、私はあなたを責めていません。エミールの真似をして人を助けようとした結果、『超再生』が発動しなかっただけですから……」
リヤは息を切らしながら、そばの地面に座り込んでいた。
その顔には、罪悪感が滲んでいる。
「でも、私のせいであなたが怪我を……」
「もう、気にしないでください」
華恋の背中を見ているだけで、俺の心まで冷たくなるようだった。
とにかく、まずは華恋を治してもらわないと。
「フローラさん、彼女たちの治療をお願いできますか?お願いします!」
「慌てないでください。今すぐ治療します。はぁ……あまりにも凄惨ですね……」
イヴと一緒に前線へ来たらしい志願者たちも、ひどい状態だった。
頭から血を流している人もいれば、身体の一部を失っている人もいる。
きっと、俺たちが必ず駆けつけると信じていたからこそ、彼らは痛みに耐えながら、必死に戦い続けてくれていたのだろう。
「『広域化』、『浄化』、『上級治癒』!」
「……!」
華恋の背中を覆っていた皺が、みるみるうちに消えていった。
最後には、彼女の肌は元の状態へと戻り、痛みももうなさそうに見える。
他の人たちの傷も、急速に癒えていった。
『復元』のように、失われた身体の部位までは元通りにすることはできない。
それでも、少なくとも彼らの身体に残っていた傷口は、すべて塞がっていた。
「ふぅ……ありがとうございます、フローラさん。私も今すぐ戦線に戻り……」
リヤはリンに支えられながら、ゆっくりと立ち上がった。
「セレイア、残りはアタシたちに任せな」
「……頼みます、シェラさん」
リヤは再び戦いに加わろうとしたが、すぐにシェラさんに止められ、きちんと休むよう命じられてしまった。
疲れ切っていた彼女は、シェラさんの言葉に甘えるしかなかった。
「同じ小隊なんだから、頼むも何もないだろ。あんたたちはよくやった。少し休んでな。それにしても、この人数で三体の原初魔獣を真正面から止めるなんて、なかなか度胸あるじゃないか?」
「何もしないまま村に残っていても、死を待つだけでしたから。だから皆、イヴの指示に従って、賭けに出たんです」
その後、シェラさんも戦闘に加わり、残りの【群星の守護者】と共に最前線へ立ち、この戦いを終わらせるために動き出した。
「ねえ、唯!私、かなり頑張ったよね?ご褒美ちょうだい!」
「かなりどころじゃない。ものすごくよくやってくれた。後でちゃんと労うから、少しだけ待っていてくれ。それと、今回の君の活躍を鈴奈に話してもいいかな?」
「えへへへ……そんなことしたら、鈴奈、次の任務も一緒に連れていけって絶対に騒ぐよ」
「よく分かっているね?」
「だって、私たちは母娘だもん~」
「それもそうだね。皆と一緒に休んでいてくれ。俺たちはすぐ戻る。クロエがもうモンテセイズィア本体の痕跡を見つけたみたいだ」
唯さんはイヴを強く抱きしめた後、彼女の熱のこもった視線に見送られながら、クロエの呼びかけに応じてその場を離れていった。
続けて、彼らはマリーの全力攻撃を受け、全身を炎に包まれた植物の魔獣と、その本体である蔓のトカゲを相手に、激しい戦いを繰り広げた。
そうだ……!
中でも、俺を一番驚かせたのは、大きく姿を変えていたマリーだった。
彼女はいつの間にかオッドアイになっていて、髪の一部の毛先にも、ほんの少しだけ赤色が混じっていた。
「マリー、君……どうしたんだ?」
「実は……私とマナは、色々あった後で、人格がもう一度一つに戻ったの」
「……?マナは?まさか、消えたのか?」
「悲しい?」
「当たり前だろ。君だけじゃない。俺はマナのことも好きなんだから」
「ふふ……そっか……」
マリーはそれを聞くと、嬉しそうに笑った。
どうして?
「安心して。私たち二人とも消えてないよ。ただ、もう一度一つの存在に戻っただけ。それと……ありがとう」
「えっと……まだ少し状況が飲み込めていないけど、君たち二人とも無事なんだよな?」
「うん。それと、さっき色々あったから、これからは私のことをマリーナって呼んで。私たち二人の人格が統合された後で決めた、新しい名前なの」
「そうなのか……?君が無事でいてくれて安心したよ、マリーナ」
「うん!」
俺たちが隊を離れている間に、ここではこれほど色々なことが起きていたのか……
ドォォン――!
