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きみの隣で、今日も僕は考えてる。本ばかり読んでいた俺の日常は、少しずつ騒がしくなる  作者: マリセリソウ


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第40話 静かな公園。きゃあ怖〜い

更新が遅くなりました(*ノω・*)テヘ

申し訳ありません!!

 柴田さんから「内緒の話」とやらの約束を取り付けられてからというもの、なぜか夏樹に睨まれるという謎の現象が日常に組み込まれている。別にやましいことがあるわけでもないし、そもそも俺の生活はかなりの割合であいつと共有されているのだが、それでも納得がいかないらしい。


 理不尽と言えば理不尽だが、あの様子を見る限りでは理由を聞いたところで納得できる答えが返ってくるとも思えないので、深く追及するのはやめておいた。


 放課後、俺は学校から少し歩いた場所にある小さな公園のベンチに腰を下ろしていた。住宅街の中にぽつんとあるこの公園は、夕方になると子どもたちの姿もほとんど消え、静けさだけが残る。遊具はブランコと滑り台が一つずつある程度で、手入れが行き届いているとも言い難いが、その分人が寄りつかない。人目を避けたいという条件には合致している。


 柴田さんは「少し用事を済ませてから行くから」とだけ言い残し、具体的な場所の指定もなく教室を出ていったが、あの流れならここだろうという半ば消去法の判断だった。実際、こういう話をするなら校内よりは外の方が都合がいいのは分かる。

 それにしても、だ。


 メッセージで済む話じゃないのか


 ベンチの背もたれに軽く体重を預けながら、ぼんやりとそんなことを考える。今どき、わざわざ呼び出して直接話す必要がある内容というのも珍しい。スマホがある以上、大抵のことは文字か通話で済む。スパイでもあるまいし、履歴が残ることにそこまで神経質になる理由も思い当たらない。


 まあ、単純に面倒くさいのかもしれないが…。

 自分で言っておいてなんだが、その可能性は十分にある。俺自身がそういうタイプだから余計にそう思う。


 視線を上げると、風に揺れるブランコがきい、と小さく音を立てた。空はまだ明るく、日が完全に落ちるには少し時間がある。気温も過ごしやすく、こうして待つには悪くない環境だった。


 あのあと、夏樹と山本さんはそのまま食堂やまもとへ向かっていった。夏樹は明らかに不満げな顔をしていたが、山本さんに引っ張られる形でしぶしぶついていったのが印象に残っている。去り際に向けてきた視線は、「後で全部聞き出すからな」とはっきり主張していた。隠すようなことでもないんだが…。


 実際のところ、あいつに対して隠し事はほとんどない。というより、できないと言った方が正確かもしれない。毎日顔を合わせ、生活圏も重なっている状況で何かを隠そうとしても、どこかで綻びが出る。そういう無駄な労力を使うくらいなら最初から話した方が早い。


 ……というか、あいつの親はどうなってるんだ。ふと別の疑問が頭をよぎる。

 広瀬夏樹の両親。海外旅行からとっくに帰ってきているはずなのに、なぜか娘は未だに俺の家に入り浸っている。いや、厳密には帰っていないわけではないのだろうが、体感としてはほぼ同居に近い。食材を時々持たせてくれるのは正直ありがたい。あれはあれで助かっている。


 だが、それでいいのか!


 生活全般の面倒を見る対価として、それが釣り合っているのかどうかは微妙なところだ。そもそも対価という考え方自体が間違っている気もするが、現実問題としてどうなんだろうなと、思考が妙な方向に逸れていく。


 ……まあ、いいか。

 いつもの結論に落ち着く。考えても仕方がないことを長く考えるのは無駄だ。


 ポケットからスマホを取り出し、時間を確認する。約束の時間まではまだ少し余裕がある。ついでに、十五分後にアラームが鳴るように設定しておく。待っている間に本に集中しすぎて時間を見失うのを防ぐためだ。

 スマホをポケットに戻し、鞄から本を取り出す。今日もマーケティングに関する本だ。ここ最近はずっとこの分野を読み返しているが、状況が変わるたびに見え方が変わるので飽きることはない。

