第14章 嵐の前触れ
「よかった……!ようやく来てくれたか!エミール、早く手伝ってくれ!ぐっ……!こいつの脚が倒壊した家に挟まれてるんだ。早く引っ張り出してくれ!俺もそろそろ限界だ!」
「助けて!痛い……脚が、脚が痛い……!」
「お願いします!スコットが……!」
カズは自分の背中で、倒壊した木の家を必死に支えていた。
その下では、一人の鱗甲族の村人が地面に倒れている。
スコットという名のその鱗甲族の村人のそばでは、一人のピクシーが焦った様子で飛び回り、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、俺たちに助けを求めて手を振っていた。
倒壊した家はスコットさんの脚を押し潰してしまったらしく、彼は苦しげな呻き声を上げ続けている。
「……!今行く!リン、彼の脚に『透過』を使えるか?左脚の周囲だけでいい」
「頑張ればできる!『透過』!」
その瞬間、スコットさんの左脚が木の家の残骸をすり抜けた。
それを確認してから、俺と華恋は彼を瓦礫の中から引っ張り出した。
「引っ張り出せたんだな?」
「ああ。もう手を離していいぞ」
「よし!」
カズは全身に冷や汗を浮かべていた。
ようやく、終わりの見えない力比べから抜け出せたのだ。
その後、彼はそのまま地面に膝をつき、荒い息を吐いた。
両手は小刻みに震えている。
どうやら、かなり長い間支え続けていたらしい。
「こいつさ……自分の女を助けるために、今にも潰れそうなこの家へ危険を承知で飛び込んだんだ。結果、女は助け出せたが、自分は下敷きになった。俺が変な音で目を覚ましてなかったら、こいつは生きたまま押し潰されてたぞ」
「……」
「礼は要らない。俺は贖罪のためにやってるだけだ。それに、お前たちが俺をどう扱えばいいのか、まだ決めかねてることも分かってる。だから、礼なんて言わなくていい」
スコットさんは複雑そうな表情でカズを見つめ、言いたいことをなかなか口にできずにいた。
だが、カズはそんなことは気にするなと言わんばかりに軽く手を振り、それから俺たち三人へ視線を向けた。
「華恋、彼の傷はどうだ?」
「かなりまずいです。骨が押し潰されて、粉々になっているみたいです。千夏姉に治療してもらっても、ちゃんと治せるかどうか……」
スコットさんのそばに膝をつき、応急処置をしている華恋は表情を強張らせていた。
今の俺たちには、彼を治療する手段がないからだ。
「へ……へへ……ファラが無事なら、俺は片脚くらいなくても平気だよ……うぅ。でも、やっぱり痛い……」
「スコット、あなたって人は……こんな時まで格好つけようとしないの。怪我人は大人しく寝てなさい!もう……」
ファラという名のピクシー族の女性は、スコットさんのそばに膝をつき、小さな手で彼の頭をそっと撫でていた。
「エミール、俺たちはもう見つかったのか?」
カズはふと思い出したように、俺に声をかけてきた。
「分からない。俺たちも爆発音を聞いて駆けつけただけだ。その直後に、何体ものカザリア・リッパーと機天使に遭遇した……でも、ナセフィンが起源小隊の三人を連れて援護に来てくれた。あっちの戦闘は、たぶんもう終わってるはずだ」
俺たちがスコットさんを救出している間に、周囲からはすでに戦闘音が聞こえなくなっていた。
「おーい、恋ちゃん、何があったの!?うわ……ひどい怪我!キャロリンちゃん、治療を始めるから手伝って!」
残りの仲間たちも、この時ようやく日向さんと一緒に駆けつけてきた。
日向さんはスコットさんの傷がただ事ではないと見るなり、異世界人への憎しみをひとまず脇に置き、さらに応急処置を進める準備に入った。
「もちろん!私は何をすればいい?」
「彼の脚に『時間・停止』を使って。これで、多少は治療に使える時間を稼げるはず」
日向さんの指示に従い、リンはスコットさんの脚に『時間・停止』を発動した。
