5話 武術大会 1
人属性で最も少ないのは心属性である。されど、心属性が他属性にくらべ劣っているというわけではない。心属性は最初こそ自信の心の平穏を保つことから始まり、ほかのどの属性より恩恵は少なく感じる。されど、極めれば他者の心を読み取り、誘導し、時に洗脳をも可能とする。ごく一部の戦闘を生業とするものや商売をにかかわるものが使用することが多い。
―マクスウェル魔法基礎論 1章より抜粋―
大会当日となった。師匠と別れ、受付をすませ、選手控室へ私は向かった。
大会はトーナメント方式で6回勝ち抜けば優勝のようだ。師匠が見ていることだし無様な姿を見せるわけにはいかない。特に心配の必要がないとのことだけれど、油断せずに行かなければ・・・
「最初の相手は・・・シルスト・ミンド・クリアス・・・と。知らない人ですね。」
まぁずっと山にいたのだから当然といえば当然である。
「ん?最初の相手が俺ってことはあんたがレイウェル・スタッカートか。お手柔らかに頼むぜ。」
隣で同じくトーナメント表を見ていた男が私のつぶやきを聞いて話しかけてきた。
こげ茶色の髪色で、髪型は前髪を右目に軽くかかる程度に伸ばしている。どうやらこの男が私の最初の相手のようだ。
「えぇ、よろしくお願いします。お互い頑張りましょう。」
「ここらじゃ見ない顔だが、わざわざ夏じゃなく春のこの大会に参加しにこの町にきたのか。」
「もともとは参加する予定がなかったんですけど三日前に急に師匠に出るように言われまして・・・」
「なんだそりゃ。面白いな。あんたの師匠がどんな奴か知らないが、まぁ、この大会にでても十分に戦えるだけの実力があるって判断したんだろうな。今まで戦った経験はあるのか?」
「そうですね・・・」
「次・レイウェル・スタッカート、シルスト・ミンド・クリアス!準備せよ!」
あなたとはこれから戦うことですし、教えられません。そう言おうとしたが呼ばれてしまった。
「っとと、出番がそろそろ見たいですね。私の戦いの経験に関しては実際の試合で判断してください。試合、楽しみにしてます。」
「はぐらかされたか。まぁいい、存分に楽しもうぜ。」
「次の試合は互いに今回が初のエントリーだ。西ゲートよりレイウェル・スタッカート!!そして東ゲートよりシルスト・ミンド・クリアスだ!!」
私たちの前の試合が終わったらしく、風属性の魔法で放送されたアナウンスで名を呼ばれて入場した。
2本下げてある愛刀のうちの一つ、「ミチヅキ」を抜刀し、構える。暗器の使用は師匠から禁じられている。なので使えるのはこの愛刀と腰と足にさしてある系6本のナイフのみ。相手は杖を構えている。魔法が主体の戦い方だろうか・・・それなら・・・
「一回戦!はじめ!!!」
考えているうちに互いの準備だできたと判断され、開始が宣言される。
「大地よ、槍と化し、わが敵を穿て!アースラン「遅い!」・・」
予想通り、シルストは魔法を使ってくる・・・が、この間合いなら私の刀のほうが早い。
展開されている魔法陣を魔力を通したミチヅキで切る。
あとは左手で抜いたナイフを相手の喉元に突きつければ・・・
「そうだよな、そうくるよな。」
シルストは身をかがめ、こちらのナイフをよけた。そしてそのまま杖の石突で頭を狙ってくる。
こちらの攻撃に合わせたカウンター。けれど・・・師匠に比べればっ!!
攻撃の勢いをそのままに空中に身をひねりながら飛び、相手との間合いを取る。
ナイフを躱したあの動きはこちらを読んでいた動きだ・・
となると・・・相手は心の属性に適性があるのか?こちらの動きが読まれたということは少なくとも相手のほうが心の属性に関しては上ということか・・・
「おいおい、今のはくらっとくもんだろ。タイミングは完璧だったぞ。」
「えぇ、少し危なかったです。ですがあなたの戦い方はこれでわかりました。」
土の魔法で仕留められればよし、接近してきたら躱してカウンター。とても厄介だ・・・。ならば魔法で攻めた場合はどう出る。
「風よ、刃と化し、わが敵を切り刻め、ウインドカッター!」
「大地よ、槍と化し、わが敵を穿て!!アースランス!!」
っつ!!
