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第15章 灰色の物語に色彩を

ラミリスは、ベヒモスと同じくらいの高さを持つ巨大な石像を何体も創り出し、墜落した【アーク】を担がせてアルカディアまで運び戻した。


ユリもスキルでカボチャの馬車を何台も創り出し、残りの生存者たちをまとめて乗せて帰還させた。


では、エスギルの兵士たちはどうなったのか?


【群星の守護者】の紫髪の女性――ナセフィンは、なんと仲間たちにエスギル部隊の兵士たちを捕虜として拘束させ、地球側の労働力としてアルカディアへ連れ帰るつもりらしい。


一番おかしいのは……


彼らが誰一人として反抗しなかったことだ。


でも……


まあ、そうだよな。


みんな【群星の守護者】の圧倒的な実力を見せつけられたあとだ。


誰も立ち上がって反抗しようなんて思わないのも、当然だと思う。


それに、カズも捕まってしまった以上、彼らは少しでも怪しい行動を取ることすら恐れていた。


戦いで命を落とした勇士たちの埋葬を終える頃には、もう夕方になっていた。


ただ、俺たちがアルカディアへ戻った時、少しだけ騒ぎが起きた。


最初、アルカディアに残っていた編織者たちは、魔王リリカとエスギル兵の一団を見た途端、緊張した様子で武器を抜いて警戒した。


幸い、リリスがすぐに前へ出て、あの英雄たちの来意と身元を説明してくれたおかげで、彼らもようやく次々と武器を下ろしてくれた。


とにかく、彼女たちの護衛のおかげで、帰還は順調に進んだ。


そして今、俺たちはアルカディアの外にある空き地の近くで、ナセフィンを中心とする【群星の守護者】と向き合っていた。


「ほら、さっき言ってたことを話しな」


「うっ……!本当に無理だって、姉御!王に殺されちまう!それだけじゃねぇ、下手すりゃ俺の部下まで巻き添えになるんだよ!」


「へぇ?つまり、お前の言うその王は、私の拳より怖いってことか?」


「ひぃっ……!」


狐人族のシェラさんは、顔中を青あざだらけにしたカズを俺たちの前に乱暴に放り投げると、先ほど拷問を受けていた時に吐いたことを、カズ自身の口からすべて言わせようとした。


いつの間にか、カズのシェラさんに対する呼び方は“姉御”になっていた……


「シェラ、さっきどうやって拷問したの?」


「お?知りたいのか?」


ナセフィンがそんなことを尋ねたものだから、彼女はどこか嬉しそうな顔をした。


どうやら、今すぐにでも説明したくてたまらないらしい。


「簡単なことだ。さっきはこいつの拘束を解いて、半殺しになるまでぶん殴って、私との力の差を分からせただけだ」


「え?」


え?


俺とナセフィンだけじゃない。


ほかのみんなも、自慢げな顔をしているシェラさんを、ぎょっとしたように見つめていた。


魔王リリカとラミリスだけは、そばで腕を組みながら苦笑しているだけだった。


どうやら、二人はシェラさんがそうすることを最初から予想していたらしい。


「シェラ、それは危ないでしょ!?どうして敵の拘束を解いたの!?」


ナセフィンはその言葉にかなり驚いたらしく、慌てて彼女に理由を問いただした。


「じゃあ聞くが、この小僧が一番誇りにしているものは何だと思う?」


「えっと……彼、武器を使って戦うタイプには見えないし、やっぱり肉弾戦かな?」


「正解だ。だから私は、素手でこいつと何度かやり合って、そのちっぽけな自信と誇りを徹底的に叩き潰した。こいつに何も残らなくなったところで、祖国についてゆっくり“質問”しただけだ」


シェラさんはそう言いながら、物語に出てくる悪役のように口角を吊り上げた。


「もちろん、こいつが少しでも迷ったり黙ったりしたら、もう一発だ。口を開くまで、何度でも叩き込んでやる」


なんてことだ……


最初に現れた時から自分の戦闘力を誇っていたカズが、シェラさんの前であそこまでへりくだっている理由が、ようやく分かった……


さっきの拷問は、そういうものだったのか。


シェラさん、それは心を折りにいっている……


さすがに、カズが少し可哀想になってきた……


「次からは、勝手に敵の拘束を解いちゃダメだよ?たとえ絶対に勝てる自信があっても、そういうことはしちゃダメ」


「ああ、はいはい~それじゃあ、さっそくこいつの話を聞いてみようか」


「はぁ……」


シェラさんはまったく気にしていない様子で、どう見てもナセフィンの注意を聞き入れていなかった……


ナセフィンはどう言えばいいのか分からず、呆れたようにため息をついた。


「俺はエスギル第二軍団の指揮官、カズだ。お前らが見てのとおり……俺が率いる部隊は、人狼とほかの獣人種族、それから第三軍団の高等サキュバスで構成された混成部隊で……」


