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天才 vs

「学校対抗戦も残すところ一試合となりました。決闘戦決勝戦!シズク対――」


アミルカの死は、観客だけでなく国中に衝撃を走らせた。


識字率の向上。孤児問題の改善。貧富格差の是正。どれもアミルカの業績だ。彼女は紛うことなき英雄だった。そんな彼女が「学校対抗戦は中止しない。」と、そういった。


テロが起こったのだ。安全性に対する疑問の声を上げる者も当然いた。しかも、帝国軍の内部にまでクレイジャムは潜んでいる。守ってくれるはずの軍人が、突然敵になるのだ。その恐怖は計り知れない。


そのリスクを背負った上で、会場には四割以上の観客が残った。これからを担う若者をその目に焼き付けるために。そして、自分たちのために尽力した、アミルカの願いを叶えるために。


「さっきの試合凄かったね。」


観客席の一角。そこで準決勝の試合が思い起こされていた。


「ランダの黒髪の子のリベンジマッチ!まさか、あんな決着になるなんて!」


時間は数十分前に遡る。準決勝、ララ対セツナ。ララにとっては初日のリベンジマッチとなる対決だ。同じ相手に二度は負けたくない。その思いで、彼女は舞台に立っていた。


「ララさん。」


「はい。なんでしょうか?」


試合前。決闘台の上でセツナがララに声をかける。


「この試合、僕が勝って。次の試合も僕が勝ったら、フィラモに転校してくれる?」


「はい?」


セツナの突拍子もない提案に、ララは首を傾げる。


「シズク君にも言ったけど、僕なら君を次のステージに導ける。フィラモに転校してくれれば、スイの謹慎が解除される一年後まで、僕が付きっきりで魔法を教える。どうかな、悪い話ではないと思うけど?」


自信たっぷりに提案をするセツナを前に、ララもまた自身ありげに答えた。


「いいですよ。私に…勝てたらですが。」


ゾクリと、セツナの背筋が凍る。以前にはなかった妙な圧がセツナを容赦なく襲った。


程なくして、試合が始まる。先に動いたのは、ララだった。神速の一撃。観客の誰一人として、その軌道を捉えられない。次の瞬間、セツナの肩が正確に撃ち抜かれていた。衝撃と同時に、練り上げかけていた魔素が霧散する。


「な――!?」


観客席で、シズクが思わず身を乗り出した。


「今のは……!」


「どうした?」


クロムの問いに、シズクは目を見開いたまま答える。


「今の、風じゃない。水です」


「は!?」


本来、水は速度に劣る属性。だが今の一撃は、明らかに風の速度だった。常識が、崩れる。


――神速の水…?いや、まさか。


思考が追いつくより早く、セツナが反撃に移る。火球――威力・速度ともに一級品の一撃が、ララへ放たれる。だが、ララは冷静に水球でそれを迎撃する。同時に、セツナの腹部で、何かが爆ぜた。


「ッ…!」


思わず、膝が沈む。


――速さに頼る戦い方…やはり危うい。


ララの手元が淡く光る。それを見た瞬間、セツナは全方向に土壁を展開した。だが――貫かれる。速さを警戒させたうえでの、威力重視の一撃。ララの戦闘センスが、確実に研ぎ澄まされている。


――でも。


セツナの口元が歪む。


――その才能は、僕に届く。


空気が震えた。周囲の魔素が一斉に燃え上がり、セツナへと収束する。


「認めよう。対等であると。」


その言葉に、ララの肩がわずかに震えた。恐怖ではなく、歓喜に身が震える。直後――空が、赤く染まる。無数の火球、空間そのものを埋め尽くす、飽和攻撃。逃げ場はない。それなのに、ララは動かない。


逃げない。防がない。ただ一点に意識を集中し――風刃を、放つ。


「――!」


予想外の反撃。セツナの防御が一瞬遅れ、直撃。だが致命傷には至らない。その間にも、火球は容赦なく降り注ぐ。爆炎が決闘台を包み、煙が上がる。誰もが決着を確信する。


次の瞬間――煙が、内側から吹き払われた。そこに立っていたのは。無傷のララだった。


「あはは!ララちゃん、滅茶苦茶やるね☆」


その様子にトリスが腹を抱えて笑う。そして、横目に見える困惑したマロンの顔に、にんまりと笑みと静かに解説を始める。


「セツナ君の火球は規模が大きい反面、密度はそこまでじゃあない。実際にララちゃんに有効打を与えられるのは、あの魔法の中心核くらいなもの。」


「つまり、そこさえ避けれれば、あの巨大な魔法に当たって有効打にはならないということです。」


「工夫をすればね〜。普通にあんなのまともに食らい続けたら、当然、耐えられない。そこでララちゃんは常に水の薄い膜を体の表面に出し続けていた。その簡易的な防護服で、彼女はあの熱源の中を耐えながら中心核を避けていたわけさ。」


