月下の死神令嬢
季節外れ(?)のインフルにPCクラッシュ。どうして不幸なことってこう立て続けに起こるんでしょうね……?
「――リーネそっくりの奴、ね……」
借りた部屋のベッドに寝っころがりながら独りそう呟く。
あの後、師匠から俺がボルネスに行っていた間に起ったことについての話を聞いた。リーネそっくりが奴――ヒスイと名乗っていたんだっけ?――とアグニランが一足早く風の鏡を手に入れてその場から立ち去ったこと、クウ・アグニランの姉であるミキナ・アグニランと僅かな時間だが行動を共にしていたこと。
「しかし、師匠が退くほどの強さか……」
いくらリーネとアグニラン姉がいて全力を出せなかったとはいえ、それでも師匠が退くということは、相手は相当な実力者であるというだろう。
そもそも、師匠は他人を護りながら戦うのは得意中の得意だ。判断力、立ち回り、周囲への気配り、といったもののどれをとっても素晴らしく、師匠が護衛に着くとどんな過酷な状況であっても生存率が数倍跳ね上がるとの専らの評判である。…性格はまあアレだが……。
「これは、俺もそろそろ真面目に特訓とか考えた方がいいかもな……」
ホルダーからロベリアにもらった神狼を取り出し、それを眺める。神狼は光を当てられ金属特有の鈍い色を放っている。やはり、素人目からしてもいい物だ。
しかしながら、今の俺の力量ではこいつを上手く扱うことはできないだろう。
「明日、師匠に相談してみるか……」
神狼を再びホルダーにしまい、目を閉じる。その後すぐに眠気が襲ってくる。
今日はもう寝てしまおう。色々決めるのは明日からでいいだろう。
そんなことを考えながら眠りに落ちようとしたその時――隣部屋から何かが割れた大きな音がこの部屋にも響き渡る。たしか隣部屋は……師匠達の部屋だ!
俺は急いでベッドから飛び起き、師匠達の部屋へと向かう。
「おい!師匠!リーネ!何があった!?」
そう声を張り、師匠達の部屋にノックもせずに入る。そして、開けた扉の先に見えたのは、気絶しているリーネを抱えた奴(顔はフードを深く被っているせいで見えない)と、そいつと対峙している師匠の姿だった。割れた窓ガラスを見るに、不審者は窓から入ってきたのだろう。
「あっ、待ちなさい!」
俺が入ってきてしまったことによって師匠の注意が少しばかりこちらに向き、その隙を狙って不審者が窓から外に逃げ出す。
「――何事ですか!?」
どうやら、窓ガラスが割れた音は一回にも届いていたようで、店主がこっちに駆け寄ってくる。いや、店主だけではなく、他に泊まっていた客も何事だと野次馬根性を発揮し、部屋の扉を開けて様子を窺っている。
「師匠!見失わない内にあいつを追いかけてくれ!俺は後から行くから!」
「分かったわ!」
そう言うや否や、不審者が逃げた窓から同様に師匠が外に出る。
「すみません、事情をお聞かせ願いませんか?」
店主が俺の傍に駆け寄り、そう問いかけてくる。
「勿論お答えしますが、私も急がねばなりませんので手短に説明させていただきます。…先程、この部屋の窓ガラスを突き破って侵入してきた不審者が、私達の連れを気絶させ、連れて行ってしまったんです」
この言葉にはいくつか憶測が混じっているが、そんなところを細かく言及している暇はない。
「申し訳ありませんが、この部屋の荷物と、この隣の部屋の荷物の方を預かってはもらえませんか?明日までには戻ってきますので。……もし戻ってこなかった場合は、警備兵に連絡してください」
「……かしこまりました。お気をつけて」
恭しく一礼をする店主。…なんかこの店主ノリがいいな……って、そんなことを考えている場合じゃない!
割れていない方の窓を開け、そこから逆上がりの要領で宿屋の屋根の上に飛び乗り、周囲を見渡す。
師匠達は……いた!
二人して屋根の上を移動している姿が目に入る。ゼネリアが夜でも明るくて良かった。通常の夜の暗さでこの距離なら完全に見失っていたな。
「――ハッ!」
毎度お馴染みの狼撃・疾風を発動させ、師匠達の後を追いかける。
……よし、徐々にだが距離を詰めている。まぁ、足の速さは俺の唯一の取り柄だしな。これで負けたとなったら目も当てられない。
・
・
・
不審者を追いかけること十数分、ゼネリアの近くの森の中で漸く不審者が足を止めた。
「なに?追いかけっこはもう終わり?」
師匠が煽るようにそんなことを言う。……相手側にリーネがいるのにそんなことを言っていいのか……?