これ以上、傷が悪化しないようにするためだ。
「アイリーンちゃん、お願い。少しの間、彼を眠らせてあげて。治療中にかなり強い痛みが出るかもしれない」
「少しだけ眠っていてください、鱗甲族のスコットさん。『睡眠』」
彼女たちが現れたタイミングは、ちょうどよかった。
日向さんはリン、アイリーン、そして皆の補助を受けながら、スコットさんの脚の治療を始めていた。
「嘘でしょう……たった一晩で、こんなことになるなんて……」
リヤはすでに倒壊してしまった新しい家々を見つめ、思わずため息を漏らした。
あの家々は、昨日俺たちが建てたばかりだった。
それなのに、一日も経たないうちに壊されてしまったのだ……
「マリー、こっちへ来る途中で、他に怪我をしている人は見かけたか?」
「軽い擦り傷くらいの人は結構いました。でも、人狼族の女性が一人、左腕を丸ごと斬り落とされていたみたいです。今は吸血鬼たちの治療を受けているので、命に別状はないと思います」
「重傷者が出たのか……ちくしょう。あいつら、来るのが早すぎた。俺たちは反応する時間すらほとんどなかった……」
「ラミリスによると、あの連中はおそらく通りすがりの偵察部隊だったそうです。まだこちらの存在は露見していないはずだと」
「それなら安心した。そうじゃなかったら、今の村の状態じゃ……」
その瞬間、背筋に冷たい痛みのようなものが走った。
「危・険・な・の?」
「「「「「「「「「「……!!!」」」」」」」」」」
浅黒い肌に尖った耳、細く長い尻尾。
そして露出の多い服を身にまとった女性が、いつの間にか俺の背後に立っていた。
全身から危険な気配を漂わせる彼女は、俺の耳元に顔を寄せ、そう囁いた。
その妖艶な表情を見た瞬間、全身の産毛が逆立った。
俺は本能的に、彼女から素早く距離を取った。
「下がれ!特にエミール、お前は早くそいつから離れろ!」
カズですら、相手がここに現れるとは予想していなかったらしい。
彼は全身の毛を逆立てるようにして、皆の前に立った。
治療中のスコットさんをその女性から離れた場所へ運ばせるため、皆を庇うように前へ出る。
その間も、カズは相手の一挙手一投足から目を離さなかった。
「何をしに来たんだ、デボラ?」
「あら?ほんの数日見ない間に、角のない人間や他の種族と、ずいぶん仲良くなったみたいね?それに……あなたが他種族のために前へ出るなんて。まあ、次は空から赤い雨でも降るのかしら?」
「ここでくだらないことを言ってる場合じゃねえだろ。レイヴナたちにお前が何をしたのか、俺は全部知ってるぞ!」
「あら、バレちゃったの?数人減ったくらい、別にいいじゃない?どうせあなたたちの数なんて、すぐにまた増えるんだから」
「お前……俺は今さらになって、自分が昔、お前たちみたいな人間性まで捨てた獣どもの側に立っていたことが、どれほど愚かだったのか思い知らされたよ……」
目の前にいる女性――第三軍団の指揮官であるデボラは、ただ俺たちに向かって微笑むだけで、カズの言葉などまるで気にしていなかった。
「三時間。三時間後、私は第三軍団と、改造された魔物の大軍を率いてここを攻めるわ。あなたたちはせいぜい、この後どうやって生き延びるか、よく考えておきなさいね~」
そんな爆弾発言を投げつけると、彼女はあっさり俺たちに背を向け、そのまま立ち去ろうとした。
だが、デボラはふと足を止め、含み笑いを浮かべながら振り返った。
「……そうそう!その時の総兵力は、だいたい六十万くらいになると思うわ。あなたたちと、この小さな村……十分間も耐えられるのかしら?少し心配だわ♡」
「お前、宣戦布告をしに来たのか!?」
「だって、我が王が正面から開戦した方が面白いって言うんだもの。だから、こうしてあなたたちに知らせに来てあげたのよ」
……!
村の場所は、まさかとっくに……!
