第63話 点と点が線になる時
店内に静かな空気が流れる。
藤嶋さんの話では、食堂やまもとや山田農園を悪く言っていた人たちには、ある共通点があった。株式会社川村から仕事を受けている建設業者、あるいはその関係者と思われる人たちだったという。
もちろん、それだけで株式会社川村が何かを企んでいるとは言えない。状況証拠に過ぎない話だ。だが、これほど偏った傾向が偶然とは考えにくい。もし株式会社川村が何らかの思惑を持って動いているのだとしたら、その目的は一体何なのか。
俺が考え込んでいると、藤嶋さんがスマホを取り出し、保存していたメモを開いた。
「明日、記事が出るので、それを見ていただいてもいいのですが……このメンバーになら先に話してしまいましょう」
全員が自然と姿勢を正す。
「とある企業の汚職について、明日記事が出ます。記事にも企業名は出ませんので、ここでも具体的な企業名は伏せさせていただきます」
「そんな話をここでしてもいいのかい?」
店長が目を丸くして聞く。
「えぇ。明日発売の週刊誌に掲載される内容ですので、そこまで秘匿するものでもありません」
「そ……そうなのかい?」
「藤嶋さんがいいって言ってらっしゃるんだもの。大丈夫でしょう」
奥さんがあっさりと言い切る。
……どうやら、この家では奥さんの方が肝が据わっているらしい。藤嶋さんは小さく笑って本題へ入った。
「今回の記事を書く中で、一つ気になる会社がありました。この街の会社ではありませんが、倒産した産業廃棄物処理業者です」
「さんぱいぎょうしゃ?」
山本さんの頭に『?』が大量発生している。助けを求めるように柴田さんを見る。
「産業廃棄物を法律に従って適切に処理して、処分できる状態にする会社よ」
「建設汚泥なんかもできるんですか?」
「そうだな。会社によって取り扱うものは違うが、建設汚泥を処理できる業者もある」
「なるほどです!」
山本さんが一つ賢くなったような顔をして頷く。藤嶋さんが続きを話し始めた。
「その倒産した会社は、ある街で行われた都市開発工事から出る産業廃棄物の処理を請け負う予定になっていました。その中には建設汚泥も含まれていたそうです」
「都市開発って、産業廃棄物もたくさん出るんじゃないですか?」
「そうね。かなりの量になると思うわ」
柴田さんが答える。
「この会社は、その仕事を受けた時点ですでに経営状態がかなり悪化していました。それでも仕事を引き受けたんです」
「仕事をたくさん引き受けて売上ができれば、事業は軌道に乗せられるんじゃないかしら?」
奥さんが首を傾げる。
「そうだね。支払いなんかは何とか待ってもらって、仕事を回していけば立て直せることもあるからね」
店長も頷く。二人とも、自分たちが店を始めた頃を思い出しているのだろう。苦しい時期を二人三脚で乗り越えてきたことが、その言葉から伝わってくる。
「仰る通りです」
藤嶋さんも頷いた。
「多くの会社は、そのようにして経営を立て直そうとします。しかし、この会社は状況がさらに深刻でした。従業員は次々と辞めてしまい、人手が足りない。取引先への支払いも滞り、銀行からの追加融資も受けられない状態でした」
俺も話を引き継ぐ。
「会社って、仕事さえあれば何とかなるわけじゃないんだ。仕事をするためには材料も人も必要になる。でも信用を失うと、材料を掛けで仕入れられなくなるし、銀行も簡単には金を貸してくれない」
「つまり、お仕事はあるのに、お仕事ができないってこと?」
夏樹が確認する。
「あぁ。仕事が増えれば増えるほど先に払う金も増えるからな。資金が尽きれば、受けた仕事も回せなくなる」
「それは……かなり厳しいね」
「そうね。それじゃ仕事はあるのに手が回らないわ」
店長がぽつりと漏らし奥さんも眉を寄せた。
「そして、その会社が取った行動が問題でした。契約時に支払われた費用などを受け取ったあと、十分な業務を行えないまま倒産してしまったのです」
「それっていいんですか?」
山本さんが目を丸くする。
「何だかとっても悪いことのように感じます!」