「要点を話せ!そんなくだらねぇこと、わざわざお前に言われなくても分かるだろ!私たちには目がついてねぇとでも思ってんのか!?」


カズがどうでもいい情報を話し始めた途端、シェラさんは苛立ったように拳を振り上げた。


「す、すみません、姉御!」


今のカズの姿は、さすがに見ていて何とも言えない気持ちになった……


「わ、我が王の名はトレイズ……種族は人類だ……」


「おお!父王から聞いていた裏切り者の名も、確かにその名前だったわね。ふふ……ようやく見つけたわ」


その名を聞いた瞬間、魔王リリカの瞳に鋭い凶光が走り、アイリーンがびくりと肩を震わせた。


でも……


裏切り者?


「き、貴様……よくも我が王を侮辱したな……!我が王は、決して……」


「死ぬのが怖くて邪神に尻尾を振り、命乞いをした。そうして瘴気という強大な力を手に入れたあと、今度はその力を同族へ向け、八割近くを虐殺し、私の祖先の世界まで自らの手で滅ぼした。教えてちょうだい。これを裏切りと呼ばずして、何と呼ぶの?」


「うっ……!」


魔王リリカの声は大きくなかった。


それでも、その一言一言には、息が詰まりそうなほどの重圧が宿っていた。


俺たちはただそばで見ているだけなのに、それだけでもすでに押し潰されそうな圧を感じていた。


「リリカ、もういいわ。このままだと、この話だけで明日になっても終わらないわよ」


ラミリスは魔王リリカの肩を軽く叩き、自分のそばへ引き寄せた。


「……ふん、覚えておきなさい。あなたにまだ利用価値が残っていなければ、今すぐにでもこの裏切り者の犬を空の彼方まで吹き飛ばしていたところよ」


彼女はカズを冷たく睨みつけたあと、ラミリスと一緒に脇へ下がっていった。


……そう考えると、カズが仕えている王は、かつて魔王リリカの祖先たちと同胞だった存在なのだろう。


けれど、その王は死にたくない一心で、“邪神”と呼ばれる何者かに媚びへつらったらしい。


そして最後には、邪神から瘴気の力を授かり、その使徒となって、魔王リリカの祖先がいた世界を滅ぼしたのだろう。


どうやら、【群星の守護者】の目標は、カズが仕えているその王で間違いなさそうだった。


「カズ。あなたたちの地球における配置状況、あなたたちの世界の座標、警戒すべき人物や事柄、そしてあなたたちの王がどこにいるのかを教えてください。もしそれらの情報をすべて正直に話してくれるなら、あなたとあなたの部下の命は見逃すと約束します。同時に、トレイズから報復を受けないよう、こちらで安全も保証します」


「……お前ら、あとから約束を反故にして、急に手のひらを返したりしねぇだろうな?」


「前提として、あなたが私たちの要求に協力する必要があります。そのあと、あなたとあなたの部下にはこの地球に残り、あなたたちが壊した世界を再建してもらいます。それが、あなたたちが過去に犯した過ちを償う唯一の方法です」


