鏡写し・後編
春季休業に入ったというのに、学校に通っていた時よりも忙しいとはどういうことだ……。
「――あら、思っていたよりもお早いご到着のようですね……」
白い髪の毛に黒と紅のオッドアイ、ゴシックロリータと呼ばれる服装に頭にはヘッドドレス。そして、右手には大きな鎌といった私には似ても似つかない風貌でしたが、その顔は私にそっくりでした。同じ顔と言っても過言ではないくらいに……。
「あ、あなたは……?」
サーシャさんとミキナさんは見比べるように交互に私達を見ています。
「私ですか?私はヒスイと申します。以後お見知りおきを、メルレントの神子様」
鎌を床に置き、両手でドレスをつまんで広げ、会釈をされます。その動作には一切の乱れがなく、まるでからくり仕掛けのお人形を見ているようにも感じます。
「こ、こちらこそ……」
どうしてよいか分からないので、私の方もとりあえずお辞儀をしておきます。
「いつまでそんな悠長に挨拶なんかしてんのよ。もうここでの用事なら済んだんだからさっさと戻るわよ」
「クーちゃん!?」
異様な雰囲気に包まれたこの場の空気を壊すかのように、奥の方から鏡を抱えたクウさんが姿を現しました。思わぬ登場にミキナさんが大きな声で驚きます。
「……久しぶりね、姉さん。悪いけど、今はあなたの相手をしている暇はないの」
しかし、クウさんはミキナさんを一瞥して、ヒスイと名乗った彼女に手にしていた鏡を手渡します。
「その通りですね。私達の仕事はもう終わりましたし、早急に帰らせていただきましょう」
「――待ちなさい」
この部屋から出ようと歩き出した二人の進路を塞ぐように、サーシャさんが立ち、二人を呼び止めます。
「…なんでしょうか?先程クウが申し上げた通り、あなた方を相手にしている暇はありません」
無表情のまま、淡々とそんなことを言い放つヒスイ…さん。
「あなた達に用がなくても、こちらにはあるのよ」
対するサーシャさんも彼女の有無を言わせない物言いに怯むことなく、毅然とした態度のまま話します。
「……どうしても退いてくれないというのならば仕方ありません。こちらも実力行使させていただきますよ。…でもよろしいのですか?いくらあなたといえども、そんな足手纏いを二つもつけて私達に敵うとは到底思えませんが」
余裕の笑みを浮かべている彼女の言葉に対し、苦虫を潰したような表情を浮かべるサーシャさん。
…やはり、私はサーシャさんの足手纏いになっているようです……。
「それに、私達は今はあなた方を見逃すと言っているのですよ?それとも、私達にあなた方の持つ鏡を奪ってほしいのですか?それならば戦うのも吝かではありませんが」
「――チッ……分かったわ」
小さな舌打ちをして、道を譲るサーシャさん。
…私のせいで……すみません……。
「フフッ、初めからそうしてくれれば良かったんですよ」
そうして譲られた道を我が物顔で闊歩するヒスイさん。その後ろにクウさんもついていきます。
「クーちゃん!」
立ち去ろうとする二人に、いえ、正確にはクウさんに、今度はミキナさんが呼びかけます。
「…私はもうあの家とは関係ないの。だから、もう二度と私の前に顔を出さないで」
ミキナさんの呼びかけに歩みは止めたものの、こちらを見ることもなくそう吐き捨てるように言って、また歩き出します。
「クーちゃん……」
悲しそうな表情を浮かべて、顔を俯かせるミキナさん。
サーシャさんは、この場から立ち去るお二人の背中を今まで私に見せたことのないような鋭い目つきで凝視しており、私はどうしてよいか分からずにただ視線をあちこちに泳がせているだけでした。
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「――どうやら、あの言葉はただのハッタリというわけではなかったみたいね……」
バラバラに壊された石像を見て、サーシャさんがそんなふうに呟きます。
たしか、この石像は……
「ヨハネス遺跡にあったものと同じ石像……。彼女達はそれを退けたんですか?」
「ええ。それも石なのに気持ちいいくらいにバッサリと切断されているわ。恐らくあの鎌でやったのでしょうけれど、相当な手練れでないとこうはならないわ」
敵ながら天晴れとでも言いたそうな表情で、そんなことを口にするサーシャさん。
「――さて、と、私達も戻りましょうか。いつまでもここにいたってしょうがないしね」
サーシャさんが右腕を上に挙げ、左手は右腕の肘に当てるようにして伸びをします。
たしかにサーシャさんの言う通り、目的の物が奪われた今、ここにいる意味は一切なくなりました。今の私達にできることといえば、ゼネリアに戻り、ヒアスの帰りを待つことくらいでしょう。
「…そうですね~。ゼネリアに帰りましょう~」
先程から沈黙し、何かをずっと考えていたミキナさんが、サーシャさんの言葉に同意します。しかしながら、その声はここを訪れた時とは大違いのものになっていました。やはり、クウさんの去り際の一言が堪えたのでしょうか……?
