第41話 隠した話とこれからの話
食堂やまもとの暖簾をくぐった瞬間、店内にいた全員の視線がこちらへ向いた。特に反応が早かったのは夏樹と山本さんだ。
「直美!!」
「直美ちゃん!!」
二人はほぼ同時に立ち上がると、そのままこちらへ駆け寄ってきた。そして次の瞬間、柴田さんは二人に抱きつかれるような形でもみくちゃにされる。
「ちょっ、苦しい!近い近い!」
「だって連絡つかないし!創ちゃんから変な電話くるし!」
「本当に心配したんですよ!?無事でよかったですぅ……!」
夏樹は半分怒っているような顔をしながらも、声は完全に安心しきっていた。山本さんに至っては今にも泣きそうである。
その様子を見ながら、俺は小さく息を吐いた。突然連絡が取れなくなり、しかもスマホだけ見つかったなどと言われれば普通に事件性を感じる。
「で?何があったんだい?」
カウンターの向こうから店長がこちらを見る。奥さんも調理台の向こうで心配そうな顔をしていた。
「ちょっと公園でトラブルに巻き込まれただけです」
俺がそう答えると、夏樹が即座に反応した。
「“ちょっと”じゃないでしょ!?創ちゃん、さっき電話めちゃくちゃ真面目な声してたじゃん!」
「いや、実際ちょっとだろ」
「どこがよ!」
「そうですよ!心配してたのに、『何とかなったから今からそっち向かう』って夏樹ちゃんにメッセージだけっておかしいですよ!すっごく心配したんですから!」
夏樹が「シャーッ」って威嚇猫っぽくなっている。それに山本さんまで混ざっている。何だか山本さんがやると子猫感が半端ないな。
「まあまあ、落ち着いて。山神君、とりあえず簡単でいいから説明してくれるかい?」
店長が苦笑しながら間に入る。
「はい」
俺は椅子に腰を下ろしながら、できるだけ簡潔に説明を始めた。
柴田さんと公園で待ち合わせしていたこと。時間になっても来なかったこと。連絡先を知らなかったので夏樹経由で連絡を取ろうとしたこと。そして、公園で柴田さんのスマホだけが落ちていたこと。
「えぇ!?」
「それは怖すぎますよぉ……!」
夏樹と山本さんが揃って顔を青くする。
「いや、俺もそう思った」
その後、声が聞こえたので探しに行ったところ、男三人に囲まれていた柴田さんを見つけたこと、軽く揉めた結果、通行人の気配に気づいた相手が逃げていったことまで説明する。
当然ながら、ダンプカーや山道の件は伏せた。今ここで話す内容ではない。
説明を聞き終えた店長は、腕を組みながらゆっくり頷いた。
「なるほどねぇ……それは警察に相談した方がいい案件だと思うな」
「ですよねぇ……」
柴田さんは、ようやく夏樹と山本さんの拘束から解放されながら苦笑する。
「一応、さっき親にも連絡して、父が帰ってきたらちゃんと相談して対応するつもりです」
「うん、それがいいと思うよ」
店長は真面目な表情でそう答えた。すると奥さんも松葉杖をつきながらこちらへ来る。
「直美ちゃん、本当に怪我はないの?」
「はい、大丈夫です。ちょっと腕掴まれたくらいなので」
「そう……でも怖かったでしょう?」
「……まあ、ちょっとは」
その返事に、奥さんは優しく微笑む。
「無理しちゃ駄目よ?怖い時は怖いって言っていいんだからね」
その言葉に、柴田さんは少しだけ照れくさそうに視線を逸らした。
「創ちゃん」
「なんだ」
「何でそんな状況で普通なの!?相手3人もいたんでしょ?創ちゃんももしかしたら無事じゃ済まなかったかもしれないんだよ!?」
夏樹がじとっとした目でこちらを見る。
「いや、実際、問題なかっただろ?こうして二人共無事なんだから」
「そういうことじゃないの!」
「山神君はもう少し危機感を持った方がいいと思います!」
山本さんまで乗っかってきた。
二対一である。三人相手して帰ってきて今度は二対一だ。しかも味方がいない。あれ?内側の方が敵が多くない?
