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きみの隣で、今日も僕は考えてる。本ばかり読んでいた俺の日常は、少しずつ騒がしくなる  作者: マリセリソウ


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第51話 汚染はずっとそこにある訳じゃない

 山田農園へ到着した俺たちは、畑の脇に作られた簡易的な休憩スペースのような場所で足を止めていた。


 見渡す限り広がる畑は、今日も変わらず青々としている。風が吹くたびに葉が揺れ、土の匂いがふわりと漂ってきた。遠くでは作業機械の音も聞こえている。一見すると、何の問題もない穏やかな農園だ。だからこそ、この場所で原因不明の異常が起きているという話に、いまだ現実感が薄い。

 俺は山田へ向き直った。


「改めて聞きたいんだけどさ、作物の異常って具体的にどんな感じなんだ?」


 山田は少し困ったように頭を掻く。


「うーん……それが、異常が出たり出なかったりで、よくわわからないんだよ。説明できなくはないけど、父さんの方が詳しいと思う」

「そりゃそうか」

「呼んでくるよ」


 そう言うと山田はそのまま畑の奥へ走っていった。作業服姿のまま軽快に畑を横切っていく辺り、完全に農家の息子である。俺はその背中を見送りながら、小さく息を吐いた。


「……行動力あるよな、あいつ」

「山神と違ってフットワーク軽いものね」

「俺だって必要なら動くぞ」

「必要になるまで絶対動かないじゃない」

「否定はしない」


 柴田さんが小さく笑う。その間に俺はスマホを取り出した。


「そうだ、さっきの地図送ってくれ」

「ああ、はいはい」


 柴田さんもスマホを操作し、ピンが立った状態の地図データを送ってくる。受信した地図を開き、俺は画面を拡大した。

 東側。

 幹線道路。

 山道。

 ダンプカー目撃地点。

 そして山田農園。

 頭の中で位置関係を何度も整理していく。


「……もし山側なら」

「ん?」

「いや……」


 俺は画面を見たまま、小さく呟く。


「異常が出たり出なかったりか…。一定じゃないのが気になるんだよな」

「微量だったり、出ない日もあるって前に言っていたわね」

「ああ」


 普通の土壌汚染なら、もっと継続的に高い数値が出てもおかしくない。だが今回の件は違う。検出量にばらつきがあるということらしい。だからこそ行政も原因特定に苦戦しているんだろう。


「……雨とか、水の流れとか関係あるのか?」


 自分でも半分独り言みたいな声だった。柴田さんはそんな俺を少し興味深そうに見ている。


「また何か考えてるわね」

「まだ仮説だよ」

「山神の“仮説”って、結構当たるって夏樹が言っていたわ」

「やめろ。あいつのそれは当てにすんな」


 そんな話をしていると、柴田さんがふと思い出したように口を開いた。


「そういえば」

「ん?」

「昨日の試合、結構ニュースになってるわよ」

「あー……」


 まあ、なるだろうなとは思っていた。


「SNSでもかなり拡散されてる。一般の人が撮ってた動画とかも上がってて、川村のファール、だいぶ炎上してるみたい」

「だろうな」


 俺はそこまで驚かなかった。あのプレーは悪質だった。レッドカードも当然だと思う。

 ただ――。


「でもまあ、サッカー選手の宿命みたいな部分もあるからな」

「宿命?」


 柴田さんが少し眉をひそめる。俺はスマホを閉じ、軽く肩をすくめた。


「もちろん昨日のプレーを擁護するつもりはないぞ。あれは危険だったし、批判されるのも当然だと思う」

「なら――」

「ただ、サッカーって接触が多いスポーツなんだよ。昨日みたいなプレーは多くはない。でも、全く無いわけでもない」


 俺は畑の方を見ながら話す。


 激しくぶつかる。

 削る。

 奪う。

 時には感情的にもなる。


 それが九十分間続く。


「特に上のレベルになるほど、一瞬の遅れとか焦りで危険なプレーになることもあるし、悪意があったのかなかったのか、外からじゃわからないことも多い」


 柴田さんは静かに聞いている。


「リアムだって、これからプロとしてやっていくなら、似たようなことがまた起きる可能性くらい理解してると思う」

「……」

「もちろん怪我はしない方がいい。でも、“怪我をする可能性ごと引き受けてピッチに立つ”のがプロなんだよ。だから、当事者が怒るならわかる。でも部外者が必要以上に騒いで、誰かを叩き続けるのはちょっと違う気がするんだよな」