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「――はぁ、やっとゼネリアに着いたか……」
街道沿いに歩いていただけとはいえ、本来は馬車などで進む道。人が徒歩で行くには長すぎる。
…あっ、皆さんどうもお久しぶり、噛ませ犬と先日作者の友人に言われたこの物語の主人公ヒアス・ルードです。だが、そんな汚名も今回からおさらばだ。なんたって今の俺は服装を一新したからな!
まぁ、服装が変わったからって中身が変わってないんだから強さは一切変わってないけど。変わったとしても多少防御力が上がったくらいだ。というか、今までこの小説内で俺の普段着について言及したことは一度たりともないから、服を変えたからなんだって話だが。
…無駄なお喋りはこのくらいにしておいて、さっさとあいつ等に報告しに行くか。リーネや師匠にも久しぶり会いたいしな。
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「――以上だ」
俺がボルネスで仕入れた情報の全てを話し終えて、用意されていた椅子に着席する。ちなみにここはガルウィン軍が軍法会議などを行う場所だろう。流石に入るのは初めて(というより、ここの建物自体に入るのが初めてだ)なので、本当にそういった用途で使用される場所のかは分からないが。
「ロケット、ね……」
俺の言葉を受け、そんなことを呟くネルシャス。その表情は何と言っても微妙なものだった。まあ、当たり前か。いきなりロケットなんて言われても反応に困るのは目に見えて分かる。
「始めに言った通り、この情報が真実とは限らないけどな」
確かに俺はロケットと呼ばれるものの姿は見たが、全ての情報元はルーンハイトだ。あいつが俺に嘘を吐いた可能性だってある。いや、そっちの方が確率的には高いだろう。
「うん、それは分かってるよ。君が命をかけて手に入れてきた情報に文句を言うつもりはない。たとえそれが虚偽のものであったとしてもね。それに、僕が気になっているのはそこじゃないんだ。僕が気になっているのは、何故君が不法入国者だと知っていたのにそんな情報を漏らしたのか、だよ」
「だからじゃないのか?わざと嘘の情報を教えて相手に無駄な警戒させるのが目的とか」
「僕は違うと思うけどね。もしそうであったならば、情報はそれなりの真実味を帯びてないといけない。だけれど、その情報は今こうして真偽が疑われている」
「だったら、この情報は嘘と本当が入り混じっていると考える方が妥当か……」
「そうだね。嘘と本当の情報を混在させる……。人を騙すには簡単かつ優良な方法だ。君なんかはこういったことは得意だろう?」
机の上で組んでいた両手を離し、こちらに微笑むネルシャス。
「…俺を疑っているのか……?」
「まさか、僕は僕の思っていたことをただ述べただけだよ。君のことは疑っていないよ。君は一度引き受けた仕事に対しては誠実らしいしね」
だた、信用はしていないけどね、とにこやかな表情を浮かべ、そう付け足す。
「…話が逸れたね。元の話に戻ろうか。……そうだね、君が言った情報の中で一つだけはすぐに嘘だと分かったよ」
……なんだ?そんな分かりやすい嘘なんてあったっけ?
「ロケットと呼ばれる代物の標的はここ――ゼネリアではないことだよ」
「……どういうことだ?」
「今回の戦争の目的は支配ではなく単なる交渉を優位に進めるためのものだからね。頭を叩いて交渉できなくなったら元も子もないだろう?」
……なるほどね。しかしまあ、戦争が交渉の手段なんてリーネが知ったら怒るんだろうなぁ……。
「恐らく、近くの山にでも落として、ボルネスはあんな力を持っているから戦争をしたって無駄だ、とこちらに思わせるのが目的なんじゃないかな?戦地に落とすっていう場合も考えられるけど、それじゃあ自軍の兵士も巻き込まれるのは避けられないし、そうなると民衆が黙っていないからね。やっぱりそれは合理的ではないね」
なるほど。ロケットとやらは戦わずして勝つためのものということか。それならば一度計画が凍結しかけた理由も納得できる。たしかに、戦わずして戦争に勝利することができるのであればそれに越したことはないけれど、必ずしもそうなるとは限らない物に対して金と労力を注ぎ込みたくはないからな。
「……そういえば、新兵器用に特殊訓練を受けていた兵士がいたんだが、それは一体なんだったんだ?」
「恐らくそれはロケットの制御のための訓練じゃないかな?話によると大規模な魔法を使うみたいだし、流石に一人二人は制御しきれないと思うよ」
「ああそうか。ルーンハイトの口振りからてっきり魔導器で全制御を担うと思い込んでた」
その道のプロが言うんだ。現段階の技術力ではまだ人力に頼らざるを得ない部分があるんだろう。
俺もこういう系統の知識も多少はつけておいた方がいいかな?
