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第13章 兆し

……


ん……


何だ?


ベッドが少し揺れたような……


「……?」


「あっ、起きちゃった?ごめんごめん、起こすつもりはなかったの」


「リン、どうして俺の布団に潜り込んでるんだ?ベッドが急に揺れた気がしたけど、お前が入ってきたからだったのか」


早起きしたリンはこっそり俺の部屋へ忍び込み、そのまま俺の布団の中へ潜り込んできたらしい。


俺の左隣に横になった彼女は、大きな丸い瞳でじっと俺を見つめていた。


「だってさ……今週、私たち戦ってばっかりだったじゃん。それに……!ちゃんと休めたのだって、異世界に来た最初の夜だけだったんだよ!あの時だけだよ、ゆっくり眠れたの!」


「そう言われてみれば、確かにそうだな……」


「休める時間が減ったら、それだけ私たちが一緒にいられる時間も減っちゃうじゃん?」


なるほど。


寂しかったのか。


リリスと同じで、リンも可愛い奴だな。


「それで、夜這いしに来たのか?」


「違うってば!夜這いするつもりなんてなかったよ!あったとしても、ほんのちょっとだけ……って、何言わせてるの!?もう、やだ……」


顔を真っ赤にしたリンは、恥ずかしさを誤魔化すように、何度も俺の胸を叩いてきた。


朝っぱらからこんな可愛い姿を見せてくれるなんて、ありがたい限りだ。


「冗談だよ」


「でも、ダーリンって“夜這い”の意味を知ってるの?そういうことには疎そうなのに……」


「ああ、その言葉なら、前に読んだラブコメ漫画で覚えたんだ。相手が寝てる間にこっそり布団へ潜り込んで、驚かせることだろ?ほら、今のお前みたいに」


「……うわぁ。やっぱりそうだったんだ」


何だよ?


俺、何か間違ったこと言ったか?


「まあ、でも……地球に戻った後、コリンと話す暇があるなら、どうせそのうち変な知識もいろいろ教わることになると思うけど」


「本当か?」


「そうだよ!男子って、集まるとそういう話をするものでしょ!」


「それはどうだろうな。父さんと母さんがいなくなってから、俺はずっと練習を優先してきたから、しばらくあいつともあまり話してなかったんだ……そろそろ、兄弟でゆっくり話す時間を作った方がいいのかもしれないな」


まあ、リンがそう言うなら、そうなんだろう。


コリン、頼んだぞ。


「いつになったら地球に帰れるんだろうな……」


「あと何週間か?何か月?それとも、一年以上かかったりして?」


「そこまで長引くことはないと思う。唯さんは、自分たちが対応しなきゃいけないのは、この世界の問題だけじゃないって言ってたからな。それほど危険じゃない世界の問題は、ほとんど他のオペレーター小隊に任せてるらしいけど、それでも完全には安心できないみたいだ」


唯さんは以前、危機対策組織である【群星の守護者】では、脅威度の高い世界規模の危機のほとんどを、自分と妻たちが直接対処しているのだと教えてくれた。


この危機対策組織はまだ設立されてから日が浅く、他のオペレーターたちは高リスクの任務を十分に経験していない。


だから、唯さんもいきなりそうした厄介事をすべて彼らに任せるわけにはいかないのだ。


つまり、他のオペレーターたちはまだまだ経験を積む必要がある。


そのため唯さんは、彼らを一歩ずつ成長させながら、自分たちがいつでも助けに向かえるようにしているらしい。


――すべては、彼らが自分の手に負えない任務を引き受け、任務中に命を落とすことを防ぐためだ。


「はぁ……もう残ってる軍団の指揮官は二人だけなんだよね?次は、血骸蝠みたいな怖い怪物が出てこないといいな……」


「リン、フラグを立てるって言葉を知ってるか?お前がそういうことを言えば言うほど、次もあんな化け物に出会いそうな気がするんだけど……」


この概念は、一昨日ミカエルとの戦いが終わった後、魔王リリカが大真面目な顔で教えてくれたものだ。


「ああああああ、しまった!今のなし!さっきのは聞かなかったことにして!」


話しているうちに、窓の隙間から朝日が差し込んできた。


そろそろ起きて、準備を始めるか。


今日はまた、どんな予定が待っているんだろうな?