「……」


ナセフィンはカズのもとへ歩み寄ると、穏やかな口調で協力を促し、彼と部下たちの安全を保証することを条件に取引を持ちかけた。


カズは生まれつき好戦的な性格らしいが、それでも部下たちの安全こそが、彼にとって一番気がかりなことのようだった。


だから、彼は迷っていた。


今ここで部下たちの安全を確保するべきなのか。


それとも、死ぬまで王への忠誠を貫くべきなのか。


「俺の命は、煮るなり焼くなり好きにしろ。だが、俺の部下たちをこのクソみてぇな厄介事に巻き込むのだけはやめてくれ。それでいいか?」


「約束します」


「……分かった。話す……」


最終的に、シェラさんたちとは違うナセフィンの穏やかな態度が、カズを折れさせた。


カズが提供した情報によると、地球上のすべての国家はすでに踏み潰されているらしい。


第二軍団と、一部の第三軍団の兵士がアルカディアを監視するために残っている以外、それ以外の敵はすでにすべて撤退していた。


そのため、地球上に残っているのは一部の兵士と、さまざまな種類の怪物だけだった。


その中でも特に脅威度の高い標的である、第四軍団所属の血肉の主も、どうやら雪狐小隊によって倒されたらしい。


華恋がそのことを話した時、カズもかなり驚いた様子だった。


さらに彼は、リリスの手にある転移指輪を指さし、その指輪を解析すれば、エスギルの座標を逆算できるはずだとナセフィンに明かした。


その情報についても、ラミリスが『解析』を使ったことで、カズが俺たちを騙していないことが証明された。


そして、警戒すべき人物や事柄について、カズが挙げたのは数点だけだった。


第一軍団の指揮官は、首無し騎士らしい。


カズ曰く、彼は第一軍団の指揮官であると同時に、エスギル全軍を束ねる総指揮官でもあるという。


忠義に厚く、実力は最強だが、そのぶん頭が一番固い人物なのだそうだ。


第三軍団の指揮官である高等サキュバスの女王は、かなりの男好きで、魔法に対する理解と実力だけで言えば、トレイズを除けばエスギルで最も優れた存在らしい。


そのうえ、生命を弄ぶことを好む錬金術師でもあるという。


次に、第四軍団。


リリスがかつて補佐していた、吸血鬼の王である指揮官だ。


彼は強力な領域能力と、ほとんど無敵に近い血魔法を持っているため、カズはナセフィンに、この人物には特に注意するよう伝えた。


最後に、トレイズ――つまりエスギルの王に関する情報だ。


「絶対に、あいつに手を出すな。怒った王がどれほど恐ろしいかなんて、お前らは知らねぇほうがいい。それに噂じゃ、俺が第二軍団の指揮官になる前、どこかの異世界侵略で神の権能を使ったことがあるらしい。その結果、あの異世界は抵抗することすらできず、そのまま滅ぼされた」


「おお……!彼、神の権能まで持っているの?みんな、聞いた?」


意外なことに、それまで情報にあまり興味を示していなかったラミリスが、“神の権能”という言葉を聞いた途端、一気に食いついた。


その目はきらきらと輝いていて、彼女はすぐに自分の仲間たちへ視線を向けた。


……


平凡な人気配信者、ね?


やはり彼女の正体は、ただ者ではないのだろう。


「だいたい、こんなところだ。えっと……この情報で足りるか……?」


「分かりました。嘘はついていないようですね。あなたは部下たちのところへ戻っても構いません」


「あ、ありがとう……!」


ナセフィンの右目の前に、小さな魔法術式が浮かび上がっていた。


おそらく、カズが嘘をついているかどうかを見抜くための魔法なのだろう。


彼がすべてを話し終えると、ナセフィンは約束を守り、彼を解放した。


その言葉を聞いたカズは、心底嬉しそうな顔をして、すぐにその場を離れようとした。


「おい。忘れるなよ。私たちは、お前たちのことをずっと見ている。妙な真似はするな。分かっているな?」


「……!分かってる、姉御……俺も、部下たちには絶対に勝手な真似をさせねぇ。それじゃあ、俺はこれで……」


カズが背を向ける直前、シェラさんがふいに声をかけて釘を刺した。


ただでさえ早くここから離れたがっていたカズは、その一言に驚き、尻尾までぴんと立ててしまった。


その後、彼は何度もシェラさんに、絶対に妙な真似はしないと約束してから、怯えた様子でその場を逃げるように去っていった。


ぐぅ~


突然、その場に少し可愛らしい音が響いた。


「アンナ……おなか、すいたの……」


アンナは少し恥ずかしそうにおなかを抱え、小さな声で姫川さんにそう告げた。


「【群星の守護者】の皆様、よろしければ、私たちと一緒に夕食を召し上がりませんか?ささやかなものになってしまいますが、皆を救ってくださったお礼として、夕食と宿泊場所をご用意させていただきたいのです。よろしいでしょうか?今の私たちにできるお礼は、それくらいしかありませんので……」


「でも、アンナ、たくさん食べちゃうかもなの……それでもいいの?」


「私は……大丈夫だと思います。アンナさんはこんなに可愛いですから、好きなだけ食べていただいて構いません」


「みんな!アンナ、リリスはいい人なの!」


リリスはアンナの純粋な眼差しに逆らえず、夕食を好きなだけ食べてもいいと約束した。


その言葉を聞いたアンナは、ぱっと花が咲いたように嬉しそうな顔をした。


「後悔するわよ、リリスさん?絶対に後悔するわ……」


「え……?」


魔王リリカにそう言われ、リリスはむしろ訳が分からないというように首を傾げた。


結局、夕食の時になって、俺たちとリリスはようやく理解することになる。


どうしてあの時、魔王リリカがリリスに“絶対に後悔する”と言ったのかを……

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