 俺は少しだけ苦笑する。


「……そういうものなのね」


 柴田さんは完全には納得していない顔だった。

 まあ、普通はそうだと思う。実際、昨日の映像だけ見れば腹も立つ。俺だってリアムが倒れた瞬間は冷えた。それでも、あの世界で戦う以上、ああいう危険と無縁ではいられない。たぶんリアム本人が一番それを理解している。


「まあ、川村は今は叩かれているけど、結局は次の試合で結果出して見返すしかないんだよ」

「山神、そういうところ妙に冷静よね」

「元サッカー小僧だからな」

「やめたの中学卒業してからでしょ?小僧って歳でもないじゃない」

「精神年齢の話だ」

「威張って言うことじゃないわね」


 そんなやり取りをしていると、畑の奥から山田が戻ってくるのが見えた。その後ろには、帽子を被った山田園長の姿もある。

 どうやら話を聞ける準備が整ったらしい。

 畑の奥から戻ってきた山田園長は、俺たちの姿を見つけると、帽子を取りながら深々と頭を下げた。


「山神君、柴田さん、この前は本当にありがとう。本当に助かったよ」


 相変わらず真面目な人だ。俺は慌てて手を振る。


「いや、頭上げてください」

「そうですよ。そんな大したことしたつもりありませんし」


 柴田さんも少し困ったように笑っている。

 だが山田園長は、それでもしっかり俺たちの顔を見て続けた。


「それでもだ。あの日、君たちが一緒に戦ってくれなかったら、今みたいな状況には絶対なっていなかったと思うよ」


 その声音には、心からの実感がこもっていた。そして次に、山田園長は柴田さんへ視線を向ける。


「それと……柴田さんが元気そうで安心したよ」

「……っ」


 柴田さんが少しだけ照れたように目を逸らす。たぶん、生配信後に泣いてしまった時のことを思い出したのだろう。


「恥ずかしいところをお見せしました……」

「そんなことないよ。でも、元気そうで本当に良かったよ」

「この通り元気ですので、ご心配おかけして申し訳ありませんでした」


 そう言って柴田さんは軽く頭を下げる。すると山田園長は、どこか父親みたいな優しい顔で笑った。


「無理はしないでね?本当に、大変な役回りを押し付けてしまったから」

「……まあ、思ったよりコメント欄が地獄でしたね」


 あの時のコメント欄を思い出したのだろう。山田園長が遠い目をした。俺もちょっと思い出したくない。人類は匿名を得ると語彙が急激に鋭利になる。

 すると山田が苦笑しながらスポーツドリンクを差し出してくる。


「とりあえず飲む?」

「助かる」

「熱中症で倒れられても困るし」

「その場合、原因不明の新しい風評被害始まりそうだな。『山田農園付近で男子高校生が蒸発』みたいな」

「それ完全に怪談じゃない」


 柴田さんが呆れたように笑った。そんな少し和んだ空気の中、山田園長が改めて口を開く。


「実は、生配信のあとすぐ連絡しようとも思っていたんだけど、想像以上に色々動き始めてしまってね…。でも、しっかりと結果を出すことの方が大切だと思って今も一生懸命頑張っているよ」

「ああ、弁護士さんから話が来てるって言ってましたもんね」

「うん!まず、止まっていた得意先との取引がかなり戻ってきてるよ」

「「おお!」」


 俺と柴田さんは同時に声を上げた。


「もちろん、以前と全く同じ状態とまではいかないけどね。でも、生配信でこちらの対応や経緯を見ていただけたことで、“もう一度話を聞きたい”と言ってくださる企業さんがかなり増えたんだ」

