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君の隣で僕は考える ~本を読めば大抵のことは分かる。平穏の手に入れ方以外は~  作者: マリセリソウ


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第79話 正しさの重さ

 食堂やまもとに到着すると、夏樹はちゃんと待っていた。俺の言いつけ通り、山本さんと一緒に柴田さんを家まで送り、その後ここへ戻ってきたらしい。

 そこまではいい。問題は現在の状況だ。


「……どういう状況なんだ?」

「……ははは」


 夏樹が乾いた笑いを浮かべた。なぜか山本さんが夏樹の膝の上に座り、料理を食べさせてもらっている。

 店長は苦笑い。奥さんは半分呆れていた。

 ちなみに俺は店の外にいる。山を駆け下りた結果、制服も靴も見事にドロドロだからだ。


「大丈夫だから入っておいで」


 店長に促され、恐る恐る店内へ入る。

 一歩。そこで停止。すぐに扉を閉める。虫が入ってはいけない。被害は最小限に留めるべきだ。


「夏樹ちゃん! 早く! あ~ん」

「はいはい。ちょっと待って! 次はだし巻き卵にする?」

「うんうん」


 山本さんは口を開けたまま頷いた。夏樹が箸でだし巻き卵を取る。


「あ~ん」

「ん!」


 もぐもぐ。

 何を見せられているんだ、俺は。


「どうやら、食堂は大丈夫だってことが分かって安心したみたいでね」


 店長が教えてくれる。


「さっきからずっと夏樹ちゃんに甘えっぱなしなのよ」


 奥さんも補足した。


「なるほど……」


 解説されてもよく分からん。

 精神的な負荷から解放された反動だろうか。体も小さいし、赤ちゃん返りというやつかもしれない。


「あ!? 山神君! 失礼なこと考えてましたね!?」

「……なぜ分かる」

「否定しませんでしたね!?」

「たまにはな……」

「ぷんぷんです!!」


 ぷんすかと怒られた。いつも顔に出ていると言われるので、開き直ってみたのだが。これも駄目らしい。

 もうやり方が分からん。


「それにしても、随分ドロドロだけど、どこに行っていたんだい?」


 店長に言われ、夏樹がようやく俺の全身を見る。


「わっ! ほんとだ……」

「洗って落ちるの? それ……」


 奥さんまで心配そうに俺を見る。その間も山本さんは夏樹にしがみつき、時々こちらをちらっと見ては頬を膨らませ、


「ぷいっ」


 と顔を逸らす。

 これ、前にも見たな。柴田さんがやられてたやつだ。

 ちなみに俺にはノーダメージである。


「ちょっと野暮用がありまして……」

「山田農園に行ってたんでしょ?」


 夏樹が聞いてくる。


「そんなドロドロになって何してきたの? お仕事?」

「仕事っちゃ仕事だな」


 俺は自分の制服を見る。早く洗いたい。


「ま、それより家帰って風呂に入りたいから、帰らないか?」

「せっかくだから食事でもって思ったけど、その格好じゃ落ち着かないね」


 店長が苦笑する。


「何なら、うちでお風呂に入っていってもらってもいいけど」

「いや、遠慮しておきます。着替えもないですし」

「そりゃそうだね。ほら、萌。夏樹ちゃんも帰るから、そろそろ解放してやって」

「……嫌です」


 即答だった。

 山本さんが夏樹へさらにしがみつく。


「山神君だけ帰ったらいいんです」

「俺はそれでもいいんだが……」