 ページを開き、視線を落とす。


 周囲の静けさが、かえって集中を助ける。遠くで車が走る音と、風に揺れる葉の音がわずかに混ざる程度で、人の気配はほとんどない。


 ポケットの中で小さく震えるようにアラームが鳴り、意識が引き戻された。読んでいた本から視線を外し、スマホを取り出して時間を確認する。


 ……遅いな。

 表示された時刻を見て、思わず小さく呟く。約束の時間を二十分は過ぎている。

 授業が終わってすぐ、夏樹と山本さんに軽く挨拶をしてから、柴田さんは「少し用事を済ませるから、十六時に近くの公園で待ってて」とだけ言い残し、こちらの返事も待たずに教室を出ていった。その勢いからして、忘れるようなタイプには見えなかったが、ここまで遅れるとさすがに違和感がある。


 まさか忘れてる?一瞬そんな考えがよぎるが、柴田さんに限ってそんなことはないとすぐに打ち消す。

 どちらかと言えば、時間にはきっちりしているタイプだ。むしろ遅れるなら何かしら理由があるはずだろう。

 ベンチから立ち上がり、軽く周囲を見渡す。公園には相変わらず人の気配はない。ブランコが風で揺れる音だけが、妙に耳に残る。


 連絡するかと思ってスマホを見たところで、手が止まる。


 ……連絡先、知らねぇじゃん。


 今さら気づく。柴田さんとはそれなりに会話をしているが、連絡先は交換していなかった。必要になる機会がなかったと言えばそれまでだが、こういう時には普通に不便だ。交換しとけばよかった。一瞬だけ反省する。

 まあ、いいか。

 そして即座に切り替える。どうにもならないことを悔やんでも仕方がない。

 夏樹に頼めばいいや。あいつなら柴田さんの連絡先くらい普通に知っているだろう。

 迷うことなく通話ボタンを押す。

 数回のコール音の後、すぐに繋がった。


『もしもし?』

「今いいか」

『うん、大丈夫だけど……で?何の話だったの?』


 開口一番それだった。声のトーンからして、かなり気になっていたらしい。


「まだ会えてない」

『……は?』

「柴田さん、まだ来てない」

『え、ちょっと待って、それ結構時間経ってるよね?』

「二十分くらい」

『それは遅すぎない?何してるのよあの子……』

「さあ。わからん。そこで俺は思いついたんだ。連絡しようと」

『うん』

「連絡先、知らなかった」

『はぁ!?』


 思い切り素の声が返ってくる。


『なんでよ!創ちゃんいつも普通に話してるじゃない!』

「学校ではな?家に帰ったら柴田さんと連絡取る必要なかったからな」

『必要あるでしょこういう時に!ほら今まさに困ってるじゃん!』

「今実感してる」


 そう返すと、電話の向こうで小さく息を吐く気配がする。


『……そっか、知らないんだ』


 なぜか少しだけ安心したような声になる。


「何だその反応」

『別に?なんでもない。分かった、じゃあ私から直美に連絡してみるよ』


 明らかに何か含みがあるが、まあいい。


「頼む」

『任せなさい』


 妙に張り切った声だった。そのまま通話が切れる。


 再び静かな公園に戻る。ベンチに腰を下ろす気にもなれず、そのまま立ったままぼんやりと周囲を見る。時間の流れがやけにゆっくりに感じる。本当に来ないな。前の予定が予定外なことになっているんだろうか?そんなことを考えていると、不意にどこからか電子音が聞こえてきた。

 自分のスマホではない。ポケットに手を入れて確認するが、画面は静かなままだ。


 耳を澄ます。


 確かに鳴っている。


 少し遠く、木陰の方から聞こえてくる。

 こんなところに誰かいるのか?


