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転生したら固定武器の勇者の剣がド派手過ぎてマジドン引き、一刻も早く元の世界に戻って愛用の包丁を握りたい…  作者: たかさば


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さらば、魔剣

 広間には、静寂が満ちている。

 誰もが息を呑み、誰もが目を見開き、誰もが言葉を失っていた。


 王様も賢者も兵士たちも、全員が固まっていた。

 剣と呼んでいいのかすら怪しいその物体は、常識の範囲を軽々と踏み越えていたからである。


 持っているだけで羞恥心が爆発しそうな、成金趣味の極み。


 ────いやいやいやいや! なんだよこれ! 俺、こんなの振り回さないよ?!


 どう見ても“敵を倒す”より“敵をドン引きさせて撃沈する”タイプの武器。

 所有者のメンタルをゴリゴリ削って、肉体の健康すら奪いにかかるおそろしい物体でしかない。


 異世界転生で一度は爆上がりしたテンションが、みるみる冷めていく。


「……帰りたい。包丁、研ぎたい……」


 悠真は思わず呟いた。

 正真正銘、心の奥底からモリモリとせり上がってあふれ出した、ただ一つの願いだった。


 自分で名付けた武器とはいえ、これはない。

 絶対にない。


「ゆ、勇者殿……」


 賢者が震える声で名を呼んだ。

 場の空気に居た堪れなくなり、せめてもの慰めをと口にしたはいいが…あとが続かない。


「伝説の、武器……の、はず…なの、じゃが……」


 王様も言葉を濁す。


「ど、どう見ても……伝説というより……」


 その時、空気の読めない兵士のひとりがのんきに呟いた。


「成金趣味の暴走ッスかね~」


「おい、やめろ!」

「勇者サマの武器だぞ?!」

「思っても言っちゃダメだろ!」

「す、スマンっス……で、でもね?! このキモさ…」


「確かにわかるがな、でも口に出しては…」

「ちょ!!」

「黙れって!!」

「し、シ~っ!!」


 兵士たちは互いの口をギュウギュウ押さえながらジタバタしている。

 笑いを堪えているのか、恐怖で震えているのか、判断がつかない。


 ────こんなモノがあるからいけないんだ!!! こんなもん…投げ捨ててやる!!


 ブチ切れた悠真は、剣を持ち上げ、窓から放り投げようとした。


 ……だが!!!


「……ッ?! お、重っ……!!! み、右腕っ!!ひじ、肘がぁああアアア!!!」


 カスカスにクソ軽い剣だと思って持ち上げようとした右腕が、悲鳴を上げた。


 見た目通り、いや見た目以上に重い。

 筋トレしている兵士でも持ち上げられないのではないかと思うほどの重量。


 廃棄されることを察した剣が、自重をコントロールしているとしか思えなかった。


 なんというタチの悪さだ!!

 末恐ろしくなった悠真は、真っ青になって小刻みに震えはじめた。


「勇者殿! 無理をしてはなりませぬ!」


 賢者が慌てて駆け寄る。

 生ぬるい光が悠真を包み込むと、幾分気持ち悪さが軽減した。

 その光が、最上位の心的ダメージを癒す魔法であることを…この世界で二人しか使えない高度な呪文であることを、異世界出身の勇者は知らない。


「こ、これは……本当に……武器、なんですか……?」


 いくぶん顔色に赤みが差してきた悠真は、膝をつき心配そうに見つめている王様に、消え入りそうな声で…問うた。

 遥か彼方から時空を超えて…わざわざ異世界くんだりまで召喚されてきた選ばれし勇者の頬に、涙が、ツウと…一筋、つたう。


「わしにもわからぬ……。だが、勇者殿が名を与えた以上、間違いなく伝説の武器のはずなのじゃ……」

「絶ッ対にお↑かしいでしょ……!!!!!!」


 悠真は秒でツッコんだ。

 たとえ声がひっくり返ろうとも、全力で叫ばずにはいられなかった。


「だってこれ、どう見ても戦うための武器じゃないですよね!? 持って歩くだけで恥ずかしすぎるんですけど!? ていうか、これ、敵を倒す前に俺のメンタルが死ぬよね?! でもって身が滅ぶよね?!」