「そうね。状況によっては詐欺や契約違反などが問題になる可能性もあるわ」
柴田さんが冷静に補足する。
「はい。現在もその点について調査が進められています」
すると山田園長が腕を組んだ。
「でも、都市開発なんて大きな仕事は行政から直接受けるんじゃないですか? その場合、ちゃんと調査が入ると思うんですが」
確かにその通りだ。公共工事は税金で行われる以上、簡単に怪しい会社へ発注されることはない。藤嶋さんも頷いた。
「そこも調べました。一般的な公共工事では、行政が直接産業廃棄物処理業者へ仕事を依頼することはほとんどありません」
「そうなんですか?」
「まず行政が工事全体を入札にかけます。そして建設会社などが工事を受注し、その会社が必要に応じて産業廃棄物処理業者へ処理を委託する形になります」
「なるほど……。つまり、その倒産した会社は都市開発工事を受注した会社から仕事をもらっていたわけですね」
店長が納得したように頷く。藤嶋さんが微笑みながら続きを話す。
「その通りです。こちらも調べてみました。その結果、都市開発事業を受注した会社は別にあり、その会社から委託を受けていたことが分かりました」
「別の会社?」
柴田さんはすぐにスマホへメモを書き込む。
「公共工事の受注会社は、自治体の入札情報などで確認できます。気になるようでしたら、あとで調べてみてください」
柴田さんへ向けた補足だろう。さすが記者だ。必要な情報の出し方がうまい。
「それじゃ、その元請会社が不法投棄をしている可能性が高いわけね。早速その会社を調べる必要があるわ」
柴田さんが意気込む。
「ちょっと待ってください! 訳がわからないです! 誰か噛み砕いて教えてください!」
山本さんが勢いよく手を挙げた。店内に苦笑いが広がる。
その声に夏樹が俺を見る。
「創ちゃん……わかりやすく解説してくれない?」
嫌な予感しかしない。周りを見回す。
夏樹。山本さん。店長。奥さん。山田園長夫妻。山田。
……全員、わかったような顔をしている。でも、たぶん理解しているのは半分くらいだ。期待だけは百パーセント俺に向いている。
そうだよな。ま、わからんよな。
……なんで毎回こうなるんだ。説明するのは嫌いじゃない。嫌いじゃないんだが、読書中に突然先生役をやらされるのはどうにも慣れない。
「えっと……行政から仕事を受ける場合なんだけど、基本的には公共工事ってさっきも言っていた通り『入札』で決まることが多い」
全員が静かに耳を傾ける。
「例えば市役所が道路を造るとか、公園を整備するとか、大きな都市開発をすると決めたら、『こういう工事をお願いします』という条件を出す。それを見た建設会社が『うちならこの金額でできます』と参加して、一番条件に合う会社が受注する。もちろん値段だけじゃなくて、技術や実績なんかも審査されるけどな」
「なるほど! それが倒産した会社ですか?」
「違うわ。その会社はまた後で出てくるから落ち着きなさい」
柴田さんがすかさずツッコミを入れる。山本さんは「あぅ……」としょんぼりし、そのまま夏樹にぎゅっと抱きついた。
「大丈夫だよ萌。あとでちゃんとわかるから」
夏樹が優しく背中をさする。柴田さんも「よしよし」と頭を撫でようとした瞬間――
「いーっ!」
山本さんが小動物のように威嚇した。
「…………」
柴田さんが目に見えてショックを受ける。
お前ら、落ち着け。話が一向に進まん。
「つまり、行政から仕事を受けた会社は、工事だけじゃなく、そこから出る産業廃棄物の処理まで含めて請け負った形になる。それで間違いないですよね?」
「そうですね。入札情報にもそのように記載されていましたので、その認識で問題ありません」
藤嶋さんが頷く。俺はその事実を確認し、疑問を投げかける。
「そこで一つ疑問がある。その会社は、本当に自分たちだけで産業廃棄物を処理できるのか?」
「できるから引き受けたんじゃないの?」
夏樹が首を傾げる。