まあ、師匠には何かいい考えがあって、わざと言ったのかもしれない。
「…はい、これ以上逃げ続けてもジリ貧なのは目に見えていますからね」
そう言って抱えていたリーネを地面に降ろし、フードを取り去る不審者。暗いせいで細かい所までは見えないが、その顔は紛れもなくリーネの顔であった。
……こいつがヒスイか!
「お久しぶりですね。私のこと覚えていますか?」
「一ヶ月も経っていないのに忘れるわけないでしょ、ヒスイ」
にこやかに微笑むヒスイに対し、睨む師匠。
「ああ、そういえばフルネームでの自己紹介はまだでしたね。私はヒスイ・ルードと申します。改めてよろしくお願いいたしますね、ヴィンドさんに、お兄様」
そう言って、俺に向かって笑顔を向けるヒスイ。……お兄様?それにルード姓って……。
「ちょっと待て!俺に兄弟姉妹なんていないぞ!」
「お兄様がそう思うのも無理はありません。私達は生き別れの兄妹で、顔を合わせるのも今日が初めてなんですから」
「俺とお前が生き別れの兄妹?ふざけるな!だいたい、俺とお前は全く似ていないじゃないか。リーネと姉妹と言った方が何倍も信憑性がある」
「ふざけてなどいません。兄妹の顔が似ないなんてこと、よくありますよ。それにもしもこのことが嘘だとしたら、わざわざ言うメリットがあると思います?」
ぐっ……確かにそうだ。
「……嘘を言って俺を混乱させるためかもしれない……」
「苦し紛れの言葉ですね。我が兄ながら情けないです……」
……ダメだ、完全に主導権を握られている。だったら――
「……とにかく!俺がお前の兄であろうがなかろうが関係ない!俺とお前の関係は敵!それ以上でもそれ以下でもない!」
無理矢理話題を逸らすまでだ。
「…果たして本当にそうでしょうか?」
「何……?」
俺の言葉に対して不敵に笑うヒスイに、思わず顔を顰める。
「お兄様は知っていますよね、私達の目的を」
「魔王を復活させるとかいう、人が聞いたら大多数が心の中で馬鹿にするであろうことか?まぁ、その奥にどれだけ崇高な目的があるのかは知らないけど」
わざわざ魔王を復活させてまで叶えたい願いだ。きっと、俺のような凡人には分からないようなものなのだろう。
「ふふ…私達の目的は言うほど立派なものではありません。何せ『世界征服』といった実に子供っぽい理由で魔王様を復活させるのですから」
クスクスと笑うヒスイ。世界征服……?確かに、史実通りならば今現在ある四国を同時に相手取ることができるほど強かったが、それはあくまで魔王国での話だ。魔王だけを復活させても、世界征服なんてできるとは到底思えない。
……情報が圧倒的に足りてない。もう少し相手から引き出してみるか……。
「……それで、魔王を復活させて世界征服を行うことと、俺は一体何の関係があるんだ?」
「それは私達兄妹が魔族の生き残りであるからですよ、お兄様」
俺が、魔族の生き残り……!?
「……何を言い出すかと思えば、俺が魔族の生き残りだと?そんな与太話、誰が信じるんだ?」
「では、お兄様は自分が魔族ではないと証明できますか?生まれが何処なのかはっきりしていれば簡単に証明できますよね?」
「ぐぅ……」
知らないことを言及され、言葉に詰まってしまう。確かに、俺は自分が何処の生まれで拾われるまでどうやって生き延びていたのかは分からない。
「…だが、俺が魔族であることと俺とお前が兄妹であることも証明できないはずだ」
しかし、話のペースを持っていかれるわけにはいかないので、どうにか言葉を捻り出す。
「ふふ……お兄様が魔族である証明なんて簡単にできますよ。やろうとすれば今すぐにでもできますし。けれど……先程からお隣で黙って気を溜めていらっしゃる方をこれ以上放っておくわけにもいきませんし、お話は一旦ここで終わりにしましょう」
……チッ、時間稼ぎをしていたことはやっぱり気が付かれていたか……。
「大丈夫よ、ヒアス。あたしの準備は粗方終わっているから」
その一言と共に師匠が溜め込んでいた気が一気に解放される。
なんか髪の毛が金色になってついでに逆立ってしまうような、そんな感じの気の放出のされ方だ。
この技の名前は『受身の型・剛気』だっけ?まぁ、その名前も略称だった気がするけど……。たしか、正式名称は『虎爪流防式参型・剛気』だったはず……。
「……少々時間を取らせすぎてしまいましたね。まるで目で追えない程のスピードで闘う戦闘民族のようです。まあ、あなたを相手取るのは私ではありませんし、怖気付く必要もないでしょうが」
そう言ってパチンと指を鳴らすヒスイ。すると、突如彼女の手元に大きな鎌が現れる。まるで死神のようだな……。
というか、師匠を相手取るのはヒスイじゃないって、どういうことだ……?周りにあいつの味方でも潜んでいるのか?いやでもそんな気配微塵も感じられないし……。
「さあ目覚めなさい!ディストリビューション!」
掛け声と共にヒスイの赤い左目が青白い光を放つ――いや、ただ光を放っているのではなく、目が燃えているのか……?