「そういうわけにはいかないよ」


 夏樹が困ったように笑う。


「萌? そろそろいいかな? 私も明日の準備があるし、帰らなきゃ」

「…………」


 ぎゅーーーーっ。


「ちょ……萌……き、きつい……力抜い……て」


 夏樹が悶えている。

 そうなんだよ。山本さんって、小さい割に結構力が強いんだ。まるで……チンパ――。


「チンパンジーじゃないです!」

「…………」


 誰も言ってない。というか、なんで分かった。


「山神君なんて嫌いです!」

「俺まだ何も言ってないだろ」

「私はちっちゃくて可愛いんです!」

「自分で言うのか」

「だから赤ちゃんチンパンジーなんです!」

「自分でチンパンジー宣言しちゃったよ……」


 俺の脳内と勝手に会話した挙げ句、自分からジャングルに着地してしまった。


「萌……苦……しい……」


 その間も夏樹は必死に山本さんの腕を剥がそうとしている。

 右手……失敗。

 左手……失敗。

 両手……やっぱり失敗。


 赤ちゃんチンパンジー、強い。


「…………」


 俺は泥だらけのまま入口に立ち、その光景を眺めた。とりあえず、山本さんが元気になったことだけは、間違いなさそうだった。


「ほらほら、いい加減にしなさい」


 奥さんが山本さんの脇に手を入れた。


「え?」


 ひょいっ。


「ああぁぁぁぁ……」


 夏樹から引き剥がされた山本さんが宙に浮く。手足をばたばたさせて抵抗しているが、悲しいかな、空中では踏ん張る場所がない。しばらく夏樹に向かって手を伸ばしていたものの、やがて諦めたらしい。今度は奥さんにぎゅっとしがみついた。

 乗り換えが早い。


「はぁ……はぁ……」


 一方の夏樹は、椅子に座ったまま肩で息をしていた。


「ごめんねぇ、夏樹ちゃん」

「本当にごめんね」


 店長と奥さんが揃って謝る。


「だ、大丈夫です……」


 夏樹は若干引きつった笑顔を浮かべた。全然大丈夫そうに見えない。

 俺は足元を確認した。店に入ってからほとんど動いてはいないが、床を少し汚してしまったかもしれない。


「お店、少し汚してしまったかもしれません。申し訳ありません」

「いいよ、いいよ。今日は休みだし」

「後で全体を掃除するから気にしないで」


 二人とも笑ってくれた。ありがたい。


「じゃあ、明日からまたよろしくお願いします」

「私も、よろしくお願いします」


 俺と夏樹がそれぞれ頭を下げる。


「こちらこそよろしくね」


 店長が店の外まで見送りに来てくれた。奥さんに抱っこされた山本さんも、こちらへ手を振っている。


「ばいばーい」

「おう。また明日な」


 ……本当に幼女みたいになってるな。

 お前、高校生だろ。


 まあ、あれだけ甘える元気が戻ったなら悪いことじゃない。もう少しすれば、いつもの山本さんに戻ってくれそうだ。俺は少しだけ安心した。


「じゃ、帰るか」

「うん」


 夏樹と二人で歩き出す。

 もうすぐ夏だ。日もずいぶん長くなり、この時間でも空にはまだ明るさが残っている。傾き始めた太陽が住宅街を淡い橙色に染め、吹いてくる風にも昼間の熱が残っていた。少し歩くだけで額に汗が浮かぶ。


「暑いな……」

「創ちゃん、山登ってきた後だからじゃない?」

「それもある」


 しかも全身ドロドロだ。今の俺に必要なのは夕涼みでも風情でもなく風呂である。俺は家に着いたら真っ先に風呂へ直行することを心に決め、夏樹と並んで夕暮れの道を歩いていった。


