第四話 契約
「‥‥‥ッ、やっぱり、アンタみたいな使い魔は危険なのよ!平気で人を殺そうとするものね!ふざけんじゃないわよ!!一番弱い魔法?威張るのもいい加減にしなさいよ!」
キッとこちらを睨まれた。
「火よ 大地を覆う地獄の炎よ 今来たれ!!」
その手には、先ほどの火球よりも倍以上大きい火の球があった。
「ど、ど、どうしよう!やばいわ!猫ちゃん、どうにかし———あれ!?猫ちゃん!?」
「無理ね、魔力全部使っちゃったわ」
床に突っ伏すのはさっきまでカッコつけていたリリィだ。無理に魔力を使ったからか、フニャフニャしていてとても立ち上がれなさそうにない。
「あー。あとちょっとで発動しちゃうわよ」
「やっばーい!!姉さま!落ち着いて、お‥‥‥」
‥‥‥いや、違う。姉さまを落ち着かせるんじゃない。私が、姉さまを止めないと。
「ちょっ、アンタ!いくら何でも真正面から突るのは‥‥‥!」
「アンタみたいな、”選ばれた”妹がいなければ‥‥‥!」
火球を投げた瞬間のことだった。
バァンッ
火球が消えた。いや、消えたわけではない。ただ‥‥‥ビンタされて横に吹き飛んだのだ。
‥‥‥アリアの手によって。
「は、は‥‥‥?」
アリアは姉を押し倒した。その上にアリアは乗っかる。
「ふざけないでください。セイラ・ローラ・スタークレム。何が選ばれた妹ですか‥‥‥ずっとずぅーっと自分を卑下して‥‥‥そんなんだから、いつまで経っても姉さまは変われないんだ!!」
姉さまが衝撃を受けたような顔をする。いや、後ろで猫も同じような顔をしてる気がするけど。
もういい、この際だから全て言ってしまおう。私が姉さまに思っていたこと全部。
「婚約を解消されたのも自分のせいでしょ!?姉さまの婚約者が”聖女候補生”にベタベタしているのだって姉さまがキツく言わなかったからだ!!それを私に当たって何が楽しいの!!」
そういった途端、姉さまの眉が吊り上がった。
「うるさいわね!!何度も言ったわよ!あまり馴れ馴れしくするなって!なのに相手は何て言ったと思う!?『だからお前はダメなんだ』なのよ!?何がダメなのか聞いても答えてくれない!だから‥‥‥だから‥‥‥」
「聖女候補生をいじめたと言われているのですか?」
姉さまがハッとなる。良かった、私も含めて少し落ち着いたみたいだ。
「そうね‥‥一般的にはそう言われてるわよ。でも、違うのよ。全部。私が聖女に向かって水をかけたと言われているでしょう?あれは‥‥‥あっちがぶつかって来たときに、間違えてかかっちゃったのよ」
「知っております。私もその場にいましたから」
「あぁ‥‥そういえば、アンタも、聖女候補生だったわね」
そうだ。私は去年あたりに、神の恩恵を受けた者だけが使える聖魔法を使えることが判明したのだ。あれからだっけ、親が私に期待を抱くようになったのは‥‥‥
「見てたのなら何で私を庇ってくれなかったのよ」
「庇ったところで無駄だろうと思ったからです。‥‥‥聖女はいい人に見られがちですが、私は普通に殴りますし怒鳴ります。キレると結構口も悪くなりますし、理想とは程遠いのです」
「普段はぽわぽわしてるのに」
そうですか?と首をかしげる。
少し、笑いがこみあげてくる。おかしいものだ。この世に所作も言葉遣いも人柄も、完璧な人間などいるはずがないのに。人は、世界は完璧を求めるのだ。
「さて、落ち着きましたか。あ、そういえばそろそろ私、入学式です。今年は姉さまの婚約を解消したあの聖女候補生も、第一王子も、その他もろもろ入ってきますけど」
「いやだわ。不登校になろうかしら」
「そしたら私の評判も下がります。殴りますよ。‥‥‥あれ、あの猫は‥‥‥?」
「ここにいるわよ」
いつからいたのだろうか、私のすぐ隣にちょこんと座っていた。
「私はずっと見てたわよ、アリア。いえ、アリア・ローラ・スタークレム。ここで私の主人になりなさい」
「‥‥‥主人になるときにそこまで上から目線になる猫って中々‥‥‥」
「うるさいわよセイラ。アンタのしてきたこと全部世界中にバラまくわよ」
「怖いわ~、助けてアリア」
「姉さま、離れてください。それにしても主人ね‥‥‥ふふふ、いいわよ。なってあげる」
「じゃあ、ここに血を一滴」
いつの間にかいたのやら、魔法陣が床にかかれていた。
私は崩れた壁の破片で指を切り、魔法陣の真ん中に血を一滴たらした。
魔法陣が白く、淡く輝く、隣で姉さまが「きれい‥‥‥」とつぶやくのが聞こえた。
「‥‥‥光、消えたわね。これで契約成立よ。喜びなさい。大魔法使い、ライラ・ルトリスにも仕えたこの私がアンタの使い魔になったあげるんだから」
「ライラ・ルトリス‥‥‥?」
ライラ・ルトリスってあの‥‥‥知らない人はいない‥‥‥『大罪の魔女』