「やっぱり、ちゃんと説明するって大事なんですね」


 柴田さんがしみじみと呟く。山田園長も苦笑しながら頷いた。


「正直、あそこまで長時間配信になるとは思ってなかったけどね」

「俺もです」

「途中から半分耐久レイド戦みたいになってたものね……」


 柴田さんが遠い目をする。まあ、否定できない。3時間以上、コメント欄と殴り合っていたようなものだ。


「それと、新しく契約を打診してくださる企業さんも出てきているんだ」

「新規も?」

「そうなんだよ。“あそこまで誠実に対応する農園なら信頼できる”と言っていただけて……本当にありがたい話だよ」


 山田園長の表情には、少しだけ安堵が見えていた。もちろん問題が完全解決した訳ではない。それでも、“終わりじゃなかった”と思えるだけで、人はかなり救われる。

「あと、行政や保健所とも継続して話をしていてね。現時点では、汚染が確認されていない区画については、条件付きで出荷再開できそうだという見解も出ているんだ」

 その言葉に、俺は少し意識を切り替えた。


「条件付き?」

「継続検査が必要なんだ。定期的な水質検査と土壌検査、それから収穫物の成分検査を続けながら、安全が確認できたものだけ限定的に出荷する形になりそうなんだ」


 かなり慎重だ。でも、それが普通なんだろう。


「全部止めたままだと、農園そのものが立ち行かなくなるからね……行政側もかなり丁寧に対応してくれているよ」

「行政ってもっと事務的なのかと思ってました」


 柴田さんが少し意外そうに言う。すると山田園長は苦笑した。


「もちろん厳しい部分もあるよ。でも、こちらが隠さず全部開示しているので、“協力して原因を探しましょう”という形で動いてくれているよ」

「ちゃんと向き合ってた成果ですね」

「そう思いたいね。農協とも連携を進めているし、流通先への検査データ共有も始めているんだ。管理を見直したから、出荷履歴も全部追えるようにしたんだよ」

「……徹底してますね」

「信用を失うのは一瞬だからね…」


 その言葉は重かった。でも、だからこそ伝わるものもある。山田も隣で少し照れ臭そうに笑っていた。


「山神、柴田さん!ほんと、生配信で一気に風向き変わったんだ。だから改めて、ありがとう」


 山田が突然声を上げて礼を伝えてくる。


「気にすんな」

「ちゃんと約束果たしてくれたなら、それでいいわ」


 俺がそう言うと、柴田さんも腕を組みながら頷く。


「……何か圧がある言い方なんだけど」

「気のせいよ」

「絶対違う」


 山田が苦笑する。少しだけ空気が軽くなったところで、山田がふと思い出したようにこちらを見た。


「そういえば、色々聞きたいことあったんだろ?」

「ああ」


 俺はポケットからスマホを取り出す。画面には、柴田さんから送られてきた例の地図が表示されたままだった。その画面を消して、さっき頭の中を整理するのに使っていたメモのアプリを開く。


