# 子育て編 第一話 ## 「初めての“パパ”」
# 子育て編 第一話
## 「初めての“パパ”」
ことはが生まれて、一年が過ぎた。
雨宮ことは。
神谷家の宝物。
大きな黒い瞳。
ひまりによく似た笑顔。
そして――とんでもない甘えん坊だった。
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「ぱぱぱぱぱぱぱ」
朝から元気である。
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「お、おう」
恒一は少し緊張していた。
今のは偶然だ。
きっと偶然。
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ことははハイハイで近づいてくる。
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「ぱぱ」
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止まった。
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恒一も止まった。
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時間も止まった。
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「……今なんて言った?」
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ことはは満面の笑み。
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「ぱぱ!」
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ひまりが吹き出した。
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「言いましたね」
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恒一は固まっている。
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「ぱぱ!」
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ことはは嬉しそうに両手を伸ばした。
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次の瞬間。
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恒一の目に涙が浮かぶ。
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「おい」
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「はい?」
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「今、パパって言ったぞ」
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「言いましたね」
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「俺のことだよな?」
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「他に誰がいるんですか」
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恒一はことはを抱き上げた。
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「ことは」
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「ぱぱ!」
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もう一回。
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「ぱぱ!」
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さらにもう一回。
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「ぱぱ!」
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完全に理解している。
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恒一は泣いた。
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「早いだろ……」
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「まだ心の準備できてねぇぞ」
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ひまりは笑いながら写真を撮る。
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「すごい顔してますよ」
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「うるせぇ」
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でも顔は緩みっぱなしだった。
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## その夜
ことははぐっすり眠っている。
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小さな寝息。
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恒一とひまりは、その顔を眺めていた。
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「なあ」
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「はい」
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「俺さ」
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「?」
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「昔、一人で生きていくと思ってたんだよ」
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ひまりは静かに聞いている。
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「人生終わったみたいに思ってた」
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「うん」
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「でもさ」
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眠ることはを見る。
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「今、娘にパパって呼ばれてる」
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信じられないように笑う。
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「人生って分かんねぇな」
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ひまりは優しく微笑んだ。
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「だから面白いんですよ」
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恒一は頷く。
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窓の外には静かな夜。
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部屋の中には家族。
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かつて孤独だった男は、今では誰よりも守りたい存在に囲まれていた。
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そして眠ることはが、小さく寝言を言う。
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「……ぱぱ」
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恒一は再び涙ぐむ。
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「反則だろ、それ」
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ひまりは笑いをこらえきれなかった。
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## 次回予告
**第二話「初めての家族旅行」**
ことは、初めて海を見る。
そして神谷恒一、娘に完全敗北――。