店長は苦笑しているだけだし、奥さんは「ふふっ」と楽しそうに笑っている。
柴田さんが夏樹たちに囲まれながら「大丈夫だから」と何度も説明している横で、店長がノートパソコンをこちらへ向けてきた。どうやら空気を切り替えたかったらしい。確かに、いつまでも暴漢騒ぎの話をしていても仕方がない。
「それでね山神君、実は最近ちょっと気になってることがあるんだよ」
「気になってること?」
「うん。動画の再生回数自体は順調なんだけどね、登録者数の伸びが少し落ち着いてきてるんだ」
「あぁ、なるほど」
画面を見る。そこには食堂やまもとチャンネルの“アナリティクス”が表示されていた。
アナリティクスというのは、簡単に言えば動画の成績表みたいなものだ。どの動画がどれだけ再生されたのか、どの年代の人が見ているのか、どのタイミングで視聴者が離脱したのか、登録者がどこで増減したのかなど、かなり細かく分析できる。動画投稿を本気でやるなら必須と言っていい機能だ。
「おぉ~……なんか数字いっぱいです」
横から覗き込んできた山本さんが、完全に圧倒された顔をしている。
「創ちゃん、これ全部見てるの?」
「全部は見ない。必要なところだけだ」
「私だったら三秒で眠くなる自信ある」
夏樹が真顔で言った。たぶん本当に寝ると思う。
店長がマウスを操作しながら画面を切り替える。
「ほら、この動画なんか特に伸びたんだけど、その割に登録者への変換率が少し低いんだよね」
数字を見る。確かに再生数は良い。コメント数も多いし、高評価率も高水準だ。ただ、店長の言う通り“登録”までは至っていない視聴者が少し多い。
「でも、これはそこまで気にしなくていいと思いますよ」
俺がそう言うと、店長と奥さんが同時にこちらを見る。
「そうなのかい?」
「はい」
俺は画面を指さしながら説明する。
「今の食堂やまもとチャンネルって、“料理チャンネル”として見てる層と、“家族を見るチャンネル”として見てる層が混ざってる状態なんですよ」
「家族を見るチャンネル?」
奥さんが首を傾げる。
「はい。例えば、店長の料理を純粋に見たい人もいるし、奥さんのナレーションを聞きに来てる人もいる。あと、山本さんの料理人への道を応援してる層も結構いると思います」
「おぉ……なんだか恥ずかしいですね……」
山本さんが照れたように頬を掻く。
「実際、コメント欄でも“成長を見守りたい”っていうのは多いです」
「確かにそういうコメント増えたわねぇ」
奥さんが嬉しそうに笑う。
「だから今の視聴者って、“動画一本だけ面白かったから見た”人もかなり混ざってるんですよ。そういう人たちは、すぐ登録しないことも多い」
「なるほどねぇ」
店長が感心したように頷く。
「特に家族系とか日常系って、“なんとなく見る”層が多いんです。料理動画だけならレシピ目的で登録されやすいんですが、今の食堂やまもとは半分ドキュメンタリーみたいになってるんで」
「ドキュメンタリー……!」
山本さんがなぜか感動している。
「萌、そのドキュメンタリーの主人公だもんね」
「えへへ……」
奥さんがそう言って褒めると山本さんは顔が溶けるくらい喜んでいる。単純である。
「だから、“登録者数が少し落ち着いた=人気が落ちた”ではないです。むしろ今は、“固定視聴者が定着し始めてる時期”って考えた方がいいと思います」
「固定視聴者かぁ……」
店長は画面を見ながら小さく呟いた。
「実際、このリピート率かなり高いですよ。毎回見てる人が増えてる」
「あ、本当だ」
夏樹まで画面を覗き込む。
「創ちゃん、こういうのちゃんと見てたんだ」
「そりゃ見るだろ」
「ほんと何でも知ってるよね〜」
「そんなことはない。知らないことも多いぞ」
「でも、山神君の言う通りにすると数字すごいんですよ?」
山本さんがさらっと言う。
「そうだよねぇ。僕たちだけだったら絶対こんなことになってないよ」
店長まで頷く。
やめてほしい。