「ルーンハイト……君今ルーンハイトって言った!?」
突如声を荒げ、机を強く叩いて立ち上がるネルシャス。その表情は先程までの余裕は消え失せていた。
「あ、ああ……」
「あっ、すみません。急に叫び声を上げてしまって……」
コホン、と咳払いして再び椅子に座りつく。しかしその表情はいまだにそわついている。
「……よかったら、君が言ったルーンハイトって人の特徴を教えてくれないかな?なんなら追加の情報料を払うよ」
「いや、この情報を伝え忘れていたのは俺のミスだから、金を払う必要なんてない」
本当はわざと伏せていただけだけど。あいつとはボルネスにいた間割と仲良くしていたが、あいつに関する情報で確信を持って正しいといえるものは非常に少ない。あまり確信の持てない情報を報せて混乱を招くわけにはいかないし、何より今回の依頼からは外れている部分だしな。
「ルーンハイトはさっきまで話していたロケットの開発者だ。性別は女性、年齢は…14,15辺りかな。俺もこれ以上詳しいことは知らないんだ、すまん」
本当は性格だの性癖だの色々と知ってはいるが、それが本当にルーンハイトの本性とは限らないので、今は伏せておく。
「いや、それだけで十分だよ。……さっきの発言は訂正するよ。ロケットは間違いなくこのゼネリアに落とされる。これは彼女からの挑戦状だ」
机に両肘をつき、口元で両手を組むネルシャス。その瞳は今までとは異なる鋭い眼光を放っていた。
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「――ここに師匠達が泊まっているのか」
あの後すぐネルシャスに軍法会議を開く必要があるから出ていけと追い出されてしまったので、あらかじめ聞いておいた師匠達が泊まっている宿屋に向かい、現在その宿屋の前に立っている。いつまでもここに立っていては経営の邪魔となるのでさっさと入ろう。
「すみません、サーシャ・ヴィンドがこちらに泊まっていると聞いてやってきた者ですが、彼女の部屋を教えてくださいませんか?」
室内に入って早々に、店主らしき女性に話しかける。
「すみません、お客様の個人情報に関するお教えすることはできませんので……」
……まぁ、当たり前か。
「では、彼女達が帰ってくるまでこちらで待たせていただいてもよろしいでしょうか?」
たしか、ここの宿屋の昼間のこの時間帯は部屋の清掃のために客には退室してもらっている時間だ。
その証拠にカウンターの後ろには各部屋のカギが全て揃っている。
「それならば構いませんよ」
にこやかな表情を浮かべてそう返される。
あっ、そうだ……
「そういえば、まだこちらの宿はまだ部屋は空いてますか?」
部屋が空いているのならば、俺もこの宿に泊まろう。別の宿にすると一々会う時間と場所を決めないといけないから面倒だし。
「はい、一部屋空いています。ご利用になりますか?」
「はい、とりあえず一泊でお願いします」
どれくらいここに泊まるのかを決めるのは、師匠達と合流してからでいいだろう。
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師匠達を待つこと数時間、俺が待っている間一切開くことのなかった出入り口の扉が漸く開き、そこから久しぶりに見る顔が現れた。
「よっ、リーネ、それに師匠」
ソファーから立ち上がり、今室内に入ってきた女性二人に話しかける。
「ヒアス!お久しぶりです!無事に帰ってこれたんですね!」
俺の呼びかけによってこちらの存在に気が付いたリーネが駆け寄ってくる。
「ああ、おかげさまでな」
「久しぶりね。……見ない間に少したくましくなった?」
リーネとは違い、ゆっくりと歩み寄ってきた師匠がそう話しかけてくる。
「たかが一か月程度でそうそう変わるもんじゃねぇよ」
男子三日会わざれば括目して見よ、なんて言葉があるが、人間はそう簡単に変われるものではない。
「――再会の挨拶はこれくらいにしておいて、リーネ達の方はもう用を終えたのか?」
いつまでも無駄話をしていたって仕方ないので、話を切り替える。
が、その話題を俺が振った途端にリーネの顔が暗くなる。……地雷だったか。
「まぁ、そのなんだ。詳しい話は部屋に入ってからにしようか」
どうやら風の鏡は手に入れることができなかったようだが、師匠がついていながら失敗するのは考えにくい。まぁ、真に詳しい話は後で師匠に聞くとして、ひとまずは部屋に向かうとしよう。
キャラクター紹介
アクト・ネルシャス
性別:男
年齢:21
身長:165cm弱
容姿:焦げ茶色の髪を襟足まで伸ばしている。瞳は薄茶色で眼鏡をかけている。
一人称:僕
出身地:ガルウィン
職業:ガルウィン国立研究院職員
武器:本
スペック:
体力:C
魔力:A
攻撃:D
防御:D
術攻:A
術防:S
敏捷:D
命中:C
回避:D
致命:C
備考
ガルウィンの国立研究員で魔導学の研究をしている。ガルウィン国内でも優秀な魔術師の家系の生まれ。ラエンとは昔からの付き合いで、ラエンの右腕ともいわれる。
頭がいい設定なので、彼のセリフを書く毎に作者の頭の悪さが露見していくため、あまり喋らせたくないキャラでもある。