「教えてあげる。あなたたちがこの世界に来たその瞬間から、我が王はすでにあなたたちの存在に気づいていたわ」
「……」
「我が王はずっと、あなたたちに機会を与えようとしていたの。もう少し強くなってから殺し合った方が、より面白く、より公平になると考えたから。だからこそ、私は今までずっと待たされていたのよ……」
デボラは両腕で自分の身体を抱きしめ、興奮に全身を震わせていた。
「……この間、私は毎日ずっと我慢していたのよ?ああ……あなたたちを全員、怪物に改造したくてたまらない衝動を。ようやく……ようやくなの……!あの御方が……!あの御方が、ようやく私にここへ来て、あなたたちに会うことを許してくださった!その瞬間、私は本当に、もう我慢できなくなりそうだったわ……!カズ、あなたがまだ生きていてくれて嬉しいわ。後で死ぬ時も、あまり早く死なないでちょうだいね♡」
こいつ……
変態なのか?
あれほど残酷なことを口にしているのに、まるで欲に浮かされたような表情を浮かべている……
「ここで死ぬのはお前だ!……え?」
「この身体はただの分身よ。あなたがどれだけ頑張っても、私に傷一つつけることなんてできないわ。私だって馬鹿じゃないもの。敵の本拠地に、たった一人で本人がのこのこ出向くわけないでしょう?それじゃあ、ばいば~い。また後で会いましょうね♡」
カズは隙を見てデボラへ飛びかかり、そのまま一撃で仕留めようとした。
だが、カズの爪は彼女の身体をそのまますり抜けてしまった……
デボラは軽薄な口調で一方的にカズを挑発すると、次の瞬間、その姿を俺たちの目の前から消した。
「くそっ!俺は本当に、あの女の相手が苦手なんだよ!」
「おーい、みんな無事!?リリカがこの辺りからすごくきつい臭いがするって言ってたんだけど。もしかして、まだ敵がいるの?」
ラミリスたちが慌ててこちらへ駆けつけてきた。
俺たちが無事だと分かると、ようやくほっと胸を撫で下ろした。
「彼女はもういない……」
「誰のこと?」
「第三軍団の指揮官、デボラだ。俺たちがこの世界に来たその瞬間から、すでに見つかっていたらしい。ただ、俺たちに少しは強くなる機会を与えた方が、戦いがもっと面白くなるからって、今まで見逃していたそうだ」
「チッ……ほとんどあり得ないはずの事態が、本当に起きちゃったか……」
「それと……三時間後、彼女は魔物の大軍を連れてここを襲撃するって言ってた。迎え撃つ準備をしておけって……」
ラミリスは一瞬言葉を失い、普段は冷静なナセフィンでさえ、思わず動揺を露わにした。
「エミール、つまりそいつは、わざわざアタシたちの目の前まで来て、堂々と宣戦布告していったってことか?」
シェラは目元をぴくぴくと引きつらせながら、ゆっくりと口を開き、もう一度俺たちに確認した。
「そういうことだ……」
「あの女……そこまで舐めた真似をしやがって……アタシが絶対に皮を剥いでやる!」
「問題は、これからどうするかだ。先に村人たちを連れてここから避難した方がいいのか?唯さんは?急いで戻ってきてもらうよう連絡するべきなのか?」
ここにいるのは、俺たちだけじゃない。
無関係な村人や難民たちまで巻き込まれたら大変なことになる。
それに、こちらの人数では、戦いながら全員を守りきるなんて絶対に無理だ。
「どっちも必要ない。この程度なら、アタシたちだけでも対処できる。フローラは出産直後かもしれないんだ。唯には、あいつのそばについていてもらった方が……」
「ううん。今すぐ唯に連絡して、戻ってきてもらう。フローラには本当に申し訳ないけど、そうするしかない」
ラミリスは真剣な表情で首を横に振ると、周囲の意見を待たずに、結婚指輪に込められた魔法術式を起動し、唯さんへ支援を要請した。
その様子を見て、シェラは少し不満そうな顔をした。
「ラミリス、アタシたちを信用してないのか?」
「逆だよ。私は、あなたたちの実力を信じてる」
「だったら、どうしてあいつを呼び戻す必要がある?ここはアタシたちだけで十分だろ!」
「二年前のあの時と同じことを、もう二度と繰り返したくないからだよ!」
「……」
ラミリスは今にも泣き出しそうな顔で、声を詰まらせながらそう続けた。
……二年前に、一体何があったんだ?