「いや、僕は建設業の専門家じゃないけど、産業廃棄物を処理するには専用の施設や機械、それに法律で定められた許可が必要になる。建設会社だからって簡単にできる仕事じゃない。例えば農業だって、野菜を育てることと食品加工工場を運営することは別物だろう? 建設会社も同じで、工事は得意でも産廃処理まで全部自社でやる会社は多くないと思うよ。産業廃棄物には有害物質を含むものもあるし、種類ごとに処理方法も違う。処理施設も必要だし、管理も厳しい。だから専門業者へ委託する方が、安全面でもコスト面でも合理的なんだ」
「なるほど……」
山田園長が自身の事業をれにあげて説明してくれる。夏樹はそれで納得したようだ。
「今回のケースも、その元請会社が外部の産業廃棄物処理業者へ委託したものと考えられます」
藤嶋さんも頷き状況証拠からの推測を話してくれる。
「それが倒産した会社ですね!」
夏樹の胸に顔を埋めながら、山本さんが半分だけこちらを向く。ようやく話についてきたらしい。
「そうよ。よくわかったじゃない。さすがね、萌」
ここぞとばかりに柴田さんが褒める。ちょっと露骨すぎるだろ。
そんなので機嫌が――
「えへへ! 凄いでしょ!」
直った。
そして今度は柴田さんへ抱きつく。
「凄いわ。偉いわ」
柴田さんは満面の笑みで頭を撫でている。夏樹は苦笑い。
……何を見せられてるんだ俺は。
「しかし、その委託先が倒産してしまった」
俺が話を戻す。
「それじゃ、開発で出た産業廃棄物はどうするんだい?」
山田園長が尋ねる。
「普通なら別の産廃業者へお願いすることになります」
「そりゃそうか。一社だけしかなかったら全国大騒ぎだもんな」
「その通りです」
俺は頷いた。
「でも、もし他の業者が引き受けてくれなかったら? あるいは、すぐには対応できなかったら?」
「え?」
「創ちゃん、そんなことあるの?」
「わからん。でも、可能性はある」
俺は少し考えてから話題を変えた。
「有名な問題があるんだ」
「問題?」
「ペットボトルの水を、できるだけ高く売るにはどうしたらいいか」
「突然何?」
夏樹をはじめ、全員がぽかんとしている。ただ一人、藤嶋さんだけが面白そうに笑っていた。
「ちなみに夏樹なら?」
「えっと……ランニングしてる人に『買いませんか?』って聞く!」
「残念」
「えぇー!」
「その人、スーパーかコンビニへ行けばもっと安く冷えた水を買えるからな」
「そっか……」
「山本さんなら?」
「これを飲んだら健康になります! って言って二百円で売ります!」
「……萌。それじゃ詐欺よ」
奥さんが優しく指摘する。
「そんなつもりじゃなかったんです!ちょっとした出来心で…ただ、これを飲んだらちょっと健康になる可能性があるというか何というか…」
母親に詐欺を指摘された山本さんは「はっ!」と慌てて両手で口を押さえ、被害者はまだ一人もいないのに必死で弁明している。
「柴田さんなら?」
「そうね。国内なら富士山の山頂付近で売るかしら。世界なら砂漠ね」
「それが有名な模範解答の一つだ」
「ずるいです! 砂漠なんて水が欲しくて困ってる人が多いじゃないですか! そんな足元見て高く売るなんてダメです! 人としてダメです!」
山本さんが立ち上がり柴田さんの意見に抗議する。
「ひ……人としてダメ……」
柴田さんが本日二度目の致命傷を受けた。頭の上に『ガーン』という擬音が見える。店長が笑いながら助け舟を出す。
「萌、優しいのはいいことなんだけど、今回は直美ちゃんが正しいんだよ。ただの水をどうやって高く売るかという問題だからね」
「そうそう」
奥さんも続ける。
「遊園地の優先券だって、お金を払って時間を買うでしょう? それに、お水もスーパーなら安いけど、夜中にどうしても必要なら少し高くてもコンビニで買うじゃない。少なからず日常に似たような状況はあるのよ」
「あ……」
山本さんが納得したように頷く。店長も園長も「なるほど」と頷いている。
「つまり、他の産廃業者から足元を見られて、高い処理費用を請求された可能性があるってことかい?」
俺は頷いた。