 ゆっくりと歩き出す。草を踏む音がやけに大きく感じる。音のする方向へ近づくにつれて、着信音ははっきりとしてきた。そして、木の根元あたりに、それはあった。


 スマートフォン。


 地面に無造作に落ちている。画面が光っている。表示された名前が目に入る。


『夏樹』


 ……持ち主は苗字は入れずに名前だけ登録する人なんだな。思わずそんな感想が浮かぶ。


 とりあえずはそれどころではない。しゃがみ込んでスマホを拾い上げる。まだ着信は続いている。


 これ、柴田さんのスマホか?


 少しだけ周囲を見回す。

 誰もいない。


 軽く首をかしげながら、鳴り続ける画面を見つめた。そのまま鳴り続けている着信に出る。耳に当てると、聞き慣れた声が飛び込んできた。


『もしもし?……直美!?大丈夫?』

「大丈夫かどうかはまだわからん」

『え?ちょっと待って、なんで創ちゃんが直美の電話に出るの?』


 至極まっとうな疑問だった。


「その質問はもっともだが、こっちも状況が分かってない。今、公園にいるんだが、柴田のスマホだけ落ちてた」

『……は?』


 一拍置いて、電話越しでも分かるくらい空気が変わる。


「本人はいない」

『ちょっと待って、それどういうこと?え、何それ怖いんだけど』

「俺もそう思ってる。とりあえず、今から周囲を確認する」

『え!?私達も公園に行ってさがそうか?』

「俺が探すから大丈夫だ。何かあったらすぐ連絡する」


 少しだけ強めに言う。


『……わかった』


珍しく素直に引いた。


「あと、店長にも一応伝えといてくれ」

『うん』


 そこで通話を切る。スマホを持ったまま、少しだけ立ち止まり今の状況を頭の中で簡単に並べる。

 柴田さんはここに来る予定だった。スマホは落ちている。本人はいない。つまり、意図的か偶発かはともかく、“何かあった”可能性が高い。

・周囲の確認

・声や物音の有無

・危険の有無の判断

・場合によっては通報


 そこまで考えたところで――


 かすかに、声が聞こえた。


「……!」


 反射的に顔を上げる。風の音に紛れるような小さな声だが、確かに人のものだ。

 音の方向を特定する。迷うことなく走り出す。公園の奥、木が密集しているあたりへと足を踏み入れる。地面の凹凸も気にせず、そのまま一直線に向かう。

 声は徐々にはっきりしてくる。


「ちょっと!離しなさいよ!」


 柴田さんの声だ。


「うるせぇ!ちょっと黙ってろ!」


 男の声が被さる。


「……あの人から絶対に手を出すなって言われてるから、お前ら気をつけろよ!?」

「分かってるって、スマホだけ手に入れたらそれでいいんだろ?」

「あぁ!それで俺たちには大金が入るってわけだ!」


 状況は理解したが、あまり理解したくなかった内容でもある。


 視界が開ける。


 そこにいたのは、三人の男に囲まれている柴田さんの姿だった。腕を押さえられているが、まだ抵抗している。その柴田さんが、こちらに気付く。

 そして――

 一瞬だけ目を見開き、


「山神君!逃げて!!」


 と叫んだ。

 その声で、男たちもこちらに気付く。三つの視線が一斉に向く。

 内心でため息をつく。

 柴田の意図は分かる。俺を巻き込まないためだろう。それで「はいそうですか」と帰れるほど、性格は良くできていない。


 一歩前に出る。


「お取込み中すみませんが、その子、俺と待ち合わせしてたんですよね~。なので、俺との話が終わってからにしてもらえませんか?」


 わざと軽い口調で声をかける。間抜けな提案だ。当然のように、すぐ横から反論が飛んでくる。


「何であなたと話した後にもう一回こんな目にあわされなきゃいけないのよ!おかしいでしょ!?」


 柴田さんからごもっともな意見があり、素直に頷く。


「その子もそう言ってるんで、とりあえず解放してもらうだけでもいいですか?」

「いいわけないだろうが!」


 即答だった。


「ですよね?じゃあ、どうしましょうか」

「お前がどっか行けばいいんだよ!」


 その言葉と同時に、一人が踏み込んでくる。拳が振り上げられる。

 タイミングを見計らって軽く横に避け、そのまま足を引っかけると、男は勢いそのままに前のめりに転がった。


「ぐっ!?」


 地面に顔面から突っ込む音がする。


「てめぇ!」


 もう一人が掴みかかってくる。


「きゃあ怖~い」


 その場でしゃがむ。

 掴もうとした手が空を切り、そのままバランスを崩した男が俺につまずいて前転するように転がった。


「何やってんだお前!」


 転がった仲間に対して怒鳴る声。そして、最初に転んだ男が立ち上がりながら叫ぶ。


「この野郎!なめやがって!」


 テンプレだな。

 心の中でだけ突っ込む。再び殴りかかろうと踏み込んだ、その瞬間だった。


「なんだ?喧嘩か?」


 少し離れたところから、別の声が飛んできた。どうやら通りかかった誰かが気付いたらしい。


「やべぇ!」

「まずい!」


 男たちの顔色が一気に変わる。


「くそっ!あともう少しだったのに!」


 最後にそれだけ吐き捨てて、三人は一斉にその場から走り去っていった。

 残されたのは、静まり返った空間と、少し乱れた呼吸だけだった。逃げていく三人組の背中を、俺はしばらく無言で見送っていた。


 本来なら追いかけて捕まえるべきなのかもしれない。少なくとも、ドラマや刑事ものの漫画なら主人公はここで全力疾走している場面だろう。しかし、現実問題として俺はそこまで身体能力に自信があるわけでもないし、柴田さんの様子がきになる。


 さっきまで気丈だった柴田さんは、その場にへなへなと座り込んでいた。どうやら足から力が抜けたらしい。無理もない。男三人に囲まれていたのだ。しかも、会話の内容から察するに、かなり物騒な目的で動いていた可能性が高い。

