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きみの隣で、今日も僕は考えてる。本ばかり読んでいた俺の日常は、少しずつ騒がしくなる  作者: マリセリソウ


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第53話 草むらに潜む二人

 俺は柴田さんから見せてもらった深ダンプの画像をもう一度見返したあと、スマホをポケットへ戻し、改めて足元へ視線を落とした。山道の端に残るタイヤ痕は、普通車のものとは明らかに違っていた。

 幅が広い。しかも、かなり重量のある車両が通った痕特有の沈み込み方をしている。アスファルト脇の柔らかい土が押し潰され、そのまま斜面側へ向かって抉れるように跡が続いていた。


「……こっちか」


 俺が呟くと、柴田さんが隣へ来る。


「わかったの?」

「多分、山道から外れてる」

「外れてる?」


 俺は道路脇を指差した。そこはちょうどガードレールが途切れている場所だった。普通ならただの山肌にしか見えない。だが、よく見ると木々の間にわずかな空間があり、草が不自然に押し倒されている。さらに近づいて確認すると、折れた枝が何本も地面へ落ちていた。しかも折れ方が妙だ。自然に折れたというより、大きな物体が無理やり押し進んだ時の折れ方をしている。


「……ほんとね。枝が変な方向に折れてるわ」


 柴田さんが少し顔をしかめる。


「しかも新しい。少なくとも最近大型車が通った可能性は高い」


 俺はしゃがみ込み、折れた断面を見る。まだ完全には乾いていない。白い木肌が露出している。さらに奥へ視線を向ける。草木に隠れてわかりにくいが、地面がわずかに窪んでいた。タイヤが通ったことで踏み固められた跡だ。しかも、ただ山奥へ突っ込んでいった感じではない。進行方向が下り側へ向いている。


「山の奥じゃなくて、下へ向かってるな……」

「どういうこと?」

「地形的に、この先どこかへ抜けられる場所があるかもしれない」


 柴田さんは周囲を見回した。木々に覆われ、道なんてものはほとんど見えない。だが、目を凝らしてみると、確かにわずかに“道っぽい形”が残っていた。草木に飲み込まれかけてはいるものの、地面だけが帯状に平らになっている。


「……あ」


 柴田さんが声を漏らす。


「これ、昔の道?」

「多分。旧道みたいなもんだと思う」


 山道というのは意外とこういうものが多い。新しい道路が整備される前に使われていた道。林業や集落用に使われていたが、今では放置されている道。地元の年配者くらいしか存在を知らないような道が、山には普通に残っている。


「なるほどね……」

「知る人ぞ知る抜け道って感じか」

「大型車で入るにはだいぶ無茶だけどな」


 枝が擦れた跡。斜面へ押し込まれた雑草。タイヤで削れた土。深ダンプみたいな大型車なら、多少木に擦ろうが強引に進める。むしろ、“多少壊しても人目につかない”場所だからこそ使われている可能性が高かった。


「……山神」

「ん?」

「これ、思ったより嫌な感じになってきてない?」

「安心しろ。俺も同じこと考えてる」

「安心できる要素ゼロなんだけど?」


 俺は苦笑しながらスマホを取り出した。


「とりあえず、地形を確認する」


 地図アプリを開き、航空写真モードへ切り替える。電波はぎりぎり入っていた。 山の中だからそのうち怪しくなるかもしれない。


「おぉ……」


 柴田さんが俺の肩越しにスマホを覗き込む。

 航空写真で見ると、山の形がかなりわかりやすい。今いる山道。そこから枝分かれする旧道らしきライン。木々に隠れているが、微妙に地面の色が違う。


「これだな……」


 指でなぞりながら進む。旧道は蛇行しながら山の斜面を下っていた。

 そして――。


「……ん?」


 俺は目を細める。

 少し先。木々が不自然に開けている場所があった。そこだけ円形に近い形で森が途切れている。


「これ……広場?」

「山の中に?」

「航空写真で見る限り、かなり開けてるわね」


 しかも妙だった。自然に木が少ないというより、“人為的に開けられている”感じがある。地面の色も周囲と違う。木々が途切れた場所には、何かを置いていたような不自然さがあった。


