1話 いつもの稽古
この世界における魔法は3系統15種の属性があった。
あったという過去形なのは現在において2つの汎属性が失われているからである。
ゆえに現在は全部で13の属性がある。
まずは三系統の統括属性について説明しよう。
統括属性とは世界の基礎となる無、人、霊の3つの属性のことである。世界はこの属性からなり、我々主に人族の住む人界は人の属性により成り立っている。同様に、死者の魂の行き先である冥界には霊の属性によって保たれ、神々の住まう地、神界は無属性によって保たれる。それぞれの世界と秩序を保つ重要な属性である。
―マクスウェル魔法基礎論 1章より抜粋―
「師匠。今日の薪割りは終わりました。あと仕掛けておいた罠に猪1頭かかっていたので仕留めて解体してます」
昼下がり 川で釣りをしている初老の男に成年が声をかける。
「お疲れ様です。こちらでも今日の分は釣りましたから午後の稽古を始めるとしましょうか。今日は刀ですか?」
「はい!もちろんそれ以外も使いますが・・・それでも最初は刀で行こうと思います。普段使いにはこれが一番よいので。」
「わかりました。ではレイウェル、いつでもどうぞ」
初老の男 師匠と呼ばれた男は弟子、レイウェルに稽古の開始を宣言する。
何か特別に構えたりしているわけではない。ただ釣具を少し離れたところに置いただけだ。知らぬ者が見れば隙だらけと取るだろう。だがレイウェルは一切の迷いなく斬りかかった。5mほどの距離を一瞬で詰め寄り、居合の用量で鞘から抜刀と同時に切り払う。速く、鋭い斬撃。しかし、師匠は半歩身を引くだけで容易く躱す。
「おしい。」 何事もなかったかのように笑っている。
「これで終わるとは思ってませんので、大丈夫ですっ!!」
場所は川原、足場は石、岩など。凹凸に足を取られかねない状況だがレイウェルはその気配もなく動き自身が最適だと判断する間合いで切りかかる。しかし、ことごとくを躱され、時にそらされ、そしていなされる。自身に迫りくる刃を師匠は冷静にそして的確に対処する。
「不安定な足場での戦い方も慣れてきたようですね。安定した足運びもできていますし、何より平地と比べて速さも落ちていない。」
「毎日!修行を!してきましたから!・・・っこれで!どうです!!」
浅めにはなった袈裟斬りを途中で止め、躱そうとバックステップをしている師匠の頭に向けて渾身の尽きを放つ。師匠は頭を横にして避けるがそれはレイウェルとて読んでいる。
刀から右手を離し、小手から、てのひらの側からそこに仕込まれた刃を出す。そして刺突の勢いをそのまま使い、師匠の首にめがけて振り下ろす。
「おしい。」振り下ろそうとした腕は師匠の右手で止められた。そしてその自身の勢いのままに投げられた。
「くっ!!」地面にたたきつけられるのを避けるために投げが決まる前に自分から飛び、体をひねって足から着地する。そして再度、攻撃をしかけ・・・られなかった。
「はい、おしまい。相手と場の観察がおろそかでしたね。」
踏み込もうとした足にいつの間にか釣り糸が絡まっており、いつの間に釣り竿を握っていた師匠の手により転ばされた。師匠の手には袖から出したであろうナイフがあり、転んだレイウェルに見せつけるように振っている。「転んだところをナイフを投げるなり、切りかかるなりされていたらあなたは死んでいましたね。」と言わんばかりに・・・。
「使えるものは何でも利用する。それが私たちの無幻流ですよ。釣り糸は丈夫で見えづらいのですから特に利用しやすいのです。覚えておいてくださいね。それと、先ほどの<爪>を使った攻撃はなかなか良かったですよ。あなたの<爪>を知らない人ならほとんどの人が切られていたことでしょう。あなたはどんな武器であれ得手も不得手もなく使いますがその小手だけは特別ですね。<爪>と<牙>それから<角>の使い方がとても上手だ。扱いの難しい武器ですけどよく使っている。」
「ありがとうございます。今日こそは一撃入れられると思ったのですが・・・」
「気にすることはありませんよ、よく頑張っています。石の力もなしにそこまで戦える人は少ないでしょう。それに、あなたの武器の性質上、最初の数回ならば石の力を持つ格上の相手でも勝機は十分にあるでしょう。」
「師匠と師匠の友人の方以外には山の動物としか戦った経験がないのでいまいち実感がわかないのですが!!ね!!!」
足から釣り糸を外すと同時に会話を途中で遮り、両手でナイフを、右手で2本、左手で1本。合わせて三本投擲する。右手で投げた2本は相手の左右によけるのを防ぐ牽制。本命は左手で投擲したナイフ。よけることを許さぬとばかりに三本の刃が師匠へ襲い掛かる。
「残念。言葉の端に攻撃の心が載っていましたよ。それなりに心の力の強い人が相手だとその攻撃は読まれるでしょう。」
迫ってくるナイフをよけようともせずに二本の指でつかみ、何事もなかったかのように話す。
「やはり読まれていましたか・・・」
「えぇ、まぁ私が相手ですから読んでいなかったとしてもあなたのナイフくらいは軽くつかめます。何なら倍の速さでそのまま投げ返すこともできますよ。」
「師匠だから本当にできちゃうんでしょうね。ですが、だからと言ってあきらめるつもりはありません!今日は無理でも明日。明日が無理でも明後日。いつか必ず一撃、いや、勝たせていただきます。」
「はい、楽しみにしていますね。さて、では稽古を続けましょうか。」
「はい!行きます!」
再び稽古が始まり、日が暮れるまで戦闘は続いた。