「ちょっと確認したいことがあるんですけど、保健所とか行政から来てる資料、一度見せてもらえませんか?」

「資料かい?」

「はい。あと、山田農園側で独自にやってる検査とか調査の報告書もあれば」


 俺がそう言うと、山田園長は一瞬だけ驚いたような顔をしたが、すぐにと頷いた。


「もちろん構わないよ。むしろ、そこまで真剣に考えてくれてありがたい」

「まだ仮説なんで、見当違いかもしれませんけど」

「それでもだよ。今は少しでも前に進めたいからね。いろんな知恵を出し合っているところさ。立ち話もなんだし、家の方へどうぞ」


 山田園長は穏やかに笑い自宅へ案内する。俺たちは農園の隣に建つ山田家へお邪魔することになった。


 昔ながらの日本家屋という感じの家だった。玄関先には泥の付いた長靴が並び、壁際には作業道具が整頓されている。生活と仕事が地続きになっている家だ。


「失礼します」

「お邪魔します」


 俺と柴田さんが挨拶しながら中へ入ると、ひんやりとした空気が肌を撫でた。とはいえエアコンが効いている訳ではない。

 リビングの奥では大きめの扇風機がゆっくり首を振っており、開け放たれた窓からも風が抜けている。

 古い家特有の風通しの良さなのだろう。外はあれだけ暑かったのに、中へ入ると不思議と熱気が和らいで感じられた。畳と木の匂いが混ざった空気もどこか落ち着く。


「田舎のおばあちゃん家みたいね」


 柴田さんが小声で呟く。


「わかる」

「山神、こういう家好きそう」

「昼寝が捗りそうだからな」

「理由が完全におじいちゃん」


 そんな話をしていると、山田園長が「資料を持ってきますので、少しお待ちください」と言って奥の部屋へ向かっていった。


 俺と柴田さんはリビングの椅子へ腰を下ろす。扇風機の風が思った以上に気持ちいい。窓の外では風に揺れる畑が見え、時折鳥の鳴き声も聞こえてくる。

 静かだった。最近ずっと騒がしいことばかりだったせいか、この空気は妙に落ち着く。すると、ぱたぱたと足音が聞こえ、山田がコップを三つ持って現れた。


「はい、麦茶」

「お、助かる」

「ありがとう」


 よく冷えた麦茶だった。グラスの表面には水滴が浮かび、見るだけで涼しそうだ。俺は一口飲んで、小さく息を吐く。


「……生き返る」

「大げさね」

「いや今日マジで暑いぞ」

「それは否定しない」


 山田も苦笑しながら自分の分の麦茶を飲んでいた。


「最近ずっとこんな感じだよ。畑出るだけで体力持ってかれる」

「農家ってやっぱ大変なんだな」

「うん。しかも今年は気温の上がり方が変なんだよね」


 その言葉に、俺は少しだけ引っ掛かりを覚えた。だが、今はまだ整理しきれない。そんなことを考えていると、奥の部屋から山田園長が戻ってきた。両手にはかなり分厚い書類の束が抱えられている。