「創ちゃん、それで? 何してたの?」


 隣を歩く夏樹が、俺の顔を覗き込んできた。


「んあ? 何のことだ?」

「何のこと? じゃないよ! そんなドロドロの格好して……」

「さっきも言ったろ? ちょっとした野暮用だよ」

「野暮用でそんなになる?」


 なる時もある。たぶん。知らんけど。


「あ、それよりさ。藤嶋さんの連絡先知ってる?」

「え? ジャーナリストの?」

「そうそう。連絡先交換してない?」

「一応、念のためって言われて交換だけしたけど」

「まじで? 教えてくんない? 藤嶋さんに送りたいデータがあるんだ」

「データ?」


 夏樹の視線が怪しくなる。


「じゃ、メールアドレスの方がいいかな……?」

「いや、圧縮して送るから何でもいいぞ」

「っていうか、創ちゃんも藤嶋さんから名刺もらったでしょ? そこに連絡先書いてあるよ?」

「おぉ! そうか! もらった気がする!」

「失礼に当たるから、本人の前では言わないようにしてよ?」

「分かってるって。その名刺か連絡先を教えてくれ」

「ちょっと待って」


 夏樹がスマホを操作し始める。そういえばこいつ、もらった名刺をアプリで管理してるんだよな。高校生がそんなに名刺をもらう機会なんて――。


「どっかの誰かさんが色んなところに首突っ込んで、名刺をもらってくるから管理してあげてるだけだよ」

「…………」


 もう俺の脳内との会話がデフォルトになってない?


「はい、これだよ」


 そう言って夏樹が自分のスマホを操作する。俺に藤嶋さんの連絡先データを転送するようだ。


 ピロン♪


 俺のスマホが鳴った。


「げっ……夏樹からメッセージが届いたよ……」

「『げっ』ってどういうことよ!それに今、創ちゃんに言われたから送ったんでしょ!?」

「冗談じゃん……。サンキュ、助かったよ」

「んもぅ!」


 頬を膨らませる夏樹を横目に、送られてきた連絡先を開く。藤嶋さん宛てに新しくメッセージを作成。今日撮影した動画と写真を添付する。容量が大きいので、送れるように圧縮して――っと。あ、圧縮は無理だった。ま、送れればなんでもいいか。

 文章は……まあ、これくらいでいいだろう。


『これ、なにかに使えそうなら使ってください』


 送信。


「よし」

「もう送ったの?」

「あぁ。動画と写真を送るだけだからな」

「……何を送ったの?」

「さっき言ったろ。データ」

「だから何のデータ?」

「野暮用の成果」

「全然説明になってないよ!」


 夏樹の声を聞きながら、俺はスマホをポケットにしまった。


「圧縮とか言ってたやつは?」

「圧縮せずに、分割して送った」

「……ふーん」


 夏樹が分かったような顔で頷く。


「分かってないだろ?」

「えへっ」


 誤魔化しやがった。こういう仕草をすると、普通なら人によってはイラッとされそうなものだが、こいつがやるとなぜか周囲から歓声が上がる。見てくれのいいやつはこれだから……。