「その可能性はあります。急いで処理しないと法律違反になるし、保管場所にも限界があります。相手もそれを知っていれば、通常より高い料金を提示することは十分考えられます。もちろん、実際にそうだったとはまだ断言できません。別の事情があった可能性もあります。ただ、一つの可能性としては十分考えられます」
「でも、それなら株式会社川村の資金繰りが悪くなっているという話とも辻褄が合うわ」
柴田さんがぽつりと言う。以前、大工さんたちから聞いた『支払いが遅くなっている』という話だ。藤嶋さんはその言葉に静かに頷いた。
「えぇ。その情報はこちらでも把握しています。ただ、この話の冒頭、『とある会社』と会社名を濁したのはもう意味が無くなりましたね」
藤島さんは苦笑し、柴田さんは「しまった…」という顔をしたが、吐いた言葉は取り消せない。ま、このメンバーだし大丈夫だろう。
藤嶋さんはスマホをテーブルへ置き、一度全員の顔を見渡してから静かに話し始めた。
「私たちは、現時点ではこう推測しています。株式会社川村は行政から都市開発事業を比較的安い価格で受注しました。しかし、その工事を成立させるためには、工事で発生する産業廃棄物を処理する業者が必要になります」
全員が静かに耳を傾ける。
「ところが、その処理を担う予定だった産業廃棄物処理会社が倒産してしまった。急いで別の処理業者を探したものの、当初想定していた金額ではどこも引き受けてくれなかった。結局、高額な費用でも依頼せざるを得ず、一時的に資金繰りが悪化した――そう考えると、一連の流れには説明がつきます」
「それが以前、大工さんたちが言っていた未払いの時期と重なっているのかしら?」
柴田さんがそう言うと、藤嶋さんは少し首を傾げた。
「大工さん?」
店長がすぐに補足する。
「うちの常連さんなんです。以前、『給料の未払いというほどではないけど、支払いが以前より遅くなった』と話しておられまして」
「あぁ、なるほど」
藤嶋さんは納得したように頷いた。
「それは十分あり得る話ですね。実際に産廃業者が倒産した時期とは多少前後する可能性はありますが、資金繰りというものは必ずしも出来事と同じ日に悪化するものではありません。徐々に影響が表へ出てくることも珍しくありませんから」
「確かに、農業でもそうだよ。今年の不作が今日すぐ経営に響くわけじゃない。数か月後になって資金が足りなくなることもある」
山田園長も腕を組んで頷く。
「そうですね。そして資金繰りに苦しんだ株式会社川村は、何としても大量の産業廃棄物を処理しなければならなかった。合法的な方法であれ、違法な方法であれ、会社としては何とかするしかなかった……そう考えています」
店内が静まり返る。
最初に口を開いたのは山本さんだった。
「それってつまり……その産業廃棄物を、山田農園の上の土地に埋めているってことなんですか?」
藤嶋さんはゆっくり首を横へ振る。
「そこはまだ断定できません。証拠がありませんから」
一拍置いて、言葉を続ける。
「ですが、状況証拠はかなり揃っています。だから私たちは、その線を中心に調査を進める予定です」
「株式会社川村のことは、私たちも調べようと思っていたのよ。特に山神が」
柴田さんが当然のように言う。
「創ちゃん、そうなの?」
「あぁ…。 柴田さんが色々調べたがってたんだけど、この前の公園の件もあるし、川村にも目を付けられてるだろ? 一人で動かせるわけにはいかないと思ってな」
俺は頭を掻いた。
「だから、創ちゃんが積極的に?」
「いや、違う。俺は全くやりたくない」
「やっぱりね。 読書以外に創ちゃんが積極的になることなんて無いもんね?」
夏樹が笑う。
「でも、誰かがやらなきゃ柴田さんがまた危ない目に遭うかもしれないだろ。それは嫌だった。それだけだ」
「そうなのよ。私のことを心配して、そう提案してくれたの。意外と優しいところがあるのよね、山神って」
柴田さんが口元を緩める。
「ふざけんな!あれはお前がうまいこと誘導したからだろ。俺は最初から最後まで乗り気じゃないぞ」
「でも、最終的には引き受けてくれたじゃない」
「それを誘導って言うんだよ」
「うふふ」
