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執着する理由

「クレイジャムの目的はアミルカ将軍の殺害とララの誘拐だった。」


取調室。外に情報が漏れないように厳重に魔法が張り巡らされたそこで、シズクとララはフロリーナに事情を問われていた。


「アミルカ将軍の殺害はわかる。帝国軍の屋台骨で、国民の軍への信頼を一挙に担っていた人。そんな人を失えば、軍への信頼は少なからず揺らぐ。各地域に遍在するアミルカ将軍の庇護下にある子供たちも不安を感じるだろう。」


「ですが、フロリーナ将軍と師匠の尽力によって、アミルカ将軍の事業の全てが完璧な状態で引き継がれたのですよね。」


「ええ。私たちはいつでも彼女の仕事を引き継げるよう準備してきた。それでも彼女の仕事量は凄まじくて、私たち二人がかりじゃないと熟せないけどね。まぁ、それは置いておいて。」


フロリーナの視線がララを真っすぐとらえる。


「問題は貴女よ。なぜ、クレイジャムはララを執拗に狙うのか。確かに、ララは類いまれな才能を持っている。世代最高と言ってもいい。でも、ララただ一人に執着するのは些か疑問だ。セツナ君やシズク君を始め、君たちに劣ろうとも、目を見張る才能は少なくない。君たちの知っている子だと、マロンちゃんもその一人だ。だから気になる。奴らは君に、何を見出しのか。」


真剣な眼差しのフロリーナに、ララは静かに口を開く。


「六年前、グローブは私を洗脳して自分の駒にすると言っていました。ですが、確かに私の才能だけを見て手に入れたいと思ったなら、セツナさんやシズクに目をかけないのはおかしい。そこで思いついたんです。」


「ん?」


「今回、グローブからマッドレーというテロ組織の名前が挙がりました。自分はそこの出身だと。だから、もしかしたら、私を使ってマッドレーの幹部の誰かを復活させたいんじゃないかと思うんです。速さを追求した魔法使い...あるいは、風を得意とする魔法使いを…です。」


その言葉にフロリーナは目を丸くする。


「なるほど。そういうことね。クレイジャムはマッドレーの指導者、マーシーを復活させたいようね。」


「マーシー?」


聞き覚えのない名前に、シズクとララは同時に首を傾げる。


「マッドレーの指導者、マーシー。当時の第四軍を将軍を殺害して帝国を裏切った、帝国軍の元中将よ。かつて、最速の魔法使いの称号を手にしていたわ。」


「最速!?」


ララが身を乗り出す。それにフロリーナな微笑しながら続ける。


「ええ。当時の話だけどね。それで、二人も理解できたわね?かつて最速の称号を持つ魔法使いを復活させるのに、ララはうってつけだったという訳ね。」


「なるほど。」


速さという一点において、ララが天才と呼ばれるに相応しい才能を持っているのは言うまでもないだろう。そして、その才能を狙う理由も言うまでもない。かつての最速の依り代とすらなばなおさらである。


「きっと、最初はその魔法の才能にだけ惚れ込んだのでしょうね。でも、成長して速さにおいて頂に足を踏み入れた貴女を見て、彼はマーシーを蘇らせれるかも知れないと思った。多分、これからの人生、貴女にはクレイジャムの影が付き纏う。覚悟することね。」


フロリーナの忠告もほどほどにシズクは取調室を後にする。一方で、ララは事件の当事者であるため、もうしばらくここに残ることとなった。


帰り道、帝国軍本部の廊下で、セツナとばったり再会した。


「あっ、シズク君。数日ぶりだね。」


「セツナさん。」


思い返すと、命を預け合った仲だというのに、シズクは彼のことを未だに詳しく知らない。知っていることと言えば、彼が正真正銘の男だということくらいだろう。


「そっちも事情聴取は終わったの?」


「はい。」


「そう。じゃあ、ちょっと付き合ってよ。事も落ち着いたことだし、軽くお話でもしないかい?」


カフェの看板を指差すセツナだったが、シズクは苦笑いで首を横に振った。


「すみません。ララからセツナさんとは話すなって。」


「え~なんで?」


「男の人でも油断できないって。」


その言葉にセツナはケタケタと笑う。


「あはは、君の恋人はどこまで嫉妬深いみたいだ。」


「え?」


「え?」


二人の間に謎の間は生まれる。


「恋人って、僕とララはそういう関係じゃありませんよ。」


「は?え、そうなの?え?」


困惑の余り言葉が出ないセツナに、シズクが首を傾げる。


「どうしたんですか?」


「い、いや、何でもないよ。」


こいつらマジか、とでも言いたげな顔を浮かべるセツナだったが、その可笑しさに思わずフッと笑みを零す。


「なんですか?」


ムスッとするシズクに、笑い涙を拭いながら答える。


「君たちらしいなと思ってね。」


「?」


首を傾げるシズクに、今一度フッと笑みを返すと、ひらりと踵を返す。


「じゃ、帰らせてもらうよ。次に会う時を楽しみにしているよ。」


「は、はい。」


セツナの気の変わりように動揺しつつも、片手をひらひらと振って去って行く彼の背中から、シズクは一度も目を離さなかった。

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