 近づきながら、手に持っていたスマホを差し出す。


「ほら」

「あ……」


 柴田さんは少し驚いたような顔をしてから、スマホを受け取った。画面にはまだ夏樹からの不在着信が何件か表示されている。


「大丈夫か?怪我はしてないか?」


 そう声をかけると、柴田さんは肩で息をしながらも、小さく笑った。


「大丈夫よ。あの人たち、思っていたより紳士だったわ。乱暴に掴まれはしたけど、それ以上は何もされてないし、怪我もしてない」

「その感想が出てくる時点で十分怖い目に遭ってると思うんだが」

「そうかもしれないわね」


 そう言って苦笑する。

 普段の強気な柴田さんらしいと言えばらしいが、よく見ると手が少し震えていた。本人は平静を装っているが、内心ではかなり怖かったのだろう。


「警察には行った方がいいと思うんだが、どうだ?」


 俺がそう言うと、柴田さんは少しだけ真面目な顔になる。


「そうね。どうせ行くつもりではいたから、ちょうどいいわ」


 そこまでは予想通りだった。だが、その直後。


「ただ、その前にあなたと一緒に行きたいところがあるのよ」

「……行きたいところ?」


 嫌な予感しかしない。


「事情を一から話した方が良さそうね」

「ぜひそうしてくれ。というか、そう願う」


 立ち上がった柴田さんは制服についた砂を軽く払う。どうやら歩ける程度には落ち着いたらしい。


「夏樹と山本さんも心配してるだろうし、とりあえず食堂やまもとへ向かうか?」


 そう提案すると、柴田さんは少しだけ考えるように視線を逸らした。


「……いえ。そうね。二人にはまだ話さない方がいいと思うの」

「えぇ……」


 思わず嫌そうな声が漏れる。


「俺、あんまり隠し事得意じゃないんだが」

「隠そうとするからボロが出るのよ。聞かれるまでは黙ってればいいの」

「うへぇ……親友なのにそんなことするのか」

「そうね。二人のためだもの」


 その返答に、俺は小さく肩を落とした。理屈は分かる。分かるが、夏樹相手に何もなかった顔をするのは難易度が高い。あいつ、妙に勘がいい時があるからな。


「それで?事情を教えてもらえるか?」


 歩き出しながら聞くと、柴田さんもゆっくり頷いた。


「親戚から色々話を聞いた後、私なりに山田農園の件を調べていたの」

「報道カメラマン志望らしい行動力だな」

「褒め言葉として受け取っておくわ」


 軽く返しつつ、柴田さんは続ける。


「その時にね、少し気になる話を聞いたのよ。山田農園の近くの山道に、見慣れないダンプカーが何度か入っていくのを見た人が複数いたらしいの」

「ダンプカー?」


 思わず聞き返す。

 この街は海、川、山に囲まれている自然豊かな土地ではあるが、同時に都心へのアクセスもいいベッドタウンでもある。昔は山道を抜けないと街の外へ出られなかったらしいが、今は大きな幹線道路が整備されているため、わざわざ山道を使う車はほとんどいない。

 地元の人間が近道として通る程度だ。ましてやダンプカーとなると、かなり目立つ。


「確かに珍しいな」