「……た、確かに…うん…まぁ」


 王様が目をそらし、口を濁す。


「勇者殿……その……なんというか……、派手……すぎる、とは、確かに…」


 賢者も懸命に言葉を選んではいるが…目を合わせようとしない。


「派手どころじゃないですよ?! なんていうか……これ……、もう!!!」


 悠真は王様と賢者の胸倉を鷲掴みにし、10センチの距離で血走った目を無理やり合わせ、怒鳴り散らした。


「呪いの魔剣じゃないかぁあアアアアアアアアア!!!」


 その言葉に、広間の空気が震える。


「ま、魔剣……!?」

「た、確かに……!」

「存在そのものが呪い……!」

「持ってるだけで精神が削られる、魔の剣…」


 兵士たちのつぶやきが、地味につきささる。


「勇者殿、それは……どういう、意味じゃ……?」

「勇者殿にとって、こ、この剣は…」


 おっさん二人を抱えたまま黙っていた悠真は、その手を離し、(おもむろ)に…剣へとのばした。


 意思の疎通など微塵も望んでいないし、その片鱗すらまるで感じない。

 だがしかし、剣を手に取り見せ付けねばならないというおかしな焦りが悠真の中で渦巻く。


 モヤつく気持ちに翻弄されながら…、異世界の勇者は己の武器を両手で抱え、恭しく掲げた。


 召喚した時に感じたずしりとした重みがウソのように無くなり…軽々しく持ち上がった、剣。


 丁寧に扱ってさえいれば、こちらに危害は加えない心づもりのようだ…。

 シャンデリアの光を浴びて、キラキラと輝いているのが…実に忌々しい。


 ……こんなモノがあるせいで!!!


 はらわたが煮えくり返った悠真は、俄然自分自身の感情を取り戻し…怒りのままに魔剣を投げ捨てた。

 中途半端に悪い出来なのだ、地面に叩きつければポキリと折れてゴミクズ化するかもしれない…、そう思った瞬間、身体が勝手に動いていたのである。



 ドォンッ!



 地響きが起き、視界を覆うほどの粉塵が舞い上がった。

 思わず身を守りにかかる、宮殿内の面々。


 広間を曇らせていたチリがほぼほぼ地面に積もると、剣を中心にして床のいたるところにひびが入っているのが確認できた。


「……おいおいおい?!」

「オリハルコンを混ぜ込んだ宮殿の床が?!」

「まさに悪夢だ……」

「300年前の魔王大戦の時ですら傷ひとつつかなかったんだぞ…?」

「女神の保護が失われた…可能性!」

「…もしかして」

「もしかするパターンなんじゃ……」

「命あっての物種…逃げ出すなら、早い方が?!」

「ちょ、待てよ!!」


 兵士たちが後ずさり始めた。

 一目散に逃げ出すものも、一人や二人ではない。

 心なしか、王様も賢者も…腰が引けている。


「……勇者殿。その武器は……、魔王軍すら恐れる“禁忌の武器”である可能性が、高いようです」


 賢者が震える声で言った。


「なんで、なんで…? なんで、こんなことに……!!」


 悠真は頭を抱え、崩れ落ちた。


 ……異世界に来たとき、確かに…少しはワクワクした。

 困っている人を助けられるなら、頑張ろうと思った。

 ステータスを見たときは、「もしかして俺、やれるかも」と思った。


 だが――


 この剣を見た瞬間、すべてが崩れた。


「………ハハッ」


 胸の奥で、何かがぽきりと折れた。


「勇者殿……?」


 うつむいたまま、聞いたこともないうめき声をあげながら小刻みに震えている勇者の様子を見た王様が、心配そうな面持ちで声をかけると…ゆっくり、ゆっくりと、その頭を、もたげた。


 深い暗闇をそのまま具現化したような…真っ黒い目をした悠真が、焦点の合わない光の失われた瞳を王様に向け、訴えた。


「…………、俺……帰りたいです。ええと……帰ります、うん、帰ろう。それがいい、一番いい…」


 いつの間にか、広間は静まり返っている。


 しばらく黙っていた王様は、賢者と向き合い、目を合わせ、同時に頷いて……、深いため息をついた。


「そなたは…、不適合者であったようじゃな……」


 その声には、失望と諦めが混じっている。

 申し訳ない気持ちがあふれ出し、首を垂れることしかできない…異世界の勇者。


「すみません……」

「……よい。無理を強いても…いかんでな。そなたを元の世界へ送還しよう」


 王様が手を掲げると、広間に再び光が満ちた。



「さらばじゃ……、異世界の勇者よ」



 光が強くなり、身体が浮き上がる。


 悠真は目を閉じ、その身を預けた。




 元の世界へと…、帰っていく、勇者候補。




「では…、次の勇者を呼ぶのじゃ」


「………御意」




 物語は、まだ…終わらない。


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