表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/9

6話「地縛霊(アースバウンド)」

 食事を終えた俺(ちゃっかり富士野も食べた)は、取りあえずトランクを持って⊿荘を出た。

 平日の昼時だけあって、住宅街の比較的大きな通りだというのに閑散としている。


 もっとも()()()()()()()――幽霊(ゴースト)なら割と漂っているが。

 ちょうど目の前の塀の上で、半透明の小さい猫が香箱座りをしている。

 その下では、同じく半透明の大型犬が猫を見上げていた。


 死後、警戒心という物を捨て去ってしまったのか、二匹とも俺たちが近づいても逃げる素振りを見せない。


『にゃお~ん♪』

 猫(?)としての習性なのか、それとも捕獲機としての機能がそうさせたのか、ポチが二匹の間に割り込み一鳴き。

 それに対して、犬は尾を激しく振り興奮した様子。

 猫は片目だけでポチを視認し、あくびを返した。


 捕まえるなら絶好のチャンスだ。


「はぁ~……、良い……。かわええなぁ~……」

 しかし富士野は、二匹とポチの様子をしゃがんで眺めるだけだった。

 頬は緩みきっており、非常にだらしない顔をしている。


「なぁ富士野、そろそろ行かないか? どうせ捕まえないんだろ?」

「えぇ~」

「『えぇ~』ってお前……。この辺を案内してくれるんじゃ無かったのかよ。俺たち一応、届け物も頼まれてるんだぞ?」

 ⊿荘の敷地から出て五歩も歩かない位置で、俺達のお使い旅は早くも停滞していた。

 富士野が座り込んで早一〇分が経過。このままでは、何時までたっても青髪さんにカバンを渡せない。


「解った! せめて写真、写真撮らせてくれ!」

「言ったな? 写真撮ったら絶対移動するからな?」

「安心しろや。我が座右の銘は『有言実行』。……ポチ」

 富士野は呼び寄せたポチを両手で掴むと「カメラモードにチェンジ」と言いながら顔の前に構えた。


 するとポチの背面側がハガキくらいの大きさに陥没。

 入れ替わりで液晶パネルがせり出した。

 続いて全体がボール状態から、両手でホールドやすいように長方形に変形。

 両耳部分は透き通り『キュイーン』と、耳鳴りにも似た音を立てる。

 どうやらフラッシュライトを焚くストロボの役割を担っているらしい。

 最後に正面から缶詰のようなカメラレンズがドンッと飛び出し、ポチは愛らしいフォルムから、無骨で大きなデジタルカメラへと変身を遂げた。


「流石はウォッチ端末……。カメラ機能に力入れまくりだな?」

「そりゃお前、ウォッチ社はカメラと時計のメーカーだかんな」

 富士野が言った通り『ウィッチ・ウォッチ社』は元々カメラ&時計製造の会社として創業した魔術系企業だ。

 精巧な機械技術と魔術を武器に事業拡大した今では、家電から企業機器に至るまでかなりのシェア率を誇っている。

 ことプログラム分野においてもパソコンなどに搭載されているシステムの多くが『W・W‐OS』であり、魔術機能が搭載できる端末機器はほぼ間違いなく同社製品だ。


 なによりウィッチ社の偉業は、世界で最初に完全自律思考を可能とした人工知能(いわゆるAI)を完成させた事。

 この成功が無ければ、ポチのような本物と遜色ない電脳ペットも存在しないと言われている。


 本領であるカメラ市場では言わずもがな。

 誰かに『カメラのメーカーと言えば?』と聞けばかなりの確率でウォッチ社の名を口にするだろう。


「お、宇治も端末に興味出てきた感じ? なら同じウォッチにしろや! 同社機種なら通信料無料だぜ?」

「誘いが嬉しいが遠慮しとく。ウォッチ端末ってカメラが高性能な所為で割高だし」

 そもそも追従型にしろ、スマホ型にしろ『端末』というものは総じて高い。

 電話機能も地図アプリも入っていない白ロム端末ですら、一括払いでは十数万はする。

 欲しい機能を追求すれば値段は青天井だ。

 買うとなれば必然的に年単位での分割払いとなるが、端末代とネット利用やサブスクとを合わせればやはり月々二万越えは当たり前。

 仮に完済できたとしてもその頃には最新機種が出回っているし、使い込んだ端末は外側も内部も劣化してボロボロ。

 結局また買い替える事になって、同程度の返済生活が無限に繰り返されることになる。

 ⊿莊に住んで居るかぎりは家賃と食費を気にしなくていいが、バイトもしていない学生が、娯楽費としてポンッと払える額ではない。

 カメラ機能が充実しているのは風景写真家(自称)の身としては魅力的だが、それなら金を貯めてウォッチのカメラそのものを買う方がお財布に優しい。


「多少の家計ダメージは愛でカバーできるって! ほれ、これとか見てみ?」

 富士野は俺の首に腕を絡めてグイッと引き寄せると、俺に手にしたポチを持たせた。

 そして横から液晶画面を指でタッチ操作し、お気に入りだという写真や動画をいくつか見せてくれた(と言うより、見せ付けてきた)。

 猫や犬の丸まって眠る姿、おもちゃでじゃれている様子が、生死問わず次々に映し出される。


 ‥何枚か、立ち上がって二足歩行している姿があったような……。


「な? 毛の一本一本、模様から、毛艶までクッキリだろ?」

「まぁ……、確かに幽霊の実体をここまで綺麗に撮れるのは凄いな。大抵はボヤッとしたり、ひどいと映んなかったりするのに」

 カメラという物は『魂を撮る装置』として、古来より幽霊の動向調査などで用いられてきた。

 現在でもそれは変わらず、コンビニでも従来の使い捨てカメラの他に幽霊専用機が置かれている。


 とは言え、並みのカメラでこれほどディテールを捉えられる事は難しい。

 やはりウォッチの技術力の高さが伺える。


「ちょっと、一回だけ試し撮りさせてもらっても良い?」

「おう、構わん、構わん。好きなだけ撮れ」

 そう言った富士野は、俺から少し離れてポージングをして見せる。

 別に富士野で試すつもりは無かったのだが、彼に恥をかかせるわけにもいかないな。


(‥おぉ?《浮遊の魔術【フロート】》が常時発動しているのだろうけど、想像以上に軽いな。カメラ設定はぁ……、まぁとりあえずそのままで良いか?)

「撮るぞー、三、二、一……」

 持ち手に突出しているシャッターと思しきボタンを押し込んだ。


「………」

「………」

 俺達の周囲を静けさが包んだ。

 可笑しい。

 ボタンを押したのに、撮影音が鳴らないしフラッシュも焚かれない。


「富士野、ポチって今マナーモードだったり……」

 と、訊ね終わる前に、ポチは身震いと共に『ックシュン!』とくしゃみの様な音を発する。

 うん、マナーモードならくしゃみの音もしないな。


「てかマナーでも、端末のシャッター音は絶対鳴る仕組みだぞ。盗撮防止のために」

「でもフラッシュすら光らないんだが?」

「えぇ? まさか故障か……?」

 俺からポチを受け取った富士野は、表面、裏面をしげしげと観察している。

 カメラに関しては素人の俺が見た限り、めだった異常は見られない。


「……あー、そういう事か!」

 しかし持ち主である富士野は液晶を操作して原因に気付いた様子。

 直後、何を思ったか富士野は突然走り出した。


「お、おい! 誰も直ぐに移動しろって言った訳じゃないぞ!」

「違う違う! 原因は容量不足だったから、ちょっくら()()()買って来る!」


『メモカ』というのは、メモリーカードの略称である。

 文字通り、トランプカードの様に薄い物理の記録媒体で、記録領域が一杯になってしまった端末や、パソコンに容量をプラスする役割を持つ。

 基本的にデジタルデータなら写真、音楽、果てはゲームと、何でも保存する事が出来る(勿論、データの大きさが容量に収まればの話だが)。

 しかし物理メモカ新調って、ネットのクラウド容量すらいっぱいなのか?

 俺も写真は貯めがちだが、満杯になった事なんてないぞ。


「なら俺も一緒に、」

「いや、お前はここで二匹の事見張っといてくれー!」

 流石に「そこまでする気か」とたしなめたかったが、富士野は瞬く間に小さくなってしまい、その場には俺と二匹の霊だけが取り残されてしまった。

 やれやれ……。

 一体何時になったら、本来の目的を果たせるやら。


(――まぁ、あの人が何者で、どこで働いているのかさっぱり覚えていないのだけれど……)

 猫が座る塀に寄りかかり、空を眺めながら改めて記憶を遡る。

 流れとはいえ雅美さんは俺に頼んだんだ、それなりに交流があったはず。

 実際、あの人も『相変わらず』と俺をからかった訳だし。


 だが、どうしても思い出せない。

 雅美さんは『マルちゃん』と呼んでいたが、それが本名の一部なのか、あだ名なのかも不明。

『お店に届けて』と言われたからには、町のどこかに勤務先があるのは間違いないだろう。

 でも肝心の名前や店名が解らない以上、交番や町行く人に訊ねる事も困難だ。

 

 そもそも、見ず知らずの通行人にいきなり声をかけるのは結構ハードルが高い。

 それでは身内にと思って、先ほど雅美さんの端末に電話をかけてみたが、どうやら電源を切っているらしい。

 正直なところ、お手上げだ。


「……どうしたらいいと思う?」

 思わず目線の真横に居る、猫の尻に向かって訊ねる。

 当然だが、猫は答えるわけもない。

 我関せずといった感じで細い塀の上で四肢を伸ばして起き上がると、背中を丸めて全身でもう一度背伸び(いわゆる『ボニャールポーズ』)。

 塀からヒョイと飛び降り、犬に寄り添うように地面に座った。

 犬は嬉しいのか、舌を出して自身の尾を振りまくっている。

 随分と仲が良い事だ。

 富士野ほど熱狂的ではないが、見ていて微笑ましい限りだ。


 しかし、和やかな雰囲気もほどほどに、俺はようやく二匹の()()()()()()に気付いた。

 その場にしゃがんでゆっくりと右手を伸ばし、先ずは犬の鼻先に手の甲を嗅がせる。


 これは生死問わず、犬猫などに触れる時の所作。

 いきなり掌で頭上や背後に触れるのは、獣に威圧感を与えてしまい、下手をしたら攻撃と捉えかねない。

『危害を与える意図は無い』という意思表示と、嗅がせる事で俺という存在を認識させる、いわば『挨拶』のようなものだ。

 幸いにして人懐っこい性格なのか犬は逃げようとはせず、その場に伏せて目だけで俺を見上げる。

 お許しが出たようなので、肩から背中にかけて一撫でしてみた。

 ひんやりとした霊体特有の冷たさと、どこか湿り気を帯びた毛の感覚。


 触ってみて解ったがかなり痩せこけていて手触りもゴワゴワ。

 毛玉になっている部分もある。

 とてもじゃないが、まともな飼い主に飼われていたとは思えない。

 俺は出来るだけ驚かさないように、犬の首を軽く持ち上げてみた。


 ――いやな予感は的中。横一線、犬の首元が派手に切られていた。

 霊体の容姿は『最期の瞬間』に起因する。

 体毛の湿り気の正体は、出血が原因だろう。

 横から覗くと傷は首の半分くらいまで達しており、事故ではなく恐らく人為的な物だ。


 猫の方にも同じように挨拶を済ませて見せてもらうと、やはり首を切られていた。

 しかもこちらの方がより酷く、首の皮一枚で何とか繋がっているような状態。

 虐待の末に首を切るという所業をみるに、恐らく同一犯の仕業だろう。


 実はこの二匹の存在は、昨晩⊿莊に到着した時から確認していた。

 その時は浮遊霊がたむろっているだけかと思ったが……、この状態を見るに二匹は『地縛霊(アースバウンド)』と考えて間違いない。

 地縛霊(アースバウンド)――書いて字の如し、様々な理由によって縁のある土地に縛られ、もはや自然に成仏する事も出来なくなってしまった霊の総称だ。

 突然の事故や災害死など、自身が死んだ事に気づけず霊化しているパターンもあるが、たいていは強い恨みや憎しみに囚われて悪霊になっている事が多い。


 だが不思議だ。

 人に首を切られて殺されたなど真っ先に悪霊化しそうなものだが、この二匹はなぜ今日まで正気を保っていられる?


「……ん? あぁ、ごめんよ」

『いい加減に離せ』と言いたいのだろう、猫が鬱陶しそうに俺の手を前足で何度も掻く。

 俺の手から離れた猫は軽く体を舐めてから、伏せていた犬の顔に体を摺り寄せて真横にぴったりと陣取った。


「……なるほど。一緒にいるからか……?」

 俺の問いに肯定の意志を示すように、犬はゆっくりと尾を振った。

 皮肉なもので、この二匹は死してようやく、生前体験できなかった安らぎを手にした訳だ。

 俺の持っている《御札》を使えば即成(そくじょう)させる(捕獲、転送するのではなく、直ちに成仏させる)ことも出来るが、この二匹には今のところ悪霊化の兆しは感じられない。

 こんなに穏やかに過ごしているのなら、手を出すのは無粋だな。


「――《【スナッチ‼】》」

「ぇ? ‥ッぎゃぁ⁈」

 不意に背後から捕獲魔術の詠唱がしたか思うと、俺の全身を強烈な衝撃と痺れが襲った。

 しゃがみ姿勢のまま全身が硬直し、そのまま目の前にいる二匹の上に倒れこんでしまう。

 二匹は俺が倒れきる寸前ですばやく起き上がると、目の前の塀に飛び込んで姿を消す。


「――あぁ~、逃げられたー‼」

「何やってんのヘタクソ‼」

「ヘタクソ言うな! ユズだって、昨日は猫取り逃がしたクセにー!」

「ミカンが「私は猫狙うねぇ」とか宣言しといて犬撃ったからじゃん! この鳥頭!」

「なぁにー⁉」「なによ⁉」

 後ろの方から子供じみた言い争いが聞こえる。


 依然として痺れる四肢で何とか四つん這いになり背後を見ると、道路の反対側で同じ顔をした二人の少女が取っ組み合っていた。


 服装や髪型こそ少し違うが声まで瓜二つ。

 どうやら双子のようだ。

 背丈から察するに小学校の上級生、よくて中学生くらいか?

 特徴しかないみかん色の外跳ねクセ髪。

 そして何より目立つのは、オーバーサイズシャツの裾から飛び足している()()()()()()()()

 顔や耳は人間のそれなので、おそらくキツネ系の亜人種――『ロプス人』のクオーターだろう。

 ハーフにしては動物的特徴が少なすぎる。


 彼女らの肩には虫なのかトカゲなのか、判断に困る形状の機械が巻きついており、ミカンと呼ばれた少女の機械からは魔術発動直後のキラキラとしたエフェクト――『マナ粒子』が噴き出ていた。

 どうやら俺に当たった《【スナッチ】》は、あの装着型端末機から放たれたようだ。


「大体、ユズはいつもいつも!」

 ツインテール少女が、サイドテール少女の頬を両手でつねる。


「イタタタッ⁈ やりやがったなコンニャロ‼」

 対抗して口の悪い少女が、気が強そうな少女の頬をつねる。

 横に伸びた口で馬鹿だ、アホだと語彙の少ない罵り合いを繰り広げる双子。

 おいおい……、目の前に誤射の被害者が倒れてるってのに、完全に無視か?


 ようやく体を起こせたので、犬たちが消えた塀を支えに何とか立ち上がる。

 文句の一つでも言ってやりたいが、まだ歩けるほど回復していない。


「というよりも……」「つぅーかさぁ……」

 取っ組み合っていた双子が動きをピタリと停め、二人がずんずんと俺の方に歩いてくる。

 ようやく俺の存在を認識し、謝る気になったのだろうか?


「「そんな所に立ってた貴方アンタが悪い‼」」

「なッ……⁈」

感想、批判、いいね待ってます!!

(´;ω;`)リアクションほしい!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