「ヒアス!危ない!」
「――うぉっ!?」
ヒスイに気を取られていた俺の方を何かが掠める。師匠の呼びかけがなかったら今頃直撃していただろう。その俺を殺そうとした何かが飛んできた方を見やると、両腕をだらんとして突っ立っているリーネの姿が。まさか……!?
「お前!リーネを操っているのか!?」
「いいえ、この眼の能力はそんな便利なものではありません。この眼――色欲の瞳の能力は分与。つまり、私の力を彼女に明け渡しているだけです。まあ、明け渡し先が素養のない相手だったら暴走してしまいますけれど。それよりも、余所見をしていていいんですか?」
「くっ!」
再び飛んできた青紫色の炎を避ける。確かに、悠長に話している場合ではなさそうだ。
「ヒアス!リーネちゃんはあたしに任せてあなたは供給元を叩きなさい!」
「分かった!」
師匠がリーネの元へ駆けていくのと同時に、俺はヒスイを中心とした円周上を、牽制としてナイフを投げつつ走る。今いる場所が少し開けているとはいえ、所詮は森の中だ。遮蔽物である木を利用しない手はない。相手の視覚外から仕掛ける!
「ふふ……一旦身を潜めてからの奇襲ですか。確かに、この暗い中では有効的な戦術です。けれど……」
再び指を鳴らすヒスイ。それに警戒して、近くの木の陰に隠れ様子を窺う。一体何をするつもりだ……?
「――流影之泉」
「――ッ!?」
突如足元がぬかるんだかと思うと、一気に地面の中へと身体が沈んでいく。まずい、早く抜け出さないと……!
「あがいても無駄ですよ。それは術者が解かない限り逃れることのできない底無し沼。お兄様にはお片付けが済むまでその中に潜っていていただきます」
木の後ろ側から覗き込むように現れるヒスイ。
「…よく俺が隠れている場所が分かったな……」
降参した感じで、そんなことを言う。本当はまだ全然諦めていない。
「私、お兄様のことならなんでも分かりますから……というのは冗談で、本当はお兄様がだだ漏らしにしている魔力の場所で特定しただけですけれど」
「俺の、魔力……?」
「はい。人はいずれも余分な魔力を体外に無意識的に放出していますから。まあ、お兄様の量は一際多いですが。恐らく、お兄様が魔術を上手く扱えないのはそれが原因です」
なるほどね。それでヒスイは俺の魔力を辿って居場所を特定したわけか。本当に人が放出している魔力なんて分かるのかと言いたいが、ルーンハイトも俺の魔力のこと知っていたみたいだし、恐らく分かる人間には分かるのだろう。そんな話聞いたことないから極少数なのだろうけど。
……って!そんなこと悠長に考えている場合じゃねぇ!もう胸まで埋まってきてる(両腕はまだ呑まれていない)!さっさとここから抜け出さないと!
「さて、私はそろそろゴミを片付けにいきますね。…しかし、よくあの状態になったアレと互角以上の戦いができますね……」
「あっ!おい!待て!」
「全てが終わったら一緒に暮らしましょうね?お兄様……」
俺の言葉に耳を一切貸さずに、戦っている師匠達の元に歩みを進めるヒスイ。彼女の背中を見ている間にもどんどん俺の身体は沈んでいき、とうとう全身が呑みこまれた。
ヒスイ(・ルード)
性別:女
年齢:16
身長:155cm前後
容姿:白のショートに漆黒のヘッドドレス(大きめの黒いリボン付き)。黒(右)と紅(左)のオッドアイ。
一人称:私
出身地:?
職業:?
武器:大鎌
スペック:
体力:C
魔力:A
攻撃:A
防御:D
術攻:A
術防:C
敏捷:C
命中:C
回避:E
致命:C
備考
リーネにそっくりな謎の少女。本人いわくヒアスの妹で魔族の生き残り。