横にステップして足元からくる土の槍を躱す。
牽制と見抜いて構わず魔法を放ってくるとは・・・
思ったよりこちらの心は読まれていると考えるべきか・・・
ならばどうすれば・・・
心の適性の高い相手と戦い方は・・・師匠は確かあぁ言ってたっけ。
「いいですか、レイウェル。相手の心適性が高く、こちらの考えが読まれている場合の戦い方は大きく分けて3つあります。一つ目、こちらの心を閉ざすことです。一番効果的なのは相手の読もうとする魔法を近くして心の壁を思い浮かべることですが、これは相手の心魔法を近くできたらで構いません。無理な場合は心を冷静にして、感情を揺さぶられないことです。それだけでもだいぶ変わりますから。」
相手の心魔法の知覚・・・うん、わからない。なので、冷静を保つことを心がけよう、感情を殺せ、与えられた条件下で敵を倒す方法のみを考えろ・・・
「二つ目は心が読まれていたとしても相手がさばききれない、躱しきれない攻撃をすることです。それだけの戦闘技術が求められますが、心が読まれるということは心の力で相手に劣っているということ。他で補うしかありません。」
相手の対応力を超えた攻撃・・・。魔法なら中級以上の魔法を発動すればおそらくは相手が無傷で避けることは難しいだろう。けれど、相手はそれを妨害してくるだろうし、何より相手にけがをさせないという師匠からの条件を破ることになってしまう。だからやるなら接近戦で決めるしかない。心理戦では負けているものの直接的な戦闘能力は私のほうが優っている。うまく攻め込めればいけるか・・・
「三つ目は心を無にすることです。読まれる心がなければ心を読まれる心配がありませんからね。狙ってできる人はほとんどいませんが、偶発的かつ瞬間的にならそれなりの頻度でできます。こちらの攻撃が読まれているからと言って勝負をあきらめるのは早いですよ。」
今の私には心を無にするなんて狙ってできない。ならばこれからの行動は決まった。相手の対応力を超える勢いで仕掛ける、相手のカウンターにさえ警戒すれば、十分に勝機はあるはずだ!
足にさしてある2本のナイフをシルストの左右に投擲、そのまま切りかかる。
「接近戦で来るか、望むところだ!」
シルストはこちらの思惑に気づいている。あとはこちらが相手を上回れるかだ!
刀による斬撃は杖で受けられた。左手のナイフも躱された。続けて蹴りを放とうとするが相手の杖による殴打が飛んでくる。が、蹴りの対象を杖にすることで対処、そのまま再度返す刀で攻めかかるがまたもや躱され、今度は少し距離を取られた。
互いに有効打が入らない。次はもっと攻めないと・・・
「はっ!!」
短い掛け声とともに先ほどより早く、深く踏み込む、そしてそのまま最速の一閃を放つ!!
それをみてシルストは笑う
「ファイアーボール!」
詠唱破棄による魔法。本来よりは威力が減少するものの、相手にダメージを与える十分の威力が残っている。
3つの火球が私に迫りくる。こちらが決めにかかるのに合わせての魔法。回避も防御魔法も間に合わない。
「斬!!」
その火球を切ればいい。不意を突かれたとはいえ威力の減衰した下級火魔法。この程度なら刀で対処できる。
「おいおい、マジかよ!!」
魔法を切られるとは思っていなかったのか、驚きの表情を浮かべている。
そのまま間合いを詰め、杖をはじく。
「くっ!!」
これで相手は武器を失った。あとはそのままナイフで・・・
切りかかろうとしたが相手は服の裏に隠し持っていた短剣・・・いや、いざというときの杖代わりにもなる儀式短剣でナイフを迎撃しようとしていた。が、これまでのようにこちらの行動が読まれているかんじはない。それなら・・・
ナイフと儀式短剣が衝突しあう寸前、あえてナイフを手放した、
刃の交錯に備えて力強く短剣をふるっていたシルストだったが、私がナイフを手放したことで空振りし、態勢を崩した。
そしてそこに刀を突きつける。そして、それを見て審判が私の勝利を告げた。
「私の勝ちですね。」
「やれやれ、参ったな。優勝する気満々だっただがな。お前ほどのやつが参加するなんて聞いてないぜ。」
「私もですよ。あなたなら問題なく優勝できるでしょうと参加させられたのに一回戦からなかなかの強敵で驚きでした。」
いや、本当に・・・、勝つのに精一杯でしたよ師匠・・・
これは私が不甲斐ない弟子ということなのでしょうか・・・
一回戦の相手からこれほどの実力となると・・・2回戦以降はもっと気を引き締めてい行く必要がありそうですね・・・