そういう風に言われると妙にむず痒い。
「俺は方向性を少し整理しただけです。元々、店長たちの素材が良かったんですよ」
「素材って魚みたいに言わないでよ」
夏樹が笑う。
「でも、安心したわぁ」
奥さんが胸を撫で下ろすように息を吐く。
「登録者が止まってきたって聞くと、やっぱり不安になっちゃうものね」
「そこは気にしすぎない方がいいです。むしろ今は、“見てくれる人との距離感”を大事にした方がいい時期だと思います」
「距離感?」
「コメント返しとか、動画の空気感とかですね。今の食堂やまもとは、“店”というより“知り合いの家”みたいな距離感で見られてるんで」
「え?じゃあ私たち全国に親戚増えてるってことですか?」
山本さんが妙な解釈を始めた。
「それは違うと思うわ」
柴田さんが即座にツッコむ。
「でも、コメント欄のお母さん目線率は高いよね」
「それはちょっと分かるわね……」
店長と奥さんが苦笑した。
今後の動画の方向性について、店長と奥さん、それから夏樹たちも交えてしばらく話し合ったあと、気づけば時計の針はかなり進んでいた。
「じゃあ山神君、今日撮った分お願いできるかい?」
店長がカウンターの下から小さなケースを取り出し、中に入っていたSDカードをこちらへ差し出す。
「了解です」
受け取りながら軽く頷く。
最近ではすっかりこの流れも日常になっていた。店長たちが撮影し、俺が編集する。最初は「本当にこれでいいのか?」という手探り感が強かったが、今ではお互いの役割もかなり固まってきている。
「無理しすぎないでね?」
奥さんが心配そうに言う。
「最近、学校でもずっと本読んでるって萌ちゃんから聞いたわよ?」
「山神君、昼休みはずっと読書してますもんねぇ」
「趣味だし、好きなことだからな。許されるなら一日中本を読んでいたい」
「またそういう事言う…。そのうち干からびるよ?」
そんなことはない!とは言いにくいな。
「そう言えば、もう少しで定期テストですね……」
山本さんが、見るからに気が重そうな顔で呟いた。
「そうね。萌は対策ちゃんと進んでるの?」
柴田さんがそう聞くと、山本さんはしゅんと肩を落とす。
「それが……今回ちょっと難しくて全然追いついてないんです。山神君は成績良かったですよね?やっぱり、たくさん本を読んでるからですか?」
「普通だろ」
「普通じゃないよ!創ちゃん、いつも本ばっかり読んでるのに成績いいとかずるい!」
夏樹が即座に食いついてくる。
「ずるいって何だ。失礼な。俺だってちゃんと勉強してるぞ」
「嘘だぁ!創ちゃん、家でもずっと本読んでるじゃん!」
「いや、だから勉強してるって」
「いつ!?」
「基本的には毎日六時間から七時間くらい」
「「えぇっ!?」」
夏樹と山本さんの声が綺麗にハモった。
「そんなに!?」
「山神君いつ勉強してるんですか!?ずっと本読んでるイメージしかないんですけど!?」
「え?お前らもやってるだろ?」
「「やってない!」」
またハモる。
「毎日学校来てるじゃないか」
俺がそう言うと、一瞬の沈黙。
そして。
「……あ」
最初に気づいたのは柴田さんだった。
「なるほどね。山神、授業時間を“勉強時間”に含めてるのね」
「そりゃ勉強だろ」
「屁理屈っぽいけど、間違ってはないわね……」
呆れたようにため息を吐く柴田さん。
「森岡高校って平日だと六時間か七時間授業あるじゃない?山神は、その授業をちゃんと受けてれば十分って考え方なのよ」
「十分とは言ってない」
「じゃあ予習復習を毎日何時間もしてるの?」
「それはしてない」
「ほら見なさい」
柴田さんが呆れたように肩をすくめる。
「授業だけで理解してるから、その後ずっと本読んでられるのよ。この男」
「理不尽です……!」
山本さんが尊敬半分、ショック半分みたいな顔をしている。
一方の夏樹はというと。
「創ちゃんって昔からそうだったよね……」
完全に呆れ顔だった。