「……嫌な予感しかしないわ」

「奇遇だな。俺もだ」


 柴田さんは小さく息を吐く。


「どうする?」


 俺はスマホを閉じ、旧道の奥を見る。風が吹き、木々がざわめく。昼間なのに、旧道の奥だけ妙に暗く見えた。


「……行ってみようか」

「せっかくだしね……」


 柴田さんは麦わら帽子を押さえ直した。


「ちなみに今さらだけど、蛇とか出ないわよね?」

「山だから普通に出る可能性ある」

「帰っていい?」

「ここまで来て?」

「冗談よ……半分は」


 そんな軽口を叩きながらも、柴田さんの声は少し緊張していた。俺も同じだった。正直、ただの考えすぎで終わってほしい。山の中にある広場なんて、昔の資材置き場か何かかもしれない。

 そうであってくれ。


 だが、深ダンプ。

 旧道。

 山の中の不自然な広場。

 それらが全部偶然で片付くほど、状況はもう単純じゃなかった。


「……行こう」


 俺が先に旧道へ足を踏み入れる。舗装はほとんど崩れ、地面には落ち葉が積もっていた。草木が道を侵食し、頭上では枝葉が重なって薄暗いトンネルみたいになっている。その後ろを、柴田さんがついてくる。


「ねぇ山神」

「ん?」

「もしイノシシ出たら」

「全力で逃げる」

「置いていかないでよ?」

「努力はする」

「それ、絶対置いてくやつじゃない……?」


 俺たちは旧道へ入ってから、慎重に山の斜面を下るように歩き続けていた。もっと草木を掻き分けながら進むような状況を想像していたのだが、実際に入ってみると、思っていたよりずっと歩きやすい。もちろん普通の山道と比べればかなり荒れているし、舗装もほとんど崩れているのだが、それでも“人や車が定期的に通っている痕跡”がはっきり残っていた。


 踏み潰された草。不自然に折れた低木。タイヤに削られた地面。そして、ところどころで露出した古いアスファルト。長い間放置されていた旧道にしては、妙に“生きている道”だった。


「……これ、思ったより進みやすいわね」


 後ろを歩いていた柴田さんが、麦わら帽子を押さえながら言う。


「多分、ダンプカーが何度も出入りしてる」


 俺は前方の地面を確認しながら答えた。


「大型車が通ると、草木が踏み潰されるからな。完全な獣道よりは歩きやすくなる」

「全然ありがたくない理由なんだけど」

「同感だ」


 頭上では枝葉が重なり合い、昼間なのに薄暗い。さっきまで歩いていた山道よりも空気が湿っていて、足元には落ち葉が積もっていた。時々、どこからか鳥の鳴き声が聞こえる。それ以外は静かだった。

 静かすぎるくらいに。


 俺はポケットからスマホを取り出し、地図アプリを確認する。航空写真上では、俺たちは旧道の中腹あたりまで来ていた。GPSがまだ生きているのはありがたい。山に入ると普通に位置情報が迷子になることがあるので、これはかなり助かる。


「文明って素晴らしいな……」

「急にどうしたの」

「GPSに感謝してた」

「確かに……GPSが届いていないエリアだったら迷子になっていたかもしれないわね」


 柴田さんは少し疲れた様子で息を吐いた。歩くペースが少し落ちている。

 舗装路なら問題ないだろうが、この道は足場が悪い。斜面もあるし、石も多い。慣れていないと地味に体力を削られる。俺は少し歩調を落とした。


「大丈夫か?」

「……まだ大丈夫」

「“まだ”って言ったな今」

「だって暑いのよ!なんでこんな日に山登りしてるの私たち……」


 柴田さんは麦わら帽子をぱたぱたと仰ぐ。


「え?言い出しっぺは誰だっけ?」

「正論は聞きたくないわ」


 その言葉に思わず少し笑う。ただ、冗談を言っている余裕は残っていても、柴田さんに疲労が出始めているのは確かだった。だから俺は、なるべく柴田さんに合わせた速度で歩きつつ、距離も少し近めに保っていた。もし滑ったり、足を取られたりした時にすぐ対応できるように。山道ってのは、こういうちょっとした油断で普通に怪我をする。