その出来事は、俺が想像しているよりも、ずっと深刻なものだったのかもしれない。
ラミリスの心に、今でも消えない傷を残しているように見えるほどに。
そうでなければ、怒りに燃えているシェラが、最後まで反対しなかったはずがない。
ラミリスの表情を見ているだけで、俺はその答えを想像することすら怖くなった。
「私は本当に……もう二度と、あんなことが起きるのを見たくないの。考えたくもないくらい可能性は低いけど……それでも、トレイズ本人が自ら出てくる可能性だってゼロじゃない。も……もし、あいつがここに現れたら?もし、あなたたちがまた……」
「落ち着いて、ラミリス。今はもう、あんなことは起きません。ほら、深呼吸しましょう。まずは少し落ち着いて」
ラミリスの顔色はひどく悪くなっていた。
まるで何かを恐れているかのように、彼女は自分の腕を抱きしめながら震えている。
それを見たミアは慌てて彼女のそばへ駆け寄り、どうにかして落ち着かせようと、必死に声をかけていた。
「はぁ……分かった。お前を責めるつもりはない。だけど次は……先に言ってくれ。な?ちゃんとみんなで話し合おう。アタシもさっきは少し頭に血が上ってた。悪かった。敵に真正面から挑発されたのが、本当に気に食わなかったんだ……」
「準備に取りかかろう、シェラ。アンナ、アクィーナさんに、ここでこれから大規模な戦闘が起きることを伝えてきて。もしアクィーナたちが避難を望むなら、村の全員を連れて逃げる……」
アンナがこくりと頷き、アクィーナに知らせに行こうとしたその時。
当のアクィーナ本人はすでにこちらへやって来ており、今の俺たちの会話も聞いていた。
「ここは私たちの故郷だ。私たちは誰一人、この場所を離れるつもりはない」
「アクィーナさん……敵の数は六十万です。残れば、かなり危険な状況になるかもしれません。私たちも、戦いながらあなたたち全員の安全を守りきれるとは限りません」
「私たちを必要以上に守ろうとしなくていい。言ったはずだ。ここは、私たちが自分たちの手で築いた故郷だ。だから……」
彼女は拳を握りしめ、揺るぎない眼差しでナセフィンを見つめた。
「この場所は、私たち自身の手で守る。私たちは皆、とっくに覚悟していた。どうにか生き延びてきたとしても、いつか見つかる日が来ると。たとえ今逃げたとして、それで次はどうする?また逃げるのか?私たちはもう疲れた。戦争なんてくだらないものに、これ以上振り回されたくない。これまで私たちは、あまりにも多くのものを失ってきた。だから今回は、死ぬにせよ、生き残るにせよ……自分たちの運命から目を逸らさずに向き合いたい」
「……」
「村の準備はこちらで進める。村人たちの取りまとめと指揮は、私に任せてくれ」
「ありがとうございます、アクィーナさん」
「ふん、礼を言うな。私たちも、自分たちの意地を見せたいだけだ。他人に守られるだけの役立たずじゃないと証明してやる。後で襲ってくる魔物どもを、私たちが叩きのめしてやるから、そこで見ていろ」
アクィーナさんはそう言い放つと、そのまま飛び去っていった。
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この短い三時間で、村の誰もが防御工事に取りかかった。
皆はあらゆる手を尽くし、村を簡易的ながらも要塞のような姿へと作り変えていった。
今、俺たちはそれぞれ村の外壁のそばに立ち、エスギルの方角を見つめている。
その時、遠くの地平線がゆっくりと黒く染まり始めた。
――あれはすべて、潮のように押し寄せる魔物の群れだった。
一人の女が、魔物とサキュバスの魔法使いたちが入り混じった混成軍を率い、その先頭に立っている。
「唯が来るまで、まだ少し時間がかかる。だから、ここから先は私たちだけで戦うしかない。みんな、くれぐれも怪我をしないように気をつけて」
ナセフィンは一歩前へ出ると、すぐに杖の先端にいくつもの魔法術式を展開した。
「迎撃開始!」
紫髪の少女は敵軍へ向けて杖を掲げ、戦いの始まりを告げた。
ついにChaos++の最終ステージまで来ました!
今夜はRelinkのDLCを最後まで走り切る予定です。




