匠
「な、なんと……!」
「これほどの光……伝説級どころではないぞ……!」
王様と、どこからともなくやってきた賢者らしき人物が、驚愕の声を上げた。
まるで太陽が爆発したかのような、白金色の奔流が…天井に向かって立ち上る。
風が渦を巻き、あらゆる装飾品が吹き飛ぶ。
兵士たちは頭身を超える大盾を構え、踏ん張っている。
悠真は光の中心に立ちながら、ただただ呆然としていた。
(え、ちょっと待って…これ、絶対…ヤバいやつじゃん……!)
光はさらに強くなり、暴風は髪を逆立て衣服を揺らし、足元の石床には細かなひびがいくつも走り始めた。気を抜くと、吹き飛ばされてしまいそうだった。
「勇者殿! しっかり立つのじゃ! そしてその手に…己の剣を、つかみ取るんじゃアアアアア!!!」
……誰かの声が、遠くで聞こえる。
悠真は必死に踏ん張りながら、光の中心に手を伸ばした。
荒れ狂う無機質な冷たさとは明らかに違う、生ぬるい何かが…指先に触れた。
それを…ぎゅっと握った、次の瞬間。
光が…、収束しはじめた。
……静寂が広間を包む。
風が止み、光も消え。
しんと静まり返った、広間のド真ん中。
左腕で顔を覆っていた悠真の右手に、いつの間にか握られていた……何か。
「……え?」
重い。
とにかく…重い。
ずしりと腕にのしかかる、重量。
そして、手から伝わる、異様な存在感。
思わずよろけそうになった、その時。
「……それが、そなたの、武器……、なのか……?」
王様の、震える声が…耳に届いた。
悠真は、ゆっくりと目を開け…己にもたれかかってくる、何かを見た。
そこにあったのは――金色。
長い剣の柄と、わずかに見える…剣身。
なぜだろう……、嫌な予感しかしない。
「勇者よ、剣を……抜いてみるがよい」
抜けと言われて、スルーするわけにもいかない。
悠真は、自分が握っている物体を、じっくり眺めてみることにした……。
………。
わざとらしくギラギラと光を反射していて悪趣味。
あらゆる空きスペースにド派手な宝石が埋め込まれている。
ジャラジャラとチェーンが垂れ下がっていて正直邪魔。
細かい文様がこれでもかと彫られているのがすごくキモイ。
金属なのになんか生暖かくてベチャッとしてるのはなぜだ。
どこをどう見ても、成金丸出しの悪趣味の塊でしかない。
強くなさそうなんだけど…。
高く売れる事しか意識してないよねこれ…。
コイツじゃ戦えないだろうどう見ても…。
つかマジ扱いづらいな…。
デカすぎなんだよそもそも…。
持ち運びが不便だから要らないって言いたい…。
場違い感しかないんだけど大丈夫なのかこれ…。
ダサいのはまあ仕方ないとは思うけど限度ってもんがね?
触りたくない武器ってあるもんなんだな…。
マイナス感情が秒で脳内を駆け巡り、いやな汗が噴き出す。
「ささ、はよう…抜いてやるのじゃ。伝説の武器も、このような石畳に突き刺さったままでは気の毒じゃろう」
心なしか、えらそうなもの言いをしている王様の体が小刻みに震えている。
ビビっているのか、怖がっているのか、キモがっているのか、笑いをこらえているのか、体の具合でも悪くなったのか…。
あまりの展開に、悠真の身まで震えてきた。
だが、ここで逃げ出すわけにはいかない。
「……わかりました」
覚悟を決め、柄を握り直し…気合を入れる。
ゆっくりと…引き抜いた、その時。
ジャララララララ……!
チェーンが鳴り。
宝石が光り。
文様が蠢き。
埋もれていた剣身が…ズルリと引き抜かれて、露になった。
あんなにも…もたれかかっていた柄の部分が重苦しかったというのに、信じられないくらいスカスカで、中身のないハリボテ感がすごい。これは一体どういうことだと悠真が目を丸くしていると…。
「……な、なんじゃ、その……」
「ど、ド派手……いや、派手を通り越して……」
「勇者殿、それは……武器……なのか……?」
広間の空気がざわついている。
うろたえる面々に注目され、居心地の悪さしか感じない。
とても逃げ出せそうにない状況に、追い込まれていく。
悠真は言葉を失ったまま、とりあえず…手にある剣を観察してみることにした。
バカみたいにデカい、剣。
身長を超えている。
幅が広く、厚みもある。
もはや鉄板。
しかし縁日のサメつりの残念賞でもらうショボい剣のおもちゃ並みに軽い。
鉄板に柄を突っ込み、無理やり剣にしたような出来の悪さ。
キンキラキンで目がしょぼつく。
柄も金色、鍔も金色、チェーンも金色。
限界を超えてデコられ、センスのなさが燦燦と輝いている。
宝石は赤・青・緑・紫・黒・白……色の暴力。
光を反射してギラギラと輝き、見ているだけで視力が低下する。
剣身に刻まれた文様がどう見ても気持ち悪い。
魔法陣のようであり、呪いの文字のようであり、芸術的なようであり、ただの落書きのようでもある文様は、よく見ると微妙に動いている。
蠢いている?
多分…生きている!!!
伝説の勇者の武器は…、悠真の呼び寄せた唯一無二の剣は!
信じられないレベルで、バカみたいなナリをしていた!!!
………。
夢であってほしいと、遠くの景色で網膜を癒したのち…おそるおそる視線を手元に戻してみる。
見間違いであったことを願いつつ、改めて相対してみたものの。
数えきれないほどの宝石が、蓮コラを思わせる風貌であちこちに埋め込まれている…。
無駄にジャラつくチェーンは、どう見ても切れ味を5億%邪魔している…。
剣身にびっしりと刻み込まれた気持ち悪い文様は、よくよく見たら18禁丸出しのデザイン…。
(……うそ、だろ……?)
持って歩くなんて恥ずかしすぎる。
そもそもデカすぎ&重すぎ(気持ち的に)で手に負えない。
この場にいる面々にはバレているのは致し方ない。だがしかし…この先、あらゆる初対面の皆さんに持ち主であることがバレるという当たり前のことを思い浮かべただけで、眩暈がする。
敵を倒す前に、自分のメンタルが崩壊して倒れるであろうことは想像に容易い。
───俺、これで戦うの……? 戦わなきゃ、いけないの……?
胸の奥に、じわじわと不安が広がっていく、悠真。
不気味な剣を握っていた右手から、思わず…握力が抜けた。
からん…カラカラ、カラ……!!!
ずしりと重たい(精神的に)くせに、中身空っぽ丸出しで…安っぽい音がして転がった、キモイ武器。
固唾を飲んで見守る、勇者に救いを求めた面々。
荒れ狂う防風を受けこんがらがってしまったわりに、穏やかに光を放っているシャンデリア。
悠真は、ただ、呆然と…、足元でシャンデリアの光を受けド派手に照り返す、金色の光を…浴びながら。
目の前の惨状から目を逸らし、遠い、遠い、ただただ青い空を…望む事しか、できなかった。