「授業中に全部理解して、家帰ったら好きな本読んでるタイプ。ほんとずるいよ。頭の良さを半分分けてほしい。」
「授業聞いてるだけだ」
「それができるのが変なんだってば」
納得いかん。
同じ話をしているはずなのに、山本さんからは尊敬の眼差しを向けられ、夏樹からは生暖かい視線を向けられている。
解せぬ。
「ほら、もう帰るぞ。柴田さん送っていかないといけないんだから、早く準備しろ」
「あ、そうだった!鞄取ってくるからちょっと待って!」
夏樹が慌てて立ち上がり、店の奥へと駆けていった。
「私なら大丈夫よ?一人で帰れるわ」
柴田さんが苦笑しながら言うが、
「駄目です!」
思った以上に強い声で止めたのは山本さんだった。
「今日あんな怖い思いしたばっかりじゃないですか!しばらくは絶対一人になっちゃ駄目ですからね!」
「え、えぇ……そうね」
珍しく山本さんの勢いに押される柴田さん。
まあ、今日の今日で一人にするのは流石に危ない。夏樹がここにいても同じことを言っただろうし、店長や奥さんも止めるはずだ。
夏樹たちの準備を待つ間、俺は先に店の外へ出た。夜風は少し涼しく、昼間よりずっと歩きやすい。しばらくして、夏樹と柴田さんも店から出てくる。今日は夏樹と一緒に、柴田さんを家まで送っていくことにした。流石に、さっきの件の直後に一人で帰すわけにはいかない。
夜の住宅街は昼間の喧騒が嘘のように静かで、等間隔に並ぶ街灯だけが白っぽい光をアスファルトへ落としていた。昼間は少し蒸し暑さを感じていた空気も、今はどこか涼しく、歩くたびに柔らかな風が制服の裾を揺らしていく。
時折、遠くを走る車の音が聞こえるくらいで、周囲は驚くほど穏やかだった。少し前まで騒動の中心にいたとは思えないほど静かな時間だったが、その穏やかさが逆に、今日一日の出来事を現実味の薄いものに感じさせる。
夏樹は柴田さんのすぐ隣を歩きながら、何度も顔を覗き込むようにして話しかけていた。大げさなくらい表情を動かしながら何かを訴え、時には少し怒ったような顔になり、次の瞬間には困ったように眉を下げる。その様子から、無茶をしないでほしいと必死に説得しているのだろうということは、会話が聞こえなくても十分伝わってきた。
柴田さんはそんな夏樹の勢いに押され気味になりながらも、どこか照れくさそうに笑っている。時折視線を逸らしながら肩をすくめ、それでも最後には小さく頷いて見せるあたり、完全に聞き流しているわけではなさそうだった。
街灯に照らされた二人の表情は柔らかく、さっきまでの緊張感はかなり薄れていた。夏樹の様子を見る限り、心配で仕方がなかったのだろう。いつも以上によく喋り、いつも以上に感情が表に出ている。その隣で、柴田さんもまた、普段より少しだけ素直な顔をしていた。
住宅街の角を曲がるたびに、三人の影が長く伸びたり短くなったりを繰り返す。どこにでもある夜道。どこにでもある帰り道。けれど、今はその当たり前の時間が妙に心地よく感じられた。誰かが笑い、誰かが呆れたように肩をすくめ、また誰かが何かを言い返す。そんな他愛もない空気を繰り返しながら、ゆっくりと夜の街を歩いていった。
「じゃあ今日はありがとう」
柴田さんが立ち止まり、こちらを振り返る。
「気にするな」
「でも、本当に助かったわ」
その声音は、さっきまでよりずっと素直だった。
「創ちゃん、今日はちゃんと休んでよ?」
夏樹が念押しするように言う。
「動画編集もほどほどにね」
「善処する」
「それ絶対やるやつじゃん」
図星だったので返答に困る。そんな俺たちのやり取りを見ながら、柴田さんは小さく笑った。
「ほんと、あんたたち見てると飽きないわね」
「飽きるほど見てないだけだよ」
そう返すと、柴田さんは「そうかしら?」と肩をすくめ、笑顔で手を振り家の門をくぐっていった。
柴田さんを無事に家まで送り届けたあと、俺と夏樹は夜道を並んで歩いていた。住宅街はすっかり静かになっていて、遠くで車の走る音がかすかに聞こえるくらいだ。街灯に照らされたアスファルトを見ながら歩いていると、隣からやたらと視線を感じる。