巨大な岩がベヒモスへ投げつけられ、その巨体をそのまま後ろへ倒れ込ませた。
「私が押さえ込みます!今のうちに、とどめを!」
土の巨人はそれを見るや、自らの重量でベヒモスを地面へ押さえつけ、他の人たちに攻撃の機会を作り出した。
けれど、この声は……
「え……?ママ?ママなのですか!?」
聞き覚えのある声に、リリスは思わず目を見開き、目の前の巨人を見上げた。
あの土の巨人を操っていたのは、リリスのお母様だったのか?
どうりで、俺たちが戻ってきてから、時々こちらを振り返っていたわけだ……
自分の娘が無事に帰ってきたのを見て、どうしても安否を確かめたくなっていたのだろう。
リリスの呼びかけを聞いた彼女は、ただ無言でうなずいた。
どうやらリリスのお母様は、まだリリスと向き合う心の準備ができていないようだ。
けれど、何はともあれ、リリスのお母様は生きていた。
今もこうして俺たちと同じ戦線に立ち、共に戦ってくれている。
その事実はリリスの心を大きく奮い立たせ、彼女の瞳にも光を宿らせた。
よかったね、リリス。
「エミール、キャロリン、彼女を手伝ってください!私があなたたちを支援します!」
「目標はベヒモスか?いいよ。俺はいつでも行ける」
「私もとっくに準備できてるよ☆」
「“世界の名において、あなたたちに大地を踏み砕く双脚と、敵を粉砕する鉄拳を授けます”!」
おおおお!
力が、次々と湧き上がってくる!
黒冠を得てから、リリスが俺たちにもたらす支援は、以前とは比べものにならないほど強力になっていた。
「行きなさい、私の誇るべき生徒たち」
「「はい!」」
周囲の景色が、凄まじい勢いで俺たちの後ろへ流れていく。
今度の俺は、リンのスキルに頼って敵の前へ移動したわけではない。
自分自身の両脚で、一瞬のうちにベヒモスの前まで辿り着いた。
「ダーリン、もう一曲、私と踊ってくれる?」
「光栄です、お嬢様」
「ふふ、もっと華やかな二人舞にしようね!これは私がさっき編み出した新スキル!『時間魔法・夢境定格』、『幻光砲撃』、それから……『光魔法・屈折』!」
ベヒモスは、大きく口を開けたその瞬間のまま静止した。
その後、リンの砲撃は光で作られたガラス片に触れるたびに屈折し、ベヒモスの頭部周辺で何度も軌道を変えていった。
あれは、クロエが使っていた屈折結晶から着想を得て、リンなりに発展させた新スキルだった。
「おい!それ、どう見てもパクリだろ!?」
「参考にしただけだよ!クロエは結晶を投げて屈折させる必要があるけど、私は『光魔法』で結晶を作って屈折させてるの!本質的に違うから!」
「概念をすり替えるな!」
「グオオオオオオオオオオオオ――!」
「「あ……」」
俺たち二人が冗談のように言い合っている間に、ベヒモスにかかっていた時間魔法が解除されてしまった。
魔法が解除された瞬間、ベヒモスは『幻光砲撃』によって頭部の各所に刻み込まれた傷の痛みを、一気に感じたようだ。
ベヒモスは耳をつんざくような怪叫を上げ、怒りに任せて、自分を押さえ込んでいた土の巨人を突き飛ばした。
「ダーリン、早く行って!これ以上ふざけていたら、あいつがまた起き上がっちゃうよ」
「それもそうだな。『羽毛の抱擁』、『生命の支配者』!」
温かな光が、糸のように地面からゆっくりと湧き上がり、俺の周囲へ集まっていく。
そして最後には、俺の身体の中へ溶け込んでいった。
ここも地球での戦いの時と同じように、かつて多くの人々が、この大地の上で無念を抱えながら死んでいった場所なのだろう。
今、彼らの感情と執念が力となって俺の身体へ流れ込み、次の一撃を放つために俺を支えてくれている。
「俺の物語を感じろ。それをお前の力に変え、未来を切り開け」
カエル王子の幻影が不意に俺のそばへ現れ、俺の肩を軽く叩きながら、静かにそう囁いた。
「うん。君の物語で、俺は新しい可能性をこの手で切り開く!『審判の暴風雨』!」
――彼の過去を、彼の歩んできた道を、暴風雨として降り注がせる!