「でしょ?工事をしているわけでもないのに、何度も大型車両が山に入っていくなんて不自然なのよ。それで地元の人たちも覚えていたんでしょうね」

「なるほど」


 理屈は分かる。


「だから調べてたのよ。まあ、調べるって言っても、そのダンプカーを見た人に話を聞いて回っていただけだけど」

「ナンバーとかは?」

「そこまでは誰も覚えてなかったわ。けど、車体に会社名も書いてなかったみたい」

「ダンプカーなのに?」

「私も不思議だったんだけど、調べたら個人事業主のトラックとかだと無地のことも珍しくないらしいわ」

「へぇ……」


 妙なところで知識が増える。


「それで、行きたい場所ってのはもしかして」

「そう。そのダンプカーが入っていった山道を調べてみたいのよ」

「……なるほど」


 やっぱり嫌な予感は当たっていた。


「でも、どこまで行ったか分からないんだろ?」

「一本道らしいわ。父に聞いたら、自転車なら三時間もあれば抜けられるんじゃないかって」

「三時間!?」


 思わず声が大きくなる。


「そうよ。そのくらい余裕でしょ?」

「余裕じゃねぇけど……」


 軽く引く。いや、高校生の体力を何だと思ってるんだ。


「それにしても、その話だとさっきの連中が柴田さんを襲った理由がよく分からんな」


 そう言うと、柴田さんはにやりと笑った。


「あら。私とサイクリングはしてくれるのね?嬉しいわ」

「その話を濁してうやむやにしてやろうと思ったのに」

「うふふ」


 珍しく楽しそうだ。さっき襲われた直後とは思えない回復力である。


「たぶんだけど、私が色々嗅ぎ回ってるのを知って、何か都合が悪いことがあるんじゃないかしら?」

「普通に考えるとそうだろうな」

「でも、私はまだそこまで大した情報を掴んだわけじゃないのよ?」

「それでも困る連中がいるってことだろ」

「そういうことね」


 話しているうちに、見慣れた食堂やまもとの看板が見えてくる。どうやら思ったより歩いていたらしい。

 俺は少し考えてから口を開いた。


「とりあえず、今日のことはちゃんと親にも話せ」

「……ええ」

「その上で、山道の探索を許可されるなら付き合うよ」


 そう言うと、柴田さんは少しだけ目を見開いた。


「断ると思ってたわ」

「断りたい気持ちはある」

「正直ね」

「ただ、断ったら柴田さんは一人で山道に入っていくんだろ?一人で行かせる方がもっと危ない」


 実際、今日みたいなことがもう一度起きたら洒落にならない。

 すると柴田さんは、小さく笑ってから前を向いた。


「わかったわ。そこはちゃんとする。……でもね、正直、襲われたくらいで逃げてるようじゃ、目指してるジャーナリストにはなれないと思うのよ」

「その志は立派だと思うが、まずは安全第一で頼む」

「親に反対されても説得してみせるわ」


 妙に気合いの入った声だった。その横顔を見ながら、俺はバレないように小さくため息を吐く。


 ……面倒なことになってきたな。

本当に。

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