「……なんか保護者みたいな距離感なんだけど」


 柴田さんがこちらをちらっと見る。


「転んだ時用」

「そんなに危なっかしく見える?」

「正直ちょっと」

「失礼だわ」


 そう言った直後だった。


「あぁっ!」

 柴田さんの足元の石がずるっと滑る。俺は反射的に腕を掴んだ。


「……ほら」

「……」

「……」

「ごめんなさい」

「素直でよろしい」


 柴田さんはむすっとした顔で帽子を深く被り直した。


「いやでもこれ、ほんと歩きにくいわよ……」

「まあ旧道だからな」


 木々の間から時々、下の方に別の地形が見えた。斜面の向こう側。何か開けた場所があるようにも見える。だが、まだはっきりとは確認できない。


「あとどれくらい?」

「航空写真だと、もう少し」


 俺はスマホを見ながら答える。

 その時、少し強めの風が吹いた。枝葉がざわっと揺れる。同時に、どこかから低い金属音みたいなものが聞こえた気がした。

 俺は足を止める。


「……山神?」

「今、何か聞こえなかったか?」

「え?」


 柴田さんも耳を澄ませる。だが、聞こえるのは風の音だけだった。


「……気のせい?」

「かもな」


 そう答えながらも、俺は少しだけ周囲を警戒する。山の中って、時々音の反響がおかしい。遠くの音が近くに聞こえたり、その逆もある。だが今の音は、自然音とは少し違う感じがした。


「やめてよ……怖くなるじゃない」

「大丈夫だ。多分イノシシじゃない」

「そこ基準なの?」

「熊よりマシだろ」

「ここ熊出ないんでしょ?」

「園長情報だから絶対とは言えない」

「急に信用度下げないで」


 そんなことを話しながら、俺たちは再び歩き出した。足元の落ち葉を踏む音だけが、静かな旧道へ小さく響いていた。

 

 しばらく下ったところで、俺は足を止めた。


「……この辺りのはずなんだけどな」


 スマホの航空写真を確認しながら周囲を見回す。木々が生い茂っているせいで視界は悪く、上から見た時にははっきりしていた地形も、実際に中へ入ってしまうとかなりわかりにくい。それでもGPS上では、例の“開けた場所”のすぐ近くまで来ているはずだった。柴田さんも俺の隣へ来てスマホを覗き込む。


「確かにこの辺よね……」


 航空写真では、周囲の森の中に不自然なくらいぽっかり開いた場所が映っている。だが実際には木々が邪魔をしていて、そんな広場らしきものは見当たらない。


「木が多すぎて見えないのか……?」


 俺がそう呟きながら辺りを見渡していると、


「あっ……!」


 突然、柴田さんが小さく声を上げた。


「山神、あれ!」


 指差された方向へ視線を向ける。最初はただ木が並んでいるだけに見えた。だが、よく見ると、その隙間に妙に直線的なものが混ざっている。


「……フェンス?」


 俺たちはそちらへ近づいていった。木々をかき分けるように進むと、徐々にその全体像が見えてくる。金属製のフェンスだった。しかもかなりしっかりした作りだ。森の一角を囲うように設置されており、高さも二メートル近くある。さらに上部には有刺鉄線まで張られていた。


「思ったより本格的ね……」

「ただの私有地って感じじゃないな」


 俺はフェンスへ近づき、軽く触れてみる。

 錆びは少ない。山の中に放置されて長年経っているような状態ではなかった。


「比較的新しい……」

「わかるの?」

「少なくとも何十年も放置されてる感じじゃない」


 フェンスの支柱もまだしっかりしている。コンクリートの基礎部分も崩れていない。何より、有刺鉄線まで設置している時点で、“中へ入られたくない意思”がかなり強い。


「……ねぇ山神」

「ん?」

「これ、ちょっと怖くない?」

「正直かなり。ただ、色々調べてみる必要はあるかもしれないな」


 柴田さんは麦わら帽子を押さえながら周囲をきょろきょろ見回した。山の中は静かだった。風が吹くたびに木々が揺れる音だけが響いている。逆に、その静けさが妙に不気味だ。


「入口あるはずだな……」


 俺はフェンス沿いに歩き始めた。完全に封鎖しているわけじゃないなら、どこかに車両用の出入口がある。ダンプカーが出入りしていたなら尚更だ。柴田さんは少し離れた位置から、恐る恐るついてくる。