大剣による斬撃が、絶え間なくベヒモスの頭部へ降り注いだ。
呪われた王が自ら敵を裁くその一撃一撃は、骨の髄まで届くほど深く、致命的だった。
皮肉なことに、その時、俺の振るう大剣はあまりにも軽やかで、彼の重すぎる過去とは強烈な対比を成していた。
「はあああああああっ!」
「ギャオオオオオオオオオオオッ――!」
「これで、最後だ!」
無数の連撃を叩き込んだ後、俺は剣先に光をまとわせ、起き上がろうとしていたベヒモスの首筋へ振り下ろした。
その一撃で首を断ち落とし、咆哮すら上げさせることなく、ベヒモスをその場で絶命させた。
まさか、こんな超大型の怪物まで、大剣一本で討伐できるなんて……
カエル王子の剣技は、やっぱり伊達じゃないな……
「ふぅ……」
「わお?新しいスキル、なかなか格好いいじゃん?」
「新しいスキルというより、これはカエル王子が生涯をかけて磨き上げた剣術なのかもしれないな」
分からない。
ただ、俺にはそんな気がしただけだ。
自らの手で敵を裁くために、生涯をかけて練り上げられた剣術。
「二人とも、早く避けろ!」
「「……!」」
「――美味い――食べ物――!食う!」
さっきまで、あの異様な姿をした蔓のトカゲと交戦していた唯さんが、焦った様子で俺たち二人に向かって叫んだ。
どうやらそいつは俺を標的に定めたらしく、奇妙な唸り声を上げながら、死角から凄まじい速度で襲いかかってくる。
まずい!
一瞬、気が緩んでいた!
俺が避けたら、リンが正面から襲われる。
「“跪きなさい”!誰が私の生徒に手を出していいと言いましたか?」
その瞬間、そいつはまるで途方もない重圧を浴びたかのように地面へ叩き伏せられ、身動き一つ取れなくなった。
俺たち二人が危機に陥ったことに気づいたリリスが、すぐに支援に入ってくれたのだ。
「おっと、そんなに急ぐなよ、モンテセイズィア。そろそろ退場の時間だ」
モンテセイズィアのそばまで駆けつけた唯さんは、淡々と異空間から黒い拳銃を取り出した。
そして蔓のトカゲの頭部へ向けて引き金を引き、その場で息の根を止めた。
「ようやく終わ――」
「残念。休めるようになるまでには、まだ少し時間がかかりそうだね」
一筋の冷や汗がリンの頬を伝い、不安が少しずつ彼女の表情に広がっていった。
ザザッ――
「ちょっと状況がまずいかも。私の『危機感知』が、さっきから警鐘を鳴らしっぱなしなの。【群星の守護者】と一緒に行動するようになってから、このスキルは一度も発動しなかったのに。よりにもよって、このタイミングで……ダーリン、意味は分かるよね?」
リンは震える手で短剣を構え、凍りついたような空気の中で、重い呼吸を繰り返していた。
次の戦いは、きっとこれまでにないほど厳しいものになるだろう……
皆が連戦で疲れ果てていた、その時。
エスギルを魔獣による大虐殺へと追い込み、あらゆる悲劇を引き起こした元凶が、笑みを浮かべながらゆっくりとこちらへ歩いてきた。
「実に見事な演目だったな、小さな英雄たち。いやぁ~、見ていたら俺まで少し、身体を動かしたくなってきたよ」
今度は、彼自身が動くつもりらしい。
【エミール – プロフィール更新】
エミール
紡がれた物語 - カエル王子(Frog Prince)
編織者スキル
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『挑発』
『超再生』
『交換』
『生命の支配者』
『呪蝕』
『審判の暴風雨』*New!
【武装化】発動条件 - 致命傷を受ける → 死と向き合う覚悟を持つこと
【武装化】スキル -『不屈の誓約(Undying Vow)』
【武装化】スキルの効果 -(致命傷を受け、復活した瞬間に限り発動可能)使用者のあらゆる身体能力を極めて大幅に向上させる。