全く悪びれていない。こいつ、やっぱり策士だ。
そんなやり取りを見ていた藤嶋さんが優しく笑った。
「その件でしたら、私たちにお任せください」
全員の視線が集まる。
「高校生が調べられる範囲には限界があります。でも、私たちは取材という形で様々な方へ話を聞くことができますし、公開資料だけでなく、専門家への取材もできます」
「そうだね。山神君、君もあまり危ない橋は渡らない方がいい」
店長も頷いた。
「そうですね」
俺も素直に頷く。もともと乗り気だったわけじゃない。正直、読書時間が減るし。
「じゃあ、その辺りは大人の人たちに任せようと思います」
そう言ってから柴田さんを見る。
「柴田さん、それでいいよな?」
「もちろん。由香姉が調べてくれるなら私に異論はないわ」
「ありがとうございます」
藤嶋さんは安心したように微笑んだ。
「ただ一つだけお願いがあります。調査結果は直美には共有します。でも、それを外で話してはいけません」
「もちろんよ」
柴田さんは真剣な表情になる。
「由香姉の仕事だもの。そのくらい理解しているわ」
「情報は新聞社にとって商品です。公開前に漏れてしまえば、私は信用を失いますし、最悪仕事も失います」
「そこは安心して。私は将来、報道関係へ進みたいと思っているわ。情報一つ一つに価値があることはちゃんと理解してる」
柴田さんは静かに頷いた。その返事を聞き、藤嶋さんも安心したようだった。
俺は一つだけ気になっていたことを思い出す。
「藤嶋さん、一つ聞いてもいいですか?」
「はい」
「以前、入札情報を見ていた時に、SIKIコーポレーションって会社の名前が何度も出てきたんですけど、その会社について何か知っていますか?」
「SIKIコーポレーションですか」
少し考えるように視線を上へ向ける。
「街づくりのコンサルティングをしている一部上場企業ですね。もともとは物流や貿易関係が主力だったと思いますが、現在は都市開発の企画にも力を入れています」
「今回の件にも名前が出ていましたよね」
「えぇ。でも、それはこの街だけではありません。全国各地で自治体へ都市開発の提案をしていますから、入札資料に名前が出てくること自体は珍しいことではありません」
「なるほど……」
「現時点では特に不自然な点は見当たりませんね」
そう言われると、少し考えすぎだったのかもしれない。
「わかりました。ありがとうございます」
俺はそれ以上追及するのをやめた。
その様子を見ていた奥さんが、ぱんっと両手を叩く。
「はい! 難しいお話はここまで!」
全員が奥さんを見る。
「今日は食堂やまもと再開前の決起集会よ!」
明るい笑顔が店いっぱいに広がる。
「みんなで美味しいものを食べましょう! 今日は遠慮なんかしなくていいから、お腹いっぱい食べてちょうだい!」
「やったぁ!」
真っ先に反応したのは夏樹だった。
「今日は食べるよ! 創ちゃん!」
「お前は毎日食べてるだろ」
「今日はいつもの一・二倍!」
「お父さん、覚悟してください!今日の私たちはいつもと違いますよ!」
「たくさん食べてくれるとうれしいよ。頑張って腕を振るわなきゃいけないな」
店長が苦笑すると、山本さんは胸を張った。
「営業再開前の景気づけです!」
「それなら僕も負けられないな」
山田園長まで笑い出す。
「父さん、本気出さないでよ」
山田が慌てて止めている。
「由香姉もいっぱい食べてね」
「えぇ。でも、その前に写真を撮ってもいいですか? こういう賑やかな雰囲気、好きなんです」
「もちろんよ!」
奥さんが嬉しそうに答える。
俺は店長と顔を見合わせた。
「行きますか」
「そうだね」
二人そろって立ち上がり、厨房へ向かう。後ろでは、夏樹たちが楽しそうに皿を並べ、山本さんが嬉しそうに箸を配り、柴田さんが人数を数えながら席を調整していた。
さっきまで重たい話をしていたとは思えないほど、店内には笑い声が戻っている。
難しい話は一旦忘れよう。今日は美味い飯を食って、たくさん笑えばいい。そう思いながら、俺は店長の後ろについて厨房へ入った。




