タイトル未定2026/07/20 20:44
カウンター席にいた女性客がいなくなり、流花はカウンター席のテーブルを台拭きで拭いていた。
テーブルを拭きながら、カウンターの中にいたマスターに流花はそっと言った。
「マスター女性客相手に、楽しそうですね」
「嫉妬をしてるんですか?」
マスターは、嬉しそうに言った。
そんなマスターに流花は、冷たく返した。
「まさか」
マスターはカウンターの中でお酒を作り、流花はホールを歩きまわり、たきこは厨房で腕をふるっていた。
ドアが開き、ドアについている鐘が鳴り、店内に男性客が入って来た。
男性客は、カウンター席に座った。
ホールを歩きまわっていた流花を見つけた男は、声を上げた。
「シロちゃん!」
その声に、流花は男性客の側に行った。
「ボス、お久しぶりです」
「えぇ~俺の名前覚えていたんだ!」
「もちろん。ボスは、私のファンですから」
「うれしいなぁ、嬉しいよ」
ボスは流花の両手を、握りしめて言った。
その姿をカウンターの中からマスターは、じっと見つめていた。
「あれっ、シロちゃん指輪をしている」
「あっ、これですか?変な男に言い寄られたら『結婚しています』って言う為につけています」
流花の言葉にマスターは、吹き出しそうになった。
「うん、うん。それが良い!変な男に言い寄られたら、その指輪を見せれば良い。しつこいようだったら、ボスがシロちゃんを守る」
「ボスが側にいたら、怖いものなんてありません」
ボスは大きく頷き、マスターは「やれやれ……」と言うように、そっとため息をついた。
ボスはカウンター席で、ビールをゆっくり飲んだ。
ビールを飲んだボスは、そっと振り返った。
流花は、テーブル席で食事をしている三人の男性客の相手をしていた。
ビールをゆっくり飲んだボスは、カウンターの中でグラスを磨いているマスターに言った。
「マスター、本当にいい子を雇ったよ」
「白田さん……ですか?」
「嫌な顔一つせず、こんなおやじのくだらない会話に付き合って。ホールの仕事をこなしながら、客の接待もして」
マスターは、大きく頷いた。
「あんないい子は、そうそういない。マスター、シロちゃんを手放すなよ」
もちろんボスは、流花の仕事ぶりを見て『シロちゃんを、手放すなよ』と、マスターに言った。
マスターにボスの想いは、しっかり伝わっていた。
しかしマスターは、バイトの流花ではなく、彼女の流花として受け取った。
「はい。彼女を手放したりなんてしません」
客足が途絶え、bar「ジェシカ」に静寂が戻った。
厨房で料理を作っていたたきこは、厨房からホールに出てきた。
マスターは、たきこをねぎらった。
「たきさん、お疲れ様でした」
「お疲れ様です。先に上がります。大門君が作った煮込みうどんが、マスターを待っていますよ」
店内は、静かな笑いに包まれた。