「なんかホラー映画みたいになってきたんだけど……」

「フラグ立てるのやめろ」

「だって絶対こういう場所って変なの出るじゃない!」

「ホラー映画はフィクションだよ。ここら辺ででるのは、熊かイノシシかでっけぇ虫だ」

「それも嫌なのよ!」


 そんなやり取りをしながら数分ほど歩くと、フェンスの一部が門のようになっている場所を見つけた。


「あった」


 金属製の両開きゲート。そして中央には、かなり大きめの南京錠が掛けられている。柴田さんが少し身を乗り出す。


「閉まってる……」

「しかも結構ちゃんとしてるな」


 近づいて確認する。

 南京錠も新しい。雨ざらしの山中にしては金属部分の劣化が少なく、最近交換されたようにも見えた。つまり、この場所は今も誰かが管理している可能性が高い。


「山神。これ、普通に誰かの所有地なんじゃない?」


 柴田さんが真面目な顔で俺に問いかける。


「その可能性は高いな」

「だったら勝手に入るのまずくない?」

「そうだよな。現時点では、フェンスと旧道、それに山中の広場を確認しただけで十分だと思う」


 とはいえ、ここまで来るとかなり怪しい。

 山中。

 旧道。

 大型車が通った痕跡。

 そして新しいフェンス。

 偶然で説明するには出来すぎていた。柴田さんは周囲を見回しながら、スマホへ何か打ち込んでいる。


「何してる?」

「位置情報と状況メモ。あとフェンスの写真も撮っとく」

「さすが将来のジャーナリストだな」

「一応、親戚の報道関係者からも言われてるから」


 そう言って少し得意げな顔をする。だが、その表情の奥には緊張も見えた。しかし、その気持ちもわかる。ここまで露骨だと、逆に嫌な予感しかしない。俺は改めてフェンスを観察する。

 支柱の固定方法。

 南京錠の種類。

 車両用ゲートの幅。

 普通の山林管理にしては、妙に厳重だった。

 しかも――。


「……深ダンプでも通れるな」

「え?」

「ゲート幅。大型車前提のサイズになってる」


 柴田さんの表情が固まる。


「それって……」

「可能性の話だ」


 俺はそう言いながらも、頭の中ではかなり疑いが強くなっていた。この場所を所有している人間を調べれば、何かわかるかもしれない。

 山林の登記。

 土地の管理者。

 あるいは企業名義。

 そこまで辿れれば、フェンスの向こう側に何があるのかも見えてくる可能性がある。

 その時だった。


「……っ」


 俺は反射的に顔を上げた。

 遠くから、低いエンジン音が聞こえてきた。その瞬間、俺は反射的に柴田さんの手首を掴んでいた。


「え、ちょ――」

「静かに」


 そのまま半ば強引に道脇の草むらへ引き込む。背丈の高い草と低木が密集している場所だった。足元は悪いし虫も多い。正直、あまり飛び込みたい場所ではない。だが、今はそんなことを言っている場合じゃなかった。


「ちょっと山神、いきなり何――」


 柴田さんが抗議しかけたところで、俺は咄嗟に口元を手で塞いだ。


「んぐっ!?」

「静かに」


 そのまま視線だけで前を示す。直後、旧道の奥から大型車両が姿を現した。深ダンプだった。俺たちがさっきスマホで確認したものとほぼ同じ型。山道を軋ませるようにゆっくり進み、そのままフェンス前で停車する。エンジン音が止まり、一瞬だけ周囲が静かになった。

