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人を殺すということ

――時間は少し戻って、ララが気絶から目を覚ます直前のことだった。


シズクは眠るララの傍で、ジッと彼女が目を覚ますのを待っていた。そこに――彼女が現れた。


「シズク君...。だったかな?」


「え?」


振り返ると、あの怪物だ。なぜ名前を知られているのかはわからないが、シズクはとりあえず愛想よく挨拶を返した。


「ララの対戦相手の先輩ですね。貴方のような素晴らしい魔法使いに名前を知ってもらえていたなんて、光栄です!」


「はは、照れるね。素晴らしい魔法使いだなんて。それを言うなら、君の方だろうに。」


鋭く、目つきが光る。まるで値踏みするように、彼女はシズクの顔を見て、満足げに頷いた。


「うん。噂通りのようだね。」


「噂...?」


「ああ、君たち二人の噂だよ。ランダに天才コンビが現れたってね。」


フィラモまで噂が届いているのか、全く、誰が吹聴しているのやら。ともあれ、他校がシズクとララを相手に容易に油断しない理由がわかる。みんな、噂程度に聞いているのだろう。


「それで、何をしにこちらに、フィラモの先輩方のお見舞いですか?」


「違うよ。その子に用があったんだ。」


彼女はララに視線を向ける。


「ララにですか?」


「うん。僕の所に来ないか、提案しようと思ってね。」


何を言っているんだ。思わず口に出そうになった。それ程、驚くべき言葉だった。


「スイは一年間、謹慎をするのだろう?であれば、その子がランダに居続ける理由はない。僕の所に来れば、僕が彼女を更に高みへ導いてあげられる。」


「なるほど、ララの才能に惚れ込んだわけですか。」


「その通りだ。」


どうやら、彼女はシズクと同様にララの才能に魅入られたらしい。しかし、そんなことをシズクが許すはずもない。


「申し訳ありませんが、僕の目が黒いうちは、他の人にララを譲るつもりはありません。」


「はは、そういうと思ったよ。」


彼女は意外にもあっさり、ララを諦めた。それどころか、こんな提案をしてきたのだ。


「君を見つけたときから、僕の目的は変わっている。情報交換をしようか、その子を更なる高みへ導くために、君にアドバイスをしてあげよう。」


「どういう意味ですか?」


「ん~?わからないかい?実際にその子と戦って、僕はその子の欠点を三つ、発見した。その中には君も気づいているものがあるだろうけど、僕は、その解決策まで知っている。かつて、僕自身も抱えていた欠点だからね。それを君に教えてあげるといっているんだ。」


悪い話じゃないだろ、と、彼女は首を傾げる。確かに悪い話ではない。だが、表情や仕草、全てが作り物のように見える。裏があるとしか思えない。


チラリとララを見る。今、もし暴れられたら、ララを守りながら戦うのは至難の業。最悪はどちらも死ぬことになるだろう。それだけは避けたい。そう思って、シズクは彼女と共に医務室を後にした。


「早速だが、ララさんには三つ、欠点がある。」


医務室を出てすぐの大きな廊下。その壁に寄りかかって、シズクは彼女の話を聞いていた。


「一つ目は魔素効率。速い魔法を重視する余り、威力の高い魔法を発動するとき、どうしても僕たちのレベルではワンテンポ遅れる。それでも並みの魔法使いには通用するかもしれないが、この先、その遅れが命取りになる可能性もある。」


「そうですね。」


シズクは深く頷く。ララの魔素効率は決して悪い訳ではない。しかし、それ以外の部分に比べた場合、明確なウィークポイントであった。実際、今日の試合でも、試合が進むごとにララの魔法はスピードを落としていた。これは、魔素効率が悪いためである。


「二つ目は経験、あるいは知識量。単純に戦闘の流れを知らなすぎる。戦闘センスが高いから、今までは誤魔化せたかもしれないが、これから先は戦術も重要になってくる。」


「はい。おっしゃる通りです。」


ララには並外れた戦闘センスがある。だから、普通の人が経験則や知識から導き出す答えをララはその場のひらめきで導き出せてしまう。だからこそ、シズクを含め、誰もララの戦術に口を出してこなかったが、実際に今日の試合では敗れてしまった。


答えこそ正しかったものの、その答えに辿り着くまでに致命的な遅れを抱えてしまった。もし、あと数秒でも早く、その答えに辿り着いていれば、勝敗が変わる事さえあるのだ。


「三つ目は――才能そのものだ。少し、”速さ”に頼りすぎてはいないかい?」


セツナは真っ向からシズクを見据えた。


「確かに速さは彼女の最大の武器だ。だが、彼女には本来、威力の高い魔法や、緻密な制御による複雑な軌道の魔法を扱う素養もある。強敵と対峙したとき、自分の才能に囚われず、引き出しのすべてを活用する。それもまた、戦闘における重要な能力だよ。」