「そろそろ起きるぞ」


「知ってる?ベッドには人間を引き寄せる不思議な力があるの。だから、私は自分じゃ起き上がれないんだよ~」


「じゃあ、俺が抱き上げれば、その変な力にも逆らえるのか?」


「逆らえる!愛はすべてに勝つんだから!ベッドの引力にも、眠気にも!」


そう言うと、ベッドに横になっていたリンは上半身を起こし、抱き上げてほしそうに俺へ両腕を伸ばしてきた。


挿絵(By みてみん)


寝間着姿だからだろうか。


今のリンは、少しだけ……色っぽく見えた。


「それでは失礼します、お姫様」


「へへ~、ありがとう!私の王子様!」


     ◇


「えっ?ままま……まさか、二人とも!?」


部屋の扉を開けた途端、ちょうど前を通りかかった華恋と鉢合わせた。


彼女はかなり慌てているようで、何も見ていないと言わんばかりに、必死に両手を振っていた。


「私がこっそりこの人の布団に潜り込んだだけだよ。考えすぎ。この人、肝心なところの常識が抜け落ちてるから、さっきも何もなかったし……」


何でリン、そんなに残念そうなんだ!?


俺、本当に何かを逃したのか?


「えっ……え?そ、そうだったんですね。あはははは……」


華恋は気まずそうに鼻を触りながら、乾いた笑いを浮かべていた。


どうやら、さっきは彼女も何か勘違いしていたらしい。


……


嘘だろ?


二人とも分かってるなら、俺にも教えてくれよ!


「そういえば……華恋、背中はもう大丈夫なのか?この二日は忙しすぎて、傷の様子を見に来られなかったから……」


「ミカエルにやられたところですか?大丈夫ですよ。もう治りました。心配しないでください。本当に傷跡も残ってませんから」


「それなら安心した。母さんが言ってたんだ。女の子にとって、肌は何よりも大切な財産だって。もし傷跡が残ったらどうしようって、ずっと心配してたんだ」


あの時、母さんは俺に、絶対にみんなを守って、誰にも怪我をさせないようにと言い聞かせた。


その時に、この言葉を教えてくれたのだ。


「ん?昔は【アーク】で、みんなから無敵の存在みたいに思われていて、私が怪我をするところなんて誰も想像できなかったんです。だから、今こうして誰かに心配してもらえると、何だかちょっと嬉しいですね。へへっ、まさかそんなに私のことを心配してくれていたなんて。ありがとうございます!」


「そんなの当たり前だろ。だって俺にとって、華恋は大切な存在(仲間)なんだから」


「ふにゃ!?私って、あなたにとって大切な存在()なんですか!?」


「ああ」


華恋は頬をほんのり赤く染めると、驚いたように数歩後ずさった。


……?


何でそんなに驚くんだ?


まさか、今さら俺が自分たちのことを仲間だと思っていないとでも考えてたのか?


「はぁ……ダーリン、正妻の目の前で他の女の子にそんなこと言うなんて、なかなかいい度胸してるよね」


「いや……お前にとっても、華恋は大切な仲間だろ?」


「やっぱりそういう意味だったんだ……そんな澄んだ目で言うし、告白するような雰囲気でもなかったから、たぶんそうだろうなって思ってたけど」


あっ。


もしかして、華恋は俺に告白されたと思ったのか?


よく考えてみれば、さっきの言い方は確かに、華恋に告白しているようにも聞こえるな……


「華恋っち、この人、たまにさっきみたいな誤解を招くことを言うんだよ。だから、あんまり気にしないでね」


「ほっ……そうだったんですね……一瞬、本当にびっくりしちゃいました」


「ごめん!次からはちゃんと考えてから口にするよ!」


「別に怒ってませんよ。もう……」


華恋は少し悔しそうに頬を膨らませると、拗ねたようにぷいっと顔を背けた。


「それにしても、華恋っちかぁ……」


「リン、お前……何をするつもりだ?」


何やら考え込むリンの姿を見て、俺の中で警鐘が鳴り始めた。


こいつがこうして考え込むような仕草を見せる時は、絶対に何か企んでいる。


「華恋っちなら、私も全然アリだと思うよ。だって可愛いし、頭も結構いいしね。もちろん、一番大事なのは可愛いってところだけど!」


「俺も華恋は可愛いと思うけど、そこまで強調しなくてもいいだろ……」


「えええっ!?私のこと、可愛いと思ってるんですか!?わ、私は今のところ、エミールのことを本当のお兄ちゃんみたいに思って接してるだけなので、まだそれ以上はちょっと……」


華恋は震える両手で顔を覆い、指の隙間からこっそり俺の方を覗きながら、またさっきのように数歩後ずさった……


やばい。


また言い方を間違えた。


俺はただ……ツッコみたかっただけなのに……(泣)


「いきなりこんな形でいい人認定……いや、兄認定されるとは。ある意味、これはちょっと傷つくな……」


でも、今のところって……?