思いついた所で、普通の思考回路だったら実行しようとは思わない作戦。そもそも、セツナが中心核を形成して魔法を安定させる方法ではなく、とにかく大規模にしようと魔法を形成していたら成り立たない作戦だ。


今回ばかりは、セツナの経験が裏目に出たと言わざるを得ない。あるいは――


「セツナさんならそうするって、信頼して良かったです。」


ララが抱いた、セツナへの尊敬の念がこの結果を紡いだのだろうか。


直後、セツナの腹部を強烈に、風弾が一二、三発射抜く。即座に反撃を図るも時すでに遅し。ララの無数の火球が、逆にセツナを襲――パッと、何の前触れもなく、火球が消える。その光景に、ララは目を丸くする。


「これは…!」


「対シズク君用に取っておくつもりだったんだけど、出し惜しみできる相手じゃないからね。」


セツナの表情に余裕が生まれる。


「まさか、影を操る魔法を使えるとは。」


ララの感嘆の声に、セツナは微笑する。


「はは。恥ずかしながらね。僕は全ての属性が使えるんだ。」


「それは…最高ですね。」


ララが多少の狂気を孕んだ、笑みを浮かべる。今この瞬間、目の前に立ちはだかる明確な壁を打ち破れるのだと思うと。


「ここからは本気で行くよ。頑張って、ついてきてね。」


「――!」


ララの肌が、寒気を感じ取る。いつの間にか足元が凍り付いている。直後、稲光が襲い掛かる。ララは上半身だけで身を翻してそれを避けると、火球を放って地面を氷ごと破壊――跳躍して距離を取る、と同時、植物がララの体を絡めとる。


「チッ…!」


植物がララを地面に叩きつけんと、力強くしなる。咄嗟にララは地面に向かって突風を起こす。ドガンと爆音を立てながら打ち付けられるも突風がクッション材になり直撃を避ける。


追撃を避け、炎で植物を燃やし尽くすララ。体勢を整える為に、一瞬、深く息を――紫電がララの腹部を貫く。


「クッ…!」


一息吐く暇もなく攻撃が飛んでくる。ララは痛みに耐えながら、走りながら更なる追撃を避け続ける。


――手数が多すぎる。魔法の切り替えが滑らかで、反撃する余地がない。


自然とララの顔に笑みが浮かぶ。逆境。それこそが彼女の真価が輝きを放つ瞬間。花が開く…瞬間。


絶え間ない魔法の嵐。それを避けるララ。その間に一筋の光が煌めき、セツナの肩を貫く。一瞬、セツナの魔素が揺らぐ。その隙を逃さない。空気を裂くような突風が盤上を破壊しながらセツナを襲う。


正しく、逃げ場のない面の攻撃。セツナはそれを一点突破。自身が通れるだけの抜け道を切り開いて避ける。その選択は最善にして最大の悪手。狙いすませたような火球が炸裂し、セツナはその爆風に吹き飛ばされる。しかし、未だ致命傷には至らない。


ここに来て如実に表れるのは、純然たる、魔素許容量の差と積み重ねた努力の差。ララの魔法でセツナを倒しきるには、真の意味で極限まで集中させた魔法が必要。しかし、そんな隙を与えてくれるほど甘い相手ではない。


こんな時――ふと、ララの脳裏に過ったのは、マロンの言葉。


「魔法を発動するとき、カチッて音が鳴るんだよね~。」


その感覚。ララは、わからなくはないって思っていた。でも、それは本当に集中できた時の話で、戦闘中はとてもじゃないが、そんな時間はないってそう思っていた。


――でも、なんか…今なら。


カチッと何かが噛み合う音がした。キキキと歯車が回る。何もかもが上手くいきそうな万能感。


「はは。」


ギラリとララの瞳が煌めく。その様子に会場の内のたった二人だけがニヤリと、笑みを浮かべる。その二人とは当然。


「「ララ・ビーストモード。」」


シズクとマロンだ。

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