 そんなことを考えていると、ポケットの中でスマホが震えた。


 画面を見る。

 知らない番号だ。


「誰からか分からないじゃん。迷惑電話かもしれないよ?」

「いや、たぶん違う」

「出るの?」


 夏樹が心配そうに画面を覗き込んでくる。俺は構わず通話ボタンを押した。


「もしもし」

『山神君ですか? 藤嶋です』

「あ、やっぱり藤嶋さんでしたか」

「藤嶋さん?」

『あ、夏樹さんも一緒にいるんですね。直美は一緒ではないですか?』


 そういえば、いつからか藤嶋さんは夏樹のことを『夏樹さん』と呼ぶようになった。随分と仲良くなったようだ。


「柴田さんはいないっすよ」

『そうでしたか。……そういえば、もうこんな時間ですからね。良い子は家に帰って宿題をやっているはずの時間ですね』

「夏樹、お前、悪い子だって言われてるぞ」

「悪い子は創ちゃんじゃん」


 即答された。


『ふふふ。相変わらずですね』


 電話の向こうで藤嶋さんが笑っている。


『それはそうと、初めて送る人へのメールには差出人をしっかり書かないと、誰から届いたものなのか分かりませんよ?』

「でも、俺だって気づいたわけでしょ? じゃ、大丈夫じゃん」

『…………』


 あれ?電話越しなのに呆れた顔が見える気がする。


『……まあ、そうですが。それはもういいです』


 諦められた。


『山神君の連絡先は登録しましたので、私のこの番号も登録しておいてください』

「分かりました。後で夏樹に言っておきます」

「それくらい自分でやってよ!」


 真横から抗議が飛んできた。


「何で私がやるのよ!」

「名刺も管理してくれてるし」

「それとこれとは別!」

「一件増えるだけだろ?」

「そういう問題じゃないの!」

『……本当に仲がいいですね』

「そうですかね?」

「……何で疑問なのよ…」


 夏樹がブツブツ言っているが、このモードの時には触れないようにする。どうせ「創ちゃんのバカ!」とか罵声が飛んでくるだけだ。


『それはそうと、山神君。ずいぶんと無茶をしましたね』

「無茶? 創ちゃんが?」


 藤嶋さんの言葉に、夏樹がぴくっと反応した。余計なところを拾うな。


「そうでもないっすよ。ちょっと山登りをしただけです」

「山登り?」


 夏樹の視線が俺の泥だらけの制服へ向かう。見るな。答え合わせをするんじゃない。


『山登りですか……。色々と事情がおありのようなので、深くは聞かないようにしましょう』

「助かります」


 さすが大人だ。聞かないという選択肢を知っている。ぜひ夏樹にも教えてやってほしい。


『頂いたデータなんですが、予想以上のとくダネでした』

「ほうほう。それは良かったです」

「とくダネ!? それって凄いことじゃないですか!」


 俺より夏樹の方が食いついた。


『そうですね。動画もさることながら、写真もいいですね』

「あれ、画質悪かったですけど大丈夫なんですか?」

『その辺りは大丈夫です。今はテクノロジーも進化していますので、元のデータを詳しく調べれば色々と分かるものなんですよ。それに、それほど画質は悪くなかったですよ?』

「それならいいんです。藤嶋さんの仕事に役立てるのなら」


 俺がわざわざ山に入った意味もあったというものだ。


『お礼は弾みますので、期待しておいてくださいね』

「えぇ~、いいなぁ~」

「お前は何もしてないじゃないか……」


 なんて厚かましいやつだ。さっきまで山本さんに締め上げられて瀕死だったくせに、報酬という単語を聞いた瞬間に元気になりやがった。現金なやつめ。


『大丈夫ですよ。夏樹さんも一緒に楽しめるものにしておきます』

「ほんとですか!」

『ええ。きっと山神君だけに渡しても、みんなに配ってくれると思ってますけどね』

「確かに……。創ちゃん優しいから」

「いーや。全部俺がもらってくれるわい!」

「そんな出来もしないことを言わない方がいいよ?」

「やかましい! 有言実行の創太郎とは俺のことだ」

「初めて聞いたよ、そんな創ちゃん」


 奇遇だな。俺も今初めて名乗った。


『ふふふ。本当に仲が良いですね』


 藤嶋さんの笑い声が電話越しに聞こえてくる。


「そうなの?」

「……仲良しでいいじゃん…」

 

 夏樹にどうなの確認するが、ボソボソ何か言っているがよく聞こえない。


「え?もう少しはっきり言わないとよくわからんぞ?」

「言えるわけ無いじゃん!!創ちゃんのバカ!!」


 ほらな?罵声が飛んでくる。……ってなんでだよ!?


『では、私はこれから頂いたデータを編集長に提出して、今後のことを相談してきます』


 俺は少しだけ足を緩めた。


「こんな時間になってしまって申し訳ありません」

『大丈夫ですよ。こちらこそ助かりました。では、また』

「はい。よろしくお願いします」

『では』


 そこで通話が切れた。

 画面から通話時間の表示が消える。俺はスマホをポケットへ戻した。


「……とくダネだって」

「そうらしいな」

「創ちゃん、何撮ってきたの?」

「さあな」

「もう!」


 隣から不満そうな声が飛んでくる。話しているうちに、空はさっきよりも暗くなっていた。街灯にもぽつぽつと明かりが灯り始めている。それでも夏が近いせいか、夜の空気にはまだ昼間の熱が残っていた。俺は泥だらけの制服のまま、夏樹と並んで夜道を歩く。