え?


ドオオオオオオン——————!


「「「……!?」」」


外から激しい爆発音が響いてきた。


「今はそんな話をしている場合じゃありません。エミール、キャロリン、まずは外へ出て何が起きたのか確認しましょう」


「ああ、行こう」


——————


「これは……」


目の前に現れたのは、見覚えのある機動兵器(カザリア・リッパー)と、空中を高速で飛び回りながら、腕のエネルギー武器で村を襲っている機天使たちだった……


「リン、華恋、戦闘準備!」


「まだ顔も洗ってないのに!ちくしょう……!」


リンは口では文句を言いながらも、すぐに【武装化】を発動し、自らが編み上げた物語をその身に具現化した。


「ワンタッチ着替え万歳!【武装化】はやっぱり素晴らしい文明だ!」


「そんなこと言ってる場合じゃありませんよ、エミール。空の機天使は私に任せてください。地上のカザリア・リッパーは、あなたとキャロリンで何とかしてもらえますか?」


「ああ、問題ない。みんなもたぶん今ので起こされたはずだ。みんなが来るまでなら、俺たちだけでも持ちこたえられると思う」


華恋は俺に頷くと、すぐに真っ白な翼を広げ、空中の機天使たちへ向かって飛び出した。


そして、そのまま彼女たちとの交戦を始めた。


「リン、いつものやつだ!」


「任せて!『時間・加速』、『閃撃』!」


「『交換』、『生命の支配者』!はああああっ!」


リンは短剣を機動兵器の右腕の関節部へ突き刺し、その動きを封じた。


そして、俺がリンと位置を入れ替えると、そのまま剣を振り下ろし、カザリア・リッパーの左腕を斬り落とした。


その一撃を放ったせいで、俺はカザリア・リッパーに高脅威個体と判断されたらしい。


周囲にいたカザリア・リッパーが一斉に俺の方を向き、揃って牙を剥くように襲いかかってきた。


いやいやいや!


俺が四体も相手するのか!?


せめて一体くらい先に倒させてくれよ!


バン―――!


一体のカザリア・リッパーの頭部が何かに撃ち抜かれ、火花を散らしながらその場に倒れ込んだ。


さらに別の一体の足元からは、高熱を放つ炎の嵐が噴き上がり、その機体を一瞬で鉄屑へと変えた。


「アタシが寝てる時にギャーギャー騒ぐんじゃねえよ!うるせえ!『超級氷魔法・霜華』!」


生き残ったカザリア・リッパーの一体が逃げようとした瞬間、その足元で巨大な氷の蓮が咲き誇った。


氷の蓮に絡みつかれた部分は、超低温によって次々と凍りついていく。


機体の表面も例外ではなかった。


やがてそれは白い冷気を立ち昇らせる鉄の彫像となり、その場に立ち尽くした。


その後、機体の表面に大きな亀裂が走った。


次の瞬間、機体は粉々に砕け散った。


「三人とも、よくやったね。後は私たちに任せて」


「ああ。助かった……!」


「ふふ、このくらい大したことじゃないよ。君たちは先に、襲撃で怪我をした人がいないか見てきて」


空を飛んでいた機天使たちが、突然地面に吸い寄せられたかのように、一斉に墜落していった。


起源小隊の副指揮官であるナセフィンが、クロエ、魔王リリカ、そしてシェラの三人を連れて、俺たちの援護に来てくれたのだ。


「さっき、昨日建てたばかりの木の家が一軒、襲撃で倒壊するのが見えた気がする」


「本当か?それなら急ごう。中にいた人たちが怪我してないか心配だ」


「私もさっき見ました!こっちです。案内します!」


華恋は空から戻って俺たちと合流すると、すぐに先頭に立ち、倒壊した木の家へ救助に向かった。

明日(7/10)は一日お休みします!


RelinkでRagnarok DLCが配信されるだけじゃなく、鳴潮も明日アップデートなんですよ……


作者はもう、自分の身体を何人分かに分裂させたくなってます。

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