……うるさいほど伝わってくるな。
ちらりと横を見ると、案の定、夏樹がこちらをじっと見ていた。
「何だよ」
「いや~?」
「絶対“いや~”じゃない顔してるだろ」
「別にぃ~?」
語尾が怪しい。これは完全に何か聞きたくてうずうずしている時の反応だ。
「で?何の話してたの?」
結局すぐ聞いてきた。
「さっき店長にも説明しただろ」
「それは聞いた!直美が創ちゃんを呼び出した理由を聞いてない!」
「十分説明したと思うが」
「してないよ!“ちょっと揉め事がありました”みたいな感じだったじゃん!」
「実際ちょっとだった」
夜道に夏樹のツッコミが響く。近所迷惑にならない程度にしてほしい。
「まあ、とりあえず柴田さんが最近ちょっと危ないことに首突っ込みすぎてるっぽい」
ダンプカーや山道の件は伏せつつ、なるべく自然に説明する。
「危ないこと?」
「山田農園の件、色々調べてたらしい」
「あー……」
夏樹は納得したように頷いた。
「直美、そういうの放っとけないタイプだもんね」
「報道関係に興味あるって言ってたしな」
「それで、創ちゃんに相談?」
「というより、巻き込まれた」
「それはいつものことじゃん」
否定できないのが困る。
「とりあえず、無茶しないように夏樹からも言っといてくれ」
「うん、それはちゃんと言う。直美、変なところで行動力あるからなぁ……」
少し心配そうに呟く。実際、その通りだと思う。好奇心と正義感で突っ走るタイプは、ブレーキ役が必要だ。
「……創ちゃんもだけど」
「俺は比較的慎重だろ」
「どの口が言うの!?今日だって普通に暴漢に近づいてったじゃん!」
「見捨てるわけにもいかないだろ」
「それはそうだけど……」
夏樹は少し言葉に詰まり、それから小さくため息を吐いた。
「でも、ちゃんと無事でよかった」
ぽつりとそう言う。その声音が妙に素直だったので、少しだけ返答に困る。
「まあ、俺も怪我したくはないしな」
「そこは“夏樹が心配するから”とか言うところじゃないの?」
「何でそんなラブコメみたいなこと言わないといけないんだ」
「えぇー」
不満そうである。
そんなやり取りをしながら歩いていると、ふと思い出したことがあった。
「あぁ、そうだ」
「ん?」
「リアムとシャーロット、日本来るらしいぞ」
「えっ!?」
夏樹が思い切り反応した。
「ほんとに!?」
「ほんとに」
「やったぁ!!」
夜道なのに小さく跳ねた。テンションが分かりやすすぎる。
リアムとシャーロットは、俺がイギリスにいた頃によく一緒に遊んでいた兄妹だ。夏樹も当時、一時的にイギリスへ来たことがあり、その時に知り合っている。
それ以来、ビデオ通話なんかで交流が続いていた。
特にシャーロットとは、夏樹がかなり仲がいい。
「シャル元気!?」
「元気らしい」
「うわぁ~!久しぶりだなぁ!」
「お前、定期的に通話してただろ」
「それと直接会うのは違うの!」
なるほど。
「そういえば、英語教えてもらってたよな」
「そうそう!シャルめちゃくちゃ教えるの上手なんだよ!私の発音ずっと直してくれてたし!」
夏樹は本当に嬉しそうだ。
「創ちゃんなんか途中から“通じればいいだろ”とか言い出すし!」
「実際通じるから問題ない」
「よくないよ!」
「リアムも同じこと言ってたぞ」
「……リアムは何か許せるの!」
理不尽である。
「いつ来るの?」
「知らん。あいつらはいつも突然やってくる」
「確かに……。でも、楽しみ!」
完全に浮かれていた。まあ、久しぶりの再会だから気持ちは分からなくもない。
「シャル、日本のお菓子また大量に買いそう」
「前回来た時もすごかったな」
「抹茶味に感動してたもんね」
「あと何故かうまい棒を気に入ってた」
「あれは私も意味分かんなかった」
そんな他愛ない話を続けながら、俺たちはゆっくりと家路を歩いていった。




