天才 vs 天才
「何言ってんだ?」
首を傾げるクロムに、シズクは楽し気に答える。
「ララがたまに見せる、感覚に全振りしたときの姿です。魔素への感受性も、戦闘センスも、魔法の精度も…段違いですよ。」
「普段のララでも十分強ぇと思うけど…。」
「まぁ、見ててくださいよ。」
注目が集まる中での、ララの初動は”全力疾走”。セツナとの距離を一気に詰める。同時、稲妻が盤上を駆ける。不可避の攻撃、それをまるで舞を踊るごとく避ける、避ける、避ける。未来でも見えているかのように。
「魔素の絶妙な変化を読んで、魔法の起こりを感じ取っているんです。ですが…。」
「ん?」
「読め過ぎている。」
以前のララであれば、もう少し先読みにも拙さがあった。しかしどうだろう。セツナという一流の魔法使いを前にして、その動きを完璧に読み切ってしまっている。はっきり言って、異常。
五メートル。ララとセツナの残りの距離だ。ピリリと光が飛ぶ。至近距離の光だ、どんな人間にだって避けれるはずがない。なのに、平然と、たった半歩、体を動かすだけで避けて見せる。
「ははっ!天才...!」
セツナが笑みを浮かべると同時。地面が闇に包まれる。ララの足が止まる。正確には地面に繋ぎとめられる。
闇を操る魔法の最初にして最強の魔法。物体を引き寄せる魔法だ。直後に放たれる火球は避けられない。ララは迷うことなく防御を展開、それと同時に地面を破壊して足止めを逃れる。直後、防御が崩壊、ララは無防備になるも、迷わず踏み込む。残り一メートル、距離を詰める。
セツナは咄嗟に火球を放って距離を取ろうとする。しかし、ララはその火球を気合いで受け止めて更に全身。
「おいおい!マジかよ!」
ボロボロのララ。きっと、体に強い衝撃を受けているはず。それでも足は止まらない。ゼロメートル。超至近距離から放たれたのは、ララの持つ最大威力の暴風。完璧な位置、角度、タイミングで放たれたそれは、無防備なセツナの体を空へと吹き飛ばした。
宙に舞うセツナの体から力が抜ける。ララの風でふわりと受け止められるセツナ。意識はなかった。
「うおおおおおおおお!」
地鳴りのような歓声が上がる。勝者はララ――パタリ、とララが前のめりに倒れ込む。どうやら、こちらも限界だったらしい。勝利判定は変わらない。しかし、その勝利が薄氷を踏む思いだったのは確かであった。
「お疲れ様。」
目を覚ますと、最初に大好きな顔が目に入った。
「シズク...。」
キョロキョロと周囲を見る。医務室だ。ララの記憶は混濁している。まさか、負けたのか。最悪の予想が頭に浮かび、思わず青ざめる。すると、シズクが優しい笑みを浮かべた。
「勝ったよ。まぁ、綺麗な勝ち方ではなかったけどね。」
「そっか...。スイ先生が見てたら、説教されてたかな。」
「はは、それはどうだろうね。格上を相手に勝利を収めたんだ。どんな勝ち方でも褒めてくれるんじゃないか?」
楽し気に首を傾けるシズク。以前、目を覚ました時にはなかった姿に、不思議と胸が温かくなる。
「それにしても、どうしてあんな無茶をしたんだ?速度のこと以外で、ララがあんなにむきになるなんて。」
「それは…。」
どうしてだろう。と、ララは思う。確かに負けたのは悔しくて、絶対に勝ってやろうと意気込んではいたけれど、普段の自分だったら実力差を受け入れて、あっさりと負けを認めていただろうと思う。こんなに熱くなるなんて。
――どうして?
「あ。」
「ん?」
ふと、きっかけを思い出す。セツナには絶対に負けたくないと、思ったきっかけを。
「シズクを…。」
「え?」
「私がまた、セツナさんに負けたら。私が弱かったら…シズクを取られると思ったから。」
そんな予想だにしていなかった理由にシズクは目を丸くする。そして、可笑しそうに笑った。
「な、なんで笑うの。ホントに…ホントに怖かったんだから!」
いつもは冷静沈着なララの表情が崩れる。それ程までに彼女は…。
「はは。」
そんな愛らしい彼女の頭にポンと手を乗せて、優しく撫でる。
「俺がララの傍から離れる訳ないだろ。俺たちは、一生一緒だ。」
「…うん。そうだよね。」
顔を見合わせて、嬉しそうに微笑む二人。その光景を偶然目撃した、セツナとマロンは心の中で叫ぶ。
――もう告白じゃね...?
それからしばらくして、決勝戦が始まる。その対戦カードは勿論――
「決闘戦決勝戦!シズク対ララ!」
歓声が上がる。世代最高の才能を持つセツナを打ち破ったララと、今大会一度も苦戦することなく駒を進めたシズク。この二人の決勝戦に会場の熱気は最高潮に達していた。そんな会場に、一人の少女の声が響く。
「ごめんなさい。私、棄権します。」
ララの棄権宣言。一瞬、静寂が流れる。しかしすぐに残念がる声に会場は包まれた。
「えええええ!」
「どうして!」
その声に答えるようにララがヘロヘロの魔法を放つ。
「セツナさんとの戦いで無茶したせいでまだ本調子じゃなくて。こんな状態でやっても面白いは試合はできないから...ごめんなさい!」
その様子にそれ以上意見できる人はおらず、不完全燃焼のまま学校対抗戦は幕を閉じた。その数日後。
シズク達は帝都の帝国軍本部を訪れていた。




