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第7章 半日観光Ⅰ

「よし、今日は先生がお前たちを連れて、吸血鬼王の家にカチコミに行くぞ!」


「ついに来たか。待ちきれなかったぞ!唯閣下、俺たちの約束を忘れないでください。あいつだけは、必ず俺の手で殺させてもらいます!」


「待て待て待て!どうしてお前たちは、近所の公園に散歩でも行くみたいな軽さで話してるんだ!?」


翌朝、同じ部屋で眠っていたリリスが朝早くから俺を起こし、唯さんが朝一番で俺たちを呼んでいると教えてくれた。


その後、俺たちが食堂で皆と合流し、今日の予定について話し合おうとした矢先、唯さんの口からいきなり危険極まりない一言が飛び出した。


「安心しろって。昨晩は俺もラミとナセフィンと一緒に、徹夜でリスク評価をした。俺たちが無謀に攻め込んだりしない限り、吸血鬼族は基本的に俺たちの脅威にはなり得ない」


「エミール、お前、まさか怖気づいたのか?」


うぐぐ……


なるほど。


一応、ちゃんと事前にリスク評価をしてから、行動するかどうかを決めているのか。


というかカズ、俺は別に怖がってないからな!


「どうせ俺は死なないんだし、何を怖がる必要があるんだ?少なくとも、それだけはお前に言われたくないな」


「今回の敵は『血魔法』を得意とする吸血鬼族だ。お前、自分の唯一の弱点を忘れたのか?全身の血を一瞬で吸い尽くされたら、お前は動けなくなるぞ……」


「それは確かに……いや、違うだろ!どうしてお前はそんなに俺のことを気にしてるんだよ!?俺たちは敵同士のはずだろ?」


「お前はこれまで、一対一の戦いで俺に威圧感を覚えさせた、たった二人のうちの一人だ。俺はもうとっくに、お前の名を深く脳裏に刻み込んでいる。俺たち人狼族は、自分より強い敵の名と能力を覚える。そして……次こそは、そいつより強くなる」


その言い方、かなり問題あるぞ?


変態かよ、お前!


というか、たった二人……?


「俺以外のもう一人って誰なんだ?」


「……姉御だ」


はは、まあそうだよな。


俺は何を馬鹿なことを聞いているんだ。


「リリス、君たちはどう思う?」


「そうね……ミカエルは確かに強いけれど、私たちにも勝算はあると思うわ。彼はおそらく、【群星の守護者】の存在を知らない。ただ、人狼族が地球で原因不明のまま全滅したと思っているだけでしょう。だから、彼らを隠し札として奇襲に使えば、一瞬では対応できないはずよ」


リリスも問題ないと思っているのか……


「ダーリン、私たちは彼らがどれだけ強いのか、この目で見てきたじゃない?それにそれに、私たちだってずっと強くなってるんだから!安心して。大丈夫だよ~」


「うん、私もリンリンと同じ考えだよ」


「それに、私たちもかなり強くなった。だから……そろそろ強敵と戦ってみる時だと思う」


「ふん、『血魔法』が使えるから何だっていうの?灰になるまで焼き尽くせばいいだけでしょ」


「あら、マナってば頼もしいわね~そういうことよ、エミールくん。私も、思い切って試してみていいと思うわ」


リン、アイリーン、セレイア、マナ、そしてマリーも、順番に自分の考えを口にした。


彼女たちは皆、今すぐ第四軍団の根城へ攻め込むことに賛成しているようだった。


「ん?私たち?行くなら当然行くでしょ。そもそも私たちが異世界まで来たのって、あのクズどもをぶん殴るためじゃないの?」


「あはっ!狂――」


「おい、千夏!もう一回言ってみなさいよ?皮をひん剥いてやるからな、ガルルッ!」


「あはははは!今のはむしろメスティラノじゃん!」


「はいはい、二人ともそこまで。エミール、私たちも賛成だよ。私たちの考えを、あなたがそこまで気にする必要はない。あなたたちが唯さんについていくつもりなら、私たちはその後ろについて、あなたたちを支えるだけ。だから、思い切りやってきなさい!」