「お待たせ」

「うわ、多っ」


 思わず声が漏れる。山田園長は苦笑しながら、リビングのテーブルへ資料を並べていった。


「行政からの通知書、保健所とのやり取り、検査機関の分析結果、それから農園側で独自に行っている自主検査の報告ですね」


 並べられた資料には、

『農作物安全性検査結果報告書』

『土壌成分分析表』

『地下水・用水路検査結果』

『行政指導記録』

『出荷自粛対象区画一覧』

『自主回収実施報告』

『継続モニタリング計画書』


 などのタイトルが並んでいた。思った以上に本格的だ。というか、普通に研究資料みたいだった。


「……これ全部読んだんですか?」


 柴田さんが若干引いた顔をしている。山田園長は遠い目をした。


「嫌でも読むことになるんだよ」

「ですよね……」


 俺は資料の山を見下ろしながら、小さく唸る。そして、その中から何枚かの書類を迷わず抜き取った。


「ん?」


 柴田さんがこちらを見る。俺は答えず、そのまま資料を読み始めた。

 地下水検査。

 用水路。

 採取地点。

 検出濃度。

 採取日時。

 スマホでも何かを調べながら、資料と照らし合わせていく。


「……」


 頭の中で少しずつ点が繋がり始めていた。ただ、まだ確証はない。柴田さんも気になったのか、俺が取り分けなかった別の資料を読み始めている。


「山神、これ“検出日が偏ってる”気がするんだけど」

「……ああ」

「何かわかったの?」

「まだ」


 俺は短く答えながら、再びスマホ画面へ目を落とした。すると山田園長が穏やかな声で言う。


「専門用語も多いので、わからないことがあれば何でも聞いてくれて構わないよ」

「ありがとうございます」


 そう言いながらも、山田園長は俺たちを急かさない。ただ静かに、俺と柴田さんが資料を読み込む様子を見守っていた。


 資料を読み始めてから、どれくらい時間が経っただろうか。気付けば俺は、同じページを何度も行ったり来たりしていた。

 検査結果。

 採取地点。

 採取日時。

 検出濃度。

 不検出。

 微量検出。

 そしてまた不検出。


「……」


 やっぱり妙だ。俺はスマホに表示した地図と資料を見比べながら、小さく眉をひそめた。すると、その様子を見ていた山田園長が静かに声をかけてくる。


「何か気になることがありましたか?」


 俺は資料から顔を上げた。


「いくつか」

「ぜひ聞かせてくれないかい?」


 山田園長は真剣な表情でこちらを見る。俺は少し言葉を選びながら口を開いた。


「まず、保健所とか行政側って、今どんな見解なんですか?」

「見解、かい?」

「原因について、どこまで絞れてるのかなって」


 山田園長は少し考えるように視線を落としたあと、ゆっくり答えた。


「かなり幅広く調べているよ。土壌、肥料、農薬、地下水、保管状況、農機具の管理状況……農園内に原因がないかを重点的に確認している段階だね」

「やっぱり最初は内部要因から調べますよね」

「うん、そうだね。農園側としても当然だと思っているよ。僕達としては原因究明が最優先だから協力している」


 隠すつもりがないからこそ、むしろ徹底的に調べてもらっている、という感じだった。俺は頷きながら、別の資料を手に取る。


「あと、これなんですけど」


 俺は区画ごとの検査結果一覧を指差した。


「当初って、農園全体に汚染が広がってると思ってました?」

「そうなんだ。最初はそう考えていたんだよ。だから、かなり広範囲で自主出荷停止もしたし、行政側も全面的に調査へ入ったんだ」

「でも実際は違った」

「そう。調べていくと、異常値が確認されたのは一部区画だけだったんだ。しかも、その区画ですら毎回検出される訳ではない」

「……ですよね」


 俺は資料へ視線を戻す。そこが引っ掛かっていた。もし農地そのものが原因なら、もっと継続的に数値が出てもおかしくない。

 だが、今回は違う。出る日もあれば出ない日もある。しかも濃度にばらつきがある。


「しかも全部微量……」


 俺が呟くと、山田園長も苦い顔で頷いた。


「そうなんだよ。そこが一番難しい部分なんだよ」

「規則性も見えてない?」

「今のところは」


 山田園長は資料の一枚を指差す。


「行政側も、採取日や天候との関連を調べているようなんだけど、まだ断定できる段階ではないみたいなんだ」

「……なるほど」


 俺は小さく息を吐いた。やっぱり、完全に見当違いという訳ではなさそうだ。すると柴田さんがこちらを見て首を傾げる。


「さっきから何か妙に引っ掛かってるわよね?」

「まあな」

「何かわかったの?」

「まだ“仮説”だよ。確定してないから言えない」

「その言い方、絶対何かわかってる時のやつじゃない」

「否定はしない」


 俺は苦笑しながらスマホをポケットへ戻した。そして改めて山田園長を見る。


「俺たち、このあと例の山道を調べに行こうと思ってるんです」

「山道……?」


 山田園長が少し不思議そうな顔をした。そこで俺は、柴田さんが集めた情報を簡単に説明する。

 東側から来るダンプカー。

 空の状態と積荷がある状態。

 人気の少ない山道。

 西側では目撃されていないこと。

 そして、その山道が山田農園の近くへ繋がっていること。

 話を聞いているうちに、山田園長の表情が少しずつ真剣になっていった。


「……なるほど」


 小さく呟く。

 たぶん、同じことに気付き始めている。だが俺は、その前に軽く首を振った。


「ただ、まだ何も確証がある訳じゃないです」

「……」

「だから、今の段階ではあくまで“気になる”程度で」


 言葉にはしなかった。だが、山田園長にはちゃんと伝わったらしい。


「……わかった。何かあったら必ず連絡してほしい」


 山田園長も、それ以上は言わなかった。その横で、柴田さんと山田だけが微妙に置いていかれている顔をしている。


「……何の話してるんだ?」

「何だか山神が突然秘密主義のナルシストになったみたいだわ」

「人聞き悪いな」


 柴田さんが呆れたように言う。山田も困ったように苦笑していた。

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