 だが、その静けさが逆に怖い。俺は草むらの中で身を低くしながら様子を窺う。柴田さんも状況を理解したらしく、今は黙っていた。ただ、俺の手で口を塞がれているのが気に入らないのか、若干じとっとした目を向けてきている。

 そんな目されても困る。騒がれた方が困る。


 しばらくすると、ダンプカーの運転席から男が降りてきた。続いて助手席側からもう一人。どちらも作業着姿だったが、清潔感とは程遠い。髪は無造作に伸び、片方は煙草を咥えたまま周囲を見回している。雰囲気だけで言うなら、“できれば関わりたくないタイプ”だった。


「全く、人使い荒ぇよなぁ、あの社長」


 煙草の男がぼやく。


「経営かなりヤバいらしいじゃねぇか」

「そりゃ必死にもなるだろ」


 もう一人が笑う。


「こんなもん、こんな山ん中に放置させるくらいだしな」


 その言葉に、俺は無意識に眉を寄せた。

 放置。やはり、何かをここへ持ち込んでいる。


「そういや、下の農園から何か有害物質出てるとか聞いたぞ?」

「あー、ニュースみたいになってたやつか?」

「らしいな」

「でもまあ、俺ら雇われてるだけだし。知ったこっちゃねぇだろ」


 二人はそんな会話をしながらゲート前へ向かう。片方がポケットから鍵束を取り出した。カチャカチャと金属音が鳴る。そして南京錠が外された。

 ギィ……と鈍い音を立て、フェンスのゲートが開く。


 その瞬間、俺と柴田さんはほぼ同時に顔を見合わせた。

 今の会話。完全にアウト寄りだ。少なくとも、“普通の山林管理”ではない。


「……」


 柴田さんが何か言いたそうな顔をしている。

 だが俺は首を横に振る。

 まだだ。今動くのは危険すぎる。

 二人の男は再びダンプへ戻り、そのまま車をゆっくり中へ進めていく。タイヤが地面を踏み潰す音が響く。

 そして――。


「……開けっぱなしだな」


 俺は小声で呟いた。ゲートが閉められていない。男たちはそのままダンプに乗り込み、奥へ消えていった。

 エンジン音も少しずつ遠ざかっていく。しばらく待つ。俺は耳を澄ませた。

 足音はない。人の気配も離れている。


「……もういいか」


 そう言って、ようやく柴田さんの口から手を離した。

 すると、


「ぷはっ!」


 柴田さんが小さく息を吐いた。


「すごく苦しかったわ…」

「悪い。でも叫ばれるとまずかった」

「叫ばないわ」

「さっき叫びかけてたろ」

「それは……急に引っ張るから」


 柴田さんは小声で抗議しながら帽子を直した。だが、その顔は少し青い。怖かったんだろう。正直、俺もかなり怖い。

 ただ、それ以上に――。


「聞いたか?」

「……えぇ」


 柴田さんが真面目な顔になる。


「農園の話、知ってたわね」

「しかも、“こんなもんを放置”って言ってた」


 つまり、この先には何かある。そして、その何かが山田農園の異常と関係している可能性はかなり高い。柴田さんが小さく息を飲む。


「……これ、かなり危険な気がするわ」

「そうだな」


 俺はゲートを見る。開いたままの入口。その先には、木々に囲まれた細い道が続いている。普通なら、ここで引き返して警察へ連絡するべきなのかもしれない。

 だが――。

 現時点ではまだ“怪しい”だけだ。証拠としては弱い。それに、今なら中を確認できる。


「……行くの?」


 柴田さんが小声で聞く。俺は数秒考えたあと、静かに頷いた。


「少しだけ中を見てみよう」


 服についた葉っぱや土を払いながら立ち上がる。そして周囲を警戒しつつ、開いたままのゲートへ近づいた。フェンスの向こう側からは、土と油の混ざったような臭いが微かに漂ってきている。

 柴田さんも意を決したように後ろへ続く。


「……ねぇ山神」

「ん?」

「イノシシより怖いもの出てきそうなんだけど」

「奇遇だな。俺も同じこと考えてる」


 そんな会話を交わしながら、俺たちはフェンスの中へ足を踏み入れた。

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