華恋は両手を握り合わせ、その身体の周囲から光でも放っているかのように、眩しくて直視できないほど頼もしく見えた。


華恋……


雪狐小隊と出会えたことは、本当に俺の誇りだ。


「皆がそう言うなら……唯さん、今すぐ出発しますか?」


「問題ない。人狼族の数人には……」


「最近、俺はしばらく遠出するかもしれないから、大人しく土造りの小屋で待っていろと伝えてあります。安心してください、唯閣下」


「おう!よくやった、カズ。それじゃあ、行くぞ。『空間転移』」


唯さんはポケットからスマホを取り出してちらりと確認すると、続けて手を掲げた。


ヒュン――


大人の背丈ほどもある淡い青色の転移門が、唯さんの手のひらの前に現れた。


「ん?転移先って、あなた本人が一度でも直接行ったことのある場所じゃないと、座標を指定できないんじゃなかった?」


何かに気づいたらしく、ラミリスは少し興味を引かれたように唯さんのそばへ近づいた。


「朝のうちに、スキルを使って吸血鬼族の本拠地まで一度偵察に行ってきたんだよ。お前たちはまだ起きてなかったから、俺一人でちょっとな」


「もう……それなら私を起こしてくれればよかったのに。私も一緒に行けたわ」


「昨晩、お前はかなり遅くまで情報整理と作戦の詰めをしてただろ?だから、俺一人で行けばいいと思ったんだ。お前にはちゃんと休んでほしかったしな」


「次は絶対に私も呼んでよ?」


「はいはい~」


ラミリスは唇を尖らせ、不満そうに唯さんの腕をぽかぽかと叩いた。


はぁ……


朝っぱらから、いきなり惚気の閃光弾を食らわされるとは……


——————


転移門を抜けると、俺たち一行は第四軍団の本拠地……


――血のように赤い大地に築かれた町の外へとやって来た。


「うおおおおお!超でかい!超壮観!」


町の中央には、豪華で巨大な城がそびえ立っており、その存在感はとんでもないものだった。


リリスとカズを除き、他の全員はその光景に目を奪われ、リンも思わず感嘆の声を上げていた。


それに、さっきまで俺たちがいたピクシーの村は、まだ真っ昼間だった。


だが、ここに来た途端、空は夜へと変わっている。


明るい満月が空高く浮かび、ちょうどいい具合に地面を照らしてくれているおかげで、これから暗闇の中を手探りで進む必要はなさそうだった。


そして、魔王リリカ、姫川さん、イヴの三人はというと……


カシャ。


カシャカシャカシャ。


危機感の欠片もない彼女たちは、すでに観光客モードに入っていた。


特に魔王リリカは、町の外へ着いた瞬間から、スマホを片手にあちこち写真を撮りまくっている。


「見て見て!あのお城、私の実家よりかなり大きそうじゃない!?帰ったら、私も人を雇って実家の魔王城を改装して、何倍にも大きくしてもらわないと!敵に格で負けるなんて嫌だもの!」


嘘だろ?


気にするところ、そこなのか?


「そういえば……アニメとか、この世界でもそうだけど、どうして吸血鬼ってあんなに大きなお城に住んでいるのかしら?吸血鬼って、みんなすごくお金持ちに見えるわよね」


「あれだけ長く生きていて、金がないほうがおかしいでしょ……」


「それもそうね~」


姫川さんの口から妙にもっともな理屈が飛び出し、魔王リリカは思わず笑みをこぼした。


「……!全員、戦闘態勢に移行!」


突然、ナセフィンが全員に指示を飛ばし、皆は一斉に武器を手に取った。


町の中から、空を埋め尽くすほどの蝙蝠の群れが飛び出し、月を覆い隠す。


そして、その群れはゆっくりと町の門の前へ降り立った。


「おやおや、誰が来たかと思えば……これはこれは、我らが古き友ではありませんか」


赤く光る目をした蝙蝠たちが一か所に集まり、やがて俺たちの前にいくつもの人影が現れた。


その中でも最前列に立っていたのは、以前俺たちも一度顔を合わせたことのある、第四軍団の指揮官――吸血鬼の王、ミカエルだった。


「ミカエル……!」


「へぇ……私はてっきり、お前はあの異世界の養分にでもなったものだと思っていましたよ。まさか、捕虜まで連れて戻ってくるとは。彼らを私への貢ぎ物にするつもりですか?ふふ……異世界へ一度行っただけで、ようやく少しは頭が回るようになり、自分が誰に仕えるべきか理解したようですね。いい子ですよ、ワンちゃん」