 目指すは我が家。そして何より風呂だ。今日の俺には、とくダネよりそっちの方が重要だった。



 家に帰ってからは、昨日までと何も変わらない夜だった。

 俺は玄関から風呂場へ直行し、制服を脱いで山の土と格闘することになった。靴はもちろん、ズボンにも泥が跳ね、シャツには葉っぱの欠片までくっついている。山田の忠告を聞いておけばよかった気もするが、今さら反省したところで制服が自動的に綺麗になるわけでもないので、とりあえず洗えるものは洗濯機へ放り込んでおく。

 風呂から出ると、夏樹は勝手知ったる我が家の冷蔵庫を開けて中を確認していた。


「創ちゃん、牛乳もうないよ」

「……そうか」

「そうか、じゃないよ。明日の朝どうするの?」

「お茶を飲めばいいだろ」

「そういう問題じゃないでしょ?」


 どういう問題なのだろう。そもそもここは俺の家なのだが、なぜ俺が冷蔵庫の在庫管理について注意を受けているのかが分からない。

 そんなことを考えている間にも夏樹は慣れた手つきで夕食の準備を進め、俺も手伝おうとしたのだが、「創ちゃんは洗濯物どうにかしてきて」と追い払われた。仕方がないので言われた通りに洗濯機を回し、制服の予備を用意してからリビングへ戻る。


 それから二人で夕食を食べ、どうでもいいテレビ番組を見ながら、どうでもいい話をした。

 山本さんの怪力について夏樹が文句を言い、俺が赤ちゃんチンパンジーだったとしても握力がやばい。よく似てるなという話を口にした瞬間、「萌に言ったら怒られるよ」と注意される。言わなければいいだけなので問題ない。

 食後には夏樹が宿題を始め、俺はソファで本を読むことにした。


「創ちゃん、ここ分かんない」

「どれ?」


 問題を見て説明すると、途中で夏樹が眉間に皺を寄せた。


「……説明長い」

「ちゃんと理解できるように説明してるんだよ」

「もうちょっと簡単に」

「じゃあ、ここにこの公式を入れれば終わり」

「最初からそれ言ってよ」

「お前、教育というものを何だと思ってるんだ?」


 理不尽である。


 そんなやり取りをして、夏樹が風呂に入り、明日の学校の準備を済ませ、俺も洗濯物を確認する。特別なことなど何も起こらなかった。

 昨日までと同じ。いつも通りの、まったりとした夜だった。だから俺も、そのままいつも通りに眠った。




 翌朝、目を覚ました俺は、ロードワークへ出るために着替えを済ませていた。軽くストレッチをしながら時計を見ると、午前五時五十七分。あと数分もすれば六時になる。そろそろ出るかと思っていたところで、机の上に置いていたスマホが突然鳴った。


「……誰だよ、こんな時間に」


 親父か?海外にいるから時間でも間違えたのだろうか。

 ついに時差ボケで日本時間まで分からなくなったか。そんなことを考えながらスマホを手に取ると、表示されていた名前は予想とはまったく違った。


「……藤嶋さん?」


 昨日、連絡先を登録したばかりだ。こんな朝早くに電話をしてくる人ではないと思う。なんとなく嫌な予感を覚えながら通話ボタンを押した。


「おはようございます。山神です」

『あ、山神君。おはようございます。朝早くから申し訳ありません』

「いえ、大丈夫です」

『テレビを見ることはできますか?』

「え? テレビ? はい」


 何の話だろう。

 電話を耳に当てたままリビングへ移動し、テーブルの上にあったリモコンを手に取ってテレビをつける。朝のニュース番組が映り、アナウンサーが何かを読み上げていた。

 そして画面下に表示されているテロップを見た瞬間、俺の指が止まった。


『株式会社川村 社長を逮捕』

「…………」


 息を飲んだ。

 画面には株式会社川村の社屋が映り、その前に集まった報道陣の姿へ切り替わる。ニュースキャスターが、廃棄物の不適切な処理への関与や、その隠蔽を指示した疑いについて警察が捜査を進めていると説明していた。



 俺は何も言わず、テレビを見つめた。

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