十七話
お久しぶりです。待ってくださった方がいらっしゃるのでしたら、心から謝罪申し上げます。
「「!!!???」」ルゥナとカイルは同時に師範を見た。
が、師範が言ったら最後、周りの生徒たちや道場を見に来た野次馬たちは一気に歓声を上げた。
カイルは試合を断れない雰囲気となった。
そして何よりアケミがキラキラとした期待の美しい眼差しでカイルを見た。
カイルは貴族の堅苦しい上着を脱ぎ棄て、ベストとシャツだけになり、ジェルが使っていた練習用の剣を拾った。
「ルゥナ。全力でこい。」
「…もちろん。」
そこからの行動は早かった。ルゥナはカイルに飛びかかって一気に勝負を決めようとした。が、カイルは冷静にルゥナに対応しながら反撃に出る。
それからしばらくの間攻防が続き、お互い息が切れるくらいには消耗していた。
またルゥナがカイルへ飛びかかる。
「占めた」と思ったカイルだったが、ルゥナは先ほどとは全く違う動きを繰り出し、
カイルは防ぐのでいっぱいいっぱいになった。
その動きに違和感を覚えたカイル。
「ルゥナ!!お前!!」そうカイルが叫ぶとルゥナはコクリと頷いた。
「上等だ…」吐くように言葉を漏らし、攻撃に移るカイル。
心を読んでいるルゥナをカイルは一手で尻餅をつかせ、
首に練習用の剣を突き付けて終わった。
「…チェックメイトだ。」ルゥナはなぜ負けたのか分からないという風に座ったまま動かず、カイルはサッサとアケミのところへ戻った。
「カイルすごい強いね!!意外!!でも、なんで心を読んでいるルゥナに勝てたの?ルゥナが読んでるって分かってたんでしょ?」
「わかっていることを逆手に取ったんだ。心では違うことを考えればいい。」
「?それ難しくない?」
カイルはフッと笑い「ああ、難しいさ。」とだけ言うと帰るぞと言う風に歓声が沸く出口へと向かった。
後ろには疑問が残るアケミと無言のルゥナ
「キザだなぁ…」と声を漏らすジェルが付いてきていた。
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「えぇええええええええ!!私とフォッカさんだけ留守番!?」季節は夏。
もうアケミが来てから数か月がたったある日、そろそろルゥナを社交界デビューさせようと前から準備を始め、遂にデビューの日が決まったのである。
が、養子であり公爵家の苗字を貰っているカイル・ルゥナ・ジェルは出れるのだが、
ただ雇われているという形になっているフォッカとアケミは留守番なのである。
フォッカは駄々をこねるアケミを最後まで宥め、ジンは「今度アケミちゃんのお願い聞いてあげるから今回だけは…ね?」と約束をしてその場は穏便に収まった。
ルゥナは片目を眼帯で隠し、モサモサの髪を梳かし、涼しげな麗しの青年に変貌を遂げた。
ジェルは毎回社会勉強だと言ってカイルとジンについていっていたのだが、
ルゥナは人見知りなうえに目のこともあるので、ずっと社交界には行けないでいた。そんな緊張しまくりのルゥナと後の三人を鬼のような形相で見送ったアケミ。
この時まだカイルたちは知らなかった。
帰ってきたとたんにアケミから社交界どうだった攻撃にあうことを…。
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夏真っ盛りのある日、アケミはいつにもまして張り切っていた。
理由は簡単だ。ジンが取り付けた約束。
『お願いをかなえる』日がやってきたのだ。
アケミがお願いしたのはやってきた当時みんなで行けなかったピクニックだ。
朝からフォッカさんは野原で食べる昼食の用意をし、カイルは馬車の準備、ルゥナとジェルはワクワクして眠れなかったジンの目を覚ましている。
ようやく全員が行ける準備が整い、馬四頭に馬車をひかせて出発した。
馬車の中ではジン、カイル、ルゥナ、ジェル、アケミがカードゲームをして遊んでいる。
和気あいあいとした雰囲気で遊んでいる五人を馬を操縦するフォッカさんはニコニコとした笑顔で聞いていた。
そうこうしているうちに見たことのある広場についた。
春に来たときはシロケワタという花が咲いていたはずなのだが、今は夏だからなのか紫の小さな花が咲いていた。
「カイル。これは何?」
「これはヨゾラ。踏むと紫色から夜空のような色になるのが由来だ。」
「っけ、偏った知識をひけらかしやがって」ジェルはカイルに毒づく。
そこから先は、みんな思い思いに野原を楽しんだ。
アケミとジェル、カイルは前に会った老いた竜に会いに行き、
寝不足のジンは野原で大の字で眠り、ルゥナはそれを近くで見ている。
フォッカさんは馬を休ませたり、楽しそうな家族を見ては
満足そうにほほえんでいた。
野原に光が注がれる午前中。
この時はまだ、午後にハプニングが起ころうなんて
誰一人気づいていなかった。
今回は短編をつなげたみたいな感じです。
短すぎる夜会の話は後々意外と大事になってきます。
ジンよりもフォッカさんのほうが公爵感がありますよね。というか、おじいちゃんみたいな。
では、また。