「仕える?お前、何様だ?影に隠れることしかできない臆病者に、俺が仕えるとでも?教えてやるよ。お前にその資格はない!」


ミカエルはカズの顔を見るなり、すぐに一歩前へ出てきて彼を嘲笑した。


だが、カズも怯むことなく、大声で怒鳴り返す。


「おやおや、また無駄吠えですか。どうやら、まだ頭の発育が足りていないようですね。時勢を読むことすらできないとは、さすがは脳みそまで筋肉でできた犬っころの種族です。だからこそ――」


「お前は俺たちがいない間に人狼族を虐殺し、その領地まで奪いやがった……!今日こそ、この手でお前のその顔を握り潰してやる!お前はいったい、どれだけの人狼族を殺したんだ!」


「ほう……?もう知っていたのですか?そんなこと、とっくに忘れてしまいましたよ」


「お前……」


「お前は、今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?覚えていないでしょう?」


カズが怒りのあまり自分を抑えきれなくなり、ミカエルに殴りかかろうとした、その時だった。


唯さんはまたスマホをちらりと確認すると、片手を上げて二人の会話を遮った。


「すみません、ちょっといいですか?お二人はあとどれくらい言い合いを続けるつもりですか?俺、あと一時間ちょっとで帰らないといけないので、もう開戦してもいいですか?」


「ほう……?」


唯さんの予想外の行動は、ミカエルの興味を引いたらしい。


彼はすぐさま、俺たち全員に向けて鋭い殺気を放ってきた。


俺たちはその威圧感に必死で耐えていたが、【群星の守護者】の面々は、誰一人として気にした様子を見せなかった。


その態度が、かえってミカエルの興味をさらに引いたようだった。


「カズ、お前が連れてきた捕虜は、なかなか肝が据わって――」


ヒュン――


一発の弾丸が凄まじい速度でミカエルの頭部を撃ち抜き、その頭はそのまま砕け散った。


彼の背後に立っていた吸血鬼族たちは驚き、即座に警戒態勢へ入った。


今の一撃を放ったのは、狙撃銃を構えたクロエだった。


不意を突いた一撃が、くだらない挑発しかできないおしゃべり男を、永遠に黙らせた――かに見えた。


残念ながら、飛び散った血と肉片は、まるで時間が巻き戻るかのように、再びミカエルの頭部へと戻っていった。


「このクソオンナ……!私がまだ話している途中だというのに、よくも不意打ちを――」


バンバン――!


ぺたり。


そして、ようやく立ち上がったばかりのミカエルは、再びイヴの二丁拳銃によって正確に頭を撃ち抜かれた。


彼はそのまま、また地面へと倒れ込む。


……その姿は、正直かなり滑稽だった。


「このクズども……!殺してやる!」


「ちっ……」


またしても復活した吸血鬼の王は、巧みに血霧へと姿を変え、クロエの次の狙撃をかわした。


それを見ていたシェラさんは、不満そうに舌打ちする。


その後、ミカエルは吸血鬼たちを率いて一斉に押し寄せ、俺たちの身体から血の一滴まで吸い尽くさんばかりの勢いで襲いかかってきた。


「みんな気をつけて!地面がなんだかおかしいよ!」


リンは俺たちの足元に、びっしりと血管のようなものが張り巡らされていることに気づき、慌てて注意を促した。


直後、地面から大量のアンデッドが這い出してくる。


スケルトン、ゾンビ、グールなど、アンデッド系モンスターの詰め合わせみたいな顔ぶれだった。


その中には、肉塊に包まれた人型の怪物まで何体か混じっている。


地面とつながったその身体はゆっくりと膨れ上がっていき、やがて戦場全体を覆い尽くそうとしているように見えた。


「みんな、絶対に気をつけて!あの肉塊は血肉の主よ!大量のアンデッドを召喚するうえに、時間が経つほど強くなる厄介な敵なの!」


雪狐小隊はかつて血肉の主の王を討伐したことがある。


そのため、華恋は相手の正体を一目で見抜くと、すぐに俺たちへ警告を飛ばした。


「……やめておく。おいしそうじゃない」


銀白色の流星が、俺の視界の端を高速で駆け抜けた。


【強襲武装】に換装したアンナが正面から突っ込み、身体の両側に浮かぶ四角い巨大盾を、その血肉の主へ叩きつける。


バキィ――!


「嘘でしょ?あの超厄介な血肉の主を、あの子が一撃で……」


上半身を失い、力なく崩れ落ちる血肉の主を見て、星野さんの口元がひくひくと引きつった。


だがすぐに、地面からまた何体ものアンデッドが現れたため、彼女はひとまず意識を戦場へ戻し、華恋や日向さんと連携しながら、新たに出現したアンデッドを一体ずつ処理していった。


「ミ、ミカエル様、こいつらはいったいどうなっ……あがっ!」


紫紅色の光が一閃した。


青白い顔をした吸血鬼が言葉を言い終えるより先に、その光によって身体を真っ二つに引き裂かれる。


彼の身体は再生することなく、燃え尽きた紙のように少しずつ剥がれ落ちていった。


そして最後には、そのまま戦場から姿を消した。


それを見た他の吸血鬼族の戦闘員たちは、互いに顔を見合わせ、明らかに動揺した様子を見せていた。


どうやらリンの『光魔法』には、聖属性のような力も少し含まれているらしい。


吸血鬼族に対しては、かなり有効なようだった。


「行け!何を怯えているのです?相手は二十人にも満たない数しかいない。こちらには数十万の兵力があるのですよ。いったい何を恐れる必要があるのですか?」


ミカエルは自ら先陣を切り、配下の吸血鬼たちを引き連れて、こちらへ攻め込んできた。


「うっ……」


こ、こいつ……数歩離れたところから、俺の毛穴を通して血を吸い上げているのか!?


「あなた、“吸血を禁じる。同時に、行動も禁じる!”」


……!


リリスも、ミカエルが俺を最優先の標的にしていることに気づいたらしく、すぐに『言霊』を使って俺を守ってくれた。


「忌々しいバンシーがぁぁぁ!」


「今日がお前の命日だ。地獄の底まで落ちやがれ!」


焦ったカズは、ミカエルがリリスによってその場に縛りつけられたのを見るなり、地面を蹴り、一気にミカエルの顔面へ蹴りを叩き込んだ。


だが……


「カズ、その攻撃では、リリスの『言霊』が……」


「くそっ……!すまない、俺が焦りすぎた!」


結果として、その一撃でミカエルは効果範囲の外へ吹き飛ばされ、リリスの『言霊』も解除されてしまった。


そのせいで、すでに剣を構え、突き出そうとしていたリヤは、攻撃の機会を逃してしまう。


それを見たカズは、彼女たちに何度も謝るしかなかった。


「だから言っただろうが、お前みたいな奴は頭の出来が獣と大差ないってな!遊びは終わりだ。お前らまとめて死ね!」


ミカエルは奇怪な叫び声を上げながら、片手を天へ高く掲げた。


天高く浮かぶ満月が、ゆっくりと血の色に染まっていく。


深紅が、もともとの月光を呑み込んでいった。


そして……


――ぽたり。


どす黒い液体が、月の表面から滲み出し、ゆっくりと滴り落ちる。


「『血蝕の月』!これで貴様らは一人残らず逃げられん!あの畜生と一緒に、ここで死ね!」


月から溢れ出した液体は、まるで津波のような勢いでこちらへ押し寄せ、その進路上にあった木々を次々と腐食させていった。


やばい!


あの液体は四方八方から押し寄せてきている。


この状況では、唯さんでも俺たち全員を守りきるのは難しいはずだ。


それだけじゃない。


俺たちは四方八方から飛んでくる魔法にも警戒しなければならない。


誰もあの血の濁流にまで手が回らない。


まずいぞ……


「ラミ、いけるか?」


「もちろんよ。でも今の私は、やる気を出すためにキスが必要なの!」


「ふふ、本当に仕方ないな」


「唇でもよかったのに……」


唯さんがラミリスの頬に軽く口づけると、彼女は頬を膨らませ、不満げにぼそぼそと呟いた。


「でも、ありがと。エネルギー補給完了~」


改めて気合いを入れ直すと、彼女もミカエルと同じように右手を掲げた。


「見せてあげるわ。()()()()ってものをね~♪『空間支配』!」


世界は、その瞬間に書き換えられた。


夜の闇が一瞬で消え去る。


代わりに広がったのは、澄み渡る青空と幾重にも重なる白い雲……


――そして、空の中心に燦然と輝く、灼熱の太陽だった。

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