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本当に甘い

「動くなよアミルカァ!お前が動けば、俺が死ぬ前にこのガキどもを殺す。」


グローブの怒号が響く。アミルカは迷わず魔法を放った。


魔法は正確に子供を拘束する男たちの頭を一瞬で貫く。それと同時、アミルカの体をグローブの魔法が貫いた。アミルカは倒れない。そのまま、アミルカの目の前を横断するように壁が展開。子供たちとグローブを分断し、そのまま氷のドームが形成、グローブたちが封じられる。しかし、既に放たれた魔法をアミルカは防げない。


絶体絶命かに思われたが、ララが防御を展開。完全には防げないが致命傷を避ける。


一瞬の攻防でアミルカは子供を救出した。それと同時――


「援軍に参りました。」


アミルカの信頼する直属の部下、フェスが到着する。


「フェス。あそこにいる子たちを戦火の届かないところに連れて行ってくれ。ついでにララちゃんも。」


アミルカの言葉にフェスは反応しない。チラリと背後を見る。フェスがララの体を抑え込んで、首筋にナイフを立てていた。アミルカは目を見開いた。



――少し前、トリスのVIP席。


「いやぁ、しかし。天下のトリスフェルミアをこんなに簡単に抑えれるなんてね。ありがとね。マロンちゃん。」


「ごめんなさい。ごめんなさい。トリスちゃん...!」


首筋にナイフを当てられながら、涙を流し謝罪するマロンにトリスは穏やかな笑みで首を振る。


「ううん。悪いのはマロンじゃなくてこいつらだから。」


ぎろりと、男たちに目を向ける。


「それにしても、まさか護衛の半分以上がスパイだったなんてね。」


四人いた護衛の内、三人がクレイジャムの構成員だった。


彼らはトリスに気づかれないように、魔法を抑制する結界を展開。魔素分散装置を着けるトリスの魔法の展開を一瞬だけ遅らせることは容易だった。


あっさりとマロンは拘束され、人質にとられる。後は無抵抗で、トリスは魔法を無効化する首輪を取り付けられた。


「でも無様ですねぇ。あのスイに肩を並べるお方も、こんな小娘一人人質に取るだけで、抵抗できないんすから。」


下卑た顔で笑う男。


「それにしても...強い女の魔法使いって、なんでこんなに顔が良いんすかね。今ならただの女ですし、やっても問題ないですかね。」


「やめとけ。あのなりでも、最強と評される魔法使いの一人だ。近づけば殺られるぞ。」


「兄貴はビビりすぎなんすよ。じゃあそこで指くわえて見ててくださいよ。俺がトリスフェルミアを売春婦のように鳴かせるところ。」


男がトリスに手を伸ばす。


「よせっ!」


トリスに触れた瞬間――男が指先から燃え上がり、一瞬で灰と化した。


「言わんこっちゃない。」


「な、なんですか今の!?」


一人の男がその光景に腰を抜かす。魔法を完全に封じられているにも関わらず、仲間が殺されたのだから当然だ。次は自分、そう思ったのだろう。


冷静な男が口を開く。


「気を悪くしないでくれ。その男が馬鹿だっただけで、俺らはあんたに手を出すつもりはねぇ。この娘を人質に、あんたにはこっちの作戦が終わるまで大人しくしていて欲しい。それだけのことだ。」


「わかってるよ。私も抵抗はしていないでしょ。だから、マロンに一つでも、傷をつけるなよ。」


「わ、わかった。」


魔法が封じられても威圧感は健在。しかも、正体不明の攻撃まで。


これでは、脅す側と脅される側ではない。脅す側と脅す側だ。お互い、自分の条件を相手に飲ませ合っているのだ。しかし、分が悪いのは明らかにトリス。


外で襲撃が起こっているのに、一切身動きが取れないのだから。


――さて、どうしよっか。少なくとも、私もマロンも殺される感じじゃなさそうだけど、こいつらがもしクレイジャムなら、作戦を遂行した瞬間に、マロンを殺しかねない。その前に、こいつらを制圧する。でもどうすれば。


トリスのあの攻撃は、反撃でしか発動しない。だからマロンを救うには、素手で二人同時、しかも一瞬で倒しきらなきゃいけない。そして、それは可能である。しかし、それには二人の内どちらかがトリスから視線を外す必要がある。


直後、何かを分断する巨大な氷の壁が、轟音と共に遠方で迫り立った。その音に二人が同時に反応する。同時、視界が百八十度回転する。


「きゃあああああ!」


あらぬ方向に首が曲がった死体を見て、マロンが恐怖の声を上げる。トリスは彼女を安心させるために視界を塞ぐようにして、彼女を抱き締めた。


「ごめんね。怖い思いをさせて。」


「トリス...ちゃん。」


過呼吸気味のマロンの背中をさすって、少しずつ落ち着かせる。


「深呼吸するんだ。一番、大事なものを思い浮かべて。」


肩の震えが段々と小さくなる。


「すみません。トリスちゃん。落ち着きました。」


「うん、偉い子だね。」


抱き締めながら頭を撫でる。



――同時刻。


「アミルカ将軍。ドームの魔法を解除してください。さもなくば、この子を殺します。」


弱っていてまともに抵抗ができないララ。瞳がアミルカへの謝罪を語っている。迷いが生じる。ドームの魔法を維持した状態でフェスを攻撃すれば、彼女は確実に倒せるが、確実にララが殺されるからだ。


「ララをお願いします。」


シズクとの約束が頭を過る。


「私の命と引き換えに、子供たちの命は絶対に守ると約束できるかい。」


アミルカが静かに問う。必死にララは頭を横に振るが、アミルカはそれを気にも留めない。


「もちろんです。約束しましょう。」


ふっと、ドームの魔法が消えた。それと同時――狙いすませたようにフェイが、そして、ドームの中で魔法を準備していたグローブが魔法を放つ。


二方向からの集中砲火。それにアミルカは全身を貫かれる。


「アミルカさん...!」


ようやく口の拘束を振りほどいたララが叫ぶが、目の前で力なくアミルカが地に伏した。


「なんで...なんで...私なんかの――」


「あはは!」


ララの後悔をかき消すようにフェスが笑った。


「やっぱりあんた馬鹿ですよ。こんな小娘のために命を捨てるなんて。それにね!私たちが約束を守るわけないじゃないですか。あんたを殺して、この子たちも殺しますよ。」


「わかっているよ。」


氷のような声と同時、巨大な霜柱が生え、グローブたちとフェス、全員がそれに貫かれる。


「油断するだろう...私が...倒れれば。」


大量に血を流しながら、笑い飛ばすアミルカ。


「ララちゃん。急いで...子供たちの所へ。これくらいじゃ...フェスは死なないから、君が...子供たちを...逃がしてくれ。」


苦しそうに息も絶え絶えで言葉を紡ぐ。ララは彼女の想いに応えるように強く頷いて駆け出す。


「逃がすわけないでしょ!」


霜柱に持ち上げられたフェスが、頭上からララに魔法を放つ。しかし、その全てが凍り付き、砕けた。


「君の相手は...ゴフッ...私、だよ。」


吐血しながらも、フラフラと立ち上がるアミルカ。


「不死身なんですか?アミルカ将軍は。」


その姿にフェスは引きつった笑みを浮かべる。


「ふふ...。娘のけじめくらい、母である私が...つけないとね。」


「へ、へぇ。カッコいいこと言いますね。アミルカ将軍。」


「なんだい?もうお母さんと、呼んでくれないのかい。」


瀕死、それでも冗談を飛ばすアミルカに、フェスはイラつきながら答える。


「あんたのことを母親だと思ったことなんて、一度もないわよ!」


魔法が放たれる。どれも強力無比、けれど全てが凍てつき砕ける。一歩前に出る。トンッとアミルカの手がフェスの胸に触れる。


「残念ね。」


そして悲し気にふっと笑って、心臓を氷で貫いた。しかし、フェスの命には届いていなかった。


「本当に甘いですね。私の心臓さえも刺せないなんて。」


母親としての本能が、攻撃を鈍らせた。たった一ミリメートル。攻撃が心臓からズレていた。同時、アミルカの体が爆ぜ、地面に仰向けに倒れる。


「おやすみなさい。お母さん。貴方のせいでこれから、大勢の人が死にます。」


フェスの足音が離れる。体が動かない。


――ああ、私は本当に甘いな。裏切られたのに...私はあの子を愛している。つくづく私は、私が憎い。


意識が遠のく中で、声が聞こえた。良く、聞きなれた声だった。

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