「それは...。」


目から鱗が落ちる思いだった。今まで強みを伸ばすことばかり、強みを生かすことばかり考えていた。しかし確かに、シズクとララのレベルであれば、どんな魔法を使おうが高水準。それを生かさないのは、今思い返せば愚の骨頂だ。


「どうすれば、その欠点を解決できますか。」


シズクを目を輝かせる。自分の言葉に興味を持つ後輩の姿に、彼女も思わず笑みを零した。


「一つずつ、紐解いていて行こうか。」


そこから、学生とは思えないほど、論理的な理論が交わされた。この時だけはシズクも思わず、子供としてではなく、レイの研究者魂に火をつけて、没頭していた。だからこそ、気づけなかった。


不審な男が――使づいていることに。


最初に動いたのは彼女だった。敵の爆発を防ぐように岩の壁が展開された。それを見て、シズクもすぐに防御を展開、彼女の防御は爆発にあっさり破られたが、残りの威力を全てシズクの防御を吸収した。


「助かりました...!えっと...。」


「自己紹介をしてなかったね。セツナだ。こちらこそ、助かったよ。」


どちらの思考も高い位置にある。目配せなんかしなくとも、自然と自分のすべきをことをそれぞれ実行した。シズクは地面に手を当て、植物を生やす。一気に芽吹いたそれは一瞬で敵の足を絡めとり、動揺する敵に、セツナが高火力の火球をぶつける。


敵を殺してしまう可能性を一切考慮していないセツナの魔法。その光景にシズクの魔法が一瞬だけ緩まる。その隙に敵は回避し、火球が空を切って、背後の壁を破壊した。セツナが鋭い目つきをシズクに送る。


「君の欠点だ。甘い!魔法使いを目指すなら、敵を殺すことに躊躇いを持つな。」


「すみません。」


冷静に誤りはしたが、シズクの手は震えている。命の取り合い、それを意識するとどうしても怖くなる。直後、敵の魔法がシズクの頬を掠める。


「シズク、気を抜くな。初めての実戦だ。怖いだろうが、殺す気で行かねば、こちらが死ぬぞ。」


見るとセツナの指先も微かに震えている。怖いんだ、彼女だって。だから、今ここで覚悟を決めなければならない。人を殺す覚悟を――


敵の火の矢が飛来する。学生の魔法が遊びに見えるほど、鋭く、確実に命を刈り取ろうと迫る。シズクは冷静にそれを水弾で相殺し、寧ろ、十発の水弾でそのまま反撃に転じる。躊躇いはない。直撃すれば、確実に人を殺せる威力だ。


その魔法にセツナも満足げに頷いて、彼女もまた、同様に十五発の火弾を放った。合計二十五発の弾丸、敵は正しく手練れの魔法使いだったが、世代を代表する二人の怪物の総攻撃を防ぎきれず――


「目を逸らすなよ、シズク君。」


「はい...。」


これが人を殺すということ。相手がこちらに殺意を持っていようと、腹の内側からどうしようもない吐き気が湧き出る。


「行こう。ララさんも危ない。」


「はっ、そうですね。行きましょう。」


ララの名前を出された瞬間、シズクの瞳に理性が戻った。まだ、戦いは終わっていない。大切な存在を守るため、シズクは吐き気を飲み込み、戦場へと駆け出した。


しかし、どこを見れどララの姿はない。それどころか、戦闘の兆しすら存在しない。


「どういうことでしょうか?」


「そうだね。僕たちだけを狙った犯行だったのかもしれないね。」


「そうなんでしょうか...?」


シズクは確信が持てなった。何故だろう、何か気持ち悪い感覚が場を支配していた。その時だった――


「動くな!」


複数の魔法使いに包囲されたのだ。服装を見るに軍人だ。


「えっと、何の御用ですか?」


身に覚えのない脅迫に、セツナは両手を上げながら問いかける。


「フィラモ魔法学校のセツナ、ランダ魔法学校のシズク。お前たちに軍人殺しの容疑がかかっている。」


「軍人...?ああ、なるほど。シズク君、どうやら僕たちは、嵌められたようだね。」


「そのようですね。」


先ほど彼らを攻撃したあの男。どうやら軍人だったようだ。学生ながら、この会場内で最高クラスの実力を兼ね備える二人。しかも、そのうち一人は、命を懸けてでも、ララを守るために動くと来た。これほど邪魔な存在はない。だからこそ、この方法で敵は彼らを盤外に出すことにしたのだ。


「いいんですか?こんなことをしていて、変な連中が会場に紛れ込んでいますよ。」


「変な連中...?何を言っているんだ。」


ニヤリと軍人の一人が口角を上げる。なるほど、この男も敵側の人間。しかし、全員が全員、そうではないようで、首を傾げる軍人もちらほら。これでは迂闊に手が出せない。困り果てた所に、聞き覚えがある声が響いた。


「大勢で子供を囲むなんて、そんな駄犬に育てた覚えはないよ。」


一瞬で場が凍り付く。比喩ではなく文字通り。敵側と思しき軍人だけが、足先からピキリと